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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
119/359

116、マリーとドルマン

遅れて大変申し訳ありません!

今回はケイ達がお世話になっている、宿屋のマリーとドルマンのお話。

「あら?マリーさん、素敵な髪飾りですね?」


二人の若者の恋を見届けて数日経った早朝、タレナが朝食の配膳していたマリーに声を掛けた。マリーのまとめられた茶色の髪には、赤いバラを模した髪飾りがついている。


「あ、わかるかい?これは旦那から初めてもらったプレゼントなのさ」

「ドルマンさんからですか?」

「そうさ。といっても、若い頃に貰ったものだからね」

「とても似合いますよ」


タレナが微笑みながらマリーを褒めると、彼女は照れ臭そうな笑みを浮かべてテーブルに料理を並べた。


「そういやドルマンってフリージアの出身って言ってたけど、マリーもか?」

「いいや。あたしは生まれも育ちもアーベンだよ」

「そうなんだ~接点なさそうだけど、どこで出会ったんだ?」

「あたしと旦那は、とある貴族主催のパーティで出会ったんだ。もう二十年以上前になるかね~」



二十年以上前の話である。


彼女の夫であるドルマンはフリージアの出で、昔からの夢であるシェフになるべく、各地を放浪しながら各国の料理やその歴史などを学んで過ごしていた。

そこにアルバラントで暮らしていたとある男爵家の男性がドルマンの腕を買い、専属料理人として雇い入れたのだ。


一方のマリーは、当時アーベンでも有名な踊り子として活躍していた。

赤いドレスと赤いバラを頭に飾り、歌と音楽に合わせて踊る姿は、貴族の華やかさとはまた違った華やかさを思わせる。それが当時では珍しく、彼女をひと目見ようと毎日多くの人が酒場に駆けつけたそうだ。


そんな二人が出会ったのは、マリー20才、ドルマン23才の頃である。


ドルマンが働いている男爵家でパーティが行われ、会場から音楽や歓声があがり華やかな雰囲気が調理場にも聞こえてくるなか、彼は料理を作ってはメイドに配膳の指示をする作業を延々と行っていた。


忙しさのピークが過ぎた頃、会場から聞こえてくる歓声が一際大きくなった。


「なぁ!『薔薇(ロサ)のマリー』が来てるみたいだぞ!?」

「まじかぁ!?うわぁぁ俺もみてぇ~!!」


同僚の二人がなにやら話している声が聞こえた。


「お前達、サボってないで皿を洗え!」

「何言ってんだよ!『薔薇(ロサ)のマリー』が来てるんだぞ!?」

「一見の価値はあるって!!」


鼻息を荒くさせながら同僚の二人から詰め寄られ、その気迫に押され彼は一歩たじろいだ。そんな二人に背を押されながら、調理場の入り口から会場を覗き見る。


華やかな会場を埋め尽くすほどの人だかりの中で、赤い薔薇を挿した女性が歌と音楽に合わせて踊っている。赤いドレスを翻しながら踊る姿は、美しくも力強くまた繊細な部分も併せ持っている。


音楽が終わると、踊り子の彼女に会場から割れんばかりの声援や拍子が送られる。


もちろん『薔薇(ロサ)のマリー』のことはドルマンも知っていた。

踊り子として有名な彼女は同時に多数の異性から求愛を受けていたが、けして誰にも(なび)くことなくのらりくらりと躱す姿は猫のようだと感じた。

今回も例外なく男性から擦り寄られるが、それを彼女なりに断りを入れている。



会場の宴も終盤に差し掛かった頃、調理場に執事がやって来た。


「ドルマン、ちょっといいですか?」

「はい。なんでしょう?」

「実はマリー様からあなたの料理が素晴らしいので、ぜひ礼が言いたいと申されまして、今お時間はありますか?」

「は、はい!わかりました。今、伺います!」


突然の指名に同僚から羨む声と視線を感じながら、ドルマンは身なりを整え会場に向かった。



「今回の料理を担当しましたドルマンと申します」


緊張の面持ちでドルマンが彼女の前に立つと、やはり有名人というだけあって圧倒的なオーラの様なものを感じる。


ドルマンは彼女に挨拶をしたのだが、当の本人は後ろを向いて食事をしているようでこちらに気づかない。見かねた執事が彼女に声をかけると、ようやく気づいた様子でハッとしたのち、料理をテーブルに置いてからこちらを振り返った。


