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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
122/359

特別編 新しい一年

皆さん新年あけましておめでとうございます。

2020年も細々とマイペースに活動していきますので、よろしくお願いいたします。


今回は特別編として年初めの過ごし方の話になります。

アウラの日の翌日。

起きてきたシンシアが宿屋の一階に下りると、アレグロとタレナがコーヒーを飲んでいる姿が目に入った。どうやらシンシアを待っていたようで、声をかけてからアレグロの隣に座った。


「アレグロ、タレナ、おはよう」

「おはよう」

「おはようございます」


眠気覚ましに、マリーからコーヒーを受け取り一口含む。

そういえば、朝から男性陣三人の姿が見えないことに気づき二人に尋ねてみる。


「そういえばケイ達は?」

「三人ならアダムの借家に行ったわ」

「シンシアさんが起きたら来てくれと言われました」


どういうことなのか疑問を浮かべるが、どうやらケイが何かを思いついたようで二人を連れて先に行ってしまったらしい。またよからぬ事を考えているなと思いながらも、新しい一年の始まりを運ばれてきたパンと野菜スープと共に迎え入れる。



シンシアの朝食がすんだところで、三人はアダムの家がある町の西側にむかうことにした。


宿屋の扉を開けると、冷たい海風が身体を掠める。

アウラの日の翌日は魔素が薄くなり、大気中の濃度が下がると同時に大陸中に強い寒気が吹き込んでくる。中央大陸は年間を通して気候は穏やかな方だが、毎年この日ばかりは身の縮こまる思いをしなければならない。元々極寒の地であるフリージアほどではないが服装的には厳しいため、少し後悔しながらも一日を過ごすことになる。


三人は口々に寒いと言いながら、アダムの借家に足を向ける。


借家がある西側には、アーベンでは一般的な二階建ての木造建築が建ち並ぶ。

柱の部分である骨組みは強度の強い焦げ茶色の木が使われ、側面は耐熱性や錆に強い特殊な加工を施した木材を使用している。


アダムの家は海側にある二階建ての家で、Bランクの冒険者にしては質素な印象を持つ。前に来たことのあるレイブンによると、もう少し広い家の方がいいのではと聞いたところ、前にお世話になった先輩が冒険者を辞めるから代わりに使ってもいいと言って家賃を格安で譲ってくれたと述べる。ここには五年ほど住んでいるようで、しばらくは変える気がないなどと話していたそうだ。



「アダムーいる?」


アレグロが扉を叩くと、中からいつもとは違った普段着姿のアダムが顔を出した。

ケイとレイブンは、すでに中にいるようで三人を招き入れる。

アダムが住んでいる借家は、一階がキッチン兼リビングルーム、二階が寝室と一人住まいとしては十分な広さの間取りとなっている。


「ケイ!シンシア達が来たぞぉ!」


アダムが奥にいるケイに声をかけると、なんとも気のない返事が返ってくる。

何をしているのやらと不思議に思っていると、左側にあるキッチンの方からレイブンがいくつかの料理を手に現れた。


「シンシア達も来たようだね」

「三人共、本当に何をしていたの?」

「奥に行ってみればわかるよ」


レイブンに言われアダムが奥に案内すると、その衝撃的な光景に三人が目を丸くした。


リビングの中央に、見たこともない厚みのある藁のような材質の床に厚みのある布がかかっており、その上に板の様な物がのっている。

ケイはその中に身体を半分入れながら、恍惚とした顔で板の上に顔を乗せており、板の上にはカゴの中には小ぶりのオレンが入っている。


「・・・で、これは何?」

「“こたつ”だよ」

「こたつ?」

「日本で使われている寒い時に欠かせない暖房器具のこと。レイブンからアウラの日の次の日はとんでもなく寒いって聞いて、アダムの家に創って置いてみた」


ケイは全員に立ってないで、靴を脱いで足を入れたらどうだと言った。


アダムとレイブン一度入ったのか床に座り足を入れるが、三人は初めて見る得体のしれない物に戸惑いながらも同じように靴を脱いで座ると、恐る恐るその中に足を入れた。


「あら?暖かいわ!」

「不思議ですね~」

「たしかに今日みたいな日なら欠かせないわね」


女性陣三人も好感触のようで、足元から来る暖かい熱に虜になりつつある。

レイブンが酒のつまみ用のチーズやささみのような物などをこたつの上に並べ、ケイが創造したであろう箸でつまんで口の中にいれる。


「ケイさん、このこたつの下に敷かれているものはなんですか?」

「あー、これは畳と言って稲藁を圧縮して縫止めして作られている床材だ。これも本来は日本で使用されているもので、専門の職人が手作りで作っているんだ」

「こたつが暖かいのはなんで?」

「おれが作ったのは火属性の魔石を下に組み込んでいるんだ。これは俺の国では電気というものを使って暖めてるんだけど、この世界にはないからな」


こたつ作製にはケイの若干のオリジナリティーがあるが、日本のそれとほぼ変わらない。シンシア達が来ることを想定していたので、本来のこたつの大きさより少し大きめで全員が足を伸ばして座れる。


