119-1、バザーがしたい(前編)
今回は、毎年恒例の大バザーに参加することに!
どんなことが起こるのかな?
前編です。
みんながギルドの掲示板で依頼を選んでいる間、スマホでヴィンチェ・ベルセ・ナットに新年の挨拶を送っていた時の事だった。
受付の隣の掲示板にこんな張り紙がされているのを見つけた。
今年も大バザー開催決定!
駆け出し職人も趣味で製作している人もみんな集まれ!!
受付:王都アルバラントの商人ギルド
会場場所:王都アルバラントの中央広場
日時:年始めの第二週目
「大バザー?」
「毎年恒例イベントのひとつですよ!」
受付嬢のミーアがニコニコしながらその張り紙を見遣る。
どうやら毎年行われる催し物のひとつらしい。
年始めの二週目に行われる大イベントとあって、生産職がもっとも力を入れているそうだ。そんなものもあるんだと思っているとアダム達が戻ってきて依頼中止を訴えた。
「ケイ、今日は止めにしよう」
「いいのなかったか?」
「やはり年始めとあって出が悪い」
「まぁ仕方ないか~」
年始めとなると魔物の活性が極端に減少するため、討伐依頼がほとんどない状況で受けられる依頼も出回っていない状態らしい。仕方がないので宿に戻ってゆっくりしようと思った時、ケイは先ほどの掲示板を指さしみんなに提案をした。
「なぁ、これって俺らでも参加できるのか?」
「毎年恒例の催し物か?」
「たぶんできると思うけど、生産職の一大イベントのやつよね?」
アダムとシンシアが首を傾げ、参加したいのかとケイに尋ねるとちょっと興味があると答えが返ってくる。
「正直な話、俺の能力が世間のどの程度なのか気になるんだよ」
ケイはエンチャンターの称号を持っており、過去に創造魔法と合わせた規格外の性能が誕生している。アダム達の武器がそれにあたるが、世間一般とどの程度違うのか正直把握していない。もちろん一般の道具屋や武器防具屋に足を運んだことがあるが、アーベンやアルバラントの一部しかないため標準がわからない。
その横でアダムが、お前以上のやつなんてそうそういないよといった表情を向けているが、それがケイには伝わらない。
「ケイ様、それならやってみたらどう?」
「生産職がメインでも、趣味で作った物を売りに出している人も見かけたことがあるから、問題はないんじゃないかな?」
アレグロとレイブンが気になるなら一度やってみたらどうかと後押しをする。
どうやら一般人でも参加料を払えば出店が可能らしい。いつも露店などでみかけるものと何が違うのか聞いてみると、通常開かれている露天には設定金額に上限が設けられているそうで、それを破ると商人ギルドから注意を受け、それでも破ると資格剥奪に全ての店舗の利用を禁止されるらしい。なんともヘヴィーな罰である。
それが年に一度の大バザーでは上限を好きに設定できるとあって、駆け出しの生産職を中心に目の色を変えている。もちろん、一般の趣味程度で製作している人達も参戦しており、彼らも毎年行われる行事に力を入れているそうだ。
「やると決めたら、さっそくアルバラントに行ってみるしかないな!」
出店にはアルバラントの商人ギルドに受付をしなければいけないそうなので、善は急げという言葉通り、ケイ達はすぐさま王都アルバラントへと足を向けた。
「はぁ~やっと受付が済んだな~」
「結構待ったわよね~」
「さすが一大イベントとあって人が多かったぜ~」
王都アルバラントに到着したケイ達は、その足で商人ギルドに赴いた。
商人ギルドにやって来ると、予想通り今回のバザーの参加者とおぼしき人達で溢れていた。長蛇の列と長時間の待ち時間を得てようやく受付が済んだのは、日もとうに暮れた頃だった。
ケイとアダムとシンシアが受付を人数分行い、満身創痍で宿屋に戻るとアレグロとタレナとレイブンが先に宿をとり、夕食のため人数分の席を確保していた。
「遅かったわね」
「お帰りなさい」
「やっぱり混んでたかい?」
「混んでるどころじゃなかった。超~疲れた~」
三人が席に着くと、やっぱりという表情で苦笑いを浮かべる。毎年受付するにもあんな思いをするのかとケイ達は自分たちとは熱が違うなと改めて思った。
「ところでケイ様、出店は何日間行う予定なの?」
「とりあえず初日の一日だけ、なんか幻の出店なんてロマンあるだろう?」
ケイに言われたアレグロが首を捻る。
大バザーは一週間の日程で行われるが、ケイ達が出店するのは初日の一日だけ。
そもそもお金を稼ぎたいという欲求があまりないので、何日もやるつもりがないらしい。アレグロはケイ様なら億万長者になれそうなのにと述べると、レア感を演出したいと五人にとっては理解出来ない説明を述べられる。
