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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
125/359

120、不気味な声

アルバラントの冒険者ギルドで奇妙な依頼を見つけたケイ達は、興味本位でその依頼を受けることにした。

『教会の地下墓地から夜な夜な不気味な声が聞こえるため、その原因を調査願いたい 報酬:要相談(神父・キール)』



アルバラントの冒険者ギルドの掲示板にこんな内容の依頼があった。

アンデット系の魔物でもいるのかとケイが首を傾げながらその依頼書を手に取ろうとした時、シンシアが何かを察したのかその手を止めた。


「無理無理無理無理無理!」

「うるせぇよ!」

「だって絶対アンデット系じゃない!」

「俺達は冒険者だから、それも仕事だろう!?」


シンシアは幽霊やお化けの類いが苦手で、実はアンデット系も苦手だということが最近判明した。ケイが耳元で騒ぐシンシアの頭部に手刀を落とし落ち着かせる。


「教会からの依頼なんてよっぽどだと思います」

「でも、だいぶ日にち経ってるけど有効なのか?」


ケイが受付の女性に確認をしたところ、教会からの依頼というのは報酬料金がまちまちで依頼を出してもあまり受ける人がいないらしい。この依頼も五日前から張り出されていたが、見向きもされないのか最近では教会側から取り下げようかと相談がきたほどらしい。


「よし!受けてみよう!」

「ち、ちょっとぉぉ!!」


張り出された依頼を手に取り受理して貰おうと受付に向かうケイに、勘弁してくれと言わんばかりにシンシアがしがみつく。その様子に受付の女性が受理してもいいものかと困った表情でこちらを見つめるが、ケイに気にしないでやってくれといわれ手続きを進める。



「う、うぅぅぅ~苦手なの知ってるのになんで受けちゃうのよぉ~」


教会に向かう道中で、シンシアが涙目になりながらケイに抗議した。

ケイはマライダの王家の墓でミイラと対峙した時には平気だったし、あれだってアンデット系だろう?と返すと、実はあの時だいぶ足が震えていたらしい。


そんな話をしていると、目的の教会に到着した。


教会は西側の住宅街の一角にひっそりと建っていた。

建物はだいぶ古い造りで敷地を鉄柵で囲い、ひとたび足を踏み入れると教会独特の違った雰囲気を感じられた。普段から教会とは縁のなかった一同は少し緊張した面持ちで敷地内を進んだ。


「すみません!冒険者ギルドから依頼を受けてきたのですが、神父のキールさんはいらっしゃいますか?」


アダムが庭先で掃除をしていたシスター姿の女性に話しかけた。

シスターは中にいると思いますのでご案内しますと告げ、ケイ達を建物へと案内する。


内部は、過去に訪れたウェストリアの大聖堂を凝縮したような内装をしていた。


ゴシック様式のアーチ状の天井に祭壇に続く身廊には赤い絨毯の様なものが敷かれている。礼拝用の椅子の両端には天使の姿を形取った柱頭がそびえ立ち、壁側にある窓ガラスには天使や神々を模したステンドグラスが設置されている。

奥にある祭壇にはアレサ像が安置されており、その前で祈りを捧げている依頼人の神父の姿があった。


今は祈りの時間のため、礼拝用の椅子に座るように案内されそこに腰をかける。

ケイ達は、シスターと並んだ状態で神父の祈りが終わるのを待つことにした。



「おや?お客様でしたか?ずいぶん待たせたようですね」


しばらく経って祈りの時間が終わったのか、神父が立ち上がりこちらを向いた。

シスターからケイ達の事を聞いた神父は、だいぶ待たせたことに申し訳ない表情をしたあとで礼拝堂の奥にある来客用の応接間に案内をした。


応接間に通されたケイ達は質素な木製のソファーに腰を下ろしたタイミングで、依頼人の神父に話を切り出した。


「依頼のことについて聞かせてくれ」

「はい。実は五日ほど前から、教会の裏手にある地下墓地から声が聞こえるようになったんです」

「依頼では夜にその声が聞こえるって書いてあったけど?」

「夜の祈りの時間から、人の泣き声のようなものが聞こえてきました。初めは気のせいかと思ったのですが毎晩聞こえてくるようになりまして、一度見に行ったのですが確認が出来なかったもので・・・」

「それで依頼を?」


タレナの言葉に神父が頷く。

昼間は聞こえないということだったので、恐らくアンデット系の魔物の可能性も捨てきれない。一度見てみないとわからないので、ケイ達はこの後地下墓地に向かうことを伝えた。



「こちらが地下墓地になります」


神父とシスターに連れられてやってきたのは、教会の裏手にある墓地だった。


ここには約二百基の墓が並んでおり、奥には地下墓地が存在している。

地下墓地は元々は国の要人が安置されていたが、三百年前の魔王討伐の際に命を落とした者と共に新たに聖都ウェストリアに移され手厚く葬られたそうだ。


現在使われていない地下墓地は、時折成仏できない霊が彷徨っているという話も耳にしているため、地下に続く階段の両端には白いキャンドルの様なものが置かれている。日本でいうところの盛り塩みたいなものなのだろう。


