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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
162/359

157、紫のストール

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回の話ですが、複雑な事情を抱えたストールの売り主である青年の元を訪ねる回になります。

「ただいま」


夕方になりアダムが屋敷に戻ると、庭先でルトと少佐を連れたブルノワが以前植えた花の観察を行っていた。


「おかえりなさい」

『おかえりなさぁい!』『バウ!』『ワウ!』『ガウ!』


ルト達がアダムの方を向き、ブルノワが駆け寄ってきては抱っこせがむ。


アダムがブルノワを抱き上げたところ、首に紫のストールが巻かれていることに気づいた。これはどうしたのか?と尋ねると、パパに買って貰ったと返ってくる。

指先でストールの端を触れると、市販で売られているストールより質の良い物だと気づく。サラサラとしているが生地自体がしっかりしており、紫の生地の中に銀色が混ざっているようで、太陽に照らされたストールがキラキラと輝いている。


その時アダムは、極秘で依頼を受けたモランの言葉を思い出した。



ブルノワを下ろし室内に入るとローゼンが出迎えてくれたので、ケイの所在を聞くと自室で昼寝をしているそうで、アダムは礼をいい、二階に居るケイの部屋へ足を向けた。


「ケイ、今いいか?」


アダムがケイの自室の扉を叩くと、ほどなくして寝起きとおぼしきケイの返事が返ってきた。


部屋に入ると、上半身を起してベッドの上で胡座をかいているケイの姿がある。

朝が苦手で体質なのか、昼寝でも一旦寝てしまうと起きる時に時間がかかるのは一緒に行動していくなかでなんとなく察してはいた。ただ、依頼などで約束をしている場合には一度も破ったことはないため、大目に見ている。


起き上がっても眠気眼で宙を見つめているため、サイドテーブルに置かれている水差をコップに注ぎ手渡す。ケイは受け取った水を飲み干し、しばらくしてアダムにどうしたのかと尋ねてきたため先ほど庭先にいたブルノワの話をした。


「ブルノワの首に巻いているストールはどうしたんだ?」

「あぁ~あれか。昼間に露店をしていた兄ちゃんのところで買ったんだ」

「触ってみたが結構質がよかったぞ?」

「だろう?しかもあれ、100ダリだぜ?」


金額の安さに思わずアダムが声を上げる。


どう見たって最低でも一万ダリはするような代物である。ケイも安すぎるのではと意見を述べたのだが、露店をしていた青年はその品々をみたくはないのか、早く売り払いたいような物言いをしていたのだという。詳しく聞いたところその青年が売っていたのは全て母親の物だったという。もちろん売ってもいいのかと聞いたところ母親に対して少なからず怒りの表情があったようで、少し強い口調でいいのだと述べられたそうだ。


アダムは、一瞬請負ったモランの依頼をケイに話すべきかと悩んだ。


しかしメンバーの中で小説を読んでいないのは、幼いブルノワと少佐を除いてケイとアダムぐらいである。ケイは一見軽い印象を持たれやすいが秘密は守る主義の方のため、自分でも困っていることもあり正直に告げてみることにした。


「相談があるんだ」

「相談?珍しいな?」

「まぁ~実はある依頼を受けたんだが、どうしたものかと思っているんだ」


ケイはアダムから相談を持ちかけられたことに驚きを見せる。


基本アダムは冒険者の歴も長いためそうそう困ることはないのだが、今回は昔からの知り合いからの依頼で手を焼いていると告げられる。しかも依頼の内容が思い人の捜索で、相手は『サフランの丘』の著者でもあるモラン・リュリオだという。

十年ほど前にモランが魔物に襲われているところを偶然助けたのがきっかけだったそうで、その後も親好を持ち、一部ではあるが本の発売の手助けをしていたと内緒で語った。


もちろんアダムから他の人には内緒でと告げられ、ケイもモランの作品のファンである女性陣の事を思い浮かべわかったと頷き、それをふまえてブルノワのストールを目にした彼から相談を持ちかけられたと理解した。


「で、そのモランは、紫のストールを持っている思い人の女性を捜しているってことだったよな?」

「あぁ。モランから自分が送ったストールは市販されている物とは違って、銀色の糸を吐く蚕の糸で編み込まれたものだと言っていたから、もしかしてと思って」

「ということは、昼間に会った青年のところに行ってみるしかないよな」


ブルノワのしているストールとモランの証言と類似する店もあるため、二人は明日にでもその露店をしていた青年のところに言ってみようと考えた。



翌日ブルノワと少佐を連れたケイは、アダムと一緒に昨日訪れた青年がやっていた露店へと足を運ぶことにした。


「たしかここだったと思うんだけどな~」


朝食後に中央広場にやって来たケイ達は、昨日露店を開いていた青年を捜して店を回っていたが、時間帯が早かったのか人もまばらなことから捜すことに苦労していた。中央広場の噴水より少し離れた場所で開いていたことは間違いないのだが、該当する外見をした人物が見つからない。


「どうかされました?」


広場をうろうろとしていると、ちょうど露店を開いていた中年の女性が声をかけてきた。ケイが昨日この辺りで露店を開いていた青年を捜していると答えると、女性は「あぁ~」と頷いてからこう返した。


