164、異種間交流
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回のお話は、ヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアについてどうするのかという回になります。
「失礼します」
会議室に先ほどケイ達に飲み物を配った料理人の男性が入室してきた。
落ち着いて貰おうと人数分の飲み物を運んできたようで、それぞれに紅茶を差し出している。彼はケイ達が戻ってきた時にはその場にいなかったようで、ヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアの姿に一瞬驚いた表情をしたが、受け入れが早いのかすぐに表情を戻し、二人に飲み物はいかがと尋ねる。
「紅茶の他に果物を搾った飲み物もありますが、いかがなさいます?」
ヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアはいつものように顔を見合わせ、互いに同じ果物を搾った方を指した。男性は二人の前に飲み物を置くと、口をつけて飲むものですとレクチャーをしてみせる。その動作に二体が理解したのかはわからないが、その動作を見て真似て飲んでいる。
人魚族というのは感情が表情として表れないようで、口に合うのか合わないのかがわからない。しかし、料理人の男性はおかわりもありますよ?と声をかけ、飲み干したノヴェルヴェディアのコップが差し出されたので、おかわり分を注ぎ入れた。
そこでケイは、んっ?と首を傾げる。
「なぁ、お前らもしかしてこいつの言ってることわかるのか?」
ヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアに尋ねると、もうクセなのか互いに顔を見合わせてからコクリと頷く。ケイがどういうことなのかと考える。
その料理人の男性はどこからどう見ても一般人なのである。
平々凡々の顔つきに浅黒い肌、頭には赤いバンダナを巻いており中肉中背とどこからどう見ても一般にいる男性と大差がない。その様子にダットからその人物についての紹介をされた。
「そういやケイ達に紹介してなかったよな?そいつはマカド、ウチの料理人だ」
「マカドと申します」
マカドと紹介された男性は、三ヶ月ほど前にこの船にやって来たのだという。
元は港町・ヴィリロスで料理人をしていたが、勤めていた店が経営悪化でオーナーから解雇を言い渡されたため、職を探していたところをダットに声をかけて貰ったそうだ。
マカドはルフ島の生まれで、父親が人間と獣人族のハーフ、母親が人間というクォーターらしい。その証拠に赤いバンダナを取ると、少し傷みのある赤いクセっ毛と髪の間から二つの猫の耳がぴょこんと出ている。スコティッシュフォールドのような耳は中折れしており、そこから猫の獣人の血を引いているということが窺える。
ケイ達のやりとりを余所に、今度はヴェルティヴェエラがおかわりを催促していたので、マカドがコップに継ぎ足す。両者とも意思疎通ができているのか、時折会話を交わしているようにも見える。
「なぁ、あんたはこいつらの言葉はわかるのか?」
「え?あ、はい。個性的な声質ではありますが、女性と男性の声ですよね?僕も料理人の時はいろいろなお客を見てきましたが、このような方達は初めてみました」
マカドはケイの質問にケロッとした表情で答えた。どうやら彼の認識とこちらの認識に違いがあるようで、それにはさすがのダットもケイの様子に気づいたのか、ちょっと待てと手を着いて立ち上がる。
「マカド!本当にそいつらの言ってることがわかるのか?」
「そ、そうですけど・・・ダットさん、どうかされましたか?」
「いや、だって少なくとも俺にはそいつらの言っていることがわからねぇぞ!?」
そこでマカドはハッと気がついた表情を浮かべる。
彼はヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアの方を向き、彼らもマカドに顔を向け、ケイの方へそして周りへと顔を向けた。
「ケイ、一体どういうことなんだ?」
「どうやら、俺以外にマカドも意思疎通ができると考えるべきだな」
「えっ?彼が?でもどうして?」
隣に座っているアダムが聞いて来た。
ケイは腕輪の影響で古代語を話す人魚族の言葉がわかっていると認識していたが、一般人であるマカドも彼らの言葉がわかることに関しては、どういうことなのかと首を傾げる。そんな時、ダットが何かを思い出した様でマカドに尋ねる。
