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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
129/359

124、魂移しの真実

不気味な声からのエルゼリス学園編完結です。

夜も深まる教会前に、一つの影が足早に通り過ぎようとしている。


姿を見られないように闇に紛れるように黒いローブを頭から覆い、目深に被ったフードで顔は見えず、その足は地下墓地に向かっている。


地下墓地の入り口は施錠はされておらず誰でも出入りは可能のようで、あることを行うには絶好の場所であると確信している。もちろんそのためには、念入りに準備や下調べをするのは常識・・・といっても、自分のやることは道から外れているが仕方がない。


その影は地下墓地に続く階段を降り、たいまつに火を灯すと奥に続く通路に足を向ける。



「コニー、調子はいかが?話は考えてくれたかしら?」


その人物は、床に座り項垂れているように見えるそれに向かって話を切り出す。


「これはあなた自身のためよ?ただ『大会には参加しますが推薦権は辞退します』と先生に話すだけでいいの。簡単でしょ?じゃないとあなたはあと二日で魂が消滅してしまうの。嫌でしょ?」


フードの下で、口元に笑みを浮かべながらその人物が問いかける。


その人物の目線の先には、朽ち果てた骸骨の様なものが座っている。よほど悲観しているのか絶望しているのか微動だにしない。そんな相手のことはお構いなくその人物は続けてこんな話を切り出す。


「あなたには悪いと思っているわ。でもね、これは可愛い妹のためなの。妹が私と同じ学部に歩みたいと言っているなら全力で答えなきゃいけないわ。そのためなら私は何だってする。例え誰かを蹴落とし貶めて、今の立場がなくなろうと・・・ね」


そこで言い止めると、持っていたたいまつを目線の先にあるものに照らす。


「ふふっ・・・悲観しているのね?でも大丈夫。私の言った通りの約束をすればすぐに戻せるわよ。約束するわ」


手骨に自身の手を重ね、諭すように語りかける。その姿は悪魔かはたまた死神か。

妖艶な雰囲気を醸しだした人物は、約束に合意させようと返事を待った。



「その口ぶりだと、他の人間にもしてた可能性があるんじゃねぇの?」



その人物は驚いた様子でこちらに振り向くと、ケイ達が立っていた。

してやったり顔をしたケイに慌てふためき、そこから逃げようとしたが通路はケイ達のいる方角にしかなく、あっさりと【バインド】で捕縛された。


「優等生のわりには爪が甘かったな・・・ケティ・バークラ」


ケイがフードを外すと、こちらを睨み付ける少女の姿があった。

フレデリックは、普段の印象からかけ離れている見たこともない彼女の表情に驚きを隠せないでいる。


「あ、あんた達!一体何なのよ!??」

「なんなのって困っている人を助ける正義のヒーロー?」

「ふざけないで!私はなにも悪いことはしてない!」

「うそだぁ~~~」


ゲラゲラ笑うケイの手にはスマホが握られ、スマホをタップするとそこから音声が再生される。



【これはあなた自身のためよ?ただ『大会には参加しますが推薦権は辞退します』と先生に話すだけでいいの。簡単でしょ?じゃないとあなたはあと二日で魂が消滅してしまうの。嫌でしょ?】


【あなたには悪いと思っているわ。でもね、これは可愛い妹のためなの。妹が私と同じ学部に歩みたいと言っているなら全力で答えなきゃいけないわ。そのためなら私は何だってする。例え誰かを蹴落とし貶めて、今の立場がなくなろうと・・・ね】



