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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
155/359

150、中級回復薬とギルドマスター

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

今回は前回の続きで、ルトによる作製の詳細の話になります。

「ルトさん、私が知っている作り方と違うのですが・・・」


ラフィーナから説明を求める声がした。


一般的な中級回復薬を作るには早くても三日はかかるそうで、特に薬草の効果を落とすことなく、なるべくそのままの品質で回復薬に転換しなければならない難しさがある。しかしルトはそんな技法を取ることもなく、まるで紅茶を入れるように流れる作業でものの数十分で完成させたのだ。


「そもそも一般に知られている技法は、無駄な工程が多いと感じていました」


ラフィーナからすればまるで魔法を使っているような感覚に陥ったが、調合に使用した道具を流しで綺麗に洗い流しながらルトはこう口にした。


どういうことなのかとラフィーナが尋ねると、過去に一度参考書通りに回復薬を試作したが思ったような品質にはならず、もしかしたらこれは錬金以前の問題ではないかと考え、一般に知られている錬金術の教養の本や参考書などには、今の時代にそぐわない方法が書かれたものが伝承しているのではと疑問視をしていたそうだ。

そもそも錬金術と聞けば全く関係のない人間からすれば、偉大で神秘的なものを連想させるが、蓋を開けるとただ面倒くさい工程が続くコスパが悪い劣化魔法術のような印象を持つ。


それがダジュールだけなのかは甚だ疑問だが、ルトはそれを大幅に変え錬金術の在り方を再考慮していたのだ。


「錬金術には大きく二つの工程に分けられます」

「二つの工程?」

「【精錬】と【錬成】です」


精錬は物質中の不純物を取り除き、錬成はそれを整えるという意味を表している。


本来の錬金術と言う言葉はその総称を意味し、精錬ひとつとってもいくつかの分類に分けられており、知れば知るほど奥が深いものだという事を痛感させられる。


そういえば以前調合中にケイが作業場にやって来て「なんだか科学や理科の実験のようだ」なという言葉を聞いたことがある。


どういうことなのかと尋ねた時に、火や水などの自然界にあるものは【科学】によって解明され、特徴を掴み理解することで人と自然が共存しているという話をされた。故に錬金術も教材などに頼らず、多方面から物の見方や仕組みを理解することでその分野に一歩近づくのではと言われたのだ。

そしてケイから、ケイの国のに伝わる科学と理科を題材とした書籍を受け取り、まずは火や水や風などの特徴や仕組み、そして自然に関わる詳細などが載った分野を熱心に読みあさった。


その本はルトにとって、雷に打たれたほどの衝撃を受けた。


元々本を読むことは苦ではなかった。

奴隷商でもいくつか本が置いてあり様々な分野の本を読みあさったのだが、この本以上にその分野について深く知れることはなく、彼の中で一種のバイブル的存在となった。もちろんその本に書かれていない疑問も多く浮かんだ。

その度にケイに質問すると得意分野ではないんだけどと言いながらも、物事を調べることができるスマホを片手に説明してくれたので、それを一言も聞き逃さずに熱心に聞き、その分野と自分の疑問点をすり合わせるように何度も考えた。


あとは貰った本を参考に試行錯誤の末、錬金術は科学以外にも幅広い分野を理解し習得することにより一層物の見解が広まることを実感し今に至る。


ルトはラフィーナに中級回復薬の作製について簡単に詳細を説明した。



「そもそも僕が行った工程は、ごく簡単なものなんです」

「え?そうなんですか?」

「まず始めに薬草を乾燥させて粉状にしたよね?あれは、薬草の構造を把握した上での作業となります」


始めに薬草をブルノワに頼んで乾燥させて余分な水分を飛ばす。


薬草は葉に栄養があると思われがちだが、実は葉の茎の部分に薬草の栄養素と呼ばれる部分があり、その部分は栄養素としては高すぎるので一般的に使う部位ではない。しかしその栄養素が全体に行き渡ることによって、薬草というものを形成しているが水分を含むとその栄養素が抜けてしまうため、あえて薬草の葉に含まれる水分を乾燥させることで余計な水分を飛ばすという手法をまず行っている。


その次に乾燥させた薬草を擂り潰して粉末状にしていく作業だが、これは薬草本来の効能を余すことなく取り入れることができるとわかったため、ルトはこの技法を採用している。一般的には薬草を煮込むことで成分を抽出するものだが、それでは茎に残っている栄養素まで得ることができず、むしろ沸騰したお湯に薬草を煮込み続けることによって細胞が破壊され効能を損ねる可能性が大きいことが判明したため、いかに最小限の負担で最大の効果を得るかが鍵になる。


ちなみに薬草をそのままかじると苦みが酷くとても飲み込むことができないが、冒険者の中では即効性があるため戦闘時にはなりふり構わず口に入れて食べるという荒療治をする人もいるらしい。以前興味本位でかじったケイが「タンポポの茎をかじった時と同じ味がする」と言っていたが、そのタンポポという植物を知らないルトは苦笑いを浮かべるしかなかった。