「マカド、そういや【声】が聞こえるってやつはどうなったんだ?」
「あ、それですか~」
「声?」
「あぁ。こいつ、航海している時によく海から【声】が聞こえるって言ってたぜ」
マカドは、船に来た当初から海から【声】が聞こえるとよく言っていたそうだ。
初めは海に生息しているセイレーンの鳴き声ではないかと船員同士が噂をしていたが、どうも彼にしか聞こえない声が聞こえると言うことで、心配したダットが医者に見て貰おうと連れて行ったが、特に異常は見られないと帰されたのだそうだ。
「マカド、あんたが聞こえた声ってどんなやつだ?」
「どんなって・・・高い音、あ!そういえば、このお二人の声に似てました」
そう言ってヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアを指さした。
声というよりは高い音が混じった女性と男性っぽい感じだと述べ、ケイは何かを思い出す素振りを見せた後、続けて彼にこう質問をした。
「そういやマカドの親父の家系は猫の獣人と人間のハーフなんだよな?」
「はい、祖父が猫で祖母が人間でしたので、父はそのハーフです」
「じゃあさ、親父の親父の家系ってずっと猫なのか?」
「正確には猫の祖先である『ウミネコ』という種類だったと思います」
ウミネコ?とケイが疑問を浮かべる。
ケイの頭の中で地球にいる頭部から体下面にかけて白く、体上面は黒灰色のカモメ科の鳥類を思い出す。自分の国にもウミネコはいるが、カモメ類の鳥類を示すと伝えるとダジュールでは『海に生きる猫』と書いて海猫種と呼ばれるらしい。
そもそも猫の獣人族の一部は、先祖がウミネコにあたる。
ウミネコは水陸両用の人種であったようで、耳の後ろには小さな空気穴の様なモノがある。それを聞いてマカドに耳の後ろを見せて貰うと、確かに小さい穴が両耳に一つずつ付いている。その穴は、魚でいうところのエラの役割も果たしているそうで水中でも呼吸ができる仕組みになっているのだという。
ダットからは「だから魚を捕る時に素潜りでずっと潜っていたんだな」と納得の声を上げる。料理人が素潜りをするのかと問うと、基本、貝類やタコなんかは海底に生息しており、漁師が直接潜って捕りに行くのだそうだ。ただ、一般的な漁師は技術的な観点から限度があるため、捕れたとしても港町以外で定期的に食べられることはまずない。
ちなみに船では直接マカドが取りに潜り、潜水スキルのある冒険者上がりの男たちが彼をサポートするという形式になっている。ただマカドの潜水時間が長すぎるためサポートにも限界があり、途中でマカド以外が戻ってくることも多々ある。
もちろん海にもセイレーンや他の魔物も数多く存在しており、ダットはその点で心配をしているのだという。
「マカドさんのことはわかったけど、なんで人魚族と会話ができるんだ?」
「それなんだけど、アレだな」
「アレ?」
「超音波だ」
と、言われてもどういうことなのかわからず、アダムをはじめ一同が首を傾げる。
ケイの考えはこうだ。
マカドはウミネコという種の末裔である。そのウミネコは陸地だけでなく海底でも活動できると考えると、水中の場合の伝達手段は限られる。先ほどマカドの耳の後ろを見せて貰ったところ、空気穴とは別に小さな突起物が片方ずつ付いているのが見えた。本人に聞いたところ「水中に潜ると、物の位置が把握出来るからそれでだと思う」と言っていたので、それは目視で確認できるのか?と尋ねると、どちらかと言えば、物の形を白い影のようなもので認識できるという言葉が返ってくる。
マカドの説明を参考にしているが、ケイは彼の身体にある二つの突起物が人の耳では聞き取ることのできない超音波を発し、物体に反射した音から物体の特徴を掴んでいるのではと考える。要はイルカやコウモリの特徴のようなものである。
ただ、その推論が正しいのかは定かではないが、マカドは人魚族との会話はどちらかというと言葉ではなくニュアンスで掴んでいるという。音の高さで何を言っているのか変換し、聞き取ることができるということなのだろう。
そうなると現時点でケイとマカドのみが会話を成立させることができ、また、人魚族の拠り所先を考えると、ダット達のところが適任ではないかと思い始める。
これもあくまでケイの持論だが、国に帰りたがっている節が見られるのでこちらとしても何とかしてあげたいが、現時点で大陸外に行く方法が判明していない。
「で、こいつらはどうなるんだ?」
「こいつらついて来ちゃったし、俺としてはどこかで面倒を見てくれる機関を捜すか、最悪俺達で引き取ろうかと考えてたんだけど・・・」
