126、お城に呼ばれました
今回は、アルバラント城に招待されるケイ達の話。
「たしかに城に遊びに来いとは言われたが、こんなに早い期間で呼ばれるとは思わなかったぜ」
ケイ達は、とある馬車に乗り王都アルバラントに向かっている。
馬車の中にはケイ達六人と燕尾服を着た茶髪をオールバックにした男性が笑みを浮かべている。
事の発端は、ケイ達がアーベンに戻ってから二日ほど経ったある朝のこと。
いつものように依頼を受けようと冒険者ギルドに向かおうと宿屋に出たところ、王族とおぼしき品のある馬車の前で、執事のウォーレンが「おはようございます」と言って立っていたのだ。
そしてあれよあれよという間に馬車に乗らされ、馬車を走らせている今に至る。
「ガイナール様より『善は急げ』という言葉通りにしたまでです」
「王様ってヒマなのか?」
「いえ、ガイナール様は連日の謁見や世界情勢を見据えた対策に講じています。それに、ああ見えて三日ほど寝ていないかと」
「いや、寝かせてやれよ~」
国王なのにブラック企業に勤めている社員のような過密スケジュールに、思わずケイはため息をついた。
三徹している時点で国王が過労で倒れたなどとなったらシャレにはならない。
ウォーレン曰く、前回大臣に黙ってケイ達に会っていたことがバレたようで、その腹いせに仕事じゃんじゃんと入れられている状態だという。
ガイナールはこれはまずいと考え、仕事と仕事の間に余暇を無理矢理入れるためにケイ達を城に招待しようとしたそうだ。
こちらとしてはそんな理由で招待されるなど夢にも思わなかったので、ケイ達は内心呆れつつも馬車はアルバラント城を目指して進んでいた。
「ここがアルバラント城です」
城門をくぐり馬車を降りた先には、圧巻という言葉では言い尽くせないほどの優雅さを兼ね揃えた青い屋根が特徴的な城だった。
建築様式は、古典的なイタリアの構造に伝統的なフランス中世の様式を取り入れたようなフレンチ・ルネサンス様式に近い建造物をしている。
柱の飾りや屋根の装飾がは精巧で思わずため息がでるような装飾が施されており、防衛というよりはあえて見せるための象徴的な建造物だろうと推測される。
内部は中央にある本丸とそれを囲む四つの塔で構成されており、本丸は大きなものが二つ、小さなものが一つある。
ケイ達が案内された場所は、小さな本丸の一画にある来客用の応接室であった。
「・・・で、本人はいつ来るんだ?」
「ガイナール様でしたら、もうすぐいらっしゃるかと」
本人が来るまでの間、ソファーに座り出されたお茶やクッキーを頬張りながら城主を待つようにということなので大人しく待っていると、急に応接室の窓がガタガタと音を立てて開いた。
「いや~、こちらから呼び出しておいて遅れてすまない!」
突然、さわやかスポーツ青年の様な表情のガイナールが窓から入ってきた。
何事かと尋ねると、大臣を巻くために時間がかかったと述べる。
やっていることが完全に忍者の類いなのだが、この城主が気づく事はないだろう。
実行してしまえばこっちのもの、と言わんばかりに空いているソファーに腰を下ろす。
「やってることがむちゃくちゃじゃねぇか?それに聞いたぞ?激務を休みたいから俺達を呼んだって?」
「それはすまないと思ってるよ。でもそうでもしないとフォーレに仕事を入れられてしまうからね」
ガイナールが運ばれた紅茶に口をつけてから、皿に入っているクッキーを頬張る。
フォーレという名は、さきほど話に出てきた大臣のことであろう。紅茶とクッキーのコンボを堪能したガイナールは、満足したのか息をついた。
ガイナールは自身が休みたいためにわざとケイ達を客人として招待したが、それがバレた時には彼が大臣に叱られるだけでこちらにはなんの責もない。
しかしケイは、それは建前で本当の理由は別にあるのではと勘ぐった。
以前出会った時に、妙な違和感を感じていたがそれがなんなのかはあの時はわからなかった。今回はそれがなにかを突き止めることができるかもしれないと、表情には出さずにことの成り行きを見守ることにした。
ガイナール=レイ・ヴェルハーレン。
王都・アルバラント現国王のその男は、慈悲深く聡明であると言われている。
彼が国王になったのは今から五年前。当時先代国王であった彼の父は、傍若無人な振る舞いで民を苦しめていた。それに心を痛めていたガイナールは、一念発起で父と父に荷担していたに関係者を全てを抹消した。
