119ー2、バザーがしたい(後編)
バザーがしたい後編。
創造+エンチャントをした物をバザーに出したらこうなったという話。
男性の訪問から十五分経った頃だった。
今度は、初老の男性がおともらしき男性達を連れながらこちらにやって来る姿が見えた。その男性達はケイ達の露店で立ち止まると、店頭用のポーションを手に興味深そうに見つめた。
「こちらは売り物ですか?」
「これは店頭用に置かれた見本用のポーションで、劣化しないように特殊加工したものだ。言ってくれれば実物を出すけど?」
ケイの言葉に初老の男性が、ほぉっと感心の声を上げる。
男性から見本用に置いてあるポーションを全て見せてほしいと頼んできたので、試しに各種一つずつ鞄から取り出し、男性の前に置いて見せた。
男性は裾の長い白い礼服を身に纏い、しゃがんだ拍子に裾が土で汚れるにもかかわらず熱心にケイが製作したポーションを手に取り見つめている。
「こちらのポーションはどれも透明度が高く品質も非常にいい。どなたが作製されたのですか?」
「ここにあるものは、全部俺が作った」
「錬金の才能がおありに思えるのですが?」
「またまた~俺はただの冒険者だ。ポーションなら錬金術師が上だろう?」
初老の男性の言葉を冗談だと捉えたケイは錬金術師ほどじゃないよと述べたが、男性は各種ポーション類をいたく気に入ったのか一式を購入したいと要望した。
「金額は客につけて貰ってる。最低100ダリからだ」
「値段はつけないのですか?」
ケイが相場がわからないからつけて貰っていると述べると、後ろに控えているおともと二、三言葉を交わした後、おともの男性が鞄の中から中程度の大きさの麻袋を取り出しケイに手渡してきた。
「回復と魔力ポーションを二十本ずつ、毒と麻痺と混乱の回復を十本ずつ購入させてください。金額は一本3,000ダリで210,000ダリでいかがでしょう?」
「え゛っ!?あ、じゃあたくさん買ってくれたからコレおまけな!」
梱包したポーション類を麻の手提げ袋に入れておともの男性達に手渡した後、たくさん買ってくれた男性にお礼として金色の液体が入った一本のビンを手渡した。
「こちらは?」
「ちょっと耳を貸してくれ」
ケイは周りに聴かれたくないのかその男性に内緒話をするようにそれを告げると、男性が驚きのあまり声を失っていた。そして男性は慌てた様子で自分の懐から一枚の硬貨とフラスコのような形をした金色のバッチを手渡した。
今度はケイが慌てた様子でそれを制したが、男性はあなたにはそれ以上の価値があるのでぜひ受け取ってくださいと言われ、半強制的にそれを受け取った。
去り際に男性は「いい買い物をしました。また会える時を楽しみにしています」と笑みを深め、おともの男性達共に中央に向かって行った。
「この硬貨って白金貨じゃないか?」
「へぇ?」
「いや、だって色が白っぽいし・・・」
ケイの手の上には、先ほど男性から受け取った一枚の硬貨と金バッチが握られている。レイブンが硬貨の色を指摘すると、ケイはそれを鑑定にかけてみる。
【白金貨】 価値は一枚1,000,000ダリ
「うわぁ~おまけの硬貨が高かった・・・」
「ケイ、あのおまけの液体ってなんなの?」
ケイが頭を抱えて悩んでいると、シンシアからおまけの事について尋ねられる。
あれは以前作製したエリクサーを改良した【天使の杯】と呼ばれる回復薬である。
効果としては、死者蘇生&全回復&全能力を20%アップさせるといったモンスター回復薬になる。
当然それを説明されたアダムから、怒りの拳骨がきたのはいうまでもない。
それから更に一時間が経った。
前の二人が来たおかげなのか徐々に客足も増えていき、用意していた商品もいくつか売り切れ始める。時折客から今日だけの出店なのかと尋ねられることもあり、ケイ達にとっては嬉しい悲鳴である。
