128、時渡り
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回のお話は、王宮魔術師との対決後のガイナール達との会話になります。
そしてある事実も語られることになります。
医師に介抱され運ばれていくルイを横目に、ガイナールからぜひ夕食に招待したいと申し出を受けた。
ルイの方はどうするのかと尋ねると、専属医がいるので任せておくといい、何が嬉しいのかわからないが、満面の笑みを浮かべたガイナールの姿に断ることも出来ずにケイ達は二つ返事で了承した。
西側にある大きな本丸に通されたケイ達は、ガイナールの計らいで食事ができるまでの間、談笑することになった。
大きな本丸は王族のプライベートルームにあたるそうで、主に友人を招いての食事会やお茶会などが行われているそうだ。立場的にケイ達は一般の客人にあたるのだが、ガイナール曰く「リオンもためになる模擬戦でいたく気に入った様子だし、もとより友人として招待しているんだよ」とのこと。
当然ケイ達は、王族の考えはよくわからないなと首を傾げる。
「ケイさん!先ほどの模擬戦の戦法のことを詳しく教えてください!」
談笑室のソファーに座るやいなや、ケイの隣に目を輝かせているリオンがドン!と座った。ガイナールとゼレーナがその行動を諫めるが、王族である前に12才の普通の少年には好奇心を隠せなかったのだろう。はやる気持ちで矢継ぎ早にケイに質問を投げかけている様は傍から見れば微笑ましいが、聞かれているケイ本人は冷や汗ものだった。
時折、仲間達に助けを乞う目線を送っているが、アダムは頑張れよと目線を送り、レイブンは困った笑みで首を傾げ、シンシアが素知らぬ顔で紅茶をすする。
タレナはまるで兄弟の戯れを眺めている姉のような表情で、アレグロはリオンに交じり、ケイがいかに素晴らしい人物かを演説張りに説明をしている。
アレグロのアシストによるリオンからケイへのハードルがドンドンと上昇している瞬間である。
「リオン、ケイが困っているから少しは控えなさい」
一連の流れをガイナール達が見守っていたが、さすがに自分の息子の行動に行き過ぎた部分を感じたのか落ち着いた様子で発言をした。その発言にリオンはハッと気づき頭を下げて座り直したところをみると、少年と言っても教養がしっかりしているようでさすがだなと感心する。
「すまなかった。息子は二年前から本格的に魔術の勉強を始めているせいか、関連するものであればなんでも知りたがるようになってしまってね」
困った笑みのガイナールに恥ずかしさのあまりリオンは顔を真っ赤にさせる。
ケイはリオンのあまりのかわいらしい態度に、気にしてないと言わざるおえなかった。
「リオンの話はまぁいいや。ところで俺たちを呼んだのはただの友人のよしみで、ということじゃないんだろう?」
「察しがいいようだね。実は君たちに折り入ってお願いがあって招いたんだ」
だろうと思ったと、ケイは予想が的中したことを表情には出さずに言葉を待つ。
ガイナールは傍に仕えていたウォーレンに、フォーレを呼んできてくれと頼んだ。
ウォーレンが承知しましたと頭を下げ退出し、その姿を見届けてからガイナールは本題に入ろうとした。
「実は以前から調べていることがあってね。領主のマイヤーから君たちの話を聞いて接触する機会を窺っていたんだ」
以前からガイナールは騎士団のオリバーとランスロットに命じ、ケイ達を探していた様子だったが街のいざこざでなかなか接触することができずにいた。
聞けばフリージアの時も人づてにケイ達が向かったことを知り、ランスロットに現地に赴かせ、話し合いのためケイ達と接触する予定でいたがタイミングが合わずにとん挫したそうだ。
その話を聞き、なるほどなと納得をする。
「ところで君たちは【時渡り】という言葉に聞き覚えはないか?」
「たしか、魔王誕生や世界大戦を予言した人物だと聞いたことがある」
「実のところいうと、私はその人物について調べているんだよ」
ガイナールにどういうことなのかと尋ねると、彼は予言者について不可解な部分を感じており長い間調べていたと語る。
