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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
12/359

10、恐怖のマンドラゴラ

ダジュール産のマンドラゴラは食べられます。

今回は、マンドラゴラのお話になります。


『祖父が腰を悪くしたため、

 グリドの丘にいるマンドラゴラの採取をお願いします。

 依頼主:ガレット村 リリィ 報酬 800ダリ』


とある日の朝。

ケイとアダムは、ミーアからアダム指名の依頼書を手渡された。

「グリドの丘ってどこ?」

「ガレット村から街道を挟んでだいぶ北にある小高い丘の事です。別名『悲鳴の丘』なんて呼ばれています」

実に物騒な名前の丘である。

ケイはこの依頼を受けるか、アダムに問いかけようとした。

「アダム大丈夫か?」

「あ、あぁ…問題ない」

口では言っているが、心なしか少し顔が青く見えた。

「受領の手続きを頼む」

「し、承知しました」

元気のないアダムを気にしながらも、ミーアは手続きを始めた。



「はぁ…」

ガレット村に向かう道すがら、アダムは大きな溜息をついた。

「どんだけため息ついてんだよ~」

「そんなにか?」

「今ので5回目」

よく数えているケイ。

「断りゃよかったじゃん?」

「必要とされている限り断ることはできない」

アダムは自分に言い聞かせるように行ったが、村に近づくにつれて顔色が青くなってくるようにみえた。


「あ、ケイ兄ちゃん!アダム兄ちゃん!」

村の入り口に着くと、畑で作業をしていたエルとキャロルが二人に気づき声を掛けてきた。

「よぉ!エル!キャロル!」

「兄ちゃん達どうしたの?」

「依頼でリリィって奴に会いに来た」

「リリィ姉ちゃんのこと?」

「そうそう!」

「オレ知ってるよ!案内してあげる!けど・・・」

エルはそう言ってアダムの方をみた。

「アダム兄ちゃんどうしたの?」

「いや、なんでもないんだ・・・」

エルもキャロルも不思議そうな顔でアダムを見ていた。


リリィの家は村の北側にある小さな家だった。

奇妙なことに家の外には、妙な形の大根らしきものが箱に入れられていた。

「なんだこれ?」

「ケイお兄ちゃん見たことないの?」

「これはマンドラゴラだよ!」

エルとキャロルが教えてくれた。

よく見ると中央に顔らしき物がみえる。

「えっ・・・気持ち悪いんだけど・・・」

「そぉお?」

「えーかわいいよー」

エルとキャロルの意見はケイとは真反対だった。


二人と別れたケイとアダムは、気を取り直して家の扉を叩くことにした。

「すいませーん!依頼で来た冒険者でーす!おじゃましまーす!!」

ケイは、家主の返事を待たずにドアノブに手を掛けて中に入ってしまった。

通常であれば不法侵入である。


「はーい!あっ、依頼を受けた方ですね!」

奥から現れたのは三つ編みをした10代半ばぐらいの少女だった。

「どーもケイです。隣はアダム。」

「リリィと言います。あの~アダムさん大丈夫ですか?」

「あ、いやっ大丈夫。気にしないでくれ」

アダムの顔色があまりよろしくない方向になっている。

「そうですか・・・とりあえず奥へどうぞ」


リリィは祖父と二人暮らしである。

リビングに通された二人は、椅子に座っている高齢の男性をみつけた。

「あんたがリリィのじいさんか?」

「なんじゃいきなり、ワシはトムソン。リリィはワシの孫じゃ」

トムソンは、品も敬う姿勢もないケイに怪訝な表情を見せた。


「で、アダムで指名依頼を頼んだ理由は?」

「はい。以前、村の畑荒らしでお二人が解決したと聞いたので依頼しました」

どうやらガレッド村では救世主扱いになっているようだ。

「ふぅん、まぁいいや。で、マンドラゴラを何に使うんだ?」

「来月、聖都ウェストリアで行われる聖炎祭で、料理として出されるんです」

「えっ、食えるの?」

「スープの具材や野菜の盛り付け、あとそのまま焼いて食べるそうです」

ケイはそれを聞いて一瞬、木の棒に括り付けられ、火で炙られている姿を想像した。

「なんかうまそうじゃないな~」

「私も、さすがにそのまま焼くのはどうかと思いますが」

ケイは、一部調理方法に理解しがたい発言をしたリリィに少し親近感を持った。


「で、マンドラゴラとじいさんとなんの関係があるんだ?」

「祖父はダジュールでも数少ないマンドラゴラ取りの名人なんです」

「それって職業なのか?」

「馬鹿にするでないわぁ!この道一筋50年!ワシはまだまだ現役じゃぞ!」