「それより、何を出店するかは決まっているのかい?」
「そこなんだよな~結局、出店って何を売ってるんだ?」
レイブンが質問を投げかけると、決まっていなかったのかケイが首を捻っている。
バザーというのはピンからキリまで様々なものが売られている。極端な話、家庭で不要になったものも売られているため、よほど酷い物でなければなんでもありらしい。
「そうだな~、家族連れも少なからずいるみたいだから食器類はどうだい?」
「女性も来るみたいだから、手作りのアクセサリーもいいわね!」
レイブンとアレグロが案を出す。
バザーには家族連れも見かけることから、そういったものも買い付けることがあるそうだ。アレグロからは女性が目を引くアクセサリーを提案した。こちらも乙女心をくすぐるといった風にあっても問題はないんじゃないかということらしい。
「生産職といえば、冒険者用に各種ポーションなんかあったら嬉しいかもな」
「小型のナイフなんていいんじゃない?」
「たしかに!なにかあった時に使えるのは嬉しいな!」
アダムとシンシアは冒険者用のナイフとポーション類も提案した。
こちらは駆け出しの生産職が製作することから、質は落ちるが市場で出回る物より何割か安いそうだ。それを狙って駆け出しの冒険者達が足を運んでいると言っていた。
「ケイさん、なにを売りましょう?」
「う~んそうだな~、一度全部作ってみるのもありかもしれないな~」
注文された食事がやってくると、さっそく手をつけながら思案する。
みんながいろいろ提案してくれたおかげである程度情報が集まったため、この際全部作って売ってしまおうと考える。
まさかこれが、二日後に始まる大バザーの歴史的一幕になろうとは夢にも思わなかった。
大バザーの初日を迎えた朝。
雲一つない青空の下でケイ達が中央広場に足を向けると、早朝にも関わらず多くの人がひしめきあう姿がみえる。おそらくそのほとんどが場所取りの名目で早くからやってきた人達なのだろう。
レイブンの話によると、過去に趣味で作った物がお偉いさんの目に止まり、のちに大金持ちになった人の話を聞いたことがあると言っていた。そうなると、ここにいる人達の何割かは棚からぼた餅的な偶然を期待しているのかもしれない。
「やっぱり中央になると人がすぐに埋まるのね」
「みなさんいい場所で自分の物をアピールしたいのでしょう」
アレグロとタレナが中央の争奪戦に目を丸くさせ、それを横目にケイ達が向かった場所は広場の北西にある人目につかない場所だった。
ケイ曰く、隠れ露店なことがしたいらしい。
そこに向かうと既に先客がいたようで、靴磨きの中年の男性が座っていた。
「なぁ、ここ空いてるか?」
「あぁ。空いてるよ」
ケイ達は男性に了解を得ると隣にシートを広げ、そこに食器やポーション類、などの日用品や装飾品を並べ出した。
「ケイ、看板はどこにに置くんだ?」
「それはシートの前に置いてくれ」
「わかった」
アダムが木製の自立式看板をシートの前に置く。
看板には『一日限定!幻の露店・あきんど』と記されている。
「ケイ、あきんどってどういう意味なの?」
「あきんどっていうのは、俺の国の西の言葉で『商人』を意味するんだ」
出店を行うにあたってやっぱり店名が必要だろうと考えた結果、昔読んだ漫画で主人公がつけた店の名前をそのままこの露店の名前にした。
シンシアは、シンプルだけどちょっと興味が惹かれる名前ねと答える。
売りに出す物は全てケイが創造で作製した物で、特に食器は白い陶器や耐熱ガラス製の品を中心に売り出すことにする。もちろんスプーンやフォーク、ナイフなどは錆に強いステンレス製や高級感満載の銀製を作り、わずかではあるが砥石つきの包丁も揃えている。
アレグロが提案した装飾品は、スワロフスキーをイメージして創造した一級品のような輝きを持つアクセサリーにしてみる。自分自身装飾をほとんどしないので、女性陣の意見を参考に、ネックレス・リング・ブレスレットを作製。おまけに、子供用に動物をデフォルメしたようなキーホルダーを五種類作製してみた。
アダムとシンシアが提案した冒険者用のナイフとポーションももちろん揃えた。
ナイフは特殊加工と切れ味低下と劣化を無効にするエンチャントも施し、ポーションは回復以外にも各状態異常を改善する物も揃えたが外に置いておくと劣化するので、見本用に並べる物については劣化を防ぐために特別なエンチャントを施して置いておき、客からほしい本数を言われた時だけアイテムボックスから取り出す手法をとる。