その予言者は五百年前の世界大戦を予言し、さらに二百年後の魔王誕生の時にも突如現れ、同じように予言していたと文献に書かれていた。しかし肝心の予言者についての記述は一切なく、世界大戦以前に存在していた文献も軒並み廃棄されていたようで、思うような成果が見られなかったそうだ。そんな時に噂で地下遺跡を見つけたケイ達の話を聞き、接触しようとしていたらしい。
ケイは塔の謎や世界大戦、はたまた魔王誕生は繋がっているのではとその線を捨てられずにいた。予言者の話も文献等が一切存在しないことも仕組まれていたということなのではないかと考える。
「時渡りと予言者に関連性があるということか?」
「少なくとも私はそう考えている」
「なぜ?」
「時渡りというのは『新たな人生を歩む者』という意味が込められている。それは予言者が時を超えて、同じ世界に生まれ変わり世界の危機を救っているのではと思っている」
それなら予言者がエルフ族のような長寿である可能性も捨てられない。
現にエルフの森で出会ったハインたちは人間よりはるかに長生きをしており、アンダラに至っては推定1500年以上は生きている。
そうなると、ガイナールがここまで予言者に執着する理由がわからない。
ケイは思い切ってその辺のことを訪ねてみた。
すると、ガイナールはどう説明をするべきか迷っている様子がみられた。
隣に座っているゼレーナが彼の左手に自身の手を重ね、言葉にはしないが大丈夫と諭すような目線を送る。
その時、談笑室の扉に控えめのノックが入った。
フォーレを呼びに行ったウォーレンが戻ってきたようで、入室した彼の後ろからガイナールと同年代であろう青藍色の髪を束ねた男性の姿があった。仕立ての良い茶色のベストとズボンと品のよい印象がある。
「紹介しよう。彼はアルバラントで大臣を務めているフォーレだ」
「えっ?あ、フォーレ・ブラマンテと申します」
フォーレ・ブラマンテ
家はアルバラント城に仕えている家系で、彼も前大臣をしていた父の後を継いで同じ道を歩んでいる。彼自身はスラム出身の孤児で、縁があってブラマンテ家の養子になる。また、常にガイナールに振り回されている人物でもある。
フォーレと名乗った男性は、この状況が呑み込めないのかガイナールとケイ達を交互に見つめていた。それを察したようにウォーレンが耳打ちで何かを話すと驚きの表情に変わり、再度ガイナールとケイ達を見やる。
「フォーレ、いろいろと言いたいことがあるかもしれないが聞いてほしい。私は彼らに協力をしてもらおうと考えている」
「ガイナール様、お言葉ですが正気ですか?」
「あぁ」
「ですが、彼らは赤の他人でしかも冒険者なんですよ!」
立腹しているフォーレにガイナールは冷静に諭すように言葉を続ける。
完全にこの状況についていけていないケイ達は、ただ互いの顔を見合わせるしかなかった。
「君の言いたいことはわかる。でも彼らなら大丈夫だ」
「またいつもの勘ですか?」
苛立ちを隠しきれないのか、フォーレは頭をガシガシと掻きながら空いているソファーにドカッと座る。その間に、まだ仕事が残っているのに何をしてるんですか?とかどうりで探しても見つからないわけです!などと恨み節が聞こえてくる。
品が良いように見えて意外と荒い面もあることに驚いたが、これも彼の一面なのだろうと気にしないことにした。
「会話を中断させてすまない。今回の話はフォーレにも関係することだからね」
ガイナールは「これから先は他言無用で頼む」と前置きをしてから話を続けた。
「予言者に固執しているわけではないが、同じ人物が二度も予言を的中したと考えると、もしかしたら他人事ではないのではと感じるんだ」
「どういうこと?」
「それは、私自身が【時渡り】だからなんだ」
その言葉にケイ達は驚愕の表情を浮かべた。
「あの、自身が時渡りとはどういうことでしょうか?」
「言葉の意味のままだよ。私は前世の地球人の時の記憶を保持しているんだ」
タレナが聞き返すと本当のことを言っているのか、ガイナールは真面目な顔をしたままこちらの反応を窺っている。
正直ここにきて、ガイナールの別の素性が明らかになるとは思わなかった。