「ごめんなさい!ブレスレットは完売です!」
「ガラス製の一輪挿し花瓶は、残り二つです!!」
タレナとレイブンが品物の売り切れや残りの数を上げ、アダムとアレグロが品物の包装、ケイとシンシアが代金と品物の受け渡しをしている。
「おっちゃん悪い!こっち手伝ってくれねぇか?」
「えっ?あ、あぁーいいよ!!」
思った以上に客の入りが激しく人手が足りないため、隣に座っていた靴磨きの男性に声をかけて手伝って貰う。
ケイはまさか一日でこれとはバザー恐るべし!などと思っていたが、実はエンチャントと創造魔法の賜で、ダジュールの職人が長年修行しなければ再現できないほどの完成度だったとは今のケイ達は知るよしもない。
「先ほど噂で聞いた露店はこちらですか?」
客の入りが落ち着いた頃、一組の男女がケイ達の店にやってきた。
男性は雰囲気は柔らかいが目の奥で職人のような厳しい表情を浮かべ、対する連れの女性はクールな印象を持っており、まるで秘書のような出で立ちをみせている。
「噂の店かどうかは知らないけど一応売ってる。まぁ売り切れたものもあるけど」
「どうやらそのようだね」
店先に並んでいる商品は、先ほどの客の波のおかげか三分の二近く売り切れた状態だった。ただ、食器類などは家族連れを想定していたため少し多めに作ったため半分ほど残っている。
「これはすごいなぁ~。どれも一級品のような品質じゃないか!」
「これだけの品質は、私も初めて見ます」
二人は品物を手に取っては驚きの表情を浮かべている。
査定をする専門の業者のように見えなくないが、個人情報から考えると聞かない方がいいのだろうと思いあえてスルーした。
「このカトラリー(※)は見たこともない材質だね」
※食卓用のナイフ、フォーク、スプーンの総称。
「そっちにあるやつはステンレス鋼だ」
「ステンレス?」
「あー、錆にくい材質で作ってるんだ」
ステンレス鋼はクロムとニッケルを含んだ錆にくい合金鋼で、日本ではかつて不銹鋼などと呼ばれていた。詳しい説明は割愛するが、ケイが創造したステンレス系の食器などは軽くて強度が強く錆びにくい特製を持っており、主に冒険者を生業としている人達がこぞって買いにきた。
「こちらはガラス、ですか?」
「それはガラスで作ったジョッキだ。エールを入れて飲んだりしてもいいし、耐熱製だから温かい飲み物を飲む時にも使えるよ」
「えっ?温かい物を入れても大丈夫なんですか?」
「それは問題ない。ちなみにここにあるガラス製は全部耐熱製だから、ガラスの皿に温かい料理を入れることも可能だ」
ケイがそう説明すると、女性は信じられないといった表情を浮かべる。
この世界ではガラス技術がまだ発達していないのか、認知度が低い。
最初にガラスの食器なんて使えるのといった表情をした客もいたので、この女性のように半信半疑でそれらを見つめていることはある程度想定していた。
しかし男性はそのガラス製の食器にも興味を示しているようで、片っ端からそれらを手に取り、職人の様に見つめている。
「そういえば、これはなんだい?」
二人は一通り見終えたのか、今度は隅に置かれていたかごに注目した。
かごの中には、見たこともない短い鉄製の棒のような物がいくつか入っている。
「あ~それはマルチツールってやつだよ。冒険者用に作ったんだけどウケがあんまり良くなくてね~」
「マルチツール?」
「多目的アクセサリーってやつだよ。折りたたみ式の工具ってゆうのかな?こうやって使うんだ」
ケイがその一つを手に取り、二人に使ってみせてみる。
工具は折りたたみ式で組み合わせによって、ナイフ・フォーク・スプーン・ハンマー・鋸・ワイヤーカッター・ペンチ・魚皮デスケーラーなどが使用出来る性能になっている。外で活躍する冒険者に売れればと考えていたが、あまりいい感触がえられなかったため、そろそろアイテムボックスという名のお蔵行きにしようとおもっていたところだった。
