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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
151/359

146、ケイと錬金術師

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。昨日の更新分を投稿致します。


さて今回のお話は、とある錬金術師とのお話になります。

その日ケイ達の屋敷には、朝早くから慌ただしく動き回っている音が響いていた。


屋敷に商人ギルドから派遣された住宅専門の職人であるドワーフ達を迎え、一階西側のフリールームを工房に改築するための作業を行っている。その途中では、先日赴いた家具専門店で注文したテーブルや椅子が届き、ケイを筆頭に男性陣がせっせと中へと運ぶ。


「しかし兄ちゃん達面白いよな!」

「面白いって?」

「使用人のために工房を造るなんて初めて聞くぞ?」


休憩中に作業をお願いしていたドワーフ達の一人から声をかけられる。


そもそも冒険者で使用人を雇うとなるとそれなりに金銭的にかかるため、王族や貴族以外では高ランクの冒険者や有名な職人しか雇う人がいないそうだ。使用人であれど人の身を預かっている以上、命に責任を持つということは当然のことだろう。


それに今回の改築は、ファーマシストの職業を持っているルトのためでもある。


ファーマシストは錬金術関連のスキルがいくつか存在するので、彼のスキルを伸ばすためにフリールームを錬金関係の工房に改築する運びとなる。それにフリールームは他の用途も兼任できる程の広さがあるため、今後別の作業が必要な時はそこをまた整備すれば良い。


ほどなくして西側の改築は滞りなく昼過ぎに完了した。


もともと花壇がある西側の庭に面し通気性も良く、すぐに庭に出られるようになっているため庭師の仕事も効率よく行えることだろう。


工房となる部屋には、とりあえずテーブルや椅子を中心に人づてに情報収集をしたまま、錬金に必要な道具を必要最低限購入し置いてみたが、思っていた以上に部屋が広く物が少ないため少し殺風景な気がする。

完成した部屋を見た職人のドワーフ達からは、職人になればすぐに物が増えるから気にする必要ないとフォローしてるのかしていないのかわからない言葉をかけられる。



「ケイさん、少しよろしいでしょうか?」


職人のドワーフ達を見送った後、食料などの買い出しに出かけていたローゼンが入れ違いで戻ってきた。彼は戻ってくるなりケイに門のところで来客者がいると告げる。


「来客?」

「はい、若い女性の方でした。用件を尋ねたところ、先日バザーでの噂を聞いていらしたようなのですがいかがなさいましょう?」


どうやら来客の人物は、今年の初めに参加した大バザーの噂を聞いて来たようだった。ケイは、追い返してはなんだと話を聞こうとローゼンに応接室に通すようにと告げた。


ケイが応接室に入ると、十代ぐらいの霞色の髪をした少女が座っていた。


少女はこちらに気づくと飲んでいたカップを置き、その場に立ち上がると一礼をして名乗りを上げる。


「いきなり訪ねてごめんなさい!私は錬金術ギルドに所属しているラフィーナと申します!」


ラフィーナという少女はバザーに出店したケイ達の噂を聞き、冒険者だということを知り冒険者ギルドに問い合わせをしたところ、ここの屋敷の場所を教えてくれたと話した。拠点をアーベンからこちらに移したため、ギルドの方には屋敷の所在を教えている関係で知ったのだろう。ラフィーナにソファーに座るように即すと、緊張した面持ちで座りスカートの裾の位置を直した後にこちらを向いた。


「で、俺らに何か用か?」

「は、はい!私今年の初めにあったバザーの噂を聞いて是非とも力を貸して頂けないかと伺いました!」


話によると、ラフィーナは現在錬金術ギルドに所属して二年目を迎えようとしていた。家は平民の出で、錬金術の素質がありながらも金銭的な面で学校に通うことができず、今まで独学で錬金術を学んでいたらしい。

しかし同じ時期に入った同期の少女にあっという間に差をつけられ、最近ではスキルがあっても上達しないなら辞めた方がいいと嫌がらせをするまでになり悩んでいた様子だった。