そして王位継承後、五年の歳月をかけて今の王都の情勢へと立て直した若き指導者として有名になった人物なのである。
「せっかく君達を招いたんだ、よければ中庭でお茶会をしないかい?」
ガイナールの案内で、ケイ達は中庭に通じる廊下を歩いた。
中庭は、三つの本丸が取り囲むように小さいながらも存在していた。
庭のいたるところに庭師が世話をしている色とりどりの花が咲いている。
聞くところによると、ガイナールの妻が園芸に興味があるそうで時間があれば庭師の男性に教えを乞うてるそうだ。彼女曰く、綺麗に咲いた花を部屋に飾ったり、夫や息子にプレゼントとして贈っているそうだ。なんとも微笑ましい話である。
「あら?あなた、お仕事は一段落したのかしら?」
中庭の一画にある花壇から、庭師らしき男性とこちらに手を振っている女性の姿が見えた。
女性は、ガイナールと同じ金髪を編み込んでアップにしたような髪型をしている。
言葉の感じからしてガイナールの妻だろう。彼女に付き添っていた庭師は、ケイ達の姿を一礼をしてから庭で咲いていたであろう花をウォーレンに手渡す。
応接室に飾る花を選んでいたようだ。
「仕事はまだあるけど、一休みさ。友人を呼んでいるからいろいろともてなそうと思って・・・そうそう紹介するよ、彼女は私の妻でゼレーナだ」
「皆さまようこそお越しくださいました。私はガイナールの妻でゼレーナ・ヴェルハーレンと申します」
ゼレーナ・ヴェルハーレン
王都・アルバラントの王妃でガイナールの妻。
元は聖都・ウェストリアの生れでガイナールの父の兄の娘であることから、彼とはいとこ同士にあたる。性格はおっとりしているが自分の身を守れる程度には戦闘経験があるそうで、裏では『貴(鬼)婦人』など言われているとかいないとか。
中庭でゼレーナを交えて交流会が行われた。
予め指示していたのか、テーブルにはケーキバイキングのような色とりどりのケーキや果物に数種類の紅茶がセッティングされている。
「ケイ、少し食べ過ぎな気がするんだが?」
「ん?いやぁ、こんなことがない限りケーキなんて食えねぇだろう?今のうちしこたま食べておこうと思って!」
「もう何個目よ?」
「んー10から先は数えてない」
「食べ過ぎよ!?」
おそらく全種類のケーキを食べたであろうケイに苦笑いを浮かべるレイブンと呆れるシンシア。アレグロとタレナは互いにこのケーキが好きだと言いあっている。
「・・・なんかすみません」
「いや、気に入ってくれてこちらも準備したかいがあったよ!」
そんなやりとりをあきれ顔のアダムと笑みを浮かべる夫妻らが見守る。
しばらく中庭で交流会を行っていると、中庭の奥の方から少年とローブを纏っている女性がやってくる姿が見えた。
少年はガイナールとゼレーナを見るや嬉しそうに二人に駆け寄ると、ガイナールに突進するようにハグをする。ガイナールは衝撃を受けたものの、嬉しそうに少年の頭を優しく撫でる。
「父上!お勤めは終わったのですか?」
「知り合いを招いているから今は休憩中だ。ルイ、リオンの魔法訓練の成果は?」
「リオン様は日々凄まじい成果を上げられております。現在は四大属性の中級を安定して発動できています」
「さすがは私の息子だ。そうだ!二人共、知り合いにご挨拶をしなさい」
そう言われた少年とローブ姿の女性が返事をし、客人であるケイ達に一礼をした。
「皆様、初めまして。リオン=イブン・ヴェルハーレンです」
「私は、アルバラントの王宮魔術師のルイ・ペインと申します」
リオン=イブン・ヴェルハーレン
ガイナールとゼレーナの一人息子。
生まれつき魔法の才能があるそうで、王宮魔術師を師に持つ。
将来は国王になるのだが、本人は魔法に関係する職についてみたいと言っており、ガイナールとゼレーナは彼を理解し、協力を惜しまない姿勢を持っている。
ルイ・ペイン
アルバラント城の王宮魔術師。
軍を率いている身でありながらもリオンの魔法の先生も務めている。
ケイ達の噂を聞いているようで、少なからず興味を抱いている様子。
「目の感じはガイナールに似てるが、全体的にゼレーナよりなんだな」
「よく言われるよ。それのせいか息子はまだ12才だけど縁談の話も来ていてね~」
「え、縁談!?ち、ちょっと早いんじゃねぇの?」