ゼレーナやリオン、ウォーレンに驚きの表情や態度がでないことから、予め自分が時渡りだということを伝えているのだろう。なぜこのような話をケイ達にしたのかと考えると、自分の秘密を明かし、互いに協力関係を結び過去の歴史について調べようということなのだろう。そうなると、なぜ一般の冒険者であるケイ達に明かしたのか?先ほどのフォーレの『勘』という発言から、一種の予知的な能力があるのではと考える。
「ということはガイナール、あんた『日本人』なんだろう?」
ケイの口から『日本人』というワードが出てきたことに一瞬驚きの色が浮かんだ。
おそらくだがケイの言いたいことを理解しているのか、会話の先を黙って待っている様子をみせる。
「あんただけじゃない。さっきの会話から察するにフォーレも同じ時渡りで日本人だということ…違うか?」
「…ふっ、さすがだね。その通りだよ」
「え˝!?ガイナールどういうことやねん!?」
ケイがほぼ正解に近い形で言い当てると、先ほどの口調とは打って変わりフォーレが独特のアクセントでガイナールに意見する。
「ということは、ケイも地球人でしかも同じ日本人ということなんだね?」
「まぁ、経緯はあんたらとは違うかもしれないけどな」
肩をすくめるケイに愉快そうに笑みを浮かべるガイナール。
ここでフォーレが話の意図が見えたのか、まさかといった表情をする。。
アダム達もましてやゼレーナ達も予見していなかったようで、驚きのあまりに互いに声を失うほどの衝撃を受けている。
「俺は水科 圭一。ガイナール、あんた日本名はなんていうんだ?」
「前の名前は志野原 誠治。元は会社を経営していた一般人だ」
ガイナールの以前の名前は志野原 誠治。
元は大手企業の社長を長年勤めていたが、ケイが亡くなる十年以上前に定年退職後に病気により他界。今世は異世界の王族の一人として誕生したが、ある日を境に前世の記憶が映画館のスクリーンのように思い出されたようで、最初は戸惑ったが今では前世の知識を生かし、よりよい国づくりに励んでいるそうだ。
「で、フォーレあんたは?」
「え˝っ?俺か?俺は近藤 光英ちゅうもんや…あ!すみません、油断してしまうと口調が戻ってしまうようで…」
ケイがフォーレに話しかけると、関西特有のイントネーションで返された。
彼は、恥ずかしさのあまり口元を手で押さえながら訂正の言葉を述べる。
フォーレの以前の名前は近藤 光英。
ケイとガイナールが生きていた時代より前の人間らしい。生まれも育ちも大阪の下町で若い頃は随分とやんちゃをしていたそうだ。
そんな彼はとある事情により命を落とし、後にダジュールのスラム街で暮らす母親の元に誕生。フォーレの母親は、彼が五才の時に別の男と一緒に出て行ったきり帰っては来なかったそうだ。その後、運よくブラマンテ家に拾われ養子として育てられる。
記憶に関してはもともとあったようで、普段から言葉遣いを気を付けてはいるが前世の影響からか、気を抜いてしまうと以前の関西特有の口調に戻ってしまい、初めの頃はだいぶ苦労したと語った。
「君が指摘した通り、私もフォーレも時渡りの人間だ。私は過去に存在していた予言者は時渡りではないかと考えている」
「さっき言ってた予言者は、同じ世界に生を受けるってやつか?」
「あぁ。実はだいぶ前に予言者と時渡りの関連を示す書籍が偶然発見されたんだ。本当はもっと多くの関連書籍があったと思うのだが、私の父が私腹を肥やすために貴重な資料を売ったり価値がないと思って破棄をしてしまったんだ」
王族の考えることはわからないが、少なくともガイナールの父は相当な愚人であることが彼の言葉や口調から察する事ができる。
その文献によると、予言者は若い女性とも男性ともとれる中性的な姿とのこと。
その辺に関しては現在解読を進めているそうで、古い文献のため難航しながらも取り組んでいるそうだ。
その辺について詳しく聞こうと思った矢先に談笑室の扉をノックされ、若いメイドが食事ができたと呼びに来た。
ガイナールは詳しい話はまた後ほどと言い、ケイ達を案内した。
国王と大臣が元・日本人ということに驚いたケイ達は、実は予言者も時渡りではないかというガイナール達の推測を聞くことになります。またガイナールは、ケイ達に歴史究明の協力を願っているようです。
果たしてケイ達はどのように判断し行動するのでしょうか?
次回の更新は1月31日(金)です。




