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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
136/359

131、獣魔の卵

皆さんこんばんは。

いつもご高覧くださりありがとうございます。

さて今回のお話は、以前エルゼリス学園の報酬で受け取った獣魔の卵のお話になります。

「そういえば、この前貰った卵ってどうやって扱うんだ?」


アルバラントから戻って数日が経ったある朝。

アーベンの宿屋で朝食を取った後、ケイがふとそんなことを口にした。


アイテムボックスから獣魔の卵を取り出すと、特に変わりはなく存在している。

よく見ると全体的に黒色だと思っていたが、うっすらと銀色の縞模様が浮かんでいる。その時、ちょうど食器を回収に来たマリーが驚きの表情でそれを見る。


「ずいぶんとでかい卵だね~なんの卵だい?」

「獣魔の卵ってやつなんだけど、この前エルゼリス学園のもめ事を解決した時にお金と一緒に貰ったんだ。だけど扱い方がわからなくてな~」

「へぇ~世の中にはいろんなものがあるんだねぇ~」


感心した様子のマリーに、アダム達も専門外のようでどうしたものかと考える。



「あの、それってエルゼリス学園にあった獣魔の卵ですよね?」


隣の席で食事を取っていた男女四人組のパーティに声をかけられた。

ケイがそうだと返すと、声をかけてきた魔法使いらしきつばの広い帽子をかぶった女性がやっぱりと声を上げる。


偶然にも彼女はエルゼリス学園の卒業生で、獣魔の卵は有名な話だと語る。


どういうことかと聞き返すと、魔物を扱う魔物使いが授業の一環で魔物の卵をふ化させるということが行われているのだが、一つだけいくら孵化する工程を行っても一向に進展が見られない卵があるようで、それがいつの間にか獣魔の卵と言われるようになったとのこと。

その女性は実物をみられるとは思っていなかったようで、だいぶ興奮した様子で卵を眺めており、その横では仲間の三人がじろじろ見すぎと女性を宥めている。


通常、魔物の卵に魔力を流すことにより変化が生じ、やがて孵化をするらしい。


しかし獣魔の卵は、いくら魔力をを注いでもあまり変化が起こらず、それどころかどんなに魔力量が多く質の高い人物が枯渇しながら注いでも孵化する兆候すらみこめない。ケイが腐っているのではと問い返すが、どうもそうではないらしい。


当然魔物の卵には、一般の卵と同じように有精卵と無精卵が存在する。


この獣魔の卵は有精卵に分類されているようで、魔力を流すと時折カタカタと動き出すことがあったらしい。孵化がいたらない原因として、魔力を流す人物の質と量が足らないこと、もしくは卵自体に特殊な条件があるのではと言われている。


「参考までに聞くが、通常卵に魔力を流すとどうなるんだ?」

「個体差によって異なりますが、色が変わったり模様が浮き出たりするそうです」


通常の魔物の卵は30~60cmぐらいの大きさだというが、ケイが貰った獣魔の卵は90cmとやたら大きい。過去に孵化をした卵には生まれながらに大柄な魔物や双子や三つ子が誕生した事例もあることから、一概にはいえないようだ。


その後、朝食を終えた女性は仲間たちと依頼があるからと席を立ち、ケイが礼を言うとまたどこかでと言い、彼らは宿屋を後にした。



「とりあえず魔力を流せば孵化することはわかったな」


マリーに断りを入れ、ケイ達は獣魔の卵を宿屋の裏側にある空き地に移した。

女性の話では魔力を流すこと以外にも条件があるのではということだったので、ためしに鑑定を行ってみることにする。



魔物の卵(獣魔の卵) 孵化に必要な魔力 13524/999999


孵化に必要な魔力が一定量注がれた場合に卵が変化をする。

現段階では誕生する魔物は不明。



この鑑定結果はケイでも変だということが理解できる。


平均がどのぐらいかはわからないが、あきらかに魔力の必要量が多い。

一万を超えたあたりまでしか魔力が注がれていないので、孵化までいたらないのは当然だろう。それに特別条件が表示されていないことから、単に必要量の問題であることは間違いない。それと誕生する魔物についても不明なため、孵化しないとなんの卵なのかが把握出来ないようだ。