「それならこれを全部僕に譲ってくれないか?」
男性は、かごに入っていた十個ほどのマルチツールを指さして問いかける。
ケイが譲るのは構わないが値段をつけてくれと返すと、案の定値段は設定されていないのかと男性から返ってきた。相場がわからないからつけて貰った方が早いと返すと男性はう~んと唸り、隣にいる女性と相談した。
「じゃあ、全部で100,000ダリでどうだい?」
「あ、あぁ・・・あんたらがそれでいいならこっちは何でもいいよ」
「これには可能性があるし、なにより今後の参考にしたい!」
マルチツールが一個10,000ダリと考えるとだいぶお高い気がするが、本人達はいたって適正な価格をつけていると述べる。その辺は個人的な考えの相違なのか、それ以上こちらから何かをいうことはしなかった。
「あ!あと、ここにある食器類を二十枚ずつ、カトラリーをそれぞれ十本ずつ購入したい。金額は全部で・・・500,000ダリでいいかい?」
「ご、500,000ダリ!??」
これにはケイ達も声を揃える。
まさか普通の食器類が万越えをするとは思わなかったのだ。男性はケイ達の反応を不服に受け取ったのか価格を上げて売って貰おうとしたので、慌ててそれでいいと窘める。
「失礼を承知で申しますが、こちらにある品はどれも一級品ばかりで店を開いた方がよろしいかと思われます」
「え゛っ?そんなに!?」
「作成者の方がよほど腕がいいのでしょう。こちらから提携したいほどです」
表情には出ないが女性からは賞賛の言葉しか出てこない。
これが盗品だと思わないのかと尋ねると、そうかそうじゃないかの区別ぐらいはできるらしい。二人は一体何者かと首を捻ると、男性が怪しさ満点なんだなといった表情で自分たちの事を明かしてくれた。
「そういえば僕たちのことを言ってなかったね。僕はアルバラントで商人ギルドの代表を務めているハワード・ヴァン・ヘイレンだ。彼女は僕の秘書でヴィアンネ」
「ヴィアンネと申します」
「ちなみにこれらは誰が作ったんだい?」
「ここにある物は全部俺が作った」
「えっ?君が!?」
ケイが全て作製したと話すと、二人は驚きの表情を見せた。
製作方法は企業秘密だと言うと、だろうねと言う表情を向けられる。
二人曰くこれだけの高品質の品は熟練の職人でも難しいと話す。どうやらダジュールの技術的に不足している部分があるとかなんとか。難しい話はよくわからないので話半分で聞いていたが、突然ハワードがケイの手を取り店を開いてみないかと打診してきた。
「悪いけど、今回はたまたま参加しただけだ。そもそも経営するには学がないし、何より冒険者の方が性に合っている」
「そうか~少し勿体ない気はするが無理強いはしたくない。それに各マスターのお墨付きのようだし、こちらとしても何かあれば力になるよ」
お墨付きというワードにケイが疑問の表情を浮かべる。
どういうことなのか尋ねてみると、二人は少し前からケイ達の店の様子を見ていたようで、薄茶色の髪の毛の男性は鍛冶ギルドのギルドマスターで、その後におともを連れた初老の男性は錬金術ギルドのギルドマスターだと話す。
「じゃあ、これの意味って知ってるか?」
「これは『最高位の勲章』だね」
「なんだそれ?」
「生産系のギルドに所属しない人に贈られる勲章だよ。それがあれば生産系で何か困ったことがあったら手を貸すよっていうものだよ。僕もギルドの代表になってだいぶ経つけど、この勲章を二つも持っている人間は初めて見るよ」
どうやらこの勲章を授与される人は十年に一人いるかどうからしい。
そこから本格的に始める人もいれば、プレッシャーに負けて辞めてしまう人もいるそうで、それが二個となると相当の腕前でなければあり得ないそうだ。