スマホのボイスレコーダーの機能を使い、ケティの会話を録音していた。


「犯人は現場に戻る、ってご存じ?」

「・・・っ!」

「ってか、これって立派な【恐喝罪】だよな?あ!でもこの場合は【殺人未遂】にも該当するのかな?」


ケティの表情を伺うようにケイが覗き見ると、苦虫を噛みつぶしている彼女の目線と交わり、彼女の方から目をそらす。


ケイ達は、交渉のために戻ってくるであろう人物の行動を読んで待っていたのだ。


そのために通路の右側で待機し、その人物が通り過ぎたところを見計らい後をつけてきたのだ。その読み通りケティはケイ達がいるとも知らず、滑稽な独擅場を行っていた。


「い、妹のためよ!なにが悪いの!?」

「やり方が汚ぇんじゃねぇの?」

「う、うるさいわね!コニーがどうなってもいいの!?」


その台詞にケイが吹き出す。

お腹を抱えヒィヒィと笑い転げている姿に唖然とするケティ。


「いや~お決まりのセリフありがとう!もうそのくだりは終わったから~」

「お、おわ・・・った?」

「とりあえず術を解除して、本人を元の身体に返した。それにあんたなら呪術の一番のデメリットを・・・知ってるよな?」


ケイの凄みを利かせた表情に、ケティは血の気の引く思いをする。

おそらくその意味を理解しているのだろう、青い顔から白い色に変わっていく。


「そうそう!あと、証拠の映像も撮ってたんだっけ?そっちはどうだ?」

「あぁ、バッチリ映ってるよ」


タレナが手にしている物をレイブンと二人で確認している。

そこには、ケティの独壇場から捕縛されて顔をあらわにさせた姿が映っている。


「この【デジカメ】ってすごいですね。暗い場所でも映像として残せるなんて」

「デジカメには暗視装置が機能でついているから、どの明るさにも対応ができるんだよ」


音声だけでは証拠が不十分なのではないかと考えたケイは、お馴染みの創造魔法でデジカメを創造し、二人に撮影をお願いした。使い方はいたって簡単!ただボタンを押して、録画終了時は再度同じボタンを押すというシンプルで親切設計である。


「さぁて、生徒会長でありながらやってることが外道ってどういうこと?」

「・・・」


ケイの問いにケティが口を噤む。


その様子だと余罪もあるのではと考える。

このようなタイプの人間は大人にはいい顔をして、裏では相当酷いことをしている子が少なくないと聞く。大体の場合はストレスからの解消からかそのような行為を行っていると聞くが、ケティの場合は重度の【シスコン】からくるものだろう。


もちろん、その辺のところも策は練っている。


「お前さ~さっき妹のためって言ってたけど、それって本人のためになるのか?」

「ど、どういう意味よ?」

「自分の実力で上に上がったかと思ったら、実は姉が裏で恐喝して根回ししてたなんて聞いたら卒倒するぞ?」

「そ、そんなわけないじゃない!これはユエリアのためよ!誰が!なんと言おうと!妹に触れる者は全て潰すわ!!!」


地下墓地にケティの言葉が響き渡る。


これが彼女の本性なのだろう。シスコンを通り越して崇高している信者に見えなくない。ここまでくるともはやホラーである。


しかしこの後、彼女を地獄に落とす出来事が発生する。



「今の話、本当なの?・・・お姉ちゃん?」



ケイ達の後ろから少女の声が聞こえた。


ランプを片手に呆然と見つめる妹のユエリアと、その後ろには教員のマークが立っている。二人とも見たこともない彼女の血相に唖然としながらも懸命に口を開く。


「ケ、ケティ君、今の話は本当・・・なのかい?」

「ち、違います!それは・・・そう!この人達にはめられたんです!!先生!助けてください!!!」


ケティはこの場に及んでケイ達を悪者に仕立てようとしたが、すでに一部始終を見られており、ましてや証拠の品まである。学校としても問題視にする事案になるだろう。


「ケイ様、遅くなったかしら?」

「どうやらそっちはうまくいったようだな」

「だ、大丈夫、なの?」

「ケティ先輩・・・うそですよね?」


二人の後ろからアダム達がやってくる。

シンシアはアレグロに掴まり、若干腰が引けているが置いて行かれたくないのか一緒についてきたようだ。ルイーズはフレデリック達と同様に唖然とした表情をしている。


ケイはこの光景にこの通りと両手で示す。



実は二手に分かれる前、アレグロにとあるお願いをしていたのだ。


「伝書鳩?」

「そう!伝言板とか手紙みたいなの!魔法でちゃちゃっと送ったりできないか?」

「そうね~最近は使ってないけど、ケイ様のためですからやってみるわ!」


以前アレグロから護衛をしていた頃に、使い魔を通じて相手と手紙や伝言のやりとりをしていた話のことを思い出した。その時、魔法専門職の彼女は造作もないと、一羽の白い鳩を召喚して見せてくれたことをはっきりと覚えていた。


ケイはその話を参考に、アレグロ経由でユエリアとマークにそれぞれ伝言を送っていたのだ。内容は『コニーの件で話があります。今夜教会の地下墓地でお待ちしています』と。


アレグロにはコニーが目覚めたタイミングでそれを送ってくれと話し、彼女がそれを実行する。その際二人が反応しなかったらどうするのかと尋ねられた時、二人は絶対にやって来ると確信を持って返した。


というのも、面談の時のマークの対応もケティと一緒にいたユエリアのちょっとした仕草が気になったからだ。


当初マークは『魂移し』という言葉に驚きと共に、何かを思っているような目線をしていた。あの時の彼の目線は、一瞬だけ左上から左下に向けていた。心理学上左上に目線を移すことは、過去のことを思い出している『視覚的記憶』を意味しており、それから左下に向けることは、自分の中で自問自答している状態にあたる。

