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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
166/359

161、スライム大量発生

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

今回のお話は、港町・アーベンで起こるスライム騒動の話です。

「パーティ・エクラの皆様に魔道航海士のダットさんから伝言を預かっています」


その日ケイ達は、依頼を受けるために冒険者ギルドに向かっていた。


受付の女性からダットから伝言があると、内容が書かれている羊皮紙を手渡し確認するようにという。受け取った文面にはこう書いてあった。


『スライム大量発生!港町アーベンで足止め中!航海できないため救援願う!』


それを見たアダム達はあぁ~と感慨深い表情をした。

どうやら毎年この季節になると海に生息するスライムが大繁殖をするらしく、漁ができなくなるという。主に港町のアーベンやルフ島、商業都市ダナンに港町ヴィリロスが打撃を受けるようで、スライム自体はそれほど強い魔物ではないが、定期便や漁をする船にくっつき、舵が取りづらくなるといった困り事が出てくる。

そのため、この時期になると日の浅い冒険者達がこぞって海に向かい、身ひとつでスライムの回収をするスライム祭のようなものが行われているそうだ。


「スライムが大量に出るって捕獲した後ってどうなるんだ?」

「主に防具の加工素材として使われることが多いな。あと、錬金術にも使われているみたいで、まとめて売るとそこそこいい値で買ってくれるんだ。俺も駆け出しの時はよくやってた」


アダムも冒険者を始めた頃はよくスライムの回収作業をしていたようで、毎年この次期になると稼ぎ時だと気合いを入れていたこともあったらしい。正直魔石ならそこそこ集めればいい値で売れるのは知っていたが、まさかスライム自体が売れるとは思っていなかった。


アダムによると、海にいるスライムは普通のスライムとは違い、内部は魔力が籠もった水で構成されており、破壊すると外殻というスライムの皮が入手できる。それと魔石の他に希にスライムの粘液が採取できるそうで、それを狙って駆け出しの冒険者達がこぞって海に入っていくという。


想像つかないのだが、毎年のことなので傍から見ると一種の行事ごとに見えるらしい。ケイ達はダットの事もあり依頼は受けずに、港町アーベンにいるダットの元に向かうことにした。



「うへぇ~気持ち悪っ!」


一度屋敷に戻り、ローゼンに事情を説明してからエントランスの一角に設置している転送ゲートを使い、アーベンにあるアダムの借家のリビング経由で到着をした。


アダムの借家は海に面しており、家を出てすぐに海一面にスライム畑という見たくもない現象が起こっている。アダム達は馴れているのか今年も来たなといった表情をしているが、ケイは海にびっしりスライムが群れをなしている様子を見て身震いをした。


『パパ! スライム!スライム!』『バウ!』『ワウ!』『ガウ!』

「お前ら、はしゃぎ回って落ちるなよ!」


ブルノワと少佐は初めて見る光景なのか、目をキラキラとさせながら群をなしているスライムを見つめる。どうやら魔物の本能のようなのものがあるのか、少佐に至っては三頭とも口からヨダレを出している。それをみたケイはアダムに「スライムって食えるのか?」と聞くと「スライムは大抵他の魔物からの捕食対象になるからそれでじゃないか」と返ってくる。正直、理解ができない。


一行は港に続く大通りまで出ると、町人たちが港の方を向いて歓声を上げたりしている姿が見える。その先には、冒険者達が海に入るために軽装で飛び込んでいく。

まぁそのほとんどは男性なのだが、中には接近戦の女性冒険者もいるようで、目のやりばに困るような服装で飛び込んでいる。それを町人の男性達が歓喜を上げ、妻に叱られているのが一つのお決まりなのだろう。



「あれ?ブランドじゃん!」

「おぉ!ケイ達か!」


ケイ達が港までやって来ると、その一角で冒険者ギルドで素材の買取を担当している職員のブランドの姿があった。手を上げる彼の後ろには、六人の職員が冒険者達からスライムの素材の受け渡しをしており、素材が入っている木箱が大量に積まれている。


「ギルドの仕事は?」

「今日はこっちで買取をしている。どちらにしろあの量は保管庫に入りきらん」

「そのまま捌くって事か?」

「まぁな!この時期のスライムの売買は結構高くつくんだ」


そう言ってブランドは、ケイ達にスライムの外殻を見せてくれた。


見た目はクラゲ、触るとナマコとケイにとってはあまりいいものではないため遠慮していたが、足元にいる少佐が一心にそれを見つめている。


ブランドがこれがほしいのかと尋ねると大いに首を振り、ケイは少佐にお腹を壊すぞ?と言うが、やはり本能的なものには逆らえずスライムの外殻をほしがっている様子だった。そんな少佐を見て、ブランドは後ろにいる職員の一人に売不可のものを持ってこいと伝える。


「よし!これならいくら食べてもいいからな!」

「それ、売り物じゃねぇの?」

「これは外殻に傷があって売れない物だ。どちらにしろ破棄するだけだからな」


どうやら一言に外殻といっても何でもいいというわけではない。


傷や保管状態を見て売りに出したりするそうで、職員が持ってきた箱には素人には判断できないほどの状態のいいスライムの外殻が入っている。


ブランドはこれらは傷の多さが目立っているため値がつけられずに売ることが出来ないものだという。こういった物は使われずに然るべき方法で破棄されるのだが、少佐は箱が置かれた瞬間に貪るように食い荒らした。さながら捕食するクリオネのような凶暴さである。


「ケイ、少佐はこれを食べているけどいいのか?」

「あ~本人が食べたいんだから大丈夫じゃねぇの?元は魔物だし」


アダムに問いかけられたが、ケイは好きにしてやれと返す。

ちなみにいつもはヴァールしかこのような食べ方をしないのだが、やはり魔物の餌?は旨いのか、他の二頭も同じような食べ方になる。まぁ、その食べっぷりは道行く冒険者も顔を青くさせるほどの極悪顔だったのはいうまでもない。