「次に水が入った入れ物に雷を通したよね?」

「はい。あれはどういう意味ですか?」

「電気分解なんです」

「電気分解?」


ルトが行ったのは、水の容器目がけてヴァールの発した小さな雷である。


これは貰った参考書に記載されていた【電気分解】という項目からヒントを得た。そこには電気を生み出す機器を使い、水に電流を流すことによって性質が異なってしまうという興味深いものだった。


地球では電気分解をすれば水素と酸素に分かれるのだが、ダジュールの水には地域差によって違いがあるが魔素が含まれている事もあり地球のそれとは全く異なる。この魔素という物は、物質と関わることにより様々なメリットデメリットを発展させることも最近の研究でわかってきたそうで、ルトはダジュールの水に電流を流してみたらどうなるのかと考えた。しかし地球のような装置がないため、考えた末にヴァール協力の元で実践したことがある。


その結果、実践前と後では味に大きな違いがあることがわかったのだ。


まず井戸で汲んだ水を使用したものを口にすると全体的に硬く、魔素の影響なのか飲み過ぎると魔素酔いという症状が発生することがある。しかし雷を通すことにより微振動が起こり、魔素の部分が分解されマイルドで飲みやすくなることがわかった。

これに関してはまだまだ調べる余地があるが、錬金術の素材の一つに魔素水というものがあり、コレに関しても同様の処置を行ったところ飲み水とほぼ変わらない味になった。そのことから、雷を通すと水に含まれる魔素が消失するのではという結論に一度辿り着く。


そして最後に沸騰したお湯に粉末にした薬草を入れて出来上がるのだが、実はここにも一工夫されている。


始めにブルノワに風魔法で乾燥して貰ったのだが、その魔法にはわずかばかりだが薬草を保護する働きがあるのではと考えたのだ。風魔法は主に切り裂くという働きがメインになるのだが、一部の魔法には対象者を保護する魔法も存在している。

それが魔法本来なのか風の影響なのかは現段階では不明だが、粉末の薬草成分が無駄に溶け出さないよう保護している可能性があると悟ったのは飲み比べの段階でのこと。回復薬完成直後に飲んだ時と少し時間が経った時の回復薬を飲んだ時とで比べてみたところ、初めは味が薄く時間が経つにつれて濃くなっていったのだ。


これは推測になるが、風の魔法でコーティングされた薬草の成分が時間が経つにつれその効力が弱まり薬草本来の成分が時間をかけて浸透するのではと。回復薬も完成した物をすぐに飲むというシチュエーションはほとんどないので、よほどの緊急性をようすることがなければその部分は問題はないだろう。


ただルトの方法にも改善点がある。


粉末状にした薬草を沸騰させたお湯に入れ、しっかりと水と交わっているはずなのだが、完成して時間が経つと鮮やかな緑色の中に粉末の名残が少し残っている。

一般に使用する分には気にならないのだが、専門分野となるとここにも気をつけなければと反省点が残る。まぁこの辺はおいおい改善しようと思う。


「ルトさんってすごいですね」

「ありがとうございます。今回の中級回復薬を作製するにあたり、僕の方もいろいろと参考になりました。まだまだ改善しないといけませんね」


説明を受けたラフィーナが向上心の塊であるルトに感心の声を上げた。

どうやら錬金術師達はその辺までは気が回らないようで、完成した回復薬の多少の濁りは目を瞑っているそうだ。暗黙の了解ということだろう。


ルトの方も中級回復薬は作り方は知ってはいたが、今回初めて作製するためきちんとできるかは不安だったが、なんとか完成させることができホッと息をつく。



「なかなかの手際の良さですね」



その時、第三者の声が聞こえた。

工房にはルトとラフィーナしかいなかったはずだが、男性の声が後方から聞こえ、ラフィーナがその人物に気づき慌てて頭を下げる。


ルトがその人物の方に振り返ると、白髪の初老とおぼしき男性が立っていた。


男性が二人に歩み寄ると、テーブルに置いてあった中級回復薬を手に取り眺め始めた。ルトがその人物を不思議そうに見つめていると、頭を下げていたラフィーナから耳打ちでその人物のことについて語られる。


(この方は錬金術ギルドのギルドマスターのマーリン様です)


もちろん驚きの表情を見せたルトだが、男性は手に持った中級回復薬をテーブルに置くとルトの方に向き直った。その目は威厳を持ちながらも、感心しながらも暖かいグレーの瞳で見つめている。