レイブンの料理に舌鼓を打っていると、アレグロが不思議そうな顔で箸を持つ手に注目する。ケイが使ってみるかと尋ねると持ち方がわからないわといい、教えてやるよと言って人数分の箸を創造した。

五人に箸のお持ち方を教えると、タレナとレイブンは正しく持つことができたが動かしたことのない動きだったため、人差し指と中指に挟んでいる方に四苦八苦している。他の三人も初めて子供が持つようなクロスさせるような持ち方で難しい顔をしている。


「よくこれで持てるわね」

「俺の国では小さい頃から教えられているから、気にしたこともない」


ケイはレイブンが作った餡がかかった豆のような料理に箸を入れ、ひょいと口の中に入れる。それを信じられないといった表情でシンシアが見つめる。


外国人が初めてそれを見るような顔を異世界で見られるのは新鮮だった。


アレグロが練習用にほしいと言ったのでそのまま全員にやると言うと、彼女はなぜか闘志を燃やし、レイブンは練習をするから以前ケイが使っていた菜箸を作ってほしいと言ってきた。

この国では菜箸のような繊細な動きが出来る調理器具が存在しない。

大体はヘラやおたま、トングのような大きな動きの物ばかりで細かい動きの場合はフォークとスプーンをトングの様に合わせて使うらしい。

ケイは、バイキングなどでたまに見かける技法が異世界にもあるんだと感心した。


「そういや、俺の国では正月休みなんていうのがあるけど、この国の奴らはいつ休んでるんだ?」

「正月休み?」

「新年を祝うために設けられている休みのことだよ。もちろん職業や学校などでは休みが長くなったり短くなったりするけど、最低でも年の初めから三日までは全国的に休みになるんだ」

「国民の休日ってことね!そういえばダジュールにはそういったものはなかったような気がするわ」

「大陸ごとに建国記念日が設けられていますが、国を祝うためのものであって休みになるという概念はなかったと思います」


五人の話によると、ダジュールでは建国記念日というものはあっても国を挙げて祝う日のことで休みという概念はないそうだ。そう考えると、アウラの日の翌日に町はいつも通りの姿をしていたことに納得する。


それとアダムとレイブン曰く、冒険者になって長いことやっているがこのパーティになってから休みが多く感じられると述べる。

冒険者は年中無休の職業であって、その日暮らしの代わりに休みというものが存在しない。休んでしまうとその日の稼ぎが一円も入ってこないので、休みに休めないといった感じである。異世界版ブラック企業か?などと思ったが、普通に起業している人を考えるとそれもそうかと思い直す。


休みが多く感じられる原因は、実はケイの財力のほとんどをパーティのために使っているからである。


といってもケイ自身が使う必要性を感じないため、アレサから貰った所持金もほとんど手をづけずに置いてある状態で、自分は使わないからこれをお前らにやると言って手渡した時には、あまりの金額の多さに五人が顔面蒼白になったほどだった。


現在はケイの言葉に甘えつつ、自分たちの物は自分たちでアレサから貰った所持金はパーティのために工面しながら、ありがたく利用させて貰っている状況なのである。


「ケイって横柄なわりには気前とか配慮がいいわよね?」


シンシアからそう言われ、美味しい料理を口にしながらケイがそちらを向く。


依頼をした次の日は必ず一日休みを取り、大きな依頼の時は三~五日ほど休みをとるなど冒険者らしからぬペース配分のため、最初は戸惑った五人も徐々にそれになれたのか、休みの日は思い思いの過ごし方を出来るようになった。


ケイ曰く、休みのない仕事はしたくない!というジャイアニズム的思考だったが、それが他の五人にもよかったのか、今まで以上に充実した気分で過ごすことが出来たなどと口にし、それを聞いたケイは、褒めてもなんもねぇよといった表情で持参した果汁酒を手に言い返す。



新しい年も仲間と共に過ごしていけたらとケイは内心そう思っていた。

自分の好きな伊達巻やカズノコを口にしながらこの話を書いてみました。

皆さんはどんな過ごし方をしているのでしょう?


次回の更新は正月休みのため、1/6(月)から投稿いたします。


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