そんな時にバザーで異常な完成度と驚異的な売り上げを誇っていたあきんどという出店のことを聞き、その店をしていた人物をずっと捜していたようで是非ともそのコツをご教授願いたいと頭を下げた。


しかし、ラフィーナの話を聞いたケイはどうしたものかと頭を悩ませる。


ケイが作製した物は全て驚異的な力を持ったエンチャントで創造されているため、錬金術とは似て否になるものにあたる。そもそも錬金のれの字も知らない一般人から何を教わるのかと首を傾げるが、そんな事情を知らないラフィーナは藁にもすがる思いでここにやって来ているので、おいそれと追い出すことは少し薄情な気もする。


「そ~いわれても、俺のは錬金の類いとは少し違う方法で創ってるから教えるのはちょっと難しいんだよな~」

「そ、そんな~~~」


眉を下げ目を伏せるラフィーナの表情に、別の意味で人生最大のピンチを迎えているケイ。なんとか教えて頂くことはできないのでしょうか、と子犬のような目で訴えているラフィーナにケイがない知恵を振り絞った時、あっと何かを閃いた。



「ルト、ちょっといいか?」


ケイとラフィーナが向かった先は、フリールームを改築した工房だった。


扉を叩き室内を覗くと丁度ルトが何かを調合しているところで、返事が返ってきたので二人で中に入ると薬品の臭いが部屋に漂っていた。

一応、換気のために庭に続く窓と西側に設置してある二つの窓を開けて臭いを飛ばしているのだが、テーブルに設置しているビーカーに入っている薬品の臭いが強く完全には消えない状態だった。


「何を作ってるんだ?」

「こちらは薬草と聖水を合わせたポーションを作製してます。もうすぐ完成しますのでそのままにして置いてください」


火がついた錬金用のランプの上にあるフラスコの中には、鮮やかな緑色をした液体がふつふつと沸いているのが見えた。それを見たラフィーナは火が通り過ぎているので早く火を止めた方が良いとルトに忠告をする。


「あ、大丈夫です。試しにわざと火にかける時間を長くしているので」


その言葉にラフィーナが驚きの表情で固まった。


話の流れが全くわからないケイがルトに耳打ちでどういうことなのかと尋ねると、錬金術関連の本を読んで、説明文全てに疑問を感じ自分でいろいろと試している最中だと答える。


一般的なポーションの作製過程は、錬金専用の釜に水と薬草を3:2の割合で配合し二時間ほど煮込む。次に薬草の元が出たタイミングで均等にかき回しながら一時間ほど沸騰させ、その後で一旦火を止め薬草の効力を定着させるために半日ほど置いてから、苦みを消すために聖水を入れながら再度三十分ほど煮込むという尋常じゃないほど時間がかかる。


大体一つ作るだけで一日近くかかるのだが、要求される品が高ければ高いほど必要日数も比例するため、ルトは書籍を参考にしながら時間短縮や効力をさらに倍増できないかとあれこれ実践しているようで、興味深いことやわかったことなどを市販されている和紙のような用紙にいろいろと書き留めていた。


ケイはルトにラフィーナの事を説明し、錬金術関連のヒントみたいなものがあれば助言をしてほしいと協力を願った。


ルト自身は屋敷に来てから日も浅く、ましてや錬金術を始めたのがつい二、三日前とルーキー以前の問題であったが、畑違いのケイにとっては頼みの綱でもあるため思ったような助言はできないかもしれませんがと言いながら二つ返事で了承した。


「えっと、ラフィーナさんは何を悩んでいるんですか?」

「私は依頼でポーション類をよく作成しているのですが、できあがりが均等にならずに何が違うのかわからないで悩んでいるんです」


ちなみにここに来る前に作成し完成したポーションを二つほど見せてもらうと、確かに二つとも若干ではあるが色味が異なっている。

ケイが鑑定で二本を見ると、色が鮮やかな方は品質Cで色が濃い方は品質がDとなっている。職人系の職業を持っている人たちはこの品質をかなり大事にしており、完成によって付加価値が違ってくるため、常に一定の品質が作れるようにならなければいけないそうだ。

