137、隠された地下
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回のお話は、マデーラの洞窟で見つかった地下のお話です。
無事にブルノワと少佐を見つけたケイ達は安堵の表情を浮かべた。
魔物ではあるが所詮は子供だ。
以前、いとこの姉が幼い子供に手を焼いているとぼやいていたあの発言が今になって身に染みる。別に結婚している訳ではないが、将来子供を持つとなったら些細なことでも気を使うべきなのだと痛感した。今後は目を離さないようにちゃんと見ておかないと、とケイは考えを改めた。
「さっきケイが言っていたことだけど、地下に空間があるってことなのかしら?」
「ブルノワと少佐の事を考えると、その可能性は高いだろうな」
【クリーン】でブルノワと少佐を綺麗にした後、ふとシンシアが疑問を浮かべる。
サーチを行ったところ反応が下を示しており、彼らが岩と岩の間の穴から出てきたことから下にも空間があるのだと確定している。
ブルノワをだっこさせたままあやしているとようやく落ち着いたのか、ポツポツとその時の事を話してくれた。彼女からは、大きな空間に大きな石や大きな箱、キーンとする音のものがあったと語られる。大きな石は恐らく石像のことだと思うが、他の二つがよくわからない。ブルノワとしては一生懸命話しているのだが、生まれて間もない彼女には判別がつかなかったのだろう。今後はいろいろと教えていくつもりなので、そんなに気にすることはないと諭した。
「大きな石は石像のことだな。他の二つは何かがあるんだと思うけど、実際に見てみないとなんとも言えないな」
「まぁ、彼女はまだ幼いですからね。とても恐かったのに頑張ったね」
ルラキがブルノワの様子を伺うと、彼女は恥ずかしいのかケイにしがみついたまま顔を隠してしまった。子供特有のキュートな行動である。
「ケイ、ブルノワ達が出てきた岩場の間を見てみろ」
アダムが何かに気づいた様でこちらに声をかけた。
ケイが近づくと、先ほどブルノワ達が通ってきた岩と岩の間の奥に空間らしきものが見える。暗くて奥の様子はわからないが下に続く道の様なものが見え、しかもそれを塞いでいる岩は他のものと少し違うことに気がつく。
「この岩と岩の間にある茶色いやつはなんだ?」
「コレのことか?ちょっと削ってみよう」
アダムがスコップでその部分を削ると茶色い欠片がボロボロと地面に落ちる。
剥がれ落ちた部分は空洞になっており、削った部分に傷が残る。
「これは、マライダで使用されている一般的な塗装を使っているみたいだな」
ルラキが剥がれ落ちた部分を拾い上げ指先で感触を確かめる。
どうやらマライダの建築などに扱われる一般的な塗装の一つのようで、元々は白色なのだが、顔料を使うと茶色やグレーなどの色に変えることができるのだという。
主に家の湿度を調節したり、脱臭や消臭、火に強いという利点があるという。
話を聞く限り、日本で言うところの珪藻土に近いのだろう。
穴の部分を広げるべく採掘師が使用しているピッケルが近くに置いてあったのでそれを拝借する。アダムとレイブンが少しずつその部分を広げていくと、あっという間に大人が一人通れる程の大きさが開いた。
空洞の先は闇に包まれ、アダムとルラキが近くにあった火がついたままの壁掛けたいまつを手に取り、奥の様子を見ようと照らしてみるが広範囲には光が通らない。
「やっぱり下に続く道があったな」
「奥は暗いのによく彼女たちは戻って来られたよ」
「恐らくだけど、ブルノワ達は暗視を持っているんじゃないかな」
「あぁ~、だからこの道を上って戻って来たんだね」
ルラキの疑問に、レイブンがブルノワ達は魔物の持っている先天的に暗視がついているのではと答える。その言葉通りダジュールの魔物は夜行性のものも多く、暗視はスキルではなく先天性の能力として分類されている。ここが人と人型の違いでもある。
ケイが奥を覗こうとするとブルノワが嫌だと首を振った。
