125、呪われた剣
今回はアダムの知人が経営している店の話。
「アルバラントに知り合いの店があるから、戻る前にちょっと顔を出したい」
アーベンに戻る前、アダムの願いで商業地区に足を運んだケイ達は一軒の店にたどり着いた。
知り合いの店は、剣と鎧が描かれている看板が掲げられている二階建ての建物で、そこには武器防具屋と書かれていた。
中に入ると武器や防具が所狭しと置かれており、乱雑ほどではないが少しばかり物の配置にまとまりがないようにみられるが、これもこの店ならではというところなのだろう。
「おぅ!アダムじゃねぇか!」
「やぁ!ノートンも元気そうだな!」
「変わらずな!元気にしてたか?」
四十代とおぼしきスキンヘッドに顎髭を生やした大柄の男性が、アダムと挨拶である軽い抱擁を交わしている。知り合いでましてや店の人間にしてはだいぶ厳つい印象を持つ。
「そういや、そいつらは誰だ?」
「今のパーティメンバーだよ」
「噂には聞いていたが、お前もとうとうパーティを持つようになったんだな~」
アダムがケイ達を紹介すると、男性は巣立っていく子供を見送る親の様な心情で頷いた。
この店の店主である男性は、名はノートン。
五年前までAランクの冒険者をしていたようで、アダムが冒険者になりたての頃にお世話になった先輩でもある。実家はアルバラントで武器防具屋を経営しているこの店で、高齢になった両親を心配し引退。
現在も店を経営している傍ら、週に数回ではあるがアルバラントの冒険者ギルドで指導員も行っている。使用武器はレイブンと同じ両手剣で、現役の時とさほど変わらない実力の持ち主でもある。
「しっかし、あの青二才がパーティなんて『俺は有名な冒険者になる!』って言ってたのが懐かしいぜ・・・くくっ」
「む、昔の話だろう!?ここでいうのはやめてくれよぉ~」
冒険者になりたてのアダムを思い出したのか、笑いを堪えるノートンに過去の自分の発言の恥ずかしさからか顔を赤らめ止めようとするアダム。
こう見ると、最初に見た印象と随分と違うように感じる。
「そういや、店の隅にあるデカいやつはなんだ?」
二人のやりとりを横目に、ケイがとある場所を指さした。
店の隅に立てかけるように置いてあるソレは、黒い布に覆われその上から銀色の鎖がグルグルと巻かれてある。まるで呪われているような、そんな異様な雰囲気を漂わせているようだった。
「一応、あれも売りに出そうとしていたやつだ」
「俺が前に来た時にはなかったが?」
「実は少し前に地下の倉庫を整理した時に見つけたんだけど、俺一人じゃ重くて持てなくてな。知り合いに頼んで運び出して貰ったんだ」
聞けば一月ほど前に、在庫整理のため地下の倉庫を整理していところ偶然見つけたそうだ。しかし現物が大きく重量も相当あったため、大の大人が六人がかりでここまで運び出したそうだ。
近づいて見ると布に覆われているものは、だいだい190cmととても大きな代物だとわかる。ノートンにこれはなんだと尋ねたところ、おそらく布の形状から見るに両手剣の類いではないかと返ってくる。
おそらく?という曖昧な表現に首を傾げたが、その代物は曾祖父の代以前のものからあるようで、今まで手をつけていなかったらしい。先代つまりノートンの父曰く「絶対に鎖と布を解いてはならない」と教えられたそうだ。
「売り物として出すのか?」
「まぁな。でもどうやら“いわくつき”のようで鑑定してもらったんだけど、はじき返されるらしくて扱いに困ってんだよ」
いまいち理解出来ないのかアダムが尋ねると、ノートンは頭を掻いて困った表情を浮かべた。
彼の話によると、以前鑑定専門員に見て貰ったところ、武器の系統は両手剣だということは確認できたそうだが、それ以外の情報は鑑定がはじき返されるようで何度か試したようだが、結局は詳細などはわからなかったとのこと。
そもそも呪われた品に関しては、大きく二つの理由が存在する。
一つは、何らかの事情で持ち主が亡くなった場合、その持ち主の念(執着心)がその物に憑依するというもの。これは日本でいうところの呪いの人形の類いに近い。
もう一つは、魔法による施しがされている場合である。
こちらは呪術というより刻印魔法と呼ばれる封印を施す魔法が使われており、主に魔力を制御するために使用されることから、いつの間にか呪いの部類に加わったのではと推測される。
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「でもいわくつきなんだろう?」
「たまに来る客の中に、変わった人間もいるのさ」
どうやら呪いの品を集めていたりするマニアが存在するらしい。
ノートンはそんな客に提供をしようとしたが、最初の地下から運び出す段階でも重いのに一般の客が持って帰れるのかと思い躊躇している様子だった。
ケイはアダムとノートンの会話をバックに、噂となる布に包まれていた代物を鑑定してみることにした。