「おじいちゃんたら、お医者様に安静にしなきゃだめだっていわれたじゃない」


リリィからトムソンはぎっくり腰だと説明された。


「で、マンドラゴラってどのぐらい取ればいい?」

「あと20~30あれば足りるわい」

「じゃあ、さっそくいってみるわ」

「よろしくお願いします」

ケイ達が席を立つと、リリィとトムソンに見送られながらグリドの丘に向かった。



ガレット村から北に向かった先に小高い丘が見えた。

「ここがグリドの丘か~そういや、マンドラゴラってどう取るんだ?」

ケイはトムソンに肝心なことを聞き忘れたことを思い出した。

引っこ抜けば悲鳴が聞こえて気絶する。

名人と言われたトムソンならやり方を熟知しているはずだが、今の今まで頭からスッカリ抜けていたのだった。

「なぁアダム!マンドラゴラの取り方って知ってるか?」

ケイが振り向いた時、アダムがふらっと後ろに倒れた。


「おい!アダムしっかりしろ!」

ケイがアダムの側にかけより、身体をゆさぶった。

朝からおかしいとは思っていたがまさか倒れるとは思わず、ケイは鑑定を使ってアダムの状態をみた。


状態:恐怖 気絶


鑑定結果にはそう記されていた。

「ちっ!一旦戻るしかねぇか・・・」

ケイはアダムを背負うと、ガレット村に引き返すことにした。



「どうしたんですか!?」

「悪ぃ、ベッド貸してくんねぇ?アダムが倒れちまって・・・」

リリィの家に戻ったケイは、アダムを背負っている姿に驚いているリリィにワケを話した。


「『マンドレイク症候群』じゃな」

アダムをベットに寝かせると、様子を見に来たトムソンがそう口にした。

「マンドレイク症候群?」

「マンドラゴラに対して、異常な恐怖心を持つことじゃ。震え・吐き気・恐怖、最悪見ただけで気絶してしまうんじゃ」

俗に言う恐怖症に近い症状だった。

冒険者を生業としていると、魔物に対して得意不得意は起こってくるが、恐怖心が勝るほどというのは特別珍しいことではない。

現に、特定の魔物が苦手で、わざと依頼を受けないという冒険者も少なからず存在するし、最悪冒険者を辞めてしまうということもある。


「そういやぁ、取り方ってあるのか?」

「なんじゃお前さん知らなかったのか?意気揚々で出て行ったからてっきり知っておるものとばかり思っておったわぃ」

呆れるトムソン。

「マンドラゴラは抜かずに、周りの土を掘って取り上げる方法が最善じゃ。まぁ希に悲鳴を上げるのもおるがの~」

「そん時はどうするんだ」

「運が悪かったと思って、起きたら次を掘る。ワシは慣れておるからおるから問題ないが、最初のうちは一匹とるのに二日もかかったわぃ」

かかかっと笑うトムソン。ある意味命がけである。

「マンドラゴラって至る所にいるのか?」

「種類は違うが、砂漠の都市のマライダや北の大陸のフリージアに生息しておるが、そんなに多いわけじゃない」

「そのマンドレイク症候群って治るのか?」

「さぁ~の、こればかりは本人次第といったところじゃ。ワシも若い頃は三度も同じ症状になったわぃ」

ケイとトムソンは、眠っているアダムの顔を見やった。


「リリィ。とりあえずマンドラゴラ取ってくるわ!」

「ケイさん、本当に大丈夫ですか?」

「あぁ。俺が行ってくるから、アダムが起きたらそう伝えてくれ」

「わかりました」

心配するリリィの隣でケイは彼女にそう告げた。



再度グリドの丘に向かったケイは、サーチを使ってマンドラゴラの居場所を特定した。

至る所に赤い反応がある。

「マンドラゴラって魔物なのか?」

一見素材に見えなくないが、れっきとした魔物である。

ただし戦闘能力を持たないため、超音波並の高音で相手を気絶させた後その足で別の場所に移動するという習性がある。


足下に一匹反応がある。

一見長い草のように見えるが、雑草と比べると少し葉の緑が薄い。

「せい!」

ケイは、足下の草を持つと思いっきり抜いた。


『キャアァァァァァァl!!!!』


「うるせぇぇぇ!!」

辺りにマンドラゴラの悲鳴が響き渡ると、ケイはすかさずマンドラゴラの顔面を殴りつけた。

おとなしくなったマンドラゴラに、こういうことかと納得した。


普通であれば気絶するはずだが、ケイはアレサの寵愛のおかげで気絶は免れたようだった。

とはいえ、さすがに耳がおかしくなりそうだったので、しばらく考えたのち創造魔法であるスキルを作成した。


スキル 『耳栓』 気絶効果の攻撃や魔法を無効化する。


試しにもう一つマンドラゴラを抜くと、悲鳴の部分がミュート状態になっていた。

「おぉ、これいいな!」

マンドラゴラを殴って黙らせると、同じ方法で作業を進めることにした。