よほど恐い思いをしたのか、ケイはその意見を尊重し覗くことを止める。
「こうなると、一度マライダに戻って報告をしなければならないな」
ルラキはすぐにマライダに戻り、このことをマーダに報告をしなければならないと答えた。サプライズはなくなるかもしれないが、国の一大事になるかもと考えると仕方のないことだと少し残念そうな顔をした。
ケイ達が洞窟から出た頃には日が傾き始めていた。
キャラバンに戻って来たケイ達に、ルラキは報告のためにこれからマライダに戻ることにすると述べると、みんなからエメラルド鉱石が入った袋を受け取り、ちょうどマライダに向かうプリ・マの御者と共に馬車に乗り込もうとした。
「ブルノワ?」
その時、だっこされていたブルノワが降りたいという意思表示をしたので素直に降ろしてやると、ルラキの元に小走りで駆け寄る。ルラキがそれに気づきブルノワの目線に合わせるように屈んで見せた。
「どうしたかな?」
『これ、あげるぅ~』
水色のポシェットから、自分で取った小ぶりで二つのエメラルド鉱石をルラキに手渡した。それを見たルラキは一瞬ハッと驚いた表情を浮かべたのち、ありがとうと礼を言ってからブルノワの頭を軽く撫でた。
「本格的な調査の前に事前調査を行うように手配をしておこう。調査隊には明日の朝に向かわせるよう指示をする」
「急なのに対応できるのか?」
「なぁに、不測の事態に対応するのも兵の務めだ」
「俺達はどうしてもあの奥が気になるから、明日再度覗いてみるつもりだ。マライダには明日の昼ぐらいには向かおうと思う」
それを聞いたルラキからは、調査隊を送ると同時に御者の手配もしておくと言われた。こちらとしては願ってもなかったのだが、今日のお礼だとその分の料金もルラキが払うそうでなんだか申し訳ない気持ちになった。
その後でルラキを乗せた馬車はマライダに向かって走り出した。
夕日に照らされた砂漠に反射した馬車にアラビアンな要素を感じながらも、行く先々でいろんなモノを見つけ、尚且つその国の仕事を増やすという知らない人からしたら鬼畜の所行と言われかねないフラグのオンパレードにケイは思わずため息をついた。
そしてルラキと別れたケイ達は、キャラバンにある宿にもう一泊することにしたのだった。
「アレグロ先輩!タレナ先輩!おはようございます!」
「みなさん、おはようございます」
翌日の早朝、ルラキが手配した調査隊がやって来た。
十人ほどの小隊で隊長らしき男性が部下に指示を送り、その小隊と共に御者と案内役でルラキの部下であるターニャとカブリコフの姿もあった。
「ルラキ隊長から、皆さんを案内するようにと仰せつかっています」
「決断力と指示力が尋常じゃないな」
「ルラキ隊長は、そこもみんなから慕われている要因のひとつですから」
二人はルラキから昨日の話を聞いているそうで、マライダに向かう前に洞窟の地下を一度見てみたいと伝えると揃って快く了承したのち、御者の男性にここで待ってほしいと伝えてから、彼らを連れてマデーラの洞窟へ再度足を踏み入れた。
「ぼさっとするな!各自たいまつを準備したものから調査に入れ!」
調査隊の面々もその状態に驚きを見せながらも、隊長の指示で各々たいまつに火を灯した後に下に歩いていく。ケイ達も各自たいまつを手にその後に続く。
「ここがルラキ隊長が言っていた地下への道なんですね」
一人分の穴を通った先には、幅が3m程の下に続く道が続いている。
見たこともない地下の様子に、カブリコフとターニャが唖然とした表情で辺りを見回している。ケイ達も穴の外から中の様子を見ただけで、実際に存外しっかりしていることに興味を示す。
「この道は人の手が加わった形跡があるね」
「特に壁は何かで固めながら下に掘ったっていうところだろうな」
壁や地面の様子から、レイブンとアダムが人為的な空間を形成したところがあると指摘した。二人の言う通り、よく見ると木材で土壁を補強した形跡に地面には石階段の跡が残っている。ケイはブルノワを抱いているため、たいまつを持つと手がふさがってしまうのでアダムとレイブンに灯り役を頼み、慎重に地下に下りていく。
