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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
149/359

144、慌ただしいその後

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださり、ありがとうございます。

さて今回のお話は、壮年の男・シルトを保護した後のお話です。

従業員の確保のために奴隷商に向かったはずなのだが、なぜかスピサに誘われ地下探索とよくわからないままシルトを見つけ来た道を戻っていく。


人間冷静になると、何をしてるんだろうと途端に冷めた気持ちに陥る。


保護した壮年の男・シルトは、まだ目覚めたばかりのようで頭が働かず足取りもおぼつかない。レイブンとアダムが両脇を支え、その後ろには警備の男性がついて歩くように時折彼の身体を支えている。チラッと後方を見ると、シルトは随分と身長がある。190cmのレイブンより頭一つ分ほど高くガタイもいいため、男性三人がかりでようやくなんとかなるほどだった。彼の所有の大剣・インイカースも巨大なことから持ち主かシルトであることにようやく納得がいく。


地下への階段が近づくと、シンシアに先に行って人手を借りてきてくれと頼む。

シンシアが先に駆け上がっると、ケイとアレグロがランプを用い男性陣のために足元を照らす。重量があるのか時よりふらつく場面もあったが、あと数十段というところで地下の警備をしていた他の男性二人がシンシアと一緒に駆け下りてきた。


「悪い!手を貸してくれ!」


ケイの言葉に状況を察したのか、男性達はシルトを支えていたアダムとレイブンと交代すると慣れた様子で慎重にシルトを連れて上がっていった。



警備の男性達と一緒に上がってきたケイ達は、地下で待っていたラミケルにシルトを休ませたいと説明し、そのまま一階の受付横にある長椅子に彼を横にさせた。

警備をしていた男性達も普段から慣れているとはいえ、大柄のシルトにはさすがに骨が折れた様子だった。


ラミケルには地下であった詳細を説明した。


念のために奴隷商で扱っている人物かと尋ねたところ、やはり知らないと返ってくる。それ以前に地下の壁からさらに下に続いている事すら知らなかったようで、国に連絡をするべきだと部下に指示を出そうとしたので、ケイがすぐに連絡がとれるといってからポケットの中からスマホを取りだし国王であるガイナールにかけた。


『もしもし、どうしたんだい?』

「よぉ!ちょっと頼みたいことあるんだけどいいか?」


執務が一段落ついたようで構わないと声が返ってきたため、ケイは先ほどのことをガイナールに説明をした。案の上ガイナールからはまさかと言葉が返ってきたが、その前にもアダムの知り合いの店での出来事も合わせて説明をした。


『はぁ・・・わかった。その地下の調査はこちらが引き継いで行うようにするよ。明日には調査隊を向かわせるから悪いが奴隷商の主に伝えてくれないかい?』

「オッケー!なんか悪いな。俺達も急だったから保護した奴を優先しちまった」

『それは気にする必要ない。ただ、そのシルトという人物はしばらくの間ケイ達のところに置いておいてくれないか?』

「あぁ、それは構わねぇよ。とりあえずこっちでそいつを保護するから、何かあったら連絡をくれ」

『わかったよ』


ガイナールとの通話を切ったケイは、ラミケルに明日調査のためアルバラントの兵が来ると伝えた。不思議そうにスマホを見つめるラミケルにこのことは内密にと念を押し、いきなり了承も得ずに壁をぶち抜いたことにその分は弁償をするといったが、彼はその程度なら問題ないと辞退する。



横になっているシルトをとりあえず他の店員に任せ、ケイ達は奴隷の契約の手続きを行うためタレナ達が待っている応接室へと戻っていった。


『あっ、パパだ!』

『バウ!』『ワウ!』『ガウ!』


応接室に戻ると、昼寝から起きたブルノワと少佐が使用人になるであろう四人に撫でられている姿があった。少佐は仰向けになったままローゼンにお腹を撫でられ、ブルノワはルトと用意して貰った紙と鉛筆のようなペンで絵を描いている。

そのうち馴れてくれればいいと思っていたが、その両者の適応力の高さにさすがのケイも脱帽した。


ブルノワと少佐を任せていたタレナには耳打ちで簡単に事の経緯を説明し、詳しい話は屋敷に戻ってからと伝えた。


「契約をする上で何か制約等はございますか?」


購入の手続きが済んだ後に隷属の刻印を施すため奴隷に制約を設けるのが通例らしいのだが、シルトの件でお腹がいっぱいだったため「なしじゃダメか?」と聞いたところ、最低でも一つ以上はつけなければ隷属の刻印が成立しないと返ってくる。


参考までにこれまでどんな制約をつけていたのかと聞くと、主を守ることに始まり公衆の面前では言えないエグイ内容だったりとかなり幅がある。

あくまでも屋敷の管理だけを頼みたいので、緊急以外に行動を制限するということは出来るだけしたくない。ラミケルとローゼン達の意見を参考に【緊急を要する時はできる限り早めに報告をすること】で話は落ち着いた。


「ボガード、おまえのその怪我の跡をなんとかするからこれを飲め」

「えっ!?」

「おまえに警備を任せたいから、それをどうにかするのが先だ」


ローテーブルにケイが鞄から取り出した液体の入ったビンをボガードの前に置く。


聞かれる前に黙って飲めと半ば命令気味に伝えると、ボガードは一瞬躊躇して見せたが瓶を手に取り、栓をしているコルクを抜いてから瓶の口に鼻を近づけ臭いを嗅いだ。臭いは無臭に近い状態だったが、本当に大丈夫なのかという表情をしたがボガードは少し考えてから腹を括った様子で、よし!と気合いを入れてから一気に飲み干した。


