166、人魚族の話
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
今回のお話は、ダット達のところにいる人魚族に話を聞く回になります。
「おーい!ダット!!」
ロベル達を連れて港に停泊をしているダットの魔道船にやって来たケイ達は、ちょうど甲板に居たダットを見つけて手を振った。ダットもケイ達を見つけると手を振り返し、船に上がるように仕草で伝える。
「あれ?マカドたちは?」
「あいつらなら貝を捕りに潜ったぞ」
船に上がると、マカド達の姿が見えなかった。
聞けば、船に戻ってすぐにヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアが、マカドに美味しい貝の捕り方を教えると言って一緒に潜って行ったらしい。
護衛に冒険者上がりの数人の船員が付き添っていたが、潜水スキルの効果の関係上十分ほどで上がってきたという。その隣で護衛していたであろう船員数人が「ダットさ~ん!俺達あと何回潜らにゃいけんのですか!?」なとど泣き言を言っているが、マカド達が戻るまで!と完全にスパルタ教育のごとく彼らを海に放り出すダットをみて、鬼だなと他人事のように様子を見ていた。
それから三十分経ち、迎えの小型船に乗ったマカド達が戻って来た。
小型船にはたくさんの魚貝類が入った網が積まれている。
マカド達はケイ達の姿を見ると手を振り、それに習ってヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアも同じように手を振る。なんだかんだで物覚えがいいようで、網を担いで船に上がるマカドの行動を真似するように二体も戻ってくる。
「マカド!また大漁に捕ってきたな!?」
「彼らのおかげだよ。ちょうど貝の穴場も教えて貰った事だし」
「へぇ~、それじゃ今夜は貝づくしってやつか!」
「そうだね。今日は魚介類のスープでもいいかもしれないね」
他の船員がマカドたちを取り囲み、あれこれと声をかける。
それと同時にいつの間にか二体も仲間として認識されたようで、言葉はわからないが身振り手振りで他の船員とコミュニケーションをとっている。ダットに船員達の馴れって早くないか?と聞いたところ、ウチで預かる以上仲間として迎え入れることは当然だし、異論のある奴はかかって来い!と啖呵を切ったらしい。
近くに居た別の船員から「過去にやんちゃをしていた他の船員がダットの命令に従わずに反抗したら海に投げ入れられた」と内緒で教えてくれた。みんなを守るためにトレーニングをしていると聞いたことがあったが、まさか成人男性を海に投げ入れられるだけの腕力があるのかと思うと、世の中何がどうなるのかわからないものだなと痛感した。
「ロベル、あいつらは何者なんだ?」
一方この様子を見て、ノイシュが疑問を投げかけた。
ロベルとルナ以外の三人は今まで別行動を取っていたため、人魚族おろか今までの話の流れがわからず困惑をした。
それ以前に人魚族の異様な姿にサイオンとノイシュが顔を引きつらせ、マリアンナが密かに小さな悲鳴を上げたことに、そうなるわなとケイが内心同意する。
ロベルとルナが今までの人魚族の経緯を三人に説明をすると、理解のキャパシティを超えたのか三人共に頭を振った。まさか未知なる人種がいたことがわかると人間驚きのあまり声が出なくなるのは想像できるだろう。
「まぁ、そういうことだ!あとは馴れるしかないな!」
「何が「馴れるしかないな!」よ!知らない間に巻き込まれてるじゃないの!あんたリーダーなんだからしっかりしてよ!!」
マリアンナの許容範囲が超えたのか逆に沸点が沸いたようで、ロベルの胸ぐらを掴んで前後に揺さぶる。やっていることがシンシアと変わらないが、口に出せばとばっちりが来ることは目に見えているため静観する。
「マカド、ヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアに話を聞きたいんだが、今大丈夫か?」
「え?あ、はい。大丈夫です」
ロベル達のやりとりを横目に、ケイ達はマカドに声をかけた。
余所から来た人魚族の二体にどうしても聞きたいことがあると伝えると、マカドが船員達に囲まれた彼らを呼び、ダットがどうせならと会議室にロベル達もろとも案内をされた。
会議室に通された一同はケイ達を座らせ、向かいにヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディア、空いている他の席にはダットとマカド、エレフセリアの面々が座る。
「お前達に聞きたいんだが、どうしてここまで来たんだ?」
『ニゲテキタ』
「逃げてきた?」
『センソウ ハジマッタ クニマキコマレタ』
口を開いたヴェルティヴェエラから、人魚族の国であるゴルゴナが戦争に巻き込まれたそうで、そのとき国の補佐をしていた彼らは、命かながら近くを通っていた船の船板にしがみつき国を離れたらしい。しかしその船も大きな衝撃と共に沈没し、帰り道は分かれど見えない壁に阻まれ帰るに帰れない状態になってしまったのだという。その沈没した船は、おそらく最近発見された沈没船のことだろう。
「そういや、そのことでひとつ伝えておきたいんだが、実は他の方角でも南の海域同様に霧に包まれて進めなくなったんだ」
横から思い出したかのようにダットが話を切り出す。
彼の話によると、以前話してくれた進行できなくなった霧は他の方角でも同じように体験したようで、西と東はそれぞれ船で二日の距離、北はフリージアから一日の距離で同様に霧に包まれたらしい。
「あと北の海域から戻る途中で、船員数人が空に青い流れ星のようなものを見たって言ってたぜ」
「流れ星?」
「あぁ。たぶん関係ないとは思うが、なかには気になっているやろうもいるし、なにかの前触れじゃないのかと不安がっていたよ」