しかしラフィーナは、錬金術になってから一定の品質が作れず長い間悩んでいたようで、持参した錬金術関連の書籍にはびっしりと実験の過程や結果が事細かに記されていた。


「そういえばポーションを作る時、薬草ってそのまま煮るのか?」

「はい。なるべくそのままの素材で作ることにより、より一層効力を感じるといわれています」

「でも結果的に液体になるなら、薬草煮る前にぶった切ったりすりつぶしたりした方が効果が上がるんじゃねぇの?料理の出汁を取るような感じでさ~」


錬金術と料理を同義語にするのもどうかと思うが、全くのど素人のケイに取ってはどちらも同じような感じなのだろう。苦笑いを浮かべたルトの手には、完成したとおぼしきポーションが握られており、テーブルには三つほど並べられているのが見える。


「実はケイさんから頂いた錬金関係の本には具体性が見当たらないため、三つほど方法を変えたポーションを作りまして、それぞれの違いを確認していたんです」


ルトはポーションを技法を変えて作製した物をケイとラフィーナに示し、それぞれの特徴を説明した。


「まず左のポーションは煮る前に薬草をすりつぶした物で、特徴としては薬草の素材そのままを使用してますので色が濃いです」

「ビンの中に浮かんでいるやつは薬草の繊維か?」

「はい。煮る段階でどうしても繊維が残ってしまうため、見た目を気にするのであればこれは市場には適さないかと。二つ目は薬草を細かく切った物を煮詰めた物になります。こちらも錬金専用のポットに入れて蒸したものを使っています。透明度は左よりも幾分ありますが、これも市場には適さない可能性があります」


確かに左と真ん中のポーションは、よく見ると繊維の様な物が浮かんでいる。


ケイが市場に出回る基準は何かと問うと、とにかく透明度が高いことが第一条件とのこと。ルトが空いている時間に市場に赴きいろんな人に聞き回って調べていたようで、それによると透明度を重要視する理由には効力の高さが関係している。


ルトが知り得た情報によると、薬草を煮詰めた物は原液に近く、そのまま摂取すると濃度の濃さの関係でポーション中毒を起こしかねないらしい。そのため、原液に冷水または聖水をいれて中和することが一般的とのこと。


「でも右側のやつは店に置いてあるヤツより透明度が高いよな?」

「右側は僕の自信作で、一度薬草を乾燥させ粉末状にしたものをお湯と水で割ったんです乾燥させる時間を除けば、作業時間は大体五分で完成します」

「え!?じゃあ、煮る工程いらなくないか?」

「えぇ。教材通りにポーションを作ると、時間がかかる上に煮た後の薬草の残りが無駄になってしまうので、それなら粉末状にできないかと考えたのがこの方法でした。教材自体が古い方法なので、僕でもできあがりの品質がまちまちになってましたので」


ケイができあがりの三本のポーションを鑑定したところ、左と真ん中が品質D+で右側が品質A+とかなり差が出ていた。ちなみに+がつくことはその品質よりさらにいい状態という意味になる。

ルトは紅茶を飲む際に紅茶の葉からヒントを得たといい、錬金術とは技法も含め試行錯誤で学んでいく職業なのでは口にする。


それを聞いたラフィーナが目から鱗が落ちたようで、根本的な錬金術のありかたを再認識したと自問自答した後で自己解決したような表情へと変わっていった。



のちにケイとルトは、偶然街中で会ったラフィーナから品質を均一に作製できるようになったと報告を受けた。彼女からルトは錬金術師にならないのかと尋ねられたが今はその気がないようで、困った表情をしながら練習中だからと穏便に返したのがとても印象的だった。

錬金術師のラフィーナの悩みを解決したケイとルトは、彼女の成功を願うのであった。


13日(金)の更新は体調が戻らないためお休みします。

次回は3月16日(月)になります。申し訳ありません。

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