「王族や貴族界では当たり前なんだよ。本人もそうだけど、私も妻もいまいち乗り気じゃなくてね~」
ケイ達の紹介の後に、親バカと思うかも知れないが息子は人柄がいいから好かれやすくて・・・などと口にするガイナールと笑みを浮かべているゼレーナは、どんな立場にいても子を思う普通の親に見える。その辺は他所と変わらないんだなとケイは感じた。
「あ、あの!ケイさん!教えてほしいことがあるんです!」
ケイとガイナールの会話にリオンが入ってくる。
どうしたのかと尋ねると、どうやら彼もケイ達の活躍を聞いていたようで、魔法で大型の魔物を倒すコツを教えてほしいと頼まれる。
「今はルイ先生に教えて貰っているのですが、将来人の役に立てるように魔法に限らず、いろんなことを知りたいんです!」
「パーティ・エクラの活躍は多方面から聞き及んでいます。それに、レッドボアやクラーケンを討伐できるパーティは多くはありません。リオン様のためにもぜひご教授願います」
キラキラした目でケイを見つめるリオンに、彼の師であるルイが頭を下げる。
その様子をガイナールとゼレーナが微笑ましいと笑みを浮かべ、ウォーレンが興味深げに様子を見守る。ケイは困ったなという表情を浮かべて後方にいるアダム達に助けを乞うが、魔法専門外のアダムとレイブンが困った笑みを返し、シンシアは「頑張りなさい」という目線を送っている。アレグロとタレナはコツを知りたいのかリオンと同じように目を輝かせている。
ケイ自身、魔法の理論の理の字も正式な解釈もなにもわからないのでそう言われても困るのだが、目の前の少年が立派になろうと教えを欲しているのがヒシヒシと伝わってくる。正直かなりのプレッシャーである。
「あ゛~、簡単にいうと要は・・・そう!『考えを捨てろ』ってことだな」
「『考えを捨てろ』?それはどういう意味ですか?」
「リオンは、魔法を使っている時ってなにを考えているんだ?」
「それは魔法を習ったことを復唱した後で、集中力を高めて詠唱をし発動します」
魔法を発動するには、最低でも正確な詠唱と集中力、魔術の知識が必要らしい。
そもそも魔法を扱うには、魔力を感じることから始まり平行して魔術に対しての正確な知識を学ぶこと、あとは魔法に関する場数を踏むしかない。しかしご存じの通りケイはその段階を全てすっ飛ばしている状態なので、教えるにも教えられない状態なのだ。そして苦肉の策で先ほどの発言を口にする。
「魔法というのは場数を踏んだり知識を蓄えることは当然だ。だけど、一番のことを忘れているぞ!」
「一番のこと、ですか?」
「それは“イメージ”だ」
ケイはリオンに詠唱するということは、魔法の知識と意味を理解するために設けられた段階のひとつで、それが理解出来れば詠唱はいらないと言い切った。
その発言に内心眉を潜めたルイに気づく事もなく、ゲームの知識半分はったり半分でなんとか説明をするケイ。
「さすが場数を踏んでいる人は違いますね!貴重なお話ありがとうございます!とてもためになりました!!」
笑顔でケイに礼をするリオンに、なんだか申し訳ない気持ちで罪悪感が残る。
そもそもこの世界には、無詠唱を行える人は限りなく少ないと言われている。
その原因として、詠唱に対して意味を理解しても頭の中で思い描くことという発想が乏しいと考えられる。そうなると、それに異を唱える人物が出てくる。
「ケイさん、あなたの説明はこの子を混乱させるだけになると思います」
王宮魔術師のルイである。
ガイナールの話によると、彼女は人より魔力が多いにもかかわらず魔法の技術に関しては落ちこぼれと言われていたそうで、苦労に苦労を重ねて現在ここに立っている。彼女自身、魔術関連の書籍を片っ端から読み解き、寝る間も惜しんで魔法に対する理解と知識を詰め込んできた。それがケイのような『考えるな!感じろ!』的な発言を聞けば異論を唱えたくなるのも無理はない。
故に、彼女にはケイの事を芸術家タイプの魔法使いに見えたのだろう。
タイプの違う魔法専門職の行く末は自ずとこうなる。
「ケイさん、私と模擬戦をしてください!」
その言葉にケイは「あぁ、やっぱり~」と顔を引きつらせるのであった。
王宮魔術師のルイと模擬戦!?
芸術家タイプのケイと苦労人で努力家のルイが衝突する?
次回の更新は1月27日(月)です。