ブランドと別れたケイ達は、ダットを捜して港を歩いていた。


人通りが多い分、見過ごしてしまう可能性があるため、各々目を皿のようにして周囲を見渡していると、見覚えのある二人の姿があった。


「あれ?ロベルとルナじゃん?」

「お?おぉ!ケイ達じゃないか!」

「皆様、ご無沙汰してます」


その二人は、エレフセリアのリーダーをしているロベルと僧侶、もとい最近メディックからウィッチドクターにクラスアップした回復役のルナだった。


ケイが他のメンバーは?と尋ねると依頼で別行動をとっており、三人はエストアから直接アーベンに来ることになっているのだという。二人はたまたま別の依頼が早く終わったためにここに来たのだが、ギルドの職員から職員の人手が足りないので監督役をお願いしたいと申し出があったそうで、今回は冒険者達のヘルプを担当している。


「なんか大変だな」

「お前だって、いつの間に子供とペットができたんだ?」


足元にいるブルノワと少佐の方を見てロベルがニヤニヤとした笑みを浮かべる。

ケイはこいつらは従魔だと答えると、えっ?と驚いた表情に変わる。どういうことなのかはこの場では割愛するが、卵から生まれたというとお前はどこに向かっているんだと呆れた表情を浮かべられた。


「ところで話は変わるんだけど、魔道航海士をしてるダットを見なかったか?そいつと約束してんだよ」

「そういえば、海に停泊している大型船が向こうに停まっているのを見ました」


ルナから証言がありケイ達が礼を言ってからその場を去ろうとした時、ロベル達も実は作業の一部を頼んでいるからと状況の確認のためにこれから向かおうとしていたそうだ。



「ケイ達じゃねぇか!!」


スライムの外殻が入った大箱を片手で持った男の姿がある。

その人物はケイ達に気がつくと、近くに居た船員に手渡し、渡された船員があまりの重さによろけて倒れるというハプニングがあったが、ダットは気をつけろ!と檄を飛ばし、船員達が散らばった素材を回収に回る。


「ダット、久しぶりだな・・・なんか雰囲気変わったか?」

「そんなに変わってねぇよ!しかしケイは変わんねぇな~メシ食ってるか?」


ダットはケイの肩をバンバンと叩き、最近では妻が子供を産んだため、より一層仕事に励んでいるという。


魔道航海士として活躍しているダットは、物流の運搬や漁業を行ったりしているそうで、前よりも大事な人が増えてきたため、より一層力をつけるために日夜トレーニングを行っていると話した。片手で大箱を持ち運べる段階でだいぶ強いイメージがあるが、ダット曰く目標はケイらしい。着眼点が若干ナナメ上なのが気になるが水を差すつもりは毛頭ないためスルーすることにした。


「ダットさん、状況はどうだ?」

「あぁ~この通りだよ。さすがにスライムの数が例年より多い気がするな」

「そうか。もうそろそろ数が減ってもいいころなんだけどな」


ダットは首を振り、これ以上は上げても無駄になってしまうとから何とかならないかと言うと、ロベルは顎髭を触り思案した。


どうやら今年は特に数が多いそうで、掃けても掃けても沸いてくるまるで沈没船にでも乗った気分だと語る。スライム達は通常、水中を拠点にして活動しているそうで、水面上に上がってきたモノに関しては時間が経てば自然と水中に潜っていくという。しかし今回はその量が例年の二~三倍ほどあるらしく、どんどん増えていく気がすると述べた。


「一網打尽にする方法はねぇのか?」

「そう言われてもな。ケイ達はなんか方法はあるか?」


ロベルに振られたケイ達は各々どうしたらいいかと考え、ケイがあっと思いつきダットにあることを伝えた。


「ダット、船にある装置は?あれなら船を出さなくてもスライム全部やっつけられるんじゃねぇのか?」

「でもよぉ、人が多過ぎて海に入っている奴らもやられちまうぜ」

「あ、そっか~」


ケイ達が来る前までダットは船にある装置を使ってスライムを殲滅させようとしたが、ダットとロベル達は殲滅するから海から上がれと言ったものの、聞く人間がほとんどおらず難航しているのだという。


『ガウ!』


と、突然ヴァールが鳴き声を上げる。

ケイがどうしたのかと尋ねると、どうやらなんとかなるといわんばかりの表情をする。意思疎通が出来るもののどういうことなのかと疑問に思っていると、少佐が突然海に向かって走り出した。


「おい!待てって!」


ケイは突然走り出した少佐の後を追って、ブルノワを抱えて走り出し、その後を他の仲間達が追いかける。



『ガァァァルゥゥゥゥ!!!!』



少佐が防波堤の縁で立ち止まると、ヴァールが海の方に向かって大きな唸り声を上げた。その唸り声を聞いた冒険者達や町の人達は、驚きのあまりに立ちすくんだ後に前方に見える黒い雨雲を見て慌ててふためいた。


「ケイ!あれ!」


前方の天候に異変を感じたシンシアが指を指す。

ケイがヴァール!と呼び止めたもの雷光が走り、海に潜っていた冒険者達が続々と岸に上がり始める。ロベル達とダットが岸に上がれと急かし、全員が退避したその数秒後に大きな落雷と轟音が響き渡り、海一面に稲妻が走った。

ヴァール、落雷を落とす。

一網打尽だけど、幼体ゆえに加減がわからないようです。

死人はでないと思いますが、まだまだ教育が必要なようです。


次回の更新は4月20日(月)です。

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