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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
135/359

130、文化遺産保護法とはじめの女神像

皆さんこんばんは。

今年の冬は暖かかったり寒かったりどうなっているんでしょうか?

さて今回のお話は、協力関係を結びたいガイナール達と、とある疑問を持っているケイ達のお話です。

ここでも衝撃の事実が判明します。

翌日朝食までご馳走になったケイ達は、ガイナールから頼みがあるので話を聞いてほしいと聞き、談笑室に足を運んでいた。

談笑室には、ガイナールの他にウォーレンとフォーレがいる。


「我々アルバラントは、君達と協力関係を結びたい」


ガイナールから歴史究明の調査を共同で行う考えを提示した。

時渡りを調べているうちにケイ達と同じ考えを持っていたようで、1500年前より以前の資料が見つからず調査は難航。その後、噂でケイ達の事を聞き協力関係を結びたいと思っていたようだった。


ケイも自分達だけも限界があるため、仲間達と協議した後それを承諾した。


「アルバラントにも歴史家はいると思うが、その辺はどうなってるんだ?」

「実は父が存命だった頃、不要だと関係者を追い出してしまったことがあってね。私が跡を継いでから、追放された歴史家達に声をかけて協力を募っていたんだが、彼らの中には首を振らない者もいたよ」


一度追い出された国に、再度協力しようと考える人はあまりいないのだろう。


冷静に考えれば、また同じ目に遭うんじゃないかといい顔をしないのは容易に想像ができる。親が行った負の行為は、その子がいかに優れようと堅実でいようとなかなか払拭されるものではない。人の噂も七十五日というが程度の問題である。


「しかしおかしなことに、1500年前より以前のことを調べている歴史家があまりいないようなんだ」

「それは資料や文献がないからか?」

「私もそう考えたのだが、どうも違うようなんだ」

「違うって?」

「歴史家の彼らは、それ以前の歴史は存在しないと考えているようなんだ」


歴史が存在していないなどというのは、常識的に考えればきっかけがあっての歴史なのだが、どういうわけか歴史家達は今のカエルム歴1527年より前の時代はないと認識しているらしい。突然始まり、歴史が積み重ねられているされているという発想にケイはそんなバカなと驚く。


ガイナールはもしかしたら『傍観者効果』が関係しているのだろうと語る。


傍観者効果というのは社会心理学のひとつで、ある出来事に対して自分以外の人が目撃または体験しているにも関わらず、誰もが行動を起こさず傍観してしまうという心理現象のことである。その背景には自分には関係ないという無関心や他の人がそうなのだから自分もそうだと思う同調意識、または行動を起こしたことでデメリットを受けたくないという恐怖心などが考えられる。


そういえば以前アダム達と歴史の話をしていた時に、1500年前に他の大陸から移住して来た人達は誰なのだろうと口にしたことがあった。それに対して仲間達は始めのうちは疑問にも思う様子がなかったため、ケイがその人物はどこからやってきたのかと疑問を投げかけてやっと考え始めた様子だった。

そのことから、歴史自体に疑問を抱かないというケイにとっては特殊に感じる世界なのではと考えた。歴史家がそんな調子なので普段から縁が遠い一般人にしたら興味以前の問題なのだろう。


「それなら調査が進まないのもわかるな・・・というか、そいつら歴史家に向いてねぇんじゃねえの?」

「否定はできないが、この世界の人達にとってはこれが当たり前なのだろう」


肩をすかせるケイにガイナールが苦笑いを浮かべる。


一般の歴史家がこの調子なので、正直あてにはできない。そうなると協力者は限られる。ケイが知っている限りでは、バナハの試練の塔で見つけた文献の解読を行っている王立図書館のバート、そしてフリージアに在住の元・アルバラントの歴史家をしていたエケンデリコスだ。


それにフリージアには、アレグロとタレナの妹であるアルペテリアもいる。

ベルセの話では記憶自体は先日の一件以来進展がないようで、徐々にではあるがこちらの言葉を覚え初めているようだ。つたないながらもベルセの侍女のポーラと会話を交わしているようで関係は良好とのこと。


そうなると、自ずとアルバラントと協力関係が必要な部分も出てくる。



しかしケイの中で一つの疑惑が浮上する。


「実は、俺からもひとつ聞きたいことがあるんだがいいか?」

「聞きたいこととは?」

「アルバラントで管理している文化遺産保護法のことだ。実は歴史を調べているうちに人づてに妙な話を聞いたんだ」

「妙って?」

「アルバラントと結んでいる文化遺産保護法の契約書面には『更新の手続きを行う条件として歴史資料・文献を破棄すること』と記されているらしいんだが、あんたの話と矛盾しているしどう解釈したらいいんだ?」


昨夜ガイナール達が来る前に、ベルセとナットからのメールでそう書かれていた。


以前聞いたエケンデリコスの話と照らし合わせると、アルバラントが協力関係を結びたいという発言に相違がみられる。しかし、なぜかガイナール達は驚きの表情を浮かべている態度をみせた。まるでなにも知らないようなそんな表情だった。