日が傾き始めた頃、ケイは作業を終えリリィの家に戻っていった。


「ケイさん、お帰りなさい!」

笑顔で出迎えてくれたリリィに挨拶をすると、椅子に座っているトムソンに話しかけた。

「じじぃ、取ってきてやったぞ!」

そう言うと、マンドラゴラが入った麻の袋をテーブルに置いた。


麻の袋は村に戻ってきた際、たまたまダンと会い、空いている麻の袋を譲り受けたものである。


「全部で35匹。これで足りるか?」

「ほぉ~」

トムソンは、感心したように頷いた。

「十分じゃわぃ。お前さん見かけによらず手際がいいのぉ~」

「いや。引っこ抜いて、殴って黙らせた」

ケイの言葉に二人が驚く。

「ケイさん大丈夫なんですか?」

「最初はうるさかったけど、意外と慣れるもんだな」

「だとしても、お前さんは規格外じゃ」

「じぃさん失礼だな!」

二人が心配するのも無理はない。

「そういやぁ、アダムは?」

「先ほど目を覚まされたようです」

リリィに言われ、ケイは様子を見に行くことにした。


「おーい、アダム大丈夫か?」

戸を開けると、アダムは上半身を起こし、顔を手で覆っていた。

「あぁ大丈夫だ。リリィから聞いたよ・・・悪かったな」

「じぃさんから『マンドレイク症候群』じゃないかって」

顔を上げたアダムに、ケイが近くにあった丸い椅子に腰を掛けた。

「冒険者を始めたばかりに、マンドラゴラ採取の依頼を受けたんだが、やり方を知らずに引っこ抜いてしまってね。それ以来どうも姿を見ると身体がいうことを効かなくて・・・」

「まぁ依頼は達成したから気にすんなって!」

「依頼をえり好みしている場合じゃない。これからのためになんとかしなければ・・・」

難しい顔をしたアダムがぼそっと口にすると、ケイはその様子を黙ってみていた。


その晩二人は、リリィの家に泊まることになった。

夕食に出された野菜スープは、家庭の味そのものだった。


翌朝、二人は朝食まで頂き、依頼達成の了承を得るとリリィの家を後にした。

「アダム、ちょっと付き合ってくれねぇ?」

「どこにだ?」

「ちょっとね~」



「ケイ!ちょっとまて!どういうことか説明しろ!!」

「まぁまぁ心配するなって!」

首根っこを掴んで引きずるように歩くケイと、そこから逃れようともがくアダム。

二人の体格差は二回り以上になるが、力と体格で勝るアダムよりケイの方が強かったのだ。

ケイに関しては言わずもがなである。


二人は再度グリドの丘にやってきた。

この時すでにアダムの顔は真っ青で、今にも倒れそうな雰囲気である。


「アダム~俺、マンドラゴラがほしいなぁ~」

欲しいものをねだる、付き合いたての女子のような言い方でアダムに迫る。

「そ、それは・・・」

「おねが~い」

たじろぐアダムに、有無を言わさず笑顔のケイ。

説得はだめだと判断したアダムが、意を決してマンドラゴラに近づき土を掘ろうと手を掛けた。


案の定アダムが倒れる。

普通なら介抱されるが、ここでケイはアダムに近づき、


「【ショック】!」

【ショック】風属性魔法。対象者に電撃を与える。威力調整可。


あろうことかアダムの身体に電流を流したのである。


「痛てぇぇぇ!!!!」

強烈な痛みに起き上がるアダム。

何が起きたのかわからず辺りを見まわす。

「アダム大丈夫か?」

自分のしたことを棚に上げ、心配そうに見つめるケイ。

「ケイ!お前今何かしただろう!?」

「起こしただけだろ?」

「もういい!馬鹿言ってないで帰るぞ!」

アダムが立ち上がり、丘を下りようと方向転換しようとした時、アダムの腕にケイの手が掴みかかる。


「俺のお願い聞いてくれないの?」


アダムが振り返ると、上目遣いな仕草でケイが問う。

これが女性なら可愛らしいが、成人を過ぎた男・ケイに言われるとなぜか恐怖を感じる。

「大丈夫!倒れても俺が起こしてやるから」

ケイは左手に雷を纏わせ、黒い笑みを浮かべていた。


アダムが倒れてケイが(電撃で)起こす。

この繰り返しのおかげか、アダムはマンドラゴラを見ても倒れなくなった。

違った恐怖なら残ったかたちになったが。


しばらくして満足になったのか、満面の笑みのケイと満身創痍のアダムはアーベンに帰って行った。



余談であるが、グリドの丘から男の叫び声が聞こえると噂になり、いつしか『マンドラゴラの復讐』などと言われるようになったがそれはまた別の話である。

ケイのスパルタ教育です。

アダムは特殊な訓練を受けているため、よい子は絶対に真似をしないでください。


次回の更新は4/12(金)になります。

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