代金が支払われ品物を渡す際に、ハワードはもし気が変わったらギルドに足を運んでくれとケイに語った。今のところ予定はないがもし変わったらなと返すと、君たちだったらいつでも特別に売買の話なども聞こうと言い、隣にいたヴィアンネが職権乱用です!といった目線をハワードに送る。
ケイ達は、ほどほどにな~と思いながら大荷物を抱えた二人を見送った。
そしてここからは怒濤の嵐だった。
どこからか、三大ギルドマスターがやってきて大絶賛を送った露店があるという噂が流れ、ケイ達の出店にはたくさんの人が押しかけてきたのだ。
各ギルドマスターがいうことに間違いはないというような様子で、品物を我先にといわんばかりで取り合う人々をケイとアダムが押さえ、商品の受け渡しをシンシアとアレグロが行う。タレナとレイブンはお金の勘定を担当し、一つの商品にその日の稼ぎをつぎ込む輩も出てきた。
それを隣で呆然とみていた靴磨きの男性を再度巻き込み、慌ただしいなか時間だけが刻々と過ぎていく。
「つ、疲れた~~~」
日没の少し前にケイ達の店はめでたく完売した。
最後の客を見送った後に、あまりの忙しさにその場で腰を下ろしたほどだった。
「いや~売れた!売れた!」
「こんなにハードだとは思わなかったわ~」
「早く宿に帰りた~い」
ケイとアレグロとシンシアが満身創痍でその場に伏している横で、タレナとレイブンとアダムがその日の集計を行う。正直途中で来た三人の男性達だけでも0の桁がだいぶあるのは予想はしていた。
「ケイ、集計が出たぞ!」
「どんだけあった?」
「全部で2,500,000ダリになりました」
アダムの呼び声に飛び起きると、続くタレナの言葉に三人が豆鉄砲を喰らったような表情に変わる。聞き違いかと思い再度聞いても桁が変わらず、その内訳を聞いてみると三人のギルドマスターがそのほとんどを占めていたようだ。
三人のギルドマスターの合計が1,110,000ダリで一般客からはトータルで390.000ダリ。そこに錬金術のギルドマスターからおまけで受け取った代金込みでその金額とのこと。さすがにそこまで想定していなかったのか、脱力した様子のケイにアダムがやっと真価がわかったかといった表情を向ける。
「でも白金貨の方は分けることが難しいので、そちらはケイさんの取り分になるかと思います」
「ということは、その分を除いた金額は合計1,500,000ダリになるから一人あたり250,000ダリになるな」
レイブンが計算をし、一人当たりの金額を割り出す。
冷静に考えると、一日で一人当たり250,000を稼ぐというのは相当なことである。
ましやバザーで百万を超えることなど滅多にない。それを軽々とこなすケイは改めて自分は異質なのだと痛感した一日だった。
「そうだ!おっちゃん、手伝ってくれてありがとう!これおっちゃんの分な!」
店じまいをし宿に戻ろうとした時、隣に座っていた靴磨きの男性にケイが自分の取り分である金銭を男性に手渡そうとした。
男性は自分は手伝っただけで貰う資格はないと辞退したが、忙しい時に手伝ってくれたんだがら正当な報酬だといって男性の手に握らせる。それにケイには白金貨分の報酬があるので、250,000ダリを渡したところでなんも問題はない。
最後までケイ達の動向を見ていた男性は素直にそれを受けとり、ケイ達の姿が見えなくなるまでずっと頭を下げ続けていた。
余談になるが、後にその男性はそのお金を元手に夢であった小さいながらも靴磨き屋を始めることになった。たまに来る常連客には、ケイの存在が自分の人生を大きく変えたし、感謝をしてもしきれないと語っていたとか。
ちょっとの親切で人の人生が変わるとは、世の中何が起こるかわからないといったところだろう。
これがきっかけで、またもや目をつけられることに!?
今後のケイはどうなっていくのでしょうか?
次回の更新は1月10日(金)です。




