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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
163/359

158、小説家と青年

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

今回のお話は小説家のモランと露店を営んでいるシンバの話の続きです。

翌日アダムは、捜している女性の情報があるとモランに連絡をした。


ギルドの応接室で落ち合うことを約束し、ブルノワと少佐を連れたケイと一緒に向かうと、既にモランは応接室に着席していた。その際に仲間のケイと従魔のブルノワと少佐を紹介し、ケイ達が偶然にも証言していた紫のストールらしきものを手に入れていたことを説明をした。


ブルノワにストールを確認したいから貸してくれと頼むと、了承したブルノワの首からストールを外し、モランに手渡した。


「これは私が彼女に送ったストールです」


その証拠に、ストールの端に『リベリアへ』と小さく赤い刺繍が施されている。


アダムは捜していた女性は三年前に過労で亡くなったことを伝えると、ショックを受けたのかモランはストールを握りしめたまま黙って俯いた。十年以上も思い焦がれていた女性が亡くなったことを伝えるのはこちらとしても心苦しいが、嘘を言っても逆に傷つけてしまいかねない。続けて今は彼女の息子が住宅地区に住んでいることを伝えると、モランは少し考える素振りを見せた後で顔を上げ、その子に会うことはできないかと尋ねた。


アダムは元からそのように話はつけてあるので、時間があれば今からでも自分たち同席で訪ねに行こうと提案をした。もちろんモランはすぐにでも会いに行こうと言い出し、持っていたストールをブルノワの首に優しく巻いてあげた。

首にかけられたブルノワは、ケイからストールの元々の持ち主だということを聞いていたので、なぜ自分に返すのかと首を傾げる。ケイもそれを見て、なぜ返すのかと問うと、やはりシンバと同じように自分は使わないので使ってくれるブルノワに譲りたいという答えが返ってくる。


正直その辺の心境は理解できないが、ブルノワも幼いながら空気を察したのか素直にそれに応じた。



モランと一緒にシンバの家がある住宅地区にやってくると、どこからか何かが割れる音やぶつかる音が響き渡った。


何事かと思い慌てて駆けつけると、どうやらその音はシンバの家から来ているようで、家の中からシンバが投げ出されるように飛び出して来る。モランは慌てたシンバを起こそうとすると、続けて家の中から二人の男が出てくる。


「シンバ!いい加減にバドが作った20万ダリ払いやがれ!」


どうやら相手は借金取りのようで、スキンヘッドの男が凄みを利かせて言い放つ。

もう一人のオールバックの男が「払えねぇなら・・・わかってるだろうな?」と脅しのような言葉を告げ、抱き起こそうとしているモランを押しのけると首元を掴み詰め寄り、拳でシンバを殴ろうとしたためアダムが慌ててその手を止めた。


「おい!邪魔するんじゃねぇ!」

「取り込み中悪いんだけど、こちらも彼に用があるんだ」

「お前らの用なんて知るか!俺達はこいつの父親から20万ダリも貸してるんだ!返すのは当然だろうが!なにか?代わりにお前が払ってくれるのか!?」


オールバックの男は掴まれている腕を振り払い、服の服装を正した。



「それなら、僕が代わりにその子の親の借金を払います」



モランは先ほど男に押しのけられ、尻もちをついていた体勢から立ち上がり、男たちの前でそう言い切った。さすがの彼らも本気なのか!?と呆気にとられているところに、モランは懐から硬貨が入った麻の袋を男たちに手渡した。

「確認をしてくれ」と言うと、男たちは慌てて袋を開け、中を確認し始めた。


ほどなくして男たちは目標金額があると確認できたのか、なぜか気まずそうな表情で次はないからな!とシンバに言い放つとその場を去ろうとした。


「はい、ちょっと待った!」


突然その成り行きを見つめていたケイが、帰ろうとしていた男たちを制止させた。


むろん男たちは貰うものも貰ったため要はないと踵を返すところだったため、呼び止めたケイに怪訝な態度を向ける。


「あんたらさ【借用書】はないのか?内訳は?」


ケイの言葉に言わんとすることが掴めず、まるで頭にハテナが浮かんでいるような表情をして顔を見合わせる。ケイはその様子から正式に書面で取り交わされた可能性が低いと判断し、たたみかけるように男たちに言葉を投げかけた。


「あのさ~もしかしてシンバの親父は、口約束であんたらから金を借りてたのか?だとしたらあんたらにも責任があるんじゃないのか?第一、何時に何に対していくら借りていたって証明はできるのか?その様子だと内訳おろか書面での取り交わしもしてないようだから、下手したら逆に詐欺でとっ捕まるぞ?」