「こちらはホーリーキャンドルというものです」


ケイの目線の先に気づいたのか神父が答える。

ホーリーキャンドルは異世界版盛り塩のようなもので、厄除けや魔除けを意味している。しかし一方で霊を清めたりなどの除霊効果もあるので、その辺の違いはあるのだろう。


ケイ達は神父とシスターにこれから様子を見に行くので、終わり次第報告すると伝えた。心配そうな表情で了解した二人に見送られながらも、地下に続く階段へと足を進めた。



「やっぱり地下は冷えるな~」


階段を降り地下墓地に到達したケイ達はあまりの暗さだったため、それぞれがたいまつを取り出し火を灯す。


「ケイ様、ランタンは?」

「ルフ島の黒い騎士の時に完全に壊れたから買い替えを検討中だ」


ケイがたいまつを手にしている姿を見てアレグロが尋ねる。

愛用していたランタンは黒い騎士の際に完全に壊れてしまったため、新しい物を購入しようと考えたがランタン自体が出回っていないこともあり、しばらくは市販のたいまつを使うことにした。


そんな話をしながら奥に続く道をたいまつで照らす。


「シンシア、動きづらいから離れてくれ」

「恐いから嫌!」


ケイの腰にガッシリしがみつくシンシア。

奥に続く通路は、いかにも幽霊が出そうな不気味な雰囲気を醸し出している。

気持ちはわからなくもないが、完全に駄々っ子の子供に手を余している親の気分を感じ、タレナとアレグロがついてあげるからというと今度はそちらにひっつくようになった。二人には悪いが、ここから出る間での間辛抱してもらうとケイが内心詫びをいれる。


「すごい埃だな」


地下墓地が使われなくなって数百年単位で放置されているため、内部は埃で充満になっていた。アダムをはじめ、全員が口に手や布を当ててそれを阻止する。


「三百年ほど使われていないようだからね。それまでは国が管理していたんだろうけど、今はこの通り」

「地下墓地の権利を破棄したってことか~・・・ん?じゃあ、この地下墓地は国のものだったってことか?」

「正確には『だった』ってことだね。元は国の要人が安置されていたけど、全てウェストリアに移されたからそれで権利を放棄したんじゃないかって」


あくまでも憶測だけどねとレイブンが補足する。

例え墓地でも歴史的建造物を手放すなんてどんな考えをしているんだと思われがちだが、今はこの教会のものになっているようなので今更いっても始まらない。


暗い通路を進んでいくと二手に分かれる道に突き当たる。


右か左か悩んでいると、案の定シンシアがえっ?分かれるの!?といった表情を出した。こういう時の彼女はとても分かりやすい。いつもは強気でいるが、苦手な場面になると露骨な態度を隠そうとしないところがとても人間らしい。


「やっぱり二手に分かれるか?」

「そうみたいだな。それなら俺たちは右に行こう」

「じゃあ俺たちは左だな!」


話の結果、ケイとシンシアとアレグロが左の道へ。アダムとレイブンとタレナが右の道にそれぞれ進むことにした。



「ケイ、本当に大丈夫なの?」

「なにが?」

「二手に分かれたら途端に襲われるなんて嫌よ!?」

「なに心配してるんだよ~そんなの吹っ飛ばせばいいじゃん?」


不安そうなシンシアに笑いながら答えるケイであったが、実は内心首を傾げた。

なぜなら地下墓地に入る際にマップとサーチを行った際、一箇所だけ紫色のマークがついていたのを確認したからだ。


ちなみにケイのサーチは、緑は非敵対状態、赤は魔物などの敵対状態と分類していたが、レベルが上がりスキル自体の能力が上がっているのか見たこともない機能が追加されていることに頭を悩ませる。

これがどんな意味なのかわからず、それをみんなにましてやシンシアに伝えれば、不安を募らせ泡を吹いて倒れてしまうのではと半分本気で考えていた。


アレグロはそんなケイをなんとなく察したようで、黙って二人のやりとりを見つめている。


左の通路を突き当たって右に曲がった先に、少し広い空間にたどり着いた。


三人分のたいまつで照らしてもよく見通せなかったが、壁に棺桶を収納するスペースのような穴がいくつか空いており、中は空っぽのようで何もない。


「ちょっと、二人とも離れないでよぉ~」

「腰が引けてるぞ?」

「ち、茶化さないでってば~」


シンシアが前に歩いている二人に文句を言い、ケイがカラカラと笑い声を上げる。



シンシアはこんな時でも冗談を言うケイに内心腹を立てながらも早く外に出たい一心で、なけなしの強がりを返した。弓使いの彼女は接近戦では不利ののため、もしアンデットが近づいた場合の対応を必死に考えてもいた。恐いと思うから恐いのであって、別のことを考えるといいと何かの本に書いてあったことを思い出す。


彼女は、昔から幽霊やお化けの類いもアンデット系の魔物が苦手だった。

苦手になった出来事は正確には覚えていないが、おそらく幼少の頃に兄から聞いた恐い話だったと思う。当時はあまりの恐怖に父親に泣きつき、寝つくまで一緒にいて貰った思い出がある。


そんなちょっとほろ苦い思い出に浸った後、前に歩いている二人に近づこうとした時、突然左手を何かに掴まれた感触がした。


状況から考えて瞬時にケイとアレグロでないことを理解する。

じゃあ、これは一体・・・と考えて冷や汗と震えと背筋が凍るのを感じ、目線だけを左手に向けると、視界の端で黒い何かが掴んでいるのが見えた。



シンシアが勇気を振り絞り振り返ると、ぽっかりと空いた黒い双眼に青白い頭蓋骨のような何かが彼女を見つめていた。

シンシアが見たモノとは一体なんなのでしょうか?


次回の更新は1月13日(月)です。

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