139、歴史と記憶
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回のお話は、マデーラの洞窟の調査隊からの調査報告のお話になります。
「最初に、マーダ達はダジュールの歴史についてどれだけ知っているんだ?」
マーダ達に歴史の認識について尋ねてみる。
彼らも1500年前に別大陸から人々が移住し、のちに大陸が発展したという共通認識だった。
ケイは自分たちが今までに知りえた情報や文献から少なくとも1500年前には別の文明が存在していたのではとマーダ達に話した。それを踏まえて、大陸中に点在している女神像やバナハにあった試練の塔、その間には地下遺跡の跡が全大陸にも存在していたと記述される文献や古代に存在していたであろう人々の話などをわかっている範囲内で説明し、次にアレグロとタレナについてのことを口にする。
「・・・以上のことから、アレグロとタレナは古代に存在していたアスル・カディーム人ではないかという結論に辿り着いた」
もちろんフリージアに留まっている二人の妹であるアルペテリアのことも話した。
まさか古代に生きていた証人が三人もいることにマーダ達は驚きを隠すことができなかったようで、各々信じられないような表情でアレグロとタレナの方を見る。
「二人共、ケイの話は本当なのか?」
「あ、はい・・・私たちも記憶がないままなのですが、今まで知り得た情報を元に整理すると、そのような事実に当たるのは間違いないようです」
タレナに言われたマーダは「そうか・・・」と言ってから何かを考える素振りをした。
彼女自身にも思うところがあったのだろう、ケイが声をかけようとしたところマーダはとある言葉を口ずさんだ。
「ということは、我々の推測もあながち間違いなかったということか・・・」
マーダは、一般的な歴史の共通認識を持っている一方で詳細を記している文献が自国にも他の国にもあまり見かけないことに疑問を持ち、もしかしたらなにかあるのでは?と考えたそうだ。
その要因には、五百年前の世界大戦後に王家の墓が文化遺産保護法に登録されたことだという。当時から文化遺産保護法に更新があることを疑問に思っていたマライダの王家達は、表向きはそれに従いながらも裏ではなぜそんなことになっているのかと独自に調査を行っていたらしい。もちろん、文化遺産保護法に更新の有無が虚偽だということは既に把握していたそうだ。
その辺のところを詳しく尋ねてみると、意外な事が判明した。
現在マライダには王家の墓が文化遺産保護法に登録されているが、実はもう一つ登録されているものがある。北東にあるキルナという小規模の町である。
キルナはダジュール最古の町として約千年ほど前からあると伝えられており、主に織物を中心としている職人の町として知られている。その町には織物専門の建物が建ち並んでおり、千年経っても建物の傷みがそれほどないことから今から八百年前に文化遺産保護法に登録されたといわれている。
のちに登録された王家の墓の方には、なぜか百年ごとに更新の催促がされていたことに疑問を抱いた。それが最近になってアルバラントからの調査により、それが契約不成立の案件だったということを聞いたとのこと。
キルナが登録された書面と王家の墓が登録された際の書面に相違が見られたことにより、初めはアルバラントの工作ではないかと疑ったようだが、アルバラントはとある人物からの指摘により調査を進めたところ、五百年前以降に登録された物に関しては虚偽の書類を作成つまり嘘の契約を結んでいたことを知ったそうだ。
ケイはそれは自分たちがガイナール国王に話したと述べると、マーダ達はたからかと納得した表情を見せる。
「でも、マーダ達も歴史について調べているとは思わなかったぜ」
「我々も文献などの資料が見当たらないことに疑問を持ち、調べていたところこのことがわかったので、てっきり契約に関しての変更書類があるものだと思っていろいろと探してみたのだが、証拠の書類が一切出てこないとでそれは嘘ではないかとは思っていたんだ。それと、今回ケイ達が見つけたマデーラの洞窟に関してわかったことがあるんだ」
マーダからマデーラの洞窟の地下に続く道を塞いでいた土を調べたところ、地表の状態や周りの質を考慮すると、大体五百年より前に壁にして塗り固められたことだとわかったそうだ。色の重厚さを感じる木製のローテーブルには調査隊からの報告書らしい羊皮紙がいくつも並べられている。
ケイがその一枚を手に取ると、その場所の描写付きの報告書で図解付きの報告書は珍しいなと目を見張る。
「まとめられた報告書に描かれている絵はうまいな。俺達が見たモノとまったく一緒だ」
「部下の中に物の描写が上手い人間がいてね。今回の調査隊編成の時に彼を組み込んで正解だったよ」
図解の部分は同一人物で描かれた物のようで、ケイ達が見た巨大な石像や箱のようなものの描写も事細かになされている。特にヒガンテの描写に関しては、一つの狂いもなく忠実に描写されていることに脱帽した。
「マーダ、今回の調査でわかったことは他にもあるか?」
「いや、まだ調査途中だし我々も見たこともないものばかりだからなんとも・・・でもケイ達の話を聞いて、地下遺跡に関連があるもので間違いはないと考えているよ」