言い方は悪いがこちらはただ質問をしていただけなのだが、スキンヘッドの男がそれに気を悪くしたのか激昂してケイに殴りかかって来た。


無論やられる前にやる男のケイは【バインド】を唱えて二人を拘束をした。


転がる男たちが何かを喚いているようだったが、ブルノワと少佐にこいつらで遊んでいいと指示を出すと、今度は情けない声が住宅街に響き渡った。


ケイの合図で少佐はスキンヘッドの男の尻に噛みつき、ブルノワはオールバックの男に馬乗りになってペチペチと頬を叩いている。しかし子供とはいえ、魔物であり従魔である彼らの力は傍から見ても異常で、少佐が噛みついているスキンヘッドの男からは煙や冷気や雷が音や煙を立てて沸き上がり、オールバックの男は軽く叩かれているはずなのだが、ブルノワの力が強いのか顔中が血まみれというスプラッター劇場を見せられている。


そんな様子をケイはきにせずシンバを起こし体調の面はどうかと聞くが、情けない男たちの泣き声を横目にシンバは首を縦に振り意思表示を示すしかなかった。


正直隣の男たちの様子が恐いのか、心なしか顔が青く見える気がする。


男たちから悲鳴や懇願の声が高くなってきたため、ケイはブルノワと少佐に止めるように言ってから拘束を解くと、彼らは一目散にその場から転がるように走り去って行った。


「昨日、説明をした人を連れてきたから話をしようぜ」


ケイは、先ほどの騒動が何事もなかったかのように口にした。

まるで何かの喜劇でも見せられていたのか、呆けた顔でシンバとモランが頷き、アダムが呆れたような表情でため息をついた。



室内は先ほどの騒動で荒らされていたため、片付けをしてから先日の話をするために、それぞれが椅子に腰を下ろした。シンバは、向かい右側にケイの膝にいるブルノワと足元に蹲るように伏せっている少佐に一瞥をしてから、正面に座っているモランの方に向き直った。


「あの、先ほどはありがとうございました。お金の方は必ずお返ししますので」


まずはモランが借金の返済を代わりにしてくれたことに礼を述べ、代理で返済してくれた分は必ず払うと口にした。それに対してモランは、気にしなくていいと首を振る。


「母を捜していたからですか?」

「それもあるかもしれない。それよりも君のことが心配でね・・・」

「でも大金ですよ!?普通なら人においそれとあげたりしませんよね?」


シンバの正論に理屈ではないんだとモランが諭した。

たしかにお人好し過ぎる部分も否めないが、ケイは何故かその様子に小さな違和感を感じた。しかし口を挟むことはせずに二人の会話に耳を傾ける。


「母は三年前に過労で亡くなりました。家を出て行った父の代わりに朝から晩までいくつもの仕事を掛け持ちしながら僕を育ててくれました。でも、僕から見て母は幸せではありませんでした」


シンバの口から語られた家庭での悲惨な実情にモランは眉をひそめた。


シンバは幼少の頃から母親と共に父親から暴力を受けられ、必死に逃げようと説得をしても母親は首を縦に振ることはなかったのだという。父親は母親の死後に余所に別の女性を作って出て行ったそうで、代わりに借金を返す日々を送っていたが持ち合わせがほとんどなく、その日の食事もままならないのだと語った。


それに自分は仕事に就けないと口にし、左腕の袖を捲りこちらに見せた。


「これは・・・」

「僕が十才の時に父親から暴力を受けた時にできた怪我の跡です」


シンバの左腕は肘から内側に変に折れた跡が残っている。


血液が固まり治った跡なのか肘の内側が紫色に変色をしており、聞けば暴力で負った骨折の跡だという。しかし医師に診せるお金もない事からそのまま放置をしたこともあり、重い物や腕を伸ばしたり曲げたりする動作が厳しいのだという。


