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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
121/359

118、アウラの日

今日で2019年が終了します。

みんなやり残したことはないかな?

今回は少し短いですが、一年の締めくくりのお話になります。

「もぉ、生きた心地がしなかったわ!」


国王達が去った後、緊張からかシンシアがそんな言葉を口にした。

ケイは親しみやすかったぞというと、こっちは不敬罪で捕まるんじゃないかって気が気じゃなかったと抗議が上がる。確かにガイナールのような懐が広い人間ばかりではない。中には逆上して襲ってくる貴族達もいるようにそれはケイも理解している。しかし初めて会う人物なのに、なぜか親しみを感じたのは気のせいだろうかと自問する。


空を見上げると茜色が一面に広がっていた。

知らない間に時間がだいぶ経っていたようで、あっという間だったなと感じる。


思えば、ダジュールに飛ばされてから九ヶ月ほど経っている。


今まで構築された生活がガラリと変わり、ケイも多少なりとも不安がないことはない。しかし嘆いていてもしかたがないので新たに生活を確立した結果、アダムをはじめ、シンシアやレイブン、アレグロとタレナなどいろいろな人達に会うことが出来た。人生何があるかわからないな・・・って人生一度終わってたっけ、などと考え一人笑みを浮かべる。


「そういえば、今日は『アウラの日』でしたよね?」

「アウラの日?」

「一年に一度、魔素の関係で夜空の色が変わる日のことです」


タレナが口にした『アウラの日』とは、ダジュールではごく普通に起こる現象のひとつだという。年に一度、世界中に漂う魔素の濃度が高くなり、空気圧と交わることにより霧散する時に色が発生するらしい。

主に山などの高度にある魔素がその現象を発生させるため身体に影響はないが、国によって色が異なるため、毎年様々な場所で大いに盛り上がる。


ちなみにその日が、ダジュールでは日本でいうところの大晦日にあたるそうだ。


「そういえば、中央大陸って全部の色が見られるのよね!」

「色?」

「実は国によって見える色が異なるんです」


どうやら国によって空の見える色が異なり、赤はルフ島、橙はマライダ、黄はウェストリア、黄緑はバナハ、青はフリージア、緑はエストア、紫はダナンと違って見えるそうで、唯一中央大陸のアルバラントだけが七色に見えるそうだ。


「アダムは七色の空を見たことがあるんでしょ?」

「え?まぁな」

「どんな感じなの?」

「う~ん・・・虹みたいな感じかな?」


唯一、アーベンに長く住んでいるアダムにアレグロが尋ねると、こんな言葉が返ってくる。夜空に虹が架かるようなものなのだろうかと想像してみる。


そういえば今日は朝から町が賑やかだなと感じていた。


昼間なのに大の大人達が路上でテーブルや椅子を持ち寄り酒を酌み交わし、子供達は町のあちらこちらを走り回る。一年を締めくくる日に、みんなが浮き足立っているそんな印象を抱く。



宿屋に戻り夕食を取ろうとした時、配膳していたマリーがこんなことを尋ねた。


「そういえば、ケイはアウラの日の空をを見たことがあるのかい?」


見たことがないと首を振ると、人生損してるよとカラカラと笑いながら運ばれた料理がテーブルに置かれ、年に一度の特別な日だから大陸中が華やかになるしみんな浮かれているんだよと続ける。


「なら一度は見た方がいいよ。中央大陸だけが全部の色を見られるからね」

「そんなに凄いのか?」

「凄いどころじゃないよ。圧巻だよ!圧巻!しかも今年は特別だからね!」

「特別?」

「ナグム流星群のことだよ」


疑問を浮かべているケイにレイブンが補足を加える。


ナグム流星群は二十年に一度だけアウラの日にしか降らない流星群で、夜空と相まって幻想的な風景が見られるんだと教えてくれた。

マリーが若い頃に見た時、興奮して二~三日眠れなかったよと懐かしそうに語る。


それだけこの国の人達は、この特別な日を楽しみにしていたのだろう。



食事を終えたケイ達がさっそく観に行こうと外に出ると、そこには七色に輝く空が広がっていた。


本来であれば夜空が浮かんでいるのだが、様々な色が入り混じったまるでオーロラのような幻想的な光景に思わず声が出る。七色の空の中には満点の星空と月が浮かんでおり、それも相まってより非現実的な気分を引き立たせる。


