167、協力者
みなさんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
今回のお話は、前回の続きでダットの船にとある人物が訪ねに来た話になります。
「そういうことだったのか~」
改めてケイは、ロベル達とダットとマカドに今までにダジュールの歴史を調べるため各地を回っていたことを話し、その上でそれらが過去の歴史に実は異変があった可能性があることを示唆した。
ケイの説明に納得の声を上げたロベルだが、正直全てを話したわけではない。
それと、ケイが元々別の世界の住人なんて言ってしまっては更なる混乱を招きかねないと考え、その辺は黙っていることにしている。
「・・・で、他には隠し事はないよな?」
ロベルからの問いにケイは「ない」としれっと答えたが、まぁ嘘も方便である。
それからロベル達から一時期ヴィンチェ達と行動をしていたことが告げられた。
これまでもたまに彼らと会っていたそうなのだが、少し前にウェストリアに向かっていた時にカロナック大橋で偶然出会ったのだそうだ。その時、エイミーから橋の一部に補修された跡があることを指摘され、ヴィンチェ達と橋を管理しているウェストリアに向かい話を聞いたところ、いつ頃補修されたのかは不明だが、年代的にカエルム歴より以前ではないかということが分かったのだそうだ。
それからヴィンチェからケイ達と同じ事情を聞き、自分たちの村の地下遺跡も関連がのではと考えていたのだそうだ。
幸い、村の方はいつもと変わらずたまにバナハの調査隊がやって来るそうで、村の人々が心配していた地下からの魔物発生などは今のところ見られないとのこと。
またその部分は、定期的にバナハの兵が巡回をしてくれているそうで、その辺の連携はできている。
「でも、去年ぐらいから歴史に関する資料や品が発見されるなんてどういうことかしら?今までに聞いたことはあってもあまり認識されていないようだったし、それを酒の肴にしている人もいるって聞いたことがあるわ」
「あとバナハに派遣されている歴史家は、村の地下遺跡発見のことから解明に力を入れていると聞いている」
マリアンナとサイオンから昨今の巷の話題を教えてくれた。
どうやらこの世界にも歴史ロマンみたいな言葉があるようで、冒険者達はまだ見ぬ過去の歴史に思いを馳せているようだ。その点は地球にいる人達と大差がないと親近感が持てる。
「まぁ、最初のきっかけはケイ達じゃないのか?」
ロベルがケイ達の方を見るや片眉を上げ、他の四人とダットは納得の声を上げる。
その隣では、マカドがなんのことだかと首を傾げている。
たしかに、そもそもの始まりはケイが黒狼と出会ったことだ。
それに関しては事実であるため、特にこちらからアクションを返す必要もない。
実はエレフセリアも、ギルド経由でアルバラントの国王から歴史調査の許可は得ていると言った。ケイ達は意外だなと口を揃えたが、ケイとヴィンチェと面識があり、なおかつ生まれ育った村が未発見だった遺跡の上にあるという特殊な事情の上で特別に許可が下りたそうだ。
そもそも、一般の冒険者が歴史調査に参加すること自体希だという。
その理由としては過去に遺跡らしきものが存在していたのだが、発見した冒険者が入り荒らしたことにより貴重な資料が破壊・窃盗が行われたため、現在では国ごとに遺跡を管理し、特殊なケースを除き一般人および冒険者の立ち入りを一切禁止しているそうだ。それもケイ達やヴィンチェ達が地下遺跡を見つけたことにより、更なる保護区域ができたため負担もあるだろうが、そこはケイ達にはどうすることもできない。
「ダットさ~ん!今、大丈夫ですか?」
会議室の扉を叩く音と同時に、一人の船員が顔を出した。
ダットが船員にどうしたのかと尋ねると、船に客が来ているのだという。若い男性でロベルさんかケイさんがいると思うんですけどと言ったそうで、どうしたらいいかと指示を仰ぐ。ケイとロベルがちょうどいるぞと答えると、その船員は尋ねてきた男性は甲板の方にいますと告げた。
「若い男ってクルースのことだったか!」
「あ!皆さんやっぱりこちらだったんですね!」
ケイ達が甲板の方に戻ると、他の船員と談笑しているクルースの姿があった。
彼はギルドのスタッフからケイ達がこの船に居ることを聞いてやってきたそうだ。
「実はケイさんに渡したい物がありまして・・・」
「渡したい物?」
クルースはこれは内密にと前置きをしてから、肩掛けの茶色い鞄からとある物を取り出しケイに差し出した。
「これ、ギルドで見た黒いキューブ・・・!?」
「先ほどケイさん拾い上げた時に熱心に見ていたようですので、職員の方に頼み込んで譲って貰ったんです」
クルースは調査の傍ら先ほどケイの行動を見ていたそうで、行動と表情に疑問を感じ、運搬係の職員に頭を下げて譲って貰ったのだという。それに先ほど職員が運んでいた箱はそのままアルバラントに送られるのではなく一部をギルドで保管し、調査が済み次第、関連がないものに関してはそのまま破棄または鍛冶ギルドに売られ材料の糧にするらしい。
その辺は、ケイの思っている常識と違うためなんだかなという気分になる。
それは置いておくとして、改めて受け取った黒いキューブを観察する。
先ほどケイが拾い上げた時、全体的に文字の様なモノが浮かんでいたと思っていたがよく見ると花の形に似た幾何学模様をしている。甲板にいるせいか太陽の光に反射して模様の部分はうっすらと虹色に浮かんでいる。