「アレグロ、試しに一度卵に魔力を注いでみてくれないか?」

「卵に?えぇ、いいわよ」


魔法を専門に扱うアレグロに魔力を流してみてほしいと頼む。

彼女はそれに従い、卵に手を置くと精神を集中させて卵に魔力を流してみたが、なぜかすぐに手を放してしまった。


「ケイ様、これはちょっと厳しいわ」

「どういうことだ?」

「少し流してみたんだけど、魔力をかなり持っていかれる感じがするの」


アレグロが流す前に鑑定の表示を保ったままにし、流した瞬間に数字が1増えたことを確認した。しかし彼女の方を鑑定してみると魔力が100減っている。

どうやら1進ませるためには、最低でも魔力が100以上ないと話にならないようだ。


「アレグロが流してくれたことでわかったんだが、コスパが悪すぎる」

「コスパ?」

「要は孵化をするために必要な魔力を1つ溜めるためには、魔力を流す人物の魔力が最低でも100以上ないとだめらしい」

「だいぶかかるんだね」

「卵を孵化させるって結構大変ね」


シンシアとレイブンは卵の孵化って手間がかかるのかと納得した表情をする。

それに必要量が999,999と異常に多いことから、魔力を多く消費するという意味で獣魔などとつけられたのではとふと考える。


「じゃあ過去に挑戦した人は、みんな枯渇しながら注いでたってこと?」

「私もやってみたけど、結構持っていかれるわ。当然、魔力回復薬を含みながら続けたのは一度や二度じゃなさそうね」

「じゃあ色が黒いのはその影響か?」

「どうでしょう?その可能性もありますし薄らと模様が入っていますので、もしかしたら少しずつ変化があっての現状だとも考えられます」


タレナの言葉通り、元の卵の様子は不明だが、何かしらのアクションはあったのかもしれない。


そもそも魔物使いが卵を孵化させているのであれば、保持している魔力量は少ないため、より魔力量が多い魔法専門職が有利なのはわかりきっている。

ケイは考えても仕方がないと判断し、自分も卵に魔力を流してみることにした。



黒い卵に手を置くと、ひんやりとしかし暖かみのある不思議な感触を感じる。


手に集中し、水を器に注ぐように魔力をゆっくりと卵に流してみる。

その際に鑑定を表示させたままにすると、ゆっくりとだが孵化に必要な魔力の欄がカウントされる。急に魔力を流してしまうと卵が割れてしまう可能性もあったため慎重さは必要だ。