ほどなくして彼の身体に異変があったようだ。


先に異変を感じたのは眼帯をしている左目だった。

見えている右目を動かすと同時に、動かないはずの左目も動いている気がしたからである。左手で器用に眼帯を外しゆっくりと左目を開くと、驚いたことに本来潰れていた目が見えていたのだ。これにはラミケルやローゼン達も驚いた様子をみせ、近くにあった手鏡をボガードに渡すと傷跡の方はまだ薄らと残っているものの、そこには怪我を負う前と変わりなく茶色の瞳が映っていた。


次に右手にも異変を感じる。

怪我を負った右腕は今までは力が入らない程に握力が低下してしまったのだが、こちらも怪我を負う前と同じぐらいに力を入れることが出来た。


「なぁ、俺が飲んだ液体はなんなんだ?」


信じられないといった表情でこちらを見やるボガードにケイが爆弾を落とす。


「え?エリクサーだけど?」

「え?・・・は、はぁぁぁあああ!!!!?」


さすがのボガードもその希少さと異常さに気づいた様で盛大に声を上げる。

ケイは何を叫んでいるんだといった表情を浮かべたのだが、そもそもエリクサーは現代の錬金術では再現が不可能になっていることを思い出し、あぁと納得をする。


そこからのボガードの怒濤の質問攻めが凄かった。


ケイからしたら創った→出来たという流れなのだが、以前に冒険者をしていたボガードは話には聞いていたが、そもそも存在するのかあやふやだった伝説級の物を知らずに一気飲みしたことで多少なりともパニックを起こしている。

実はあと数本鞄の中にあるのだが、この様子では言わない方がいいなとケイが察したのは当然のことだろう。



全ての手続きを終えてラミケルに礼を言ってから応接室を出ると、ローゼン達には諸事情によりシルトも連れて帰ることを説明した。奴隷商では見かけなかったけどとパーシアが首を傾げるが、説明するにはいささか時間が足りないため詳しい説明は後にすると言っておいた。


エントランスまで戻ってくると、長椅子に座っているシルトの姿があった。


様子を尋ねるとだいぶ良くなったといい立ち上がろうとした。

シルトもアレグロとタレナ同様に褐色の肌をしているため顔色の善し悪しが判断しにくいが、目線と足取りを見る限りでは最初の頃よりはだいぶよくなっている気がしなくもない。


「シルト、こっちの用事が終わったから一緒に帰るぞ!」

『わかった』


その前に彼の持ち物である大剣・インイカースを手渡す。


発見当初に一度シルトに手渡していたのだが、足取りがおぼつかなかったことと抱えていたアダム達がシルトのウェイトプラス剣の重量で担げないと言ったため、一旦ケイのアイテムボックスに入れ、良くなってからちゃんと返すと約束をしていたのだ。シルトは面目ないといった表情で礼をしたのでケイは気にするなと返した。



屋敷に戻ってきたケイ達は、ローゼン達に二階の西側が空いているからそこを使ってくれと説明をした。東側の六部屋はケイ達が使っているため、西側の六部屋はローゼン達が使っても問題はないと考えていた。屋敷の一員である以上最低限の暮らしは当然で、彼らは来たばかりなので不足品もあると思うからその都度言ってほしいと頼む。


五人には落ち着いたらダイニングで夕食を取りながら話をしようと説明をした。


その日の夕食は少し豪勢な内容だった。

肉・魚・野菜をまんべんなく使用し調理した料理をテーブルに置き、そのタイミングで一段落ついたであろうローゼン達がやってくる。彼らは豪勢な料理を前に驚いた様子でこちらをみた。ケイが歓迎会みたいなものだと述べるとなぜかパーシアが号泣し、ルトが盛大にお腹を鳴らせた。


聞奴隷商でも一定の保証はされていたのだが、パーシアとルトからはこんな豪勢な料理は初めてだと口にする。ローゼンとボガードは、貴族でもこの量はなかなかないと驚いた表情をみせる。シルトは好みがわからないのでなんともいえないが、少なくとも彼の生きていた時代にはないものばかりだろう。初めて見る料理に目移りしている子供のような様子が窺える。


「とりあえず、当面はローゼンが屋敷の統括担当でパーシアが料理担当、ルトは庭担当にボガードとシルトは交代で屋敷の警備を頼む」


料理に舌鼓を打ちつつ、ケイがそれぞれの担当を発表する。


もちろん予め鑑定した結果を元にそれぞれの担当を決めただけなのだが、特に異論はないようなのでさっそく明日からお願いすることにした。


ちなみにルトに関しては錬金術のスキルもあるため、一階の西側にあるフリールームを改築して作業スペースにしてもいいのではと考える。本人に聞いてみたところ錬金のスキルがあること自体知らなかったようで、普通の人間より高いからその能力を伸ばしてみたらどうかと提案すると、少し考えた後でケイさんがいうならやってみますと頷いた。ただ錬金術に関しては専門知識がケイにはないので、今度雑貨屋や図書館で関連書籍を捜してみようと思いにいたる。


「ケイさん、シルトさんの事ですが・・・」


話の合間にローゼンからシルトについて尋ねられた。

彼についてはケイ達が今までに調べて知り得た情報も兼ねているため、四人にはこれはここだけの話にしてほしいと前置きをしてから今までの経緯を説明した。


さすがに雲を掴むような話だったようで、四人の表情はなんとも言えない雰囲気をしている。


まぁ、隠された歴史を調べてるなんて言われてもすぐには理解して貰えるとはこちらも考えていないので、折を見てまた詳しい説明でもしようとソースをつけたブルノワの口を拭きながらそう考えたのだった。


使用人の確保をしに奴隷商にやってきたのに、いつの間にか地下探検まで行ったケイ達ですが無事にゲットして屋敷に戻りました。やっと屋敷での生活のスタートラインということでしょう。


次回の更新は3月9日(月)です。

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