「ブルノワの言っていた大きな石は、やっぱり石像のことだったか」
地下に下りたケイ達がまず最初に見たのは、横一列に並んでいる五体の巨大な石像だった。
ブルノワの言っていた通り、大仏ほどではないがかなりの大きさだということはわかる。大きさから推測すると大体3~4mほどだろう。しかし何故かどれも顔の部分が潰れている。全体の外見から察するに、真ん中三つが女性の像で両端の二体は男性を模した石像ということが窺える。五体の中で割と顔の形状が見える真ん中の像は、右半分が崩壊しているが左半分はあどけない少女の様な顔立ちをしている。
「この石像ってなんの意味があるんだ?」
「なにかの芸術?・・・というわけではなさそうね」
ケイとシンシアが石像の方を見て首を傾げたが、ケイに抱かれたブルノワが身じろぎをしたので昨日の状況を思い出して泣きそうな態度をしているのかと思ったが、単にその石像の顔が恐いから顔を反対側に向けている。
次にケイ達の視界に入ってきたのは、何かの棺の様なものだった。
三つの棺の様な箱は全て蓋が開かれており、中はなにもなかった。てっきりフリージアで見た死体の様なものが入っているのかと期待していたがそんなことはなく、中には大量の埃と土が入っているだけだった。
「これって・・・棺よね?」
「形状から見てそれに近いだろうな。というか、なんで疑問系なんだ?」
「だって、鉄っぽい棺って見たことないもの」
シンシアの指摘した通り、地面に置かれていた三つの棺は全体的に変色はしているものの鉄のようなしっかりとした材質をしている。よく見ると形は一般的な箱形をしているものの、全体的なフォルムは若干丸みを帯びている。それを見たケイはなんかみたことのある形状だなと疑問に感じた。
「隊長!こっちに来てください!!」
その時、調査隊の一人が声を上げた。
隊長の男性がその男性の元に向かうとあまりの出来事に声を失い、他の人間も見たこともないそれに驚きの表情を隠せないでいる。
「みんなどうしたの?」
調査隊の様子に気づいたターニャが、人垣をかき分けて隊長の男性に声をかけた。
「ターニャさん、これをみてください」
隊長の男性に示された部分をみたターニャも彼らと同じような表情をした。
その様子にケイ達も気がつき、調査隊の間をくぐり抜けてそちらを見ると見覚えのあるそれが現れた。
「ケイ、これって・・・」
「バナハにあったヒガンテだ」
ケイ達が見たのは、以前バナハの試練の塔でみた塔の護衛人形ヒガンテだった。
ブルノワが言っていたキーンと音がするものは、ヒガンテに石をぶつけた時の音のことを表現していたとここで初めて理解する。
「でも、なんでこれがここに?」
「さぁな。でも一つわかることは、ここも過去の遺産だということだ」
「あの~もしかして皆さんは、この妙なモノをご存じなんですか?」
ケイとシンシアの会話にカブリコフが口を挟んだ。
ケイが以前バナハの試練の塔で同じものをみたと答えると、崩壊した塔のことを知っているんですか?と問い返される。知ってるも何も当事者なのだが、塔が崩壊する経緯を説明したところで彼らが信じるかはか別問題である。しかし彼らも調査のため報告する義務があるので、その辺の経緯はケイ達からルラキに説明するということで無理矢理納得して貰うことにした。
その後昼時を迎えたケイ達は、当初の予定通りカブリコフとターニャと共にマライダに向かうことにした。
調査隊は引き続き調査を行うということなのでここに残るそうで、キャラバンで待っているプリ・マの御者にマライダに向かってくれとお願いし、ケイ達の乗った馬車はマライダに向かって出発をした。
ヒガンテと石像、それに棺と謎が出てきました。
今までにみた地下遺跡と少し様子が違うのですが、一体ここはなんのために作られたのでしょう?
次回の更新は2月21日(金)です。




