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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
120/359

117、国王がやって来た

今回は、意外な人物がケイ達の元を訪れます。

果たしてケイ達の運命はいかに!?

「ちょっと、あんたらいいか?」


とある日の昼下がり、ケイ達が依頼を終え冒険者ギルドで討伐した魔物の素材換金を待っている時のことだった。


一人の冒険者の男性がケイ達に声をかけてきたのである。


どうやら表に貴族の馬車が止まっているそうで、そこから執事らしき男が現れ、パーティ・エクラの所在を聞かれたらしい。男性は先ほど中で見かけたと伝えたところ待っているので伝えてほしいと伝言を受けたそうだ。


ケイ達が礼を言い冒険者の男性が去った後、ケイは深いため息をついた。


Cランクになると指名依頼というものがついて回る。

しかもレッドボアやクラーケンを倒した実績からか、どこぞの貴族が噂を聞きつけ依頼をよこすのである。それを面倒という理由で毎回お断りを入れているのだが、まれに逆上してやって来るヤツも少なからずいる。


素材の換金が終わったようで、買い取り受付担当のブランドが麻の小袋を手に奥から出てきた。彼は参ったなといった面持ちで待っていたケイ達を察して、大変だなと声をかけた。


「また貴族からか?」

「そうなんだよ~勘弁してくれ~」

「しかも表で待っているみたいよ?今回も丁重にお断りするしかないわ」

「ブランド~貴族からの依頼を断つことって出来ねぇのか?面倒くさくてかなわねぇよ~」

「国王になんとかしてくれ~っていったら何とかなるかもな!」


シンシアをはじめケイを宥める仲間の光景に、ブランドは冗談半分に提案した。

それができれば苦労しない!とケイが返すので、よほど嫌なのだろうとブランドは苦笑いを浮かべた。



換金が終わりギルドをあとにしたケイ達は、建物の前に貴族のものおぼしき馬車が止まっており、馬車の外では執事らしき男性が目的の人物を待っているように立っている。


「あれ・・・だよな?」

「そうみたいね」

「ケイ、断るなら早い方がいい」

「わかってるって!」


アダムに急かされ腹を括ったケイが馬車の方に歩み寄る。


馬車は今まで見た物より大きいが、所々の装飾は派手になりすぎず品を残した様式をしている。ドアの中央部には獅子と交差した剣と杖があしらわれているエンブレムの様なものが見える。実はこの時、後ろに居た五人は何かに気づいた様な表情をしたが、ケイがそれに気づくことはなかった。


「パーティ・エクラの皆様ですよね?」

「あぁ。俺らを待ってたのはあんたらか?」

「はい。お初にお目にかかります。私は執事のウォーレンと申します」


燕尾服を着た三十代半ばとおぼしき男性が一礼をする。

顔立ちは整っており、オールバックにした茶色の髪に切れ長の目がクールな印象を抱かせる。


「ウォーレン、彼らは来たのか?」

「はい。今、お開けします」


ウォーレンが馬車の扉を開けようとするやいなや、待ちきれなかったのか中にいた人物が扉を開けた。


中から現れたのは、ウォーレンより少し年の若い男性だった。

端正な顔立ちと清潔感のある切りそろえられた金髪に、よそ行きの服装なのかスーツの様な藍色のジャケットを着用している。


馬車から出てきた人物に道行く人々が足を止め、口々に驚きの声が響き渡る。

ちょっとした人だかりができているため、さすがのケイもただの貴族じゃないなと感じていた。周りの反応がいささか過剰過ぎな気もするが、ケイにとってはまったく知らない人物のため、後ろに居るシンシア達に聞いてみようと振り返る。


「シンシア、こいつ有名人か?」

「えっ?あ・・・え゛ぇー!?」


なぜか五人は、揃いもそろって驚きの声を上げる。

どういうことかわからないケイに、アダムが焦りの表情でこう告げる。


「ケイ!この人、アルバラントの国王だよ!!」

「初めまして、パーティ・エクラ。私はガイナール=レイ・ヴェルハーレン。王都アルバラントで国王をしている」



「へぇ?・・・はぁあああ!??」



ケイは突然の状況に理解が追いつかず、本人からの紹介でようやく把握したのか町中にもかかわらず驚きの声を大にした。



場所は変わっていつも利用している宿屋でのこと。


食事スペースの一角に陣取って座るケイ達と国王一行の様子を、マリーとドルマンおろか食事をしていた一般人が緊張の面持ちで見つめている。ガイナールの近くには護衛の兵士が三人並び、常に周りに目をくばっている。以前も同じようなことがあったが気のせいだろうか?という疑問が出てくるが、厳戒態勢なのでそれどころではない状況だ。