「それならシンバじゃないかしら?」

「知り合いか?」

「近所に住んでいる男の子よ。でもあの子、お金に困っていたようだったし~」

「困ってたって、親は?」

「母親は大分前に亡くなったって聞いたわ。父親も居たようだけど別に女を作って出て行ったみたい」


女性の話ではシンバという青年は、住宅地区の一角で一人で暮らしをしているそうで、出て行った父親の借金を返すため働いたり家の物を売ってはお金を工面していたそうだ。


ケイ達は女性に青年の家の場所を聞き、お礼を言ってから住宅地区へと向かった。



住宅地区にやって来ると、教えられた場所には木造平屋の古びた家が見えた。


ケイが青年の家の扉を叩くと、人の気配があるのに出てくる様子がない。

先ほどの女性の話では、週に一度父親の借金取りとおぼしき男性達が来るそうなので借金取りと間違われているのではと考える。ケイが昨日露店でストールを買った者だと声をかけると、家の中から人の動く音がした後に扉が開かれた。


「あなたは・・・」

「昨日会ったんだが覚えてるか?」


青年は驚きの表情でケイ達を見つめたので、昨日買った紫のストールについて聞きたいことがあるというと、戸惑いの表情を見せた後に頷いてからケイ達を中へと案内した。


室内は、一人暮らしなのか四人がけのテーブルと木製の棚が一台と物が少ない。

ケイ達が座っている位置から隣の部屋が見え、そちらには質素なベッドが一台が置いてある。もともと家族が住んでいたといってもその痕跡が見当たらず、お金を工面するために売り払ってしまったのだろう。


「僕はシンバといいます。家族は・・・いません」


茶色で短髪のシンバと名乗った17才の青年は、俯きながらそう口にした。


現在一人暮らしをしているシンバだが、父親は彼が幼少の頃から酒癖が悪く、暴力を振るっては母親にお金をせびっていたそうで、ある日を境に借金を残して愛人の元へと出ていってしまったそうだ。母親はそんな父親の借金を返すため朝から晩まで働いていたが、三年前に過労で倒れて亡くなってしまったらしい。


ケイは自分達の事を紹介してから、青年に紫のストールのことについて尋ねた。


「俺達が昨日買ったストールだが、あれは母親の物だと言っていたな?」

「は、はい」

「あれはどう見ても質のいい物だから、普通の店で売れば金は工面できるんじゃないか?なんであれを100ダリで売ったりしたんだ?」


ケイの言葉に青年は言葉を詰まらせる。

借金はいくらかは知らないが、少なくとも店に売れば高値で買い取ってくれるだろう。しかしシンバは首を横に振り否定を示す。


「実は以前に売ろうと思っていたのですが、買い取って貰えなかったんです」


詳しく聞くと、小説『サフランの丘』に出てくる主人公がヒロインに送ったストールをモチーフにした物が流行っている関係で、高くても1000ダリまでしか提示されなかったと話した。流行り物に疎いケイだが人気にあやかるために偽物を作って売ろうとしている人も居るそうで、紫のストール全般が安値で取引されているのだとシンバから伝えられる。


「借金はどのぐらいだ?」

「20万ダリです。ですが自分の働きだけでは返しきれなくて・・・」

「だから、家の物を売っていたってわけか」


ケイとアダムはどうしたものかと顔を見合わせる。


借金は元々30万ダリほどあったらしいが、母親の私物を貯金を全て返済に充ててもなかなか減らないそうで、母親が亡くなってからは返済が滞っている状態でこのままでは生活ができないと嘆いていた。ダジュールにはそういった相談する窓口がなく、たとえ家族の背負った業でも全て自己責任が当たり前で、言い方は悪いが努力不足という見方をされるらしい。


「ちなみに、このストールは母親の物なんだよね?」

「はい。母が若い時に親しくしていた人から貰ったと言ってました。だけど大事な物のようで、いつもは木の箱にしまって保管していたようです」


アダムの言葉にシンバの母は亡くなる直前まで他の私物は売れど、このストールだけはいつも大事にしていたと話す。いつ頃貰った物なのかと尋ねると自分が生まれる前の事で詳しくは知らないと口にする。

昨日ケイが会った時に母親に対して怒りの表情をしていたと指摘すると、それは母親に苦労ばかりかけていた父親に向けての表情だと思うと困惑した顔になる。どうやら彼の知らない間で険しい表情をしていたようだ。


(アダム、これっておまえが言ってたモランの話と似てねぇか?)

(やっぱりそう思うか?一度モランさんに話をしたほうがいいかな)

(一度そうしたほうがいい。もしかしたら捜していた人だったかもしれない)


ケイとアダムは小声でそんな会話を交わす。

たしかにモランとシンバの話には共通しているところがある。仮にモランの探し人がシンバの母親だと考えると、一度モランに話を通して置くべきだという結論にいたる。


アダムはシンバに実はとある男性がある女性を捜しており、もしかしたらシンバの母が捜している女性かもしれないと伝えると困惑した表情をしていた。

自分たちが同席をするから会ってみてほしいと頼むと、少し考えてから二つ返事で了承をした。その時、ケイはお金はいらないからストールは一度返すと伝えると、自分は使わないので気に入ってくれているブルノワに持っていてほしいと返す。


さすがのケイも考えたがアダムから明日その男性を連れてくるので、その話はその時またしようと話を切り、ケイ達は一度屋敷へと戻っていった。

モランとシンバを合わせる約束をしたケイ達。

果たして捜していた思い人はシンバの母親なのか?

次回の更新は4月10日(金)です。

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