「それはどういうことなんだい?」

「こっちが聞いてるんだけど?」

「ケイ様、失礼ながらアルバラントには文化遺産保護法には更新の手続きなどは存在しません」

「はぁ?更新の手続きってないのか!?」


ウォーレンが会話の横から意見を述べる。

その言葉にケイ達は顔を見合わせ、どういうことなのかと首を傾げた。


「そもそも文化遺産保護法は、世界大戦後に過去の遺産を保護しようと作られた法案なんだ。保護の対象になったモノに関しては、状況を確認するために数年に一度現地に赴いているが、そんな話は聞いたことがないよ」

「でも、現にスアン渓谷とヴノ山にはそう言った書類が残っているんだ」


ケイはそう言うとポケットの中からスマホを取りだし、ベルセとナットから送られてきた画像をガイナール達に見せた。画面に映し出されたスアン渓谷の契約書とヴノ山の契約書の文面には、確かにそのようなことが書かれている。


「ケイ、画面の下の部分を拡大して見ることはできるかい?」

「あぁ・・・これでどうだ?」

「ありがとう・・・しかし書面のサインは見たこともない名だな」

「家名が記されていないところを見ると、この契約書自体に問題がある可能性も捨てられませんね」


ガイナール達は画面を見ながらあれやこれやと話し合っている。


その間にアダム達にも、昨日送られたメールの内容を伝える。

ガイナール達の話が本当ならば、ケイ達が聞いた契約書自体も虚偽の可能性が高くなる。ちなみに日本では契約書を偽造するということは法律で禁じられ罰せられると聞いたことがある。第一、双方の合意があっての契約書なので、ガイナール達が知らないと考えるとこの文化遺産保護法の契約書自体不成立になる。


「まさか歴史の調査以前に、こちらを調査せねばならないとはな・・・」


ため息をついたガイナールがかぶりを振る。

どうやら、各国に保管されている文化遺産保護法の契約書を一から見直さなければならないらしい。契約書の内容は双方とも同じでなければならないので、アルバラントで保管されている契約書を再度確認した後、現地に関係者を派遣させ調査をすることで話がまとまったようだ。


「ちなみに、アルバラントにある契約書は誰が管理しているんだ?」

「それは、代々ブラマンテ家が担っているよ」

「画像に写っている契約書の内容は、アルバラントで保管されているものと全然違うモノだった。そもそも文化遺産保護法の契約書は、私の家であるブラマンテ家が作成しているし本来は作成者の署名も必要なんだけど画像を見る限りそれもない。となると完全な偽装と考えるべきだね」


書類作成に関してはブラマンテ家が総括しているそうで、画像にあった契約書は全くの偽物ではないかと考える。そうなると偽装の経緯が調査されるのも時間の問題だろう。


「ということは、他国に保管されているモノは全くの嘘ってこと?」

「それだけじゃない。契約自体が不成立ということになるし、改めて調査をし直さないとならないようだ」

「歴史を追うことは暫くお預けってことですね?」

「気が遠くなるよ」


ウォーレンが見やると、盛大にため息をついたガイナールの表情が浮かぶ。



「午後の仕事の前に、君達に案内したい場所があるんだ」


気分転換をするようにガイナールが提案した。

どうやら午後から公務があるため、取れる時間があと二時間ほどしかないようだ。


ケイ達が案内された場所は、建物の北側にある軍事地区の一歩手前にある庭園だった。ここには水瓶を持った女性の像が設置されている噴水とそれを囲むように手入れをされた色とりどりの花が植えられている。


その一画に扉が一つ。その前には警備のため二人の兵士が城壁を背に立っている。


どうやら会話に夢中のようで、ガイナールが声をかけた途端に慌てて敬礼をする。

どこの世界でも絶対にいるんだよなと思いながらも、ガイナールは特に注意はせず彼らと二言三言話すと兵士の一人が施錠された扉を開けた。


「案内したいのはここだよ。灯りはあるけど足元が暗いから気をつけてくれ」


人が一人半ほどの幅の階段を下りると、城の地下に辿り着く。


見たところ物置部屋のようだが、その奥に続く通路が見える。

ガイナールが案内したいのは奥のようで、ケイ達は黙ってその後について歩く。



「これは・・・・・・女神像!?」


まず視界に入ったのは見覚えのある女神像だった。


以前入った幻のダンジョンで見た女神像のようで、なぜこんなところにあるのかと疑問に思っているとガイナールがこちらを向いた。


「この女神像は古くからこの城にあったんだ」

「じゃあこれは元々ここにあったのか?」

「あぁ。幻のダンジョンが発生した時、先ほどの入り口から入ることが出来なくてね。兵の話では北側に別の入り口が存在していたようで、内部を把握することができなかったんだ」


幻のダンジョン出現当時、この場所はまるで濃霧に覆われているような状態だったようで、捜索に当たっていた騎士団のランスロットに尋ねたところいまいち要領を得ず、情報収集に務めていたところケイ達の話を聞いたことが始めだったと語る。