今回の件でアルバラントからも協力依頼が来ていたので、マーダ達も本格的にいろいろと調査に乗り出すことにしたと言い、もしかしたらケイ達にもお願いすることが出るかもしれないと述べる。
「でも、今まで見てきた地下遺跡とは少し違うのね?」
「俺も気になっていたが、もしかしたら他の目的のために設けられていたとか」
「他の目的って?」
「それはわからないよ」
アダムとシンシアが報告書を手に取り見つめると、先ほどから閉口しているアレグロの様子に疑問を抱いた。シンシアがアレグロに声をかけるがなぜか返事に覇気がない。ケイが再度声をかけると、信じられないような表情をさせながらこう口にした。
「ケイ様、私やっぱりこれを見たことがあるの・・・」
アレグロが指した先には、棺桶の様な図柄が描かれた報告書だった。
どうやら何かを思い出したようで、思案していたアレグロは断片的にだがその記憶を語り出した。
「そういえば以前に『何かに閉じ込められていた』って話したじゃない?」
「あぁ」
「それって、これに近かった気がするの」
アレグロの目線が箱形の図形に注目する。
丸みのある棺桶はどちらかといえばカプセル型に近く、まるでSF作品に出てきそうな形式をしている。しかし、先ほどからこの形をどこかで見たような気がするケイは、他の人の話を半分に聞いている状態でそれがなんなのかを思い出そうとした。
右隣に座っているシンシアが自分の話を聞いているのかと絡んでくるが、それに答えることもなく考えた結果、ふとある物が頭に浮かんだ。
「あーーー!!!」
ケイの叫び声と同時に、膝の上で暇を持てあましすぎて居眠りをしていたブルノワと足元で蹲り眠っている少佐が何事かと飛び起き、各々辺りをキョロキョロと見回し出す。そんな様子にケイはごめんと頭を撫でて落ち着かせた。
「ちょっと、びっくりしたじゃないの!」
「ケイ、どうしたんだ?」
「あ、いや~ひとつ思い出してさ~」
シンシアと左隣に座っていたアダムがケイの叫び声の直撃を受けたのか、それぞれ片耳に指を入れた状態で尋ねると、その言葉に他の全員がケイに注目する。
「これ【アイソレーション・タンク】だ」
「アイソ・・・なんだって?」
「アイソレーション・タンク!これは光や音といった人間の皮膚感覚や重力の感覚を遮断する装置のことで、リラックスするために発明されたものなんだが心理療法や代替医療に使われ、また専門家の間では臨床実験に用いられることもあるんだ」
「なんだか凄そうね~」
ケイはなんでこんなものがここにあるんだという謎が残った。冷静に考えればこの時代に地球にある最先端の物体があること自体ありえないのだが、もしかしたらこれがメルディーナが歴史に穴を開けたこととなにか関係があるのかと考えたが、どうもしっくりくる仮説が見つからない。
「そうなると、過去の遺産というものは我々の今の時代より遥かに豊かで優れていたということになるかもしれない」
「今の時代よりも前の時代の方が近未来的な文明を築いていたってことか」
「可能性は捨てきれないね」
ケイとマーダは二人してしかめっ面をしたがうまく考えをまとめることが出来ず、このことは一度保留にしようと結論づけた。
「ところで話は変わるが、マライダに伝承みたいな話ってないのか?」
「伝承?」
「なんか噂話とかそういった類いのやつ」
「あぁー、それなら予言者とフィスィ・デアが有名だね」
ここでケイは、話題を変えるべくマーダに話を振った。
マーダはそうだなと顎に手を当て考えた後、二つほど面白い話をしてくれたのだ。
一つ目は世界大戦や魔王誕生を予言していた『アニドレム』という人物の話で、魔王が討伐された後は人知れず姿を眩ましたという話である。マライダにある書籍には、知的で慈愛に満ちている人物だったようだがローブのフードを深く被っているため容姿などはわからずじまいらしい。
二つ目はフィスィ・デアである。
フィスィ・デアはマライダの古い言葉で『自然の女神』という意味を持っている。
自然の女神とは、太陽の女神シェメラ・月の女神アステリ・星の女神フェガリ・空の女神シエロ・大地の女神テレノの五人の女神が存在し人々と自然を結びつける重要な役割を果たしていると伝えられている。ちなみにだいぶチープだが、子供用の絵本も売られているようで自然を大事にしようという親から子への教育にも役立っているそうだ。
「フィスィ・デアの言葉に『星月夜に空地の影 太陽の輪廻加わらん』という言葉があるんだ」
「どういう意味だ?」
「正確な意味はわからないが、恐らく自然は永遠に続いているということなのだろう。まぁあくまでも童話の一説だからね」
マーダは絵本の内容だからと言ったがケイはそのことに妙な違和感を抱き、あとでガイナールを含めた四人に報告をしようと考えた。
その後、マライダは各国と協力を行いながら本格的に歴史問題に着手することになったようだ。マーダ達はアレグロとタレナ関連で、自分達でも何かわかったら連絡をするということでケイ達との協力にも合意したのであった。
アレグロの記憶が一部戻った事により過去の遺産が今の時代より遥かに高度な文明だった可能性を考えたケイ達は、今後マーダ達の協力を受けながら歴史について調べていくことになります。
この後ケイ達には、どんな事実が待っているのでしょう?
次回の更新は2月26日(水)です。