唖然とし言葉を失っているモランに、ケイ達も二人になんと言葉をかけていいのかわからずにその様子を伺っている。


「私がお金を出すから、一緒に医者に診てもらおう?」


モランからそんな言葉が出た。

驚いたシンバは治る見込みはないと思うと返すと、君は若いのだから諦めてはいけないと励ます。その言葉に戸惑っている姿を見てケイは、二人にあることを投げかけた。


「ところでシンバの親父は出て行った後に戻って来たことはあるのか?」

「いえ、今までに一度も・・・」

「じゃあ、お前の両親は何処で出会って一緒に暮らすことになったんだ?」

「たしかアルバラントの酒場で出会ったと聞いてます」


それを聞いたケイはなるほどと一人納得をし、アダムに少し席を外すからブルノワと少佐を頼むと言って席を立った。



ケイは一度シンバの家を出て、人気のない通りに向かい、ポケットからスマホを取り出すと、とある人物に電話をかけた。


『はい、もしもし』


数コールののちに相手が電話に出た。その人物はガイナールだった。

丁度公務が終わり馬車に乗っているのか、電話口から歯車の回る音がバックから聞こえる。ケイはガイナールの電話対応の有無を確認してから話を切り出した。


「あのさ~ダジュールにDNA鑑定みたいなのができる方法ってないのか?」

『どうしたんだい急に?』


ケイはアダムがとある指名依頼を受けており、話の流れから二人の態度、話し方、仕草から依頼人のモランとシンバは親子ではないかと思い考えたのだ。


するとガイナールから科学のような技法ではないが、魔術でそういった家族関係の有無を確認できる方法があると述べられる。しかし一般的に公表している技法ではないため少し準備がいるそうで、ケイはそれを使ってそういった確認ができないかと提案をした。

事情を説明されたガイナールは、隣にフォーレがいるようでボソボソと彼と話し合った後にケイの提案を受け入れた。それとシンバの養父であるバトという男のことを調べてほしいと頼んだ。


ケイが思うに養父のバトは、シンバが生まれる前に母親のリベリアと出会い、なんらかの方法で父親がモランではないかと知り、父親のことを世間にバラされたくなければ一緒に暮らすように脅しをかけていたのでは?と考える。当然母親はそれに従い、亡くなる前まで一緒に過ごしていたといったところなのだろう。


ガイナールから家庭での暴力も拘束の対象になるという事を聞き、それについての対応もお願いすると互いに合意したのちに通話を切った。



シンバの家に戻ってくると、アダムから何処に行っていたのかと訪ねられる。

耳打ちでガイナールに連絡を取っていたと返すとどういうことだと疑問を投げかけられる。ケイは耳打ちで先ほどのガイナールとの会話を説明すると、まさかと言った表情を向ける。


「モラン、あんた本当はシンバの父親なんじゃねぇのか?」


ケイはモランにド直球で疑問を投げかけると、それを聞いていたシンバは驚愕の表情でモランを見やる。


どうやら過去に一度だけリベリアと関係を持っていたようで、アダムからケイ達がシンバから買ったストールの話をされた時に、直感で自分の息子ではないかと考えたらしく、借金のことも本などの印税で得た分を返済に充てようと決意もしていたそうだ。


ケイは、国の協力で二人が血縁者かどうかを調べる手配を取っていると告げると、いつの間にと驚きの表情を見せる。有名になればなるほど知らないところで隠し子やら面倒くさい話も出てきかねないことを聞いたことがあるので、こういうことは早ければ早いほどいいと二人を諭した。



後日、ガイナールの計らいでモランとシンバは正式に親子だということが認められた。その証拠に正式な結果を書面に記し二人に報告をしているとガイナールから話があった。シンバが養父から負った怪我も、城の専属医師により徐々にではあるが治る兆しが見えていることも知った。


ちなみに養父のバトのことだが、その数日後に拘束したという連絡が入り、取り調べをした兵士の報告によると、実は借金は全くの嘘で借金取りもバトが雇った一般人であり、シンバの本当の父はどうやって知ったのかという問いには、小説と同じ紫のストールを見たことがあり、もしやと思い強引にリベリアに吐かせたそうだ。


酷いことに母親のみならずシンバも脅しの対象であったと語られた。


しかしシンバは、ケイ達に言われるまで自分の本当の父親が有名な小説家だということは知らずにいたため、自体を重く見たガイナールは養父と借金取りの二人を一番重い刑を科したと報告を受ける。その辺の詳細は聞くことはなかったが、まぁ想定していたことだろう。


その後親子として認められたモランとシンバは、シンバの治療のため城に滞在し、治療の効果もあってか徐々に動かすことができるようになったそうだ。まだ重い物を持つことは難しいが、将来的にはできるようになるということなので、紹介してくれたケイやアダムには感謝しても仕切れないと話す。


それと紫のストールだが、ブルノワから返却の意思が見られた。


ブルノワ曰く『だいじ!だいじ!』ということらしい。

同じことをいう時は、大体すごく重要だから忘れないで(なくさないで)という意味を示す。ケイはブルノワも大人になったなと親バカな感想を思い起こさせた。



将来的に『サフランの丘』は完結を迎えるのだが、それが女性の心を掴み涙させる内容であり、その背景に立ち会ったケイとアダムは密かに心に留めておくことにした。

自分の実の親が有名な小説家だったことを知ったシンバは、今後モランと二人三脚で過ごしていくことになります。今は亡き思い人である女性の息子が実子と知ったモランは、彼をサポートしながら仲良く暮らしていく決心をします。

小説家の裏にはそんな話があったことはケイとアダム、ブルノワと少佐だけの秘密となります。


次回の更新は4月13日(月)です

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