123、呪い返し
今回はフレデリックとルイーズの協力の下、チートという名のパワープレイのお時間です。
さぁ!コニーを救い出せ!!
「さて、どうしようかな~」
去って行くバークラ姉妹を見つめながらケイが独りごちる。
ケイの目には紫色の術者の魔力が糸のように見えている。もちろんこれによりコニーに魂移しを施した人物を断定しており、その後の対応を考えている。
「魂移しの犯人がわかったぞ」
「えっ!誰なの!?」
「ケティ・バークラだ」
ケイの目には、紫色の魔力糸の先に繋がっているユエリアの姉であるケティー・バークラの姿があった。
その言葉にフレデリックとルイーズが驚愕の表情を浮かべ、シンシア達もまさかと表情をあらわにしている。まさか生徒会長自身が呪術を行うなど、よもや誰も予見していなかったのだろう。
ケイはその場にいる全員に今後の対応を提案した。
「とりあえず犯人はわかった。急いで魂移しを止めさせる必要がある」
「でもケイさん、マーク先生は早急に対応をするから待ってくれって・・・」
「マークには悪いが待っている時間はない。魂移しを解除しないとコニーが危うくなる!」
フレデリックの言葉に待っていられないと返したケイは、魂移しは七日以内に元の身体または別の身体に移さなければ、魂が消滅してしまう危険性を示した。
もちろん、これには全員が大層驚いた様子をみせる。
「でもなんで?」
「ユエリアとコニーの推薦枠を巡っていることから、コニーに辞退しろと脅迫を兼ねた術おこしをしてるんだろうな」
「でも彼女がやったていう証拠はないわ!?」
「それに関しては、俺にいい考えがある」
シンシアの言う通り、現時点でケティ・バークラがコニー・メンティスに魂移しをした証拠はない。しかしケイはそれも計算に入れており、フレデリックとルイーズを巻き込んだとある事を決行することにした。
「でも、本当に大丈夫かしら?」
「ケイ達を信じるしかない」
「そうよ!なんていってもケイ様だから心配ないわ!」
ケイの提案通りにアダム・シンシア・アレグロは、ルイーズの案内で上流地区の一角にあるメンティス家を訪れていた。ケイ曰く、とある方法を使うから本人が戻ったかどうかを確かめてほしいということだった。
対応をしてくれたのは、この家に仕えているであろう初老とおぼしき燕尾服を着た白髪姿の執事だった。ルイーズは執事にアダム達の事を含めた説明を行うと、快く中に招き入れてくれた。
屋敷の西側二階にコニーの私室がある。
落ち着いた色合いの茶色のベッドに、同じ配色をした机。
男の子の部屋にしては物が少ないようで、唯一入り口脇にある五段式の重厚な本棚が存在感を際立たせている。本棚には魔導関係の書籍がいくつも並べられており、執事曰く魔術大会のためにいろいろと書籍をあさり研究をしていたそうだ。
机には王立図書館で借りているとおぼしき、読みかけの本が開かれたまま置かれている。
「コニー様は、もう五日も眠っておられます」
倒れる直前にも図書館で本を熱心に読んでいる姿が目撃されていたそうで、執事も心配そうにベッドに眠るコニーを見つめている。
「ケイさんの話では僕たちはここで待っていろと言っていましたが、どうするのでしょうか?」
「たぶん【呪い返し】をするんじゃないかしら?」
「呪い返し?」
ルイーズの問いにアレグロが答える。
呪術があれば、その対応策としての方法も存在する。
その方法は大きく二つに分類され、呪い返しは術者にそのまま呪術を返し、呪い移しは自分がかかった呪いを他者に移す方法である。
アレグロ曰く、ケイは術者にそのまま魂移しを返すのではと推測した。
そして唯一、遠距離で連絡が取れるスマホを持っているアダムにそれが成功するかをたしかめてほしいということなのだろうと語る。
「だけど、それにはいくつか準備が必要なの」
「準備って?」
「たしか、銀粉とリーフの葉、それと術者の毛髪にカーススの人形が必要なの」
「カーススの人形って?」
「カーススはマライダに生息している藁みたいな草の事よ。それを一度聖水で洗い清めてから人型の人形に編んで作るのよ。だけどマライダの一部の地域でしか作製されていないから存在すら知らない人も多いわ」
アレグロの言葉でケイのやることを理解したアダム達は、眠るコニーを前に朗報を待つことにした。
「ケイさん!頼まれたものを買ってきました!」
「おぉ!・・・よし!全部揃っているな」
その頃、ケイ・レイブン・タレナは地下墓地に向かっていた。
その際にフレデリックに雑貨屋に行き、とある物を購入してほしいと所持金を渡し頼んでおり、彼はそれらが入った紙袋をケイに手渡した。
「でも、ひとつだけ手に入らなかったんです」
「カーススの人形だろう?それは大丈夫だ」
申し訳なさそうにフレデリックが話すと、気にするなと肩を叩き教会にいた神父とシスターに声をかけてから地下へと向かった。
たいまつの灯りを頼りに、術にかかったコニーがいる奥へと進む。
暫く歩くと奥の方で人影が蹲っているところが見え、それもケイ達に気づいたのかゆっくりと立ち上がり歩み寄る。
「コニー・・・」
『!・・・フレデリック!?』
フレデリックは、変わり果てたコニーを見つけると一瞬声を詰まらせる。
仲のよい友人が、こんな姿になっているなんて誰が想像したであろうか?