遮断布 対象物を包み込むことにより、一部に制限をかける。
封印の鎖 対象物を拘束することにより、封印を行うことができる。
大剣・インイカース 持ち主:※※※(遮断布の影響により不明)
攻撃力 推定3000前後
スキル ※※※ ※※※(封印の鎖の影響により不明)
※なお、ここまでの鑑定結果を表示するには最低でも鑑定Lv8以上を推奨。
ケイの目には以上の鑑定結果が現れる。
この結果とノートンの話を総合すると、鑑定結果が弾き返されるのは鑑定士のレベルがそこまでに達しなかったということだろうと考える。
そうなると見えなかった部分は、遮断布と封印の鎖の影響だと理解する。
「なぁ~これ、中見ていいか?」
ケイがアダムと会話をしているノートンに話しかけると、それを聞いた彼は慌ててケイとその代物の間に割って入った。
「駄目だ!駄目だ!これを開けたら絶対に呪われるから駄目だ!」
「いや、だっていわくつきってその布と鎖のせいだぞ?」
ケイが答えると、ノートンは呆けた顔でこちらを見つめる。
「ケイ、鑑定できたのか?」
「まぁな。これは大剣・インイカースと呼ばれる代物らしい。持ち主やスキルも表示されているようだが、布と鎖のせいでみえない状態だ」
「ち、ちょっと待ってくれ!あんた、これの鑑定がわかるのか!?」
「あぁ。たぶんあんたが前に頼んだ鑑定士ってやつは、スキルレベルが低いか何かで鑑定がはじかれたんだろう。両手剣って言っていたそうだが、それを鑑定するには、少なくとも鑑定レベルが8以上ないと正確には読み取れないらしい」
ケイとアダムの会話にノートンが愕然とした表情をした。
どうやら知り合いのツテで紹介された商人ギルドの鑑定専門員だったそうだが、お金を支払ったのに正確に鑑定が出来ていなかったことを後悔しているのだろう。
気の毒には思うが、たまたま運が悪かったとしかいいようがない。
アダムは自分が責任を持つから中をみせてくれと頼むと、思考を切り替えたノートンは店を潰さなければと二つ返事で許可を得ることができた。
まずは拘束している封印の鎖を外す。男性陣三人にノートンも加わったが結構な重量のようで、鎖を下ろすとその衝撃で床全体がわずかながら揺れた。
次に覆い被さっている黒い布である遮断布を外すと、これは特殊加工がされているだけのもののようですぐに取ることができた。
「こりゃ、すげぇな~」
ケイ達が見つめる先には、巨大なと表現するしかないほどの大きな剣があった。
その大剣は全体的に銀色で、柄の部分の鍔は光をモチーフにしたような繊細な細工が施されている。両刃の刀身は一見銀色に見えなくないが、よく見ると見たこともないような輝きをしている。例えるならオパールのようなそんな不思議さを秘めている。
「なんでこんな代物があるんだ?」
呆気にとられるケイ達に、店主であるノートンも首を傾げるばかりだった。
いわくつきなどと言われているが今のところそのような兆候はなく、なにかの理由で巡り巡ってそんな話がでたのだろうと解釈すると、ケイは再度その大剣を鑑定してみることにした。が・・・
『なにしとるんじゃ?おまえさん達は?』
突然、どこからともなく声が聞こえた。
ケイが後ろに居るアダム達の方を振り返ると、どうやらその声はその場にいた全員にも聞こえていたようで自分じゃないと一斉に首を横に振る。
『聞こえとるなら返事をせんかい』
ケイが首を傾げていると、再度同じ声が聞こえた。
声質は少女のようだが、言葉の節々に年配の女性の雰囲気を感じる。
「俺達以外にも誰か居るのか?」
『面白いことをいうのう。目の前におるではないか?』
声のしている方に耳を傾けると、声の主は大剣の方から聞こえているようだ。
「喋っているのは剣のおまえか?」
『そうじゃ』
「昨今の剣は喋るのか?」
『どうかのぅ~少なくともわらわ喋るぞ?・・・ところでシルトはどうした?』
大剣の動作などは一切ないが声の調子からすると、人が首を傾げているニュアンスのように答える。シルトとは誰かと尋ねると、この剣の持ち主だというのでノーマンに確認したところ、聞いたことがない名だと返ってくる。
「これって、持ち主に返した方がいいってことだよな?」
困惑の表情でケイが仲間達に聞いてみると、全員がそうだよねと同調した。
曾祖父の代以前のものからある大剣は、なぜこの店に置かれていたかについては経緯などは一切不明だという。日記かなにかはないのかと尋ねたが、ノーマンは首を振る。おそらくは知られたくない何かがあったのか、はたまた存在自体を知らなかった可能性がある。
ケイは大剣を再度鑑定してみる。
大剣・インイカース 持ち主:シルト
攻撃力 推定3000前後
スキル ヴィ・アニマ ス・アニマ
ヴィ・アニマ 人魂魔石による身体能力向上
ス・アニマ 人魂魔石による刀剣による殺傷能力の向上
人魂魔石の文字に首を傾げる。