「まさか、本当に国王本人が来るとは思わなかったぜ~」

「ははっ!驚いて貰えると来たかいがあったよ!」


緊張した空気の中ケイとガイナールが互いに言葉を交わす。

以前あった召集話の際に来れるものなら来てみろと言ったが、まさか本人が乗り込んでくるとは思わず、半分顔を引きつらせたケイにガイナールがしてやったりの様な笑みを浮かべる。


「君達の噂は聞いているよ。実力があるのに指名依頼を断ってるって」

「貴族からの依頼のことだろう?あんなの程度が知れてるぜ。自分の護衛にしたいとかアレを取って来いとかさー物の頼み方がなってないって。あんな態度されたらやる気なくす」


ケイの発言にふむぅとガイナールが唸る。

確かにこの世界の貴族は、自分達は格上で偉いと思い込んでいる節がある。

日本には謙虚なくしては人はつかぬという言葉があるが、上に立つ者としては現段階の貴族達はふさわしくないとケイは思っている。まぁ自分のことは棚に上げているところは否めないが今更である。


「あんた国王なら、その辺貴族共に言ってくんねぇかな?」


その発言に護衛をしていた兵達がぎょっとした目でこちらを見る。

仲間の五人もその口調はどうかとヒヤヒヤした表情を向けるが、ガイナールはそれほど気にしていないのか「わかった。対処しておこう」と述べる。


「ところで俺らのところに来てどうするつもりなんだ?」

「どうするって、ただ会ってみたかっただけだよ」

「なんだそれ?」


ケイは水の入ったコップに口をつけながらガイナールの言葉に耳を傾ける。


「実力があるのに、周囲に媚びない冒険者はなかなかいないから気になってね」

「そうなのか?」

「人は権力や力を持つと、横柄かつズル賢くなりがちだからね」


全員がそうなるとは限らないが、少なくともガイナールは立場上いろいろな人間模様を見てきたため余計に痛感しているのだろう。彼の目から見てもケイ達は異質な存在に見えた。何を考え行動して居るのかは把握しかねるが、少なくともバナハやエストア、フリージアにルフ島のトップにはウケがいいらしい。

風の噂で、ウェストリアの大神官のご子息の体質を改善したという話も聞いた。

彼に至っては、ケイの事を密かに恩人であり目標にしている人物と言っているそうで、日夜学問や武芸に力を入れているそうだ。


そう考えると、パーティ・エクラは何も縛られない存在なのかも知れないとガイナールは一人考える。



「そういや、あんたら飯食ったか?」

「いや、まだだよ」

「じゃあ飯作って食うか!マリー!ドルマン!調理場借りるぞ!」


ケイが立ち上がりカウンターにいる二人に声をかけると、二人は二つ返事で了承した。調理場に立つと鞄から小包を取り出し、中を開ける。


「ケイ様、それってさっきギルドで受け取ったやつ?」

「あぁ。トリーヤからブレークを送ってくれたんだ」

「だから嬉しそうな顔をしてたのね!」


少し前にナットから、母親がケイ達宛てにブレークを送ったと連絡を受けた。

ギルド宛てに送ったそうで、それを受け取ったケイは満面の笑みを浮かべたまま鞄にしまう様を、メンバーおろか周りも若干引き気味の表情をしたのはいうまでもない。


小包を開けると、精米された白い米があらわになる。

ナットの話によると、ルフ島でも白いブレークが食べられるようになったのは最近とのこと。精米も棒で叩いたり、土臼のような物で軽く引いたりしているそうだ。

土臼なんてあるのかと尋ねたところ、ナットが自分の記憶を頼りに提案し作製したとのこと。やはり持つべき者は元・日本人である。


「それはブレークか?」

「う゛ぉ!びっくりした!あ、あぁ、知り合いから送って貰ったんだよ」

「それにしても白いですね?」

「ブレークを精米・・・あ~要は表の茶色い部分を削ったらこの色になるんだよ」


ケイ達の横で、いつの間にかガイナールとウォーレンが立っていた。

二人は興味深そうにそれを見つめているので座っていればいいのにと言ったが、見ている方が楽しいといって離れようとしなかったためそのまま放置した。


ブレークをボウルに移し、数回研いでから鍋に移し浸水させる。

目安としては、夏場は30分、冬は一時間だがダジュールには四季がなくあまり関係がないため時間は30分程。


米が浸水している間、持参した卵を使って卵焼きを作ってみた。


といっても卵焼きを作るフライパンがないため、サクッと創造で作製した時のガイナールとウォーレンの驚きようは新鮮だ。

油を敷き、溶いだ卵を流し込みながらクルクルと器用に巻いていく。

菜箸がないためその辺も自分で創造してみたところ、シンシア達から棒二本でなにをしているの?と尋ねられたため、俺の国ではこれで飯を食っているというと驚かれた。彼らにしたら器用に操っている姿が奇妙に見えたのだろう。