コニーもまた友人が一緒に来るとは思わなかったのか、こんな姿を見ないでほしいと頭を抱えて蹲る。
「話はケイさん達から聞いたよ。大丈夫!あとは彼らに任せよう」
フレデリックはコニーが移っている手骨を手に取り、安心させようと語りかける。
その横で、ケイが紙袋から購入した物を取り出し確認をする。
「銀粉、リーフの葉、聖水に術者の毛髪に・・・あとはカーススの人形だけか」
「術者の毛髪って、いつの間に手に入れたんだい?」
「さっき会った時に本人の肩口に髪の毛がついてたから、すれ違いざまに取っておいた」
ケイが鞄から白い布に包まれた一本の髪の毛を取り出す。レイブンはいつの間にといった様子で問いかけるが、まさかあの短時間に取っていたとはなんともちゃっかりしている。
「ケイさん、もしかして【呪い返し】をするのですか?」
「あぁ、そうだ」
「でもカーススの人形が入っていませんよ?」
「あれは市場に出回っていないから、こっちでそれらしき物を創るしかない」
アレグロの推測通り、ケイは【呪い返し】をすることにした。
ダジュールの管理者権限によると、カーススの人形はマライダの一部の地域しか作製されていないため、代用品として日本でいうところの藁人形を使用することにした。タレナ曰く、藁人形を創造した際カーススの人形によく似ているそうだ。
「ということで、只今より呪い返しを行う!」
ケイが教官さながらに仁王立ちでフレデリックとコニーの前に立つ。
フレデリックはよろしくお願いしますと頭を下げ、コニーは不安からなのか若干震えているようにも見える。
まずコニーを座らせその周りに銀粉で円のよう描く。
次に藁人形を一度聖水で洗い流し、その中に術者の毛髪を入れる。その際にケイは一手間加えるように小ぶりの紫色の魔石を埋め込んだ。紫色の魔石は以前魔物討伐の際に手に入れたもので、何かに使えるかもと手元に残しておいたのだ。
「ケイ、魔石をなにに使うんだい?」
「魔石は呪い返しを任意で発動させるためのカギだ」
「カギ?」
魂移しは闇魔法の一つで呪術に分類される。
原理としては術にかかった者の意識をかすめとり、その者の魂を闇の魔法で覆い無機質な物に入れておくという。要はカゴの鳥状態である。
対して呪い返しは、魂を覆っている闇の魔法を一時的に代用品(この場合は人形)に移し、魂を開放してから闇魔法を術者に返すというものである。
発動条件は術者がそれに触れた段階で発生するのだが、魔石を埋め込むことにより闇魔法が人形本体ではなく魔石に吸収されるため、人形自体に触れてもなにも問題はない。
ケイはただの呪い返しではなく、ちょっとばかし術者を反省させようという気持ちで藁人形に細工した。
そのあとで人形を座っているコニーに渡し、リーフの葉を骸骨の歯に噛ませるようにする。リーフの葉は魂を保護する役割を果たすといわれており、本来であれば火打ち石で炙ってからその煙を纏わせるそうなのだが、地下墓地という特殊な環境のため、酸欠になるのは目に見えている。ちなみに葉を噛ませることでも効果が発揮するそうなので安全面を考え、そちらの方法をとることにする。
「あとはこれで待つだけだ」
「詠唱などはなくていいのですか?」
「呪い返しには呪文なんかはいらないんだ。そもそも呪いを返すという行為は生き霊を帰すと言われている」
「生き霊?」
「呪術は闇魔法の一種と言われているが、その元となるのは生きている人間の怨念が具現化されたことによって誕生したものなんだ」
呪術といえば日本ではお馴染みである藁人形と五寸釘が有名だが、それも邪の念を人形に込めて相手を呪い、呪いが継続されている間、呪術者にも少なからず影響があるそうで、一説ではその邪の念も元は術者の生き霊ということになるそうだ。
そんな話をしている間に、コニーが入っている骸骨がぐったりとし始めた。
みると闇魔法の影響とおぼしき黒いもやが、人形に吸収されるところが見える。
知識だけで呪い返しを行ったが、それが吉と出るか凶と出るか。こればかりはケイも判断がつかなかった。
少し経って黒いもやが吸収され尽くしたのかその行動が収まった。
それと同時に、ケイのポケットに入っていたスマホが鳴る。
「も~しも~し」
『ケイか?』
「アダム、そっちはどうだ?」
『さっきコニーが目を覚ましたよ』
どうやら術が解かれたようで、コニーの魂は無事に本人の身体に戻ることができたそうだ。それと同時に、アレグロからの伝言でもう一つの頼まれごとを行ったと伝えられる。
「じゃあ、あとはこっちでやっとくわ」
『俺達もすぐに向かおうか?』
「いや、アレグロが頼んだことがちゃんと伝わってるかが知りたい」
『わかった、それも確認しておこう』
「頼んだぞ!」
アダムからの通話を切り、コニーが目を覚ましたと伝えると友人の無事を伝えられたフレデリックは安堵の表情を浮かべた。
「そうそう!あと俺達にはもう一つ仕事が残っている!」
「仕事って?」
「もちろん!術者の捕縛だ!」
ケイは疑問を浮かべるレイブンにそういうと、意地の悪そうな笑みを浮かべた。
無事にコニーが身体に戻った事を確認したケイ達は、術者捕縛のためにとある仕掛けをしました。
次回、魂移し編完結です。
次回の更新は1月20日(月)です。




