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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
150/359

145、能力向上委員会 ふたたび

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回のお話は、使用人達による強化回になります。

「ローゼン達に職業をつけないといけないな」


事の始まりはケイの一言から始まった。


その日の朝、いつもの様にタレナとレイブンの調理得意組による食事を手につけながら口にした。向かいに座っているローゼン達がどういうことかと首を捻っていると、鑑定した際にローゼン・パーシア・ルトの職業欄が空欄になっていたため、それをどうにかするべきだと考えていたそうだ。

現在彼らはケイの奴隷という立ち位置なのだが、奴隷というのは職業ではなく称号を意味している。しかも長年見世物小屋の奴隷として仕えていたローゼンや生まれてからずっと奴隷として生きてきたパーシア、成人前に奴隷に落ちたロゼには職業が存在しない。しかし幸いなことに、彼らは各々スキルを所持している。


ローゼンは全体的な能力値が高い上に話術Lv8がついている。

これは見世物小屋で体得したものなのだろう。彼に尋ねると常にいい状態で客に提供できるように、いろいろなところに気をつけていくうちにいつの間にか身についたものらしい。スキルのことは知っていたようで、以前客の中に鑑定ができる人物がいたらしくその時はLv6とそこそこ高かったのだが、それから時間が経ってからの鑑定で更にスキルアップした様子に多少なりとも驚いている。


パーシアは料理Lv6持ちである。

本人は知らなかったようで、見世物小屋時代の時は時折ローゼンの手伝いをしていたという。恐らくだが先天性のスキルがもともと高く、徐々に熟練度が蓄積された結果なのだろう。料理のスキルは一般のスキルだが、ある一定の熟練度に達すると料理人という上位のスキルに変化することがあるらしい。

ちなみにアーベンの宿屋にいるドルマンは料理人というスキル持ちで、後天的なスキルプラス職業に変化するのだが、本人曰くやればやるほど料理人として伸びるから追求が途絶えないと言っていたことを思い出す。


あと意外だったのは、ルトの錬金術師Lv6である。

これは錬金術の上位スキルで本来は後天的なスキルにあたるのだが、やはりルト本人は知らなかったようだ。ちなみにダジュールの管理者によると、高レベルの上位スキル持ちが生まれる確率はダジュール全体の約1~2%らしい。

それがどういう基準と方式で成り立つかは不明だが、かなり珍しいことがわかる。

それに加え、彼には園芸LV1のスキルがついている。

こちらは屋敷に来た当初から、ブルノワと少佐と一緒に花壇に花の種を植えたり土いじりをしているため自然に身についた模様。


ケイの考えとしては、各々のスキルを伸ばすために本格的に職業をつけさせれば大なり小なり変わるだろうという気遣いでもあった。



「ボガード、これ飲んでくれ!」


その日の昼近くを迎えた頃、庭でエンチャントを施したポーションを差し出す満面の笑みを浮かべたケイとそれを前に若干引き顔のボガードの姿があった。

その引きつった表情をしているボガードの前には、赤紫色をした液体がビンの中に浮いており、これは何かと尋ねると【総合能力向上薬】という言葉が返ってくる。


「ボガードは剣士を持ってるからローゼン達のように職業を付与する必要性がないし、エンチャントを施したポーションだから別に問題ない。それに、これがどの程度強化されるのかも知りたい。だから飲め!」


本音は後半部分なのだろうと察したが、何をどうしたらそういう考えに至ったのかいろいろな事を経験したボガードでさえ、ケイの迫力にタジタジになっている。


当のケイは、職業を付与するためにまずは基礎的な強化が必要なのではと考える。


いくら職業が立派になっても基礎的なものがガタガタだと話にならない。

そう思って、まずは水に入ったビンをエンチャントし能力の強化を上げる薬を作製する。そして最初のじっk・・・もとい協力者であるボガードに願う。


「ボガード、私たちも一度やってるし大丈夫よ!」


そしてケイの後ろには、アレグロとタレナが興味深そうに二人の成り行きを見守っている。ボガードにしてみれば追撃を受けている気分なのだが、経験のある二人の純粋なまなざしと普段ケイのストッパーであるアダムとシンシア、レイブンが買い物で不在という究極のピンチ状態にどうしたもんかと倦ねる。


「飲まないという選択肢は?」

「ないに決まってるじゃん」


早く飲んでみろと催促するケイにとうとう観念したのか、ボガードは数日前のエリクサーを彷彿とさせるため息をついてから差し出された【総合能力向上薬】を一気に飲み干した。



「かっらぁぁぁあああ!!!!」



飲み干して数秒後にボガードは叫ぶと同時に悶絶をしていた。


慌てたタレナがキッチンから水の入ったコップと水差しを持って戻ると、すぐさまそれを受け取り一気に水を飲み干す。ケイは大げさだなと呆れた顔で見ていたが、半ばキレ気味のボガードから抗議の声が上がる。