これに関してはマカドも見ていたようで、横一直線に青い稲妻のような流れ星のような線が流れていたと言っていた。正直それだけでは判断ができなかったが、海の向こう側に何かがあるということは全船員がなんとなく感じてはいたらしい。
それに人魚族の国と以前エルフの里で会ったセディルの相棒である上位精霊のダビアの証言もあり、この大陸は他の大陸との繋がりがあり、なにかの事情で大陸周辺の海域に結界を張ったことは間違いないだろう。
「ちなみに戦争って、どことやり合っていたんだ?」
『クワシク シラナイ タダ シャムルス人ガ ホカノクニ シテタ』
「シャムルス人が他の国と戦争?」
ノヴェルヴェディアがそう告げると、ケイ達は顔を見合わせ首を傾げる。
そもそもこの大陸にアフトクラトリア人とアスル・カディーム人が船でやって来たことは、過去に発見した文献で判明している。そうなるとその他の国と何かしらの原因で戦争を起こしていたとなると、友好関係を気づいていたアフトクラトリア人とアスル・カティーム人がこの国に肩入れをして、それをよく思わなかったその他の国が不満を爆発させたと考えることもできる。
しかし、以前発見した文献には【大陸の向こうから脅威が来る】という文面がどこと誰が示すのかが書かれていない。
「じゃあ、お前らがしがみついてやって来た船ってどこの国のものなんだ?」
ケイの問いにヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアは互いを見合わせ首を傾げた後、ハッと思い出したかのように同時にとある答えを口に出す。
『『アスル・カディーム人 フネ』』
そのあとに、その船がこの大陸に向かって何かを飛ばしていたと言うことが告げられる。それは何かと尋ねると、黒いなにかとだけしか返ってこなかった。
「アスル・カディーム人がシャムルス人と戦争をしていたってこと?」
「そうなると、元からこの大陸に居たシャムルス人とビェールィ人、アグダル人相手に戦争をしていたということになるな」
「でも変じゃない?文献では今まで友好的になっていたのになんでなの?」
「それはたぶん友好を築いたけど、それがなんらかの事情で破棄されたということに繋がるんだろうな」
アダムの推測にシンシアが疑問を投げかけるが、それに関してはアスル・カディーム人の技術の地位をシャムルス人が奪おうとしていたのではとケイは考える。
文献ではアスル・カディーム人を裏切ったビェールィ人とアグダル人は、その自責の念から、後にシャムルス人とアフトクラトリア人を歴史から葬ったことになっている。
それと未だに明らかにされていないアフトクラトリア人のことだが、もしかしたらアスル・カディーム人が仕えていた人種ではない可能性が出てくる。
もし仮にアフトクラトリア人が同じ大陸の王であるならば、今までに見つかった文献にひとつぐらい記述があってもおかしくはない。
しかしそれらが見つからないとなると、アフトクラトリア人がアスル・カディーム人に仕えていたのでは?と考え、あることないことを言ってシャムルス人を中心にアスル・カディーム人を孤立させて争わせた可能性もなくはない。
これはあくまでもケイ自身の推測だが、人魚族の証言で大陸同士のいざこざの可能性は確定だろうなと結論づける。
「ケ、ケイ?お前達は、一体何の話をしてるんだ?」
それまで静観していたロベル達とダット、マカドは目を白黒とさせながらケイ達と人魚族の二体に注目していた。なんのことだか分からない彼らに忘れてたと伝えると、もしかして昨今見つかっている地下遺跡の話かとロベルから問われる。
もちろんそれを前提に、自分たちはとある一件からダジュールの歴史を調べていると伝えると、ミクロス村の地下でも見つかった遺跡も含めてか?とロベルから返される。
「あの後、あの地下遺跡でもいろいろと見つかったと弟から聞いたよ」
そう口にしたのは、ノイシュだった。
村にいる弟のトビーからあの地下遺跡にいくつかの人骨が発見されたのだという。
それらはバナハの軍が回収し調査を進めているようだが、たまたま村長の家に行った際にバナハの軍の上層部との話を盗み聞きしたことにより知ったのだという。
バナハとしては今後も調査を行うそうで、定期的に村に調査隊が来ているそうだ。
「・・・ということは、俺達の村の地下も他の国から見つかった遺跡と関連があるってことか?」
「あぁ。俺達は今までにいくつか見て回ったけど、どれも似たような建築方式で遺跡が建てられていたのをみた。それに地下遺跡から文献が見つかって、その遺跡は大陸中にある遺跡と繋がっていたんじゃないかと思っている」
「それがケイ達が言っていた、戦争によって遺跡が破壊されたってことか?」
「それもあるが、もしかしたら別の要因の可能性もある」
ケイは地下遺跡について、アスル・カディーム人が生贄にされたこととなにか関係があるのではと思っている。それはアスル・カディーム人が最後の最後で戦争を鎮めようと禁術を行ったために犠牲になった可能性も考えられる。
大陸全土に広がった地下遺跡とアスル・カディーム人、そして他種族同士の戦争はケイ達が考えているより実はとても深いことなのではと考えざるおえなかった。
ヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアの証言から、戦争をしていたのはシャムルス人と他の大陸から船で来たアスル・カディーム人の可能性が浮上する。ケイはいくつかの推測をするが、それが世界に点在する謎とうまく噛み合うようで噛み合わないことに考えをまとめることができません。
一歩ずつ確信に近づいていきますが、大陸と歴史の謎がまだまだ深そうです。
次回の更新は5月1日(金)です。