箱の大きさは10×10×10程度で、軽く振ると何かが入っているのかカラカラと音がした。
「これってなにか入っているの?」
「たぶんな」
「開けるところないけど?」
ケイがくるくると箱を回し、隣でシンシアが首を傾げる。
これも沈没船から回収されたのかとクルースに聞くと、沈没船は貴族のモノの可能性があり、金貨の入った宝箱に宝石をあしらった女神像、ミスリルをふんだんに使用した武具と一緒に入っていたらしい。黒い箱も中身があることを考えると何かしらの意味を持っていることは間違いはないと思う。
【黒曜箱】 黒曜石をあしらった特殊な技法により開閉することができる箱。
鑑定によると、何かの仕掛けが施された箱のようだ。
鑑定はできても霊視みたいな芸当はできないが、推測するに細工自体は割と簡単なものではないかと考える。そう思い、確認するように指を箱全体に滑らせる。
「ケイ様?なにをしているの?」
「この箱を開けているんだ」
「開ける?鍵なんてないぞ?どうするんだ??」
「見てればわかる」
アレグロとロベルが不思議そうにケイのしていることを見つめる。
指先で感触を確かめると、肉眼では見えないほどの細い線を感じた。
左右に二つずつ前後に三つずつ横線が入っており、それらを前後左右にずらしながら感触を方法を模索する。すると少しずつではあるが箱の上蓋が少しずつ前へとズレていく。
「ケイさん、これはどういうことなんですか?」
「これは“秘密箱”と呼ばれる物のひとつのようだ。内部や表面に仕掛けを施した箱のことで、一定の操作を行わないと開閉出来ない仕組みになっている。俺の国にも類似した物があって、細工箱やからくり箱なんて呼ばれてるよ」
タレナの問いに返しつつ、側面の一部を左右にスライドさせながら工程を模索している。
ケイ自身、田舎の祖父母の家に置いてあった秘密箱しか見たことがなかったが、仕組み自体はそれらと大差ない。しかし細工箱という物は、職人の手でひとつひとつ作られることから伝統的かつ貴重な物だと認識している。
故にその工程を知っているとなると、この箱を作製した人物は地球の技術を継承している可能性がある。
もし仮に、ケイの推測通りメルディーナがこれらの技術をダジュールに伝えたとなると、それによりダジュールの歴史に歪みができたことも想像出来る。
暫くしてケイが最後の仕掛けを解いた時、上蓋のスライド部分が完全に外れた。
中身を取りだしてみると、何かの一部らしき銅製の細い棒をしたモノが出てくる。それを見たダットや船員達がなんだと何故かガッカリした表情をした。どうやら硬貨や宝石類を想像していたみたいだ。
「銅製の棒か?なんでそんなもんが入ってんだ?」
「いや、これ鍵の一部だと思う」
ロベルが横から顔を出し、ケイが手にしたモノを凝視する。
どうやらどこかの鍵の下半分にあたるようだ。よく見ると鍵の形状はダジュールでは一般的なピンタンブラー式の形状をしている。構造自体は、ピッキングを用いれば鍵穴はその鍵無しでも解除できるだろう。そのぐらい構造が単純なのだ。
恐らくどこかに使用される鍵には間違いないのだが、肝心な情報はここからは読み取ることができない。
「そういえば、その黒い箱どこかで見たことがあります」
そう口にしたのはクルースだった。
どこで見たのかと問うと、二ヶ月ほど前にアルバラントで行われているオークションにこの黒い箱と全く同じモノが出品されていたという。その時、偶然にもクルーズも参加していたそうで、とある男性がその黒い箱を落札したと言った。
「それってどいつが買ったんだ?」
「たしか・・・リブロという画家の方が落札されたと聞いたことがあります」
「リブロ?」
「風俗画の巨匠で、今はヴァレリに住んでいるそうです」
そういえば以前出会った小説家のモラン・リュリオも、その町の出身で今も住んでいると聞いた覚えがある。現在はアルバラントに住んでいた息子のシンバを向かい入れ二人で暮らしているとも聞いている。
「ヴァレリって言えば【変わり者の町】なんて言われているみたいだよ」
「芸術家や音楽家なんて、私たち凡人にはわからないわね」
ノイシュが肩を竦め、マリアンナが皮肉めいた言葉を口に出す。
ロベルの話では、以前護衛依頼でとある芸術家と一緒に行動をしたが、振りに振り回された挙げ句にマリアンナがセクハラ一歩手前までされ、キレた彼女が危うく依頼人もろとも魔法で吹き飛ばそうとしたらしい。
その依頼は無事に完了したようだが二人には嫌な思い出らしく、しばらくはこのタイプからの依頼は受けたくないと拒否の態度をみせているそうだ。
「ということは、ケイはヴァレリに行くってことか?」
「あぁ。もう一つの黒い箱が気になるんだ。もしかしたら今持っているヤツの半分が入っているかもしれない」
「可能性はあるな」
ロベルの問いに返すと、教えてくれたクルースに礼をいい、自分たちは一度屋敷に戻ると伝えた。
ケイの話にアダム達は急だなと思いつつ、その提案に賛成の意思を示した。
クルースから黒い箱を受け取ったが、中身はどこかの鍵の下半分だった。
彼から以前オークションで同じ黒い箱を落札したという男性の話を聞きました。
そしてケイ達は、音楽と芸術の町・ヴァレリに向かうことになります。
もう一つの黒い箱を求めて!
次回の更新は5月4日(月)夜です。