そうこうしている間に卵焼きが完成したので、まな板にのせて包丁で一口サイズに切り分ける。


「一個どう?」


菜箸で真ん中部分をつまみ上げ、隣にいたガイナールの口元に向ける。

後ろで見ていた護衛の兵士達は慌てた様子で止めに入ろうとしたが、ガイナールは疑う素振りもせずパクリとそれを口に入れた。


「うむぅ・・・旨いな~」

「味付けは塩しか入れてないけど、まぁまぁかな?あ!先に毒味役、通した方がよかった?」

「目の前で作っているのにする必要はないよ」


自身も試食し、まぁまぁの出来に今更ながら毒味を通してないことに気づく。

やっていることが完全に新婚のそれに近いのだが、周りおろかウォーレンも止めなかったため何も問題ないのだろうと解釈をした。しかしウォーレン以外は、不敬にならないかとハラハラして見守っていた事などケイが知るよしもない。


浸透した米に蓋をし火をかける。

沸騰してから二分そのままにした後、弱火にして三分炊く。さらに弱火で六分炊いた後十秒ほど強火で焦げを作り十分蒸らす。


「わぁ~美味しそうね!」

「初めて鍋で炊いたが、結構良さそうだな」


蓋を開けると同時にほんわりと煙が上がり、炊きたてのブレークが姿を現す。

アレグロが目をキラキラさせながら食べてみたいと催促しているところに、もう一手間とケイが返す。


送られたブレークは大体四合ほど。

小さく握れば全員に行き渡るだろうと思い、炊きたてを別の器に移してから水で濡らした手に塩を軽く振る。


ブレークを手ですくい、三角になるように両手で器用に握り始める。


「あっつ!」

「ケイさん大丈夫ですか!?」

「大丈夫大丈夫!おにぎりを握るのは久しぶりだから焦っただけ」


おにぎりと聞いてみんなが疑問を浮かべるが、自分の国では当たり前に作られる家庭料理だと説明するとみんなが意外そうな表情を浮かべた。


「卵焼きといい、見事な手際の良さだな」

「そうか?俺は料理人の兄貴からならったけど、兄貴曰くまだまだらしい。まぁ本職と比べられてもって話なんだが」

「そうだとしても、自分で料理することは素晴らしいとおもう。君のお兄さんも本当は褒めたかったんじゃないかな?」

「どうだろうね?まぁ、もう本人に聞くことはできねぇけどな」


そう言いながら器用に人数分のおにぎりを作り上げるケイに、ガイナールは聞いてはいけない部分だったのかとそんなことを感じた。


炊いたブレークはオーソドックスな塩にぎりとして完成した。


振る舞った際、握り飯の中に焼いた魚の身をほぐしたものを混ぜたり、野菜や肉を入れたりして食べると美味しいと話すと、今度手に入ったらやってみようとガイナールの護衛達が言っている声が聞こえた。

ブレーク自体は元が家畜の餌だったこともあり、精米にして売り出すには時間が必要で完全に流通するまでにはなかなかいたらないらしい。しかし徐々にではあるがアーベンを中心に広がりつつあるため、ケイは満面の笑みでそれらを頬張った。



「今日は君達に会えて良かったよ」


ガイナール達はそろそろ城に戻ると言って馬車に乗り込んだ。

国王なのにいつまでもフラフラしてたんじゃあ示しがつかねぇよなと返すと、その通りだよと笑い、ウォーレンが調整が大変でしたけどねとガイナールにチクリとさす。


「・・・で、俺らに会った感想は?」

「私の思っている以上の冒険者だよ!」


そう返すガイナールに「褒めてもなんも出ねぇよ」と言い返すと、ふふっと笑みを深める。


「貴族の指名依頼の件は私に任せてくれ。それと、今度城に遊びに来るといい」

「行くのは構わねぇけど、いつ行ったらいいんだ?アポなしだと困るだろう?」

「それなら、迎えをつかわせよう。しばらくはアーベンにいるのだろう?」

「まぁな。しばらくはアルバラントかアーベンのどっちかにいるよ」


それを聞いたガイナールは了承し、彼らを乗せた馬車はアルバラントに向けて走り出した。ケイは、初めて会う人物にもかかわらず何故か違和感を感じていたが、それが何かがわからないまま遠ざかる馬車をただ見つめていた。


国王登場。

次に会う約束をしたケイ達と今後どのような関わり方をするのか?

次回の更新は12/31(火)今年ラストの更新になります。

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