どういう原理かはわからないが、恐らく何かの魔力が作用したのだろう。


そしてガイナールは、あるモノをポケットから取り出して見せた。


ガイナールの手の上には様々な色が混じった青い宝石がついたカギだった。

白銀に輝く天使の翼を模したそのカギは、地下室に設置してあるランタンの火を反射して妖しく光っている。



空のカギ 結界を開ける鍵。

空の女神・シエロの加護を受けている。



「これって、ケイが持っているカギに似てない?」


シンシアがケイの方を見つめたので、ケイも鞄から太陽を模した同じようなカギをガイナール達に見せる。三人は驚きの表情で二つのカギを見比べている。

しかしそれだけではない。


「君も持っているのかい?」

「まぁな。あんたも持ってるとは思わなかったよ」

「これは幼少の頃にこの場所で見つけたモノなんだ。どこのカギかわからなかったけど、父に見つかって処分されないように大事にしていたかいがあったよ」


ガイナールはようやく一歩前進をしたといわんばかりの表情を浮かべる。

ケイにコレのことを知っているのかと尋ねられたため、ケイは知っている限りの情報を提示した。


「俺の持っているカギは太陽のカギで、ガイナールのカギは空のカギと呼ばれているようだ。カギ自体に空の女神であるシエロの加護がついている」

「女神シエロ? さぁ、聞いたことがないな」

「それとこのカギは、結界を開けるために使われると鑑定で出ている」

「結界を開ける?」

「俺の想定が正しければカギは全部で五つ。それは『他の大陸へ』通じていると考えている。あとカギの存在は今まで三つ確認している」

「私と君とあとは?」

「ルフ島に住んでいるコボルト族のナットだ。あいつは星のカギを持っている」


ケイはそのカギを使って結界を解かなければ、大陸の海の外には行けないことを説明した。それは既に航海魔導士のダットが体験済みである。

それとこれは推測でしかないが、各地にある女神像と対になっているのではないかと考える。しかしその部分の判断材料がないため、順を追って調べる必要がある。


その話を聞いたガイナール達は、狐につままれたような顔をしてどう答えて良いのか互いに顔を見合わせるばかりだった。


「俺がこの大陸以外にも別の大陸が存在すると考えている理由は他もある」

「それは?」

「アレグロとタレナだ」

「そういえばそちらのお二方は、元はマライダの護衛の方々ですよね?」

「はい。以前までマーダ・ヴェーラ様に仕えていました。今はワケがありましてケイさん達に同行しています」


ウォーレンの問いにタレナが答える。


ガイナール達は以前からアレグロとタレナの事を知っていたようで、式典などで見かけたことはあるが実際に話をしたのは今回が初めてだという。ガイナールからその経緯について聞いてもいいかと訪ねられたので、その辺の事情も説明した。


案の定三人は、アレグロとタレナが古代に存在したアスル・カディーム人だということにさらに驚きの声をあげる。


「まさか彼女たちが過去に生きてきた人物だったとは」

「でも、なぜ今の時代に生きて来れたのでしょう?エルフ族のように長命な方達なのでしょうか?」

「その可能性もあるが二人には発見された二年前より以前の記憶がない。俺たちはそのことも含めて歴史を追っている」

「記憶喪失、ということか」


納得するガイナール達をよそに、ケイはふとあることを思い出す。


ひとつはマライダの王であるマーダとは約束。

アレグロとタレナの故郷を探すこと。国を預かる自分には出来ないことなので、心苦しいが無理を承知でケイ達に託していることを思い出す。それは気が遠くなりそうだが、それが判明した時また世界の真実も見えてくるとケイは思っている。


ふたつ目はメルティーナに仕えている黒狼の約束。

歴史に穴を開けたメルティーナの尻ぬぐいをしている黒狼は、彼女よりも人間らしいところもある。そんな彼らの願いを叶えたい思いもあり、ケイは真実がいかなることでも突き止めねばならないと考えている。


「君は私が思っているより多くのものを背負っているんだね」

「なんだよ急に?」

「君には仲間がいるし、我々もできるかぎり協力させて貰うからそんなに肩肘はらなくても大丈夫だよ」

「そんな風に見えてたか?」

「どちらかというと雰囲気かな?それに、君は見た目以上に考えすぎているところもあるんじゃないかと思うんだけど?」


ガイナールからどうか?という顔をされ、ケイはそう見えたならそうじゃない?と返す。人間、自分以上に自分の事をよくわからないこともあるからガイナールがいっていた通り、そういう部分もあるのではないかとふとそんな思いにいたる。


いずれにせよガイナール達は、公務の傍らケイ達に協力をすることになる。


しばらくは文化遺産保護法の件もあるため歴史関係まで手が回らないこともあるかもしれないが、わかったことがあったら連絡をするということで話は落ち着いた。


無事にガイナール達と協力関係を結ぶことができたケイ達は、一度アーベンに戻ることになります。

次回からまた日常回になります。


次回の更新は2月5日(水)です。

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