ちなみにちょっとした良心で救急セットもいくつか作って置いた。
これは回復魔法が使えない人達向けに作製された物で、回復薬以外にも軽い怪我であれば包帯や三角巾などの止血用も入っている。
シートに並べられた品々を、隣にいる靴磨きの男性が目を丸くして見ている。
「兄ちゃん達、そんなに作ってもここは人通りが少ないから意味がないぞ?」
「別に構わない。ここの存在を知って買いにくる人だけ相手にするから」
「お、おぅ・・・」
別に売れたいとか有名になりたいとかの欲がないので、男性の目からしたらケイ達が異質に見えたのだろう。
一時間ほど経過した結果、家族連れやカップルが食器類と包丁数本、アクセサリーがいくつか売れた。そのなかで女の子を連れた家族は、動物のキーホルダーがいたく気にいたようで全種類購入してくれた。
支払いの際に価格を客に決めて貰うスタイルを取ったので、その子の両親が驚きの表情でそれでいいのかと逆に問いかけられた。正直、相場がわからないので決めて貰った方が早いというケイの考えだったが、その子の両親は五種類のキーホルダーに1.000ダリを支払った。大体一つ200ダリが相場なのだろう。
もっと安くてもいいよと言ったが、その子の両親曰く、どれも質の良い物だからもっと払ってもいいという人がいるかもねという言葉を述べる。
それからさらに一時間が経った、
ケイはお腹が空いたのか鞄からリンゴを取り出すと商品の一つであるナイフを手に取り、器用に皮を剥きはじめた。
「ちょっと、それ売り物じゃないの!?」
「実演がてら性能を披露しているからこれでいいんだよ」
剥いたリンゴを六等分に切り、シンシア達に与えると自分もリンゴを咀嚼した。
人目につかない場所と言っていたが、少し前から人通りが多くなってきたようで商品を購入しようか迷っている客もちらほら見かけるようになる。
別に買っても買わなくてもどっちてもいいケイ達は、時間が空くようだったら他の露店を見に行こうかと考えていた。
「すまないが、そのナイフを見せてくれないか?」
その時、ナイフを持ったケイの前に薄茶色の髪をした男性がやって来た。
五十代ぐらいの男性は、190cmある身長に身体を鍛えているのか腕が太く全体的にガッチリしている印象を持つ。ケイがそこに並べてあるヤツが持っているヤツと同じだと伝えると、その男性はその一本手に取り、食い入るように見つめ始める。
男性はナイフの刃をいろんな角度から見つめた後、自分の爪の先にナイフを当てて軽く引いた。切れ味が良かったのか、爪の先にわずかだが切れ込みが入っている。
「素晴らしいナイフだ。これは誰が?」
「ここにある物は、全部俺が作った」
「この技術なら鍛冶ギルドのトップをはれるぞ?」
「いやいや。今回たまたま作っただけで本職にするつもりはないよ」
男性からギルドに所属しているのかと尋ねられたので、ただの冒険者だと答えると実に勿体ないと声をかけられる。男性は少し残念そうな表情をしながら、ここにあるナイフをいくつか購入したいと申し出た。
ケイは客に値段を決めて貰っていると話すと、男性は少し考えてから鞄から硬貨が入った麻の小袋を手渡す。
「このナイフを十本くれ。値段は全部で300,000ダリで頼む!」
男性の言葉にケイ達が度肝を抜いた。
通常ナイフの相場は高くても一本1,200ダリで、ケイのナイフは一本30,000ダリと考えるとそこまで価値があるのかと考え込む。
「ナイフ一本30,000ダリだけどいいのか?」
「俺は、それ以上の価値があると思っている」
「理由は聞いても?」
「これには特殊加工がしてある。切れ味低下と劣化の無効といったところか」
それを聞いたケイが目を細めた。
警戒されたのだろうと感じた男性は、自分は鍛冶専門職の上層部の人間だと内緒で教えてくれた。どうやら弟子が今回のバザーに出店しているようで、お忍びで視察に来たらしい。
ナイフ十本を丁寧に包装し、麻の手提げ袋に入れてから男性に手渡した。
別れ際にもしやる気があるようなら鍛冶ギルドに来てみるといいと言い、金色のハンマーの形をしたバッチのようなものをケイに手渡した。
「ナイフ一本30,000ダリって、金銭感覚どうなってるんだ?」
「職人といえば、質のいいものならいくらでもお金を払うって聞いたことがあるがさすがにこれは想定外だったな~」
去りゆく男性の後ろ姿を見つめながら、ケイとアダムが不思議そうに首を捻った。
バザーで値段を客に決めて貰うなんてなんて斬新なんでしょう!?
次回!さらなる快進撃が巻き起こる!?
次回の更新は1月8日(水)です。