ダジュールの管理者で検索をかけたが、該当する項目が存在していない。
文字から推測するに魔石の一種と考えるべきなのだろうが、人魂という聞き慣れない言葉が引っかかる。
「なぁ、人魂魔石ってなんだ?」
『ほぉう、おぬし見えとるみたいじゃな。人魂魔石とは【人の魂を魔石に封じ込める】方法じゃ』
「人の魂を魔石に?」
この言葉に全員が驚きの表情をする。
なぜなら魔石=魔物から生み出した物という概念があるからである。
しかしよくよく考えてみると、以前アダムとレイブンに武器を創造した際に壊れた魔石というものが存在していたので、経緯はどうであれケイが再生を施したようなことをすれば可能かも知れないと考える。
「じゃあ、あんたは人間なのか?」
『元、じゃ。シルトには申し訳ないことをした。わらわが先に死んだばかりに・・・』
「死んだ?ということは、あんたはいつの時代を生きた人間なんだ?」
『わらわが死んだのは、エリスロ歴384年じゃ』
おそらくダジュールの年号のようだが、ケイは今まで聞いたことがないためアダム達に尋ねたところ、今はカエルム歴1527年だそうだ。その際にシンシアに今更?という表情をされたが、聞く機会がなかったためしかたがないと答える。
「そうなると、その剣は少なくとも1500年以上前の物の可能性があるわ」
「私もそう思います。もしかしたら歴史的に貴重な品になるのかもしれません」
アレグロとタレナからこんな言葉が飛び出す。
となると、大剣・インイカースの持ち主はすでに亡くなっている可能性がある。
そのことをみんなに伝えると、大剣がそれはないと一蹴する。
「どういうことだ?」
『シルトはまだ生きておる。それにおまえはわらわを鑑定した』
「鑑定されるのがわかるのか?」
『あたりまえじゃ。不愉快ほどではないがのぉ』
愉快そうに笑う大剣に、よほど肝が据わっているのかはたまた変わり者(物)なのか
いずれにせよ特殊な武器というのは、持ち主が亡くなると持ち主の欄が空欄になるそうだが、ケイが鑑定した時点ではまだその人物が生きているということである。
となると、その人物も・・・と一瞬そんな考えがよぎる。
「そうなると、大剣の持ち主を探さねぇとならないな」
『それならわらわも連れて行ってほしい』
「はぁ?」
『わらわとシルトは一部だけじゃが感覚を共有しておる。それを頼りに探せば、自ずと見つかるはずじゃ』
そうは言っても、全長がレイブンの身長とほぼ一緒の剣を持ち歩くなど、とてもじゃないが物理的には難しい。
しかし大剣は、人魂魔石があっても武器として分類されるので、もしアイテムボックス持ちであればその中にいれて置いても問題はないそうだ。しかし、どうやって持ち主の感覚をたどるのかという問いについては、別の人間と一部だけ感覚を共有し、そこから持ち主であるシルトを探せばいいという。
そこまでいくとそれは超能力などの類いの様に聞こえるが、れっきとした魔力によるものらしい。
「・・・って言ってるけど、店主はどうする?」
大剣・インイカースはケイ達と共に持ち主のシルトを探すと決めているようで、ケイが店主であるノートンにどうすると声をかける。当の店主本人は、剣が喋ることや持ち主がまだ生きているなどで理解しても整理しきれていないのか、こめかみを押さえて考え込む。
「ノートン、あんたがまだ頭の中を整理できていないないのはわかる。だけどケイの鑑定に間違いはないし、持ち主が生きているとなると本人に返すべきだと思う」
アダムはノートンの心情を察しながらも提案をしてみる。
付き合いの長い二人だが、まさか大剣ひとつでこんなことになるとは想像していなかったのだろう。
ノートンは少し考えた後、仕方ないというようなため息をついてからこう答えた。
「その大剣はアダム達に譲ろう。しかし条件がある」
「条件?」
「責任を持って持ち主に返すこと。それと、全てが終わったらどういうことかきっちり教えて貰うからな?」
何かを察したように困った笑みを浮かべたノートンに、それを見たアダムがありがとうと一言返す。
『と、いうことできまりじゃな。よろしく頼むぞ、主代行殿?』
「ってか俺かよ!?」
『当然じゃろ?それにわらわを運ぶことなどたやすかろう?』
「はん!ちゃっかりしてやがるぜ」
大剣・インイカースはケイの異常さを理解しているのか茶化すような口ぶりをし、ケイ自身も別に問題はないとその話を受け入れる。
ちなみに大剣と呼びづらいため名前はないのかと尋ねたところ、元・人間だった頃は『スピサ』と名乗っていたようでシルトの妻だと答えた。
これがきっかけで、世界の謎に加え人魂魔石の経緯も調べていくことになる。
しかしのちにこの出会いが、ケイ達の今後を大きく変えることなど今の彼らは知る由もなかった。
大剣・インイカースと人魂魔石の関係性は?
そして持ち主であるシルトはいずこへ?
今後の展開をお楽しみに。
次回の更新は1月24日(金)です。