「なんでこんなに辛いんだよ!」

「エンチャントをしても味はランダムみたいでさ。あ、辛いの苦手とか?」

「そうだよ!俺、昔から辛いのが苦手なんだよ!」


どうやら冒険者時代に赤いマンドラゴラを知らずに食べたことがあり、その後から辛い物全般が苦手になったらしい。知らなかったとはいえこちらの落ち度であるため申し訳ないと頭を下げる。


ボガードが落ち着いた頃にケイが鑑定をかけると、全体的な能力値が平均して100ほど上がっていた。まぁ元々の数値が高い方なので恩恵があってもなくても一緒な気がするが、本人曰く身体は飲む前よりは軽くなったという。


「ボガードが飲んでこの程度か・・・ということは、他の三人が飲んでもそれほど高くはならない可能性もあるな」

「ケイ様に失敗なんて存在しないわ!たとえそれがちょっとでも効果抜群よ!」


失敗したなというケイの表情にアレグロがそんな訳がないと一蹴する。

なんとかは盲目というが、明らかに度を超えているのだが気にしたところで先が進まない。


今度は同じように水に入った他の瓶をエンチャントしてみると、今度は透き通った青緑色の液体に変わった。



【総合戦闘薬】 全ての極めることができる。



「ボガード、次は「パスだ!」」


ケイが総合格闘薬の薬の説明をした後で当然のように差し出すと、またかと言わんばかりに嫌そうな顔をする。

そして二度目は断ろうと首を振ったが、アレグロから問答無用で口の中に突っ込まれた。さすがのケイもちょっと待てと止めに入ったが時すでに遅く、飲み干したボガードに大丈夫かと尋ねると少し間を置いて大丈夫だと首を振り返す。


「アレグロ、さすがにやり過ぎだ!」

「ケイ様、冷静に考えて!ボガードは屋敷の警備をしてるのよ?」

「あぁ。それがどうした?」

「だから、より強固にするためにケイ様はエンチャントをしたんじゃないの?」


・・・ん?とケイが首を傾げる。


どうやらアレグロは、ケイが試しで作製したものを物を本番用と勘違いをしていたようだ。それを彼女に説明をすると、アレグロは顔を真っ赤にさせてボガードに盛大な謝罪をした。


「なんか説明もなしに悪かったな」

「あーいいさ。朝の話を聞いてそんなことだろうと思ってたけど・・・」


地味に気まずい二人だが、ボガードから自分では飲まないのかと尋ねたので自分で飲んでも効果がわからないと説明をする。アレサの寵愛を持っている関係で、全ての能力が無限にあるケイには意味をなさない。なので以前は比較しやすい他のメンバーで実験という名の協力を行っていたのだが、今回に関してはどちらかといえばハズレに近いのだろう。


「ケイさん、もしかしたら一つでは効果が上がらないものなのでは?」


今までのやりとりをみていたタレナがそう口にする。


ケイが創った【総合能力向上薬】と【総合格闘薬】は一見別々の効果が現れるものだと思っていたが、魔法にしろ薬にしろ重ねがけ的なものも存在する。タレナの言葉を改めて考えてみると、その線も可能性があるのではと考え直す。

そのことを踏まえて再度ボガードに鑑定をすると、何故か全体的な能力値が五倍にまで上がっていることがわかった。


恐らくだが全体的な能力値と技術的な数値の様なものが合わさって効果が出るということなのだろう。まぁ協力して貰ったボガードには可哀想なので、昨日買ってきた果物を分けてあげた。



「三人に集まって貰ったのは他でもない。これを飲んでほしい」


ダイニングルームにてローゼン、パーシア、ルトが並んで座っている。


その前には【総合能力向上薬】と【総合格闘薬】がそれぞれに一本ずつ置かれており、ローゼンがこれは何かと尋ねる。


「この二つは【総合能力向上薬】と【総合格闘薬】だ」

「どういうものなのでしょう?」

「要は個々の能力を向上させるためのものだ」

「能力を向上・・・ですか?」

「そう。現在、屋敷はシルトとボガードに警備を頼んでいるが、世の中何が起こるかわからない。そこでお前達を強化しようってわけだ」


ケイは不測の事態に備えるため三人を強化させようとしていたのだ。


その意図をようやく理解出来た彼らは、ほぼ同時に躊躇なくその二つの薬を飲み干した。ボガードのように少しは躊躇するものだと思っていたケイもその様子に目を丸くする。


「この飲み物は少し辛いですね」

「飲んだことのない味がします~」

「でも香辛料の辛さとは少し違うみたいですけど・・・」


最初に飲んだ【総合能力向上薬】はやはり三人とも辛みがあると答える。


先ほどケイも試しに少し舐めてみたが、どちらかといえば香辛料より生姜に近い辛みがある。そういえばダジュールには生姜の類いをあまりみかけない。

街に売っているところをみたことがないので存在しないのかと思い、試しに舐めて貰ったアレグロとタレナに説明ところ、似たようなものなら全国どこの店にもあるらしい。ただ形が何故か星形に近いので、ケイの思っていた生姜とは違うだろうと返ってきた。さすが異世界意味がわからない。