周りには、大人も子供も空を見上げている光景が目にとまる。

やはり一年を締めくくる日とあって、お祭りを楽しんでいるように子供達は駆け回り、大人達は酒を片手に愉快そうに笑い合う。


ケイは、夏祭りの光景の様な懐かしさを感じた。


「アウラの日にはもう一つ、見所があるんだ」


突然、アダムがそう提案した。

何かと思い尋ねると、行ってみればわかるといい港の方へと向かっていく。

ケイ達は疑問を浮かべながらも、アダムの後について歩いて行った。


「こういうことだったのか!」

「これなら納得ね!」


アダムについて歩いた先の港には、一面七色が広がっていた。

空の色が海に反射して辺り一帯が七色に輝き、水面には月や満点の星空も浮かんでいる。これにはケイとシンシアをはじめ、全員が思わずため息を洩らす。


「空も海も七色に見えるのは、ここ、アーベンだけだよ」


こちらを振り返りどうだと言わんばかりに笑みを浮かべ、五人も一本取られたなという顔をしながら笑みを返す。

辺りをみると、観光客とおぼしき人々が口々にため息や歓喜の声を上げている。


「ねぇ!見て!」


アレグロが空を指さすと、満点の星空の中から流れ星のようなものが横切った。

ひとつふたつと流れていき、徐々にその数が増えたかと思うとスコールのように流星の雨が降り注ぐ。それと比例して周りの歓声が大きくなり拍手を送る者も出てくる。


「これは凄いな!」

「二十年に一度だっけ?マリーが言うのもわかるわ~」


流星群は、アダムとレイブンが幼少の頃に一度見たことがあると話す。

しかしアウラの日に流星を見ることなど早々ないことから、二人も少年の時のように空を食い入るように見上げている。


「ん?おい!アレ、でかくねぇか!?」


ケイが指した先に、他より二回りほど大きな流れ星が七つ流れてくるのが見えた。

その色は、それぞれ赤・橙・黄・黄緑・緑・青・紫と鮮やかな光を描きながら流れていく。


「あれはザファ彗星じゃないか!!」

「ザファ彗星?」

「百年に一度しか流れない彗星だよ。七つの彗星が大陸を横断するんだ。でも、まさか生きている間に見られるとは思わなかったよ!!」


声を上げたレイブンがそう説明をする。

彼自身も本でしか存在を知らなかったようで、本物を見たことによりだいぶ興奮しているようにも見える。

周りもザファ彗星が見られるとは思わなかったようで、歓声のなか興奮のあまり泣き出したり祈り出したりしている人も見かける。


「まさかアウラの日にナグム流星群とザファ彗星がみられるなんて、思っても見なかったわ!」

「貴重な体験になりましたね」

「一富士二鷹三茄子ってやつか~」


感激するアレグロとタレナの横で、思わず日本的な言葉を口に出すケイ。


「何よそれ?」

「日本では、年の初めに見る夢に富士山っていう山と鷹とナスが同時に出ると縁起がいいって話があるんだ。あと、流れ星が流れている間に三回願い事をすると叶うという話もある」


その言葉を聞いたからか、ケイ達の後ろにいた一組のカップルの男性の方が、流れ星に向かって手を組んでブツブツと何かを呟いている。そちらを見ると、女性の方が気まずそうにケイ達にペコペコと頭を下げた後に男性の脇腹を捻り上げ、あまりの激痛に男性がその場に崩れ落ちる。なんか悪いこと言ったかなと思ったが、まぁあくまでも噂だからなと独り言のように口に出した。


「今年ももう終わりか~」

「なに感傷に浸ってるんだよ」

「いいだろ!別に~」


アダムがこの光景を目にしたのかそんなことを口に出した。


思えば、パーティを結成するきっかけとなった彼との出会いも衝撃的だった。

コカトリスのせいで危うく死にかけたところを、ケイが助けたことが昨日のように感じる。今では振り回わされるキャラとなっているが、面倒見がいいのか最初の方は結構強引な部分もあったが、あれがなければ今のパーティはなかっただろうと思う。そう思うと、出会いって異世界でもわからないものだなと感じる。


仲間達と話したり考えあったり感情を出したりといろいろと考えると、ガラにもなく少しばかりセンチメンタルになってしまう。


冷静に考えると、この九ヶ月は怒濤の日々だった。


まさか大学生になる前にわけのわからない亡くなりかたをするなんて誰が想像しただろうか。前世から今生(?)の間に関しては九割九分メルディーナが悪いが、今更いっても仕方ない。



その代わりに新しい生活で出会った人々の縁は今後も続くことを願い、一面に広がる幻想的な光景を前にケイは感慨深い表情で見つめていた。

今年もお世話になりました。

来年も異世界満喫冒険譚をよろしくお願いいたします。


次回の更新は、特別編として1/1(水)の午前中に更新します。

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