そのことから、マークは当初から術を施した人物が誰のことなのかを知っていたのでは?と考える。


一方ユエリアは、フレデリックとルイーズと会話している時と姉と会話している時のまばたきの回数が若干異なることに気づいた。一般の成人女性のまばたきの回数は平均して一分間に二十回ほどで、彼らと話をしている時は大体20~22回ぐらいに対し、姉との会話ではその倍の回数でまばたきをしていた。

これは相手に対して、緊張やストレスもしくは失敗したくないという気持ちから出る症状なのではと考える。


あくまでもこれはケイが過去に知り得た知識のため、全員が当てはまるとは限らない。しかし、わずかだがその兆候がみられたからと考えると、一か八かの賭けだったのではと今更ながらに思える。



「わ、私は悪くないわ!生徒会長、いえ!いち生徒のため!妹のために援助をしていたまでです!努力している妹を前に嘘なんてついていません!本当です!!」


バインドの効果で地面に転がったままのケティは、呆然としているユエリアとマークに必死に懇願をしている。もはや彼女の目には、妹は姉妹愛以上に崇高する存在であり、彼女の妨げる物は排除するという形相そのものだった。



「実はそんなケティにお礼の品があるんだ」



ニヒルな笑みを浮かべたケイが、ケティにとある方向を指し示した。

彼女はそれに気づきそちらに顔を向けると、何かに驚いたように急に表情が一変する。それはまるで何かに襲われるのではという鬼気迫る形相をしていた。



「お…お、ねがい…い、いや、こ、こないで…来ないでぇぇぇええええ!!!」



ケティが急に暴れ出したため拘束魔法を解くと、そこから逃れようと転がるように

慌てて走り去って行った。その時ケイ以外の全員が彼女の奇行を止めようと後を追ったところ、分かれ道の右の道で「ここから出られない…」などと言いながら、絶望した表情で蹲っている姿が発見された。


呪い返しに使った人形には細工がしてあるのを、皆さんは覚えているだろうか?

藁人形に術者の髪の毛と魔石を入れたことを思い出してほしい。


ケイが一緒に入れた紫色の魔石は、以前依頼で討伐したスケルトンウォーリアという名の魔物から出る魔石で闇属性と相性がよく、これを利用して一泡吹かせられないかと考えたのだ。

鑑定の結果その魔石には効力として、ある一定の動作・または任意で発動すると表示されており、そのことから術者(ケティ)が人形の方を向いた時に彼女にだけ呪い返しという名の幻影を見せただけでのことだった。


もちろん当初から相手の命を奪うことを考えていなかったケイだが、マークの連絡で学校職員が精神が壊れてしまったであろうケティが運び出される姿と、それを呆然と見つめるユエリアや彼女に寄り添うフレデリックにルイーズの姿を見て、ある意味では殺してしまったのではないかとひとり考える。



その後身体が戻ったコニーは、無事に二日後の魔術大会に参加することができた。


結果はフレデリック達のクラスが見事に優勝を果たし、二位には惜しくも敗れたユエリアのクラスが拍手を送っている。

専門学部の推薦の話はコニーがその権利を与えられ、ユエリアもケティの行為があだとなり、幸か不幸かはく奪された権利を妹が受け取るかたちになった。

彼女としては複雑な心境かと思いきや、本人曰く、姉のような人たちを生み出さないためにしっかりと学んでいくとのこと。やはり異世界でも女性は強しである。


一方姉のケティ・バークラは、マークの報告で事態を重く見た学園長により推薦資格はく奪及び退学処分、それに加え彼女の部屋からこれまでに相手に妨害してきたと思われる証拠の品々が次々と発見され、暴行罪・恐喝罪・殺人未遂などなどの罪が重なり実刑判決が下った。公判には両親と妹のユエリアが傍聴に訪れていたが、ケティは錯乱した様子で「全ては妹のため!」と繰り返していたとか。



ケイ達も学園側から今回の功績が認められ、ギルド経由でお礼の品が届いた。


謝礼金500,000ダリと大きめの木箱に手紙が添えられている。

手紙には『学園の生徒を助けていただきありがとうございます。少しばかりですがお礼の品を送ります』と書かれいる。


「なんだこれ?」

「ずいぶん大きいな~」

「よし!せーので取り出そう」


大きめの木箱の中身を男性陣三人がかりで取り出すと、直径90cmほどの黒い卵のようなものが現れる。


卵は市場で見かけるものとは異なり、既に何かがいるような重さを感じる。

手紙の追記には『学園に古来から伝わる獣魔の卵になります。きっとみなさまの役に立てると思います』と添えられている。



気持ちはありがたいが、さすがにこれはと黒い卵を見つめながらケイ達が唸ったのは言うまでもなかった。

無事に学園の困り事を解決したケイ達は、お礼の品に唸ったのは言うまでもありません。

まぁ、いいんじゃないでしょうか?

次回の更新は1月22日(水)です。

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