「もう一つは飲みやすいですね。柑橘系統の味でしょうか?」

「これおいし~」

「オレンを絞ったような味がします。久しぶりに飲みました!」


もう一つの【総合格闘薬】は柑橘系の味がするようで、パーシアがいたく気に入った様子があった。ルトは幼少の頃にオレンを切って絞った物を飲んだことがあるらしくそれに近いと話す。


そんな和気藹々の彼らにケイが鑑定をしたところ、やはりボガードと同様にそれぞれの数値が五倍にまで上がっている。二個で全体的な能力が上がるというのは効率的に疑問に感じたが、まぁ、これはこれでよしとしよう。


そして最後の仕上げに、それぞれ一本ずつ別のポーションを手渡した。


「で、最後にこれを飲んでくれ」


ケイが取り出したのは鮮やかな水色をした液体が入っているビンだった。

見た目は完全にブルーハワイのような色合いだが、エンチャントをして出た色は完全にランダムなので仕方がない。


「ケイさん、こちらは?」

「これは【職業付与薬】要は職業をつける薬だ。三人とも職業の項目が空欄だから能力を生かすために最適な職業をつけようと思ってる」


職業が決定される過程は大きく二つある。


一つ目は生まれ持った環境と能力。

これは家柄によって既に決定している事を示している。

しかし生まれ持った環境と能力が同時に備わっていないと意味をなさないため、希に片方しかない人は、あっさりと家を追い出されたり最悪不必要と殺されることもあったようだ。ちなみに現在は転職という教会などの聖職者しか扱えない技法があるため、そういった人を救うために国として転職を進めているところもある。


二つ目は後天性によるスキル付与と職業変化。

こちらは成人になる際に教会からお告げと言う形で付与されるらしい。

あくまでも一般的な事なので絶対というわけではない。また、希にスキルの熟練度などで職業が上位に変化する場合もあるのでケースバイケースである。


ちなみにローゼン、パーシア、ルトはいずれも成人前に奴隷になってしまったため職業項目が空欄のままである。


ケイが鑑定を行うと聞いたこともない職業へ付与されていることが確認できた。


ローゼンはキャスターという職業が付与されている。

ケイが想定していたキャスターは高度な魔法を扱える魔術師だと思っていたが、ダジュールではどちらかといえば、執事の上位のような職業かつ後方支援系に近いらしい。あとなぜかトラップ系のスキルもいくつかついているようで個人的に謎が深まった。


パーシアは想定通りシェフが付与された。

元々料理のスキルがあるため、それに適応した職業になっているのだろう。

ただ気になるのは、スキルの欄に【総合料理人】という訳のわからないスキルがついている。ダジュールで検索をかけても該当する項目が検出されず、そのスキルに注目したところ以下の内容が表示された。



【総合料理人】


一度見て食べた料理を完璧に再現することができる。

また創造・アレンジによる食の威力拡大にも長けており、料理人の最高潮に達するいわば仙人のようなスキル。レベルの表示はなし。



そっか~とケイは遠い目をし、何故こうなったのかはわからないがやってしまったのは仕方がないと悟る。その結果、ケイは見て見ぬ振りをすることにした。


ルトはファーマシストという職業に付与されている。

てっきり錬金術師の職業だと思っていたのだが、どちらかというと薬剤師的な職業なのかと首を傾げ職業欄に注目をしたところ、ダジュールでは錬金術とファーマーを極めた最上位職に該当するらしい。



ケイは三人に説明すると、各々感動の声を上げていた。

それに自分が知っている職業とはまるっきり別と知り、常識と知ったものが一致するとは限らないことを理解した。



余談ではあるが、のちにボガードは剣士ではなくなぜか【ヴァンガード】という攻防に特化した職業に変化していたことがわかった。


本人に説明したところそれが嬉しかったようで、シルトに話し鍛えがいがありそうだと言われた翌日から早朝の剣の打ち合いが始まりケイ達が頭を悩ませたのは別の話である。


あの能力向上委員会が帰ってきた!

極悪職業に変化したローゼン達もこれで手に職が!

果たして彼らは一体どこへ向かうのでしょう!?


次回の更新は3月11日(水)夜です。

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