「ケイ様、大丈夫?」

「あぁ。今のところなんともない」

「私でさえ少し魔力を流しただけなのにだいぶ持って行かれたのよ?」

「ケイ、無理はするなよ?」

「わかってるって」


アレグロとアダムに声をかけられたケイは、彼らの心配を他所に着々と魔力を流し続ける。


それから三十分経ち表示された鑑定の必要な魔力量を確かめると、五万を超えたことを確認した。


卵の色は黒い部分が先ほどより色が薄くなっている気がするが気のせいなのかはわからない。卵自体にもとくに異変はなく、時間はかかるが必要量までを注ぎ込めると判断する。


「これだいぶ時間がかかるパターンだな」

「だいぶゆっくり流しているものね。今はどのくらいかしら?」

「大体五万を超えたあたりだ。目標量まではだいぶかかる」

「卵が大丈夫なら、もう少し多く流してみたらどうかしら?」


アレグロの言葉に水道の蛇口みたいな感じかと考え、モノは試しとばかりに先ほどより多めに魔力を流してみた。


「う゛ぉ!?」


少し注いだところで、ケイが驚きのあまり卵から手を離した。


「ちょっと、大丈夫!?」

「あ、あぁ。なんか卵が動いたぞ」

「そうなのか? 俺達の方からはそんな様子はなかったぞ?」


シンシアとアダムが首を傾げているが、確かにケイの手の平から卵の震動が伝わっていたのを感じた。それを聞いたアレグロが【魔力振動】ではないかと話す。


魔力に対して魔力で返されることを【魔力振動】と呼ぶことがある。

これは魔法に携わっている者であれば一度や二度経験したことのある現象で、魔力を流した対象物から何らかのアクションが返ってくることを意味しているそうだ。


「どうすりゃいいんだ?」

「流す魔力量を、弱めたり強めたり変化をつけたら何かわかるかも知れないわ」


アレグロの提案に、ケイは先ほどの量から少し弱めに魔力を流してみた。


すると卵はガタガタとまるでそれじゃないとでもいうように動きをみせ、肉眼でも振動を確認することができたため、五人も驚きのあまり互いに顔を見合わせる。

次に先ほどより少し多めに魔力を流してみると、卵は喜んでいるのかどうかはわからないが縦や横にガタガタと動きをみせる。まるで一昔前に流行った音に反応する花の形をしたおもちゃのようだ。


その間も鑑定に表示されている数字は、もの凄い勢いでカウントをし続けている。


だいぶ多めに魔力を流しているため卵は大丈夫なのかと心配するケイを他所に、徐々に卵にも変化が見られる。全体的に黒い部分はどんどんと白に近い色に変化をし始め、銀色の縞模様の部分は淡い虹色のような色へと変化を続ける。


表示が90万を超えたあたりから卵の振動が収まり、95万辺りになってくると卵が全体的に金色と銀色が混じった発色も加わってくる。魔力量と質の関係でそのような変化が出てきているのだろう。


その数分後、鑑定の表示が満タンになった頃には鮮やかな色をした卵がそこに鎮座していた。


ケイが手を離し、異常がないかを確認する。

数秒待っても不自然に割れたりしているところがないため、ひとまず安心だと息をつく。


「これで必要な量はたまったの?」

「俺の鑑定ではちゃんと999,999で止まった。だけどすげぇ色だな、変化するにも程があるだろう」

「でも孵化しないぞ?」

「個体差があるから通常の状態がどうなのかはわからないけど、もしかしら孵化するまでに時間がかかるのかもしれないね」


シンシアの横から、まったくの専門外であるアダムとレイブンも顔を近づける。



ピシッ



突然、卵の中央から縦に一本亀裂が入る。


「た、卵にヒビが入ったわよ!?」

「シンシア、落ち着けって」


その様子に驚いたシンシアが慌てた様子でケイの方を向く。

彼女を窘め卵の動向を伺うと、亀裂は二本三本と増えていき所々に細かい亀裂も入っていくところが見えた。しかし可笑しなことに、中から突いてヒビを入れている訳ではなく、外側からまるで見えない何かにより亀裂を入れられているような感じがする。そして卵の殻が剥離するようにボロボロと落ちていく。


最後の殻が剥離された時、その姿にケイ達は驚きの表情を見せた。


「これって魔物か?どう見ても人にしか見えないんだけど?」

「あと黒い動物もいるみたいね」

「二種類の魔物ってことでいいのか?」

「この状況を見る限りだと、そのようだね」


ケイとシンシアが困惑し、レイブンが興味深そうにそれらを観察する。


「魔物らしくないわね」

「可愛らしい感じはしますけど、一体何の種族なのでしょうか?」

「言いたいことはわかるけど、卵から生まれたことを考えると魔物なのは間違いなさそうだな」


アレグロとタレナはその様子に疑問を浮かべ、アダムが同意をしつつもやや警戒している様子をみせる。



ケイ達が向けた目線の先には、金色の長い髪をした少女と何かの動物とおぼしき黒い物体が寄り添うように眠っていた。

孵化したら何か出てきた!?

その正体は一体なんなのか??


次回の更新は2月7日(金)です。

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