ダットの問い答えるが、もちろんアダム達は、肯定も否定もできないというよりは扱い方に困る方が大きく、ギョッとした後に困惑した表情を浮かべる。
それに陸地でも生活できるとはいえ、海に近い方がいいだろうと考えるが肝心の受け入れ先をどうするかで迷っている。
「ダットさん、彼らをここに置いておくことはできませんか?」
そう提案したのは、ほかならぬマカドだった。
彼は人魚族とのコミュニケーションができ、行き場はないが海から離れたくないという二体の話を聞いたようで、なんとか船に置いておけないかと提案をしたのだ。これには、さすがのダットもどうかと頭を悩ませる。
「マカド、気持ちはわからなくもねぇが、こいつらは犬や猫のようにはいかないんだぞ?第一、食料や生活面はどうする?環境も違うのにおいそれと面倒は見れねぇな」
「だとしてもこのまま放って置けと言うんですか?」
「そうとは言ってねぇよ!ただ話を聞く限り、こいつらが長い間海底で生活をしていたとなったら、然るべき場所に報告して対応して貰うしかねぇだろ!?」
「国に任せろ、と?困っている人がいるのは当然でしょ!?」
「だ・か・ら!事情が違うから俺たちでも判断ができないと言ってんだ!だれも見捨てるなんていってねぇだろぉ!!?」
元からの性格なのか、ダットとマカドが言い争いを始める。
ダットとしては二体の面倒を見たい気持ちもあり、ことが事だけに慎重に様子を見ていたが、思いの外マカドのボルテージが上がっているようで、それに攣られてダットも声を張り上げる。ケイ達とロベルはそれぞれの間に入り仲裁を行い場を沈める。
「とにかく二人とも落ち着けよ~ それにこいつらだって驚いてるだろう?」
ヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアはキョトンとした表情のまま固まり、ブルノワと少佐は二人の張り上げた声に驚いたのか耳を塞いでいる。ケイは座ったまま二人を窘め、落ち着くようにと伝えた。
とにかく、このことは自分たちからアルバラントの国王に伝えると言い、できれば海を拠点としているダット達に人魚族の二人を任せたいと願った。
ダットからは国王に話はできるのかと聞かれたので、ツテがあるとだけ答えた。
ケイがいうなら俺はいいけど・・・と言い淀むダットにマカドは彼らの面倒は自分が見ますと言い切る。確かに状況的に適任は適任だが、普段は料理人として料理を振る舞い、素潜りで貝などを捕りに行くというアグレッシブさがある。
ヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアは、魚を捕るなら場所を教えるといつの間にかマカドとの話が進んでおり、その様子を見ていると短時間に懐いている素振りまでみせる。警戒心がないのかとケイは首を捻ったが、マカドは彼らからは一定の高さで音を発しており、それは警戒心や敵対の意はない合図を送られていると言った。逆に二体もマカドの外見と彼から発せられる音に共鳴を受けたようで、イコール仲間という認識を持ったそうた。
こちらとしては仲良くしてくれるならと一応は納得したが、やはり特殊な能力同士なのか蚊帳の外な感じがする。ダットもこの状況に頭を乱暴に掻いた後、他の船員には俺から話をつける!と言い切った。本格的にヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアの面倒をみるということで、ケイ達もこちらもできるだけサポートはすると返した。
その日の夜、ダット達の船を降りたケイ達は、マリーとドルマンの宿屋に一泊することになった。
ロベルの方はルナが気がつき、状況報告のためギルドに向かうと言い、戻ってきた時にギルドマスターのオルガから今日のことでケイ達にも話を聞きたいと言っていたそうで、結果的に明日ギルドに赴くことになった。
それに関してはケイ達も仕方ないと了承し、夕食後に各々客室に戻ったタイミングでガイナールに今日のことをメールで伝えた。もちろんすぐにメールの返事とコールが鳴り、どいうことなのかと慌てた様子かけてきたので、ケイが彼に夜遅くまで説明にまわったのは当然のことだった。
人魚族のヴェルティヴェエラとノヴェルヴェディアはダット達が見ることになりました。
無理なお願いということはわかっていますが、確証に一歩近づいたことには変わりません。
幸い料理人のマカドがいますので、仲もなんとかなるようですので暖かく見守りましょう。
次回の更新は4月27日(月)夜です。