「先ほどからラフィーナとのやりとりを拝見しました。見たところ君は錬金術師に属していないようですが?」

「し、趣味で錬金のまねごとを少々・・・」

「まねごとにしては随分と詳しいと見受けられましたが?」


男性から責められていると感じたルトはすみませんと謝罪の言葉を口にしたが、それを察してか責めているわけではないと男性から誤解だという言葉が出る。


「そういえば自己紹介がまだでしたね。私は錬金術ギルドのギルドマスターを務めていますマーリンと申します。あなたの名前を伺っても?」

「あ、はい。僕はルトでこの子達はブルノワとサウガ、ショーン、ヴァールです」


緊張した面持ちでルトが自己紹介を行うと、マーリンはブルノワと少佐を見て驚いてはいたものの、行儀がいいねと褒めてからどういった経緯で作業をしていたのかと問いかけた。ルトはそれに答えてよいものかとラフィーナの方を向いたところ俯いたままでいたため、今までの出来事をマーリンに説明をした。


「ラフィーナさんは今日提出するはずだった課題の品をマヤさん達から嫌がらせを受けて割られてしまったんです。それを僕たちが目撃をして、なんとか力になれないかと思い協力していました」


事実ルトはラフィーナに指示をしていただけで、作業の全般はラフィーナと補助にブルノワと少佐が行っている。ルトは自分が手を出したものではないので問題はないと考えていたが、マーリンの様子を見てさすがにちょっとまずいかなという表情を見せた。


「そうなると少し困りましたね」

「えっ?」

「あ、いえ。確かに作業はラフィーナが行っていましたが、完成した中級回復薬は私の想像を遥かに超えた完成度が高い物と判断します。正直、技術的な面から考えますと課題として提出するのはおすすめはしません」


それを聞いたラフィーナがそんなといった表情で項垂れる。


ルトは課題は失敗になるのですかと尋ねると、マーリンは先ほどの説明を受けたため判断に困っているのだという。要はルト達が証人になっても、決定的な証拠がなければマヤ達は処罰されないそうだ。


『おにいちゃん、パパにもらったあれは?』


ブルノワが何かを思い出した様でルトに尋ねた。

そこでハッと気づき、洋服の胸部分についている赤い宝石がついたブローチを外した。


「これを証拠として提出します」

「それは?」

「その場の状況を音声と映像で記録する魔道具です」


ルトが証拠を提示したブローチは、ケイが以前依頼で取っておいた赤い魔石と金の鉱石をエンチャントさせた円形状のブローチ型の魔道具である。

主にルトが説明した通り音声や映像を記録する物で、赤い魔石の金色の縁の部分を

右に回すとボイスレコーダーのような人の会話などを録音し、更に右に回すと映像も一緒に記録ができるという優れものである。

映像に関しては一度縁を戻してから左に回すと、ブローチの下の部分に映像を出力するための小さなレンズがついており、それを壁に投影すると記録した出来事が映像として反映されるというもの。


マーリンに見せながらそう言い切った後に白い壁に向かって記録された映像が投影される。ルトは騒動の初めから録音していたので、ラフィーナとマヤ達のやりとりが初めから記録されていた。


まさに先ほど自分たちが目撃した場面と一致する。


その映像を見たマーリンはショックを受けながらも、その魔道具を証拠の品として預かってもいいかと尋ねた。ルトはラフィーナに不利な判断はせず、公平な判断をするならと条件を提示し強い姿勢を取る。

彼自身裏切られた経験があったため、不利なことに対してはたとえ相手が偉い人間であろうと一ミリも譲ることはしないと決めている。もしマーリンが約束をできないのであれば、しかるべき場所に提出をするとだけ付け加える。


もちろんラフィーナは、ギルドのトップになんてことをと恐れ多いといった表情で成り行きを見守っている。


「この映像をみれば君達が嘘をいっているとは思っていない。私はギルドマスターとして・・・いや、人として君たちに誓うと約束をしよう」


マーリンは、事実解明によるマヤ達の処遇とラフィーナの課題の仕切り直しを提案し、そのやりとりを後日ルト達にも報告すると強く約束した。彼も一般人であるルトにただならぬ決意と行動力を感じ、無下にすることは絶対しないと言い切る。


そして受け取ったブローチは後日報告を兼ねて返却すると話した。



「ルトくん、もし君さえよければ錬金術ギルドに所属してみる気はないかい?」


帰り際にマーリンからそんな話を受けた。

ルトは一瞬考えたが首を横に振り、断りの言葉を述べた。


「お気持ちは嬉しいですが、お受けいたしかねます」

「理由を聞いても?」

「僕は屋敷の使用人で奴隷です。今は冒険者のケイさんの元でいろいろなことを学ばせて貰っていますので、僕の一存では決めかねます」


ルトが申し訳なさそうに頭を下げた。

マーリンは残念そうな表情を浮かべたが、ブルノワと少佐がお腹が空いたとルトに言ったため、それではと頭を下げてから荷物を持ちギルドをあとにした。

マーリンの誘いを断ったルトは、ブルノワと少佐を連れて屋敷に戻りました。

しかしギルドマスターは諦めていないようで・・・?


次回の更新は3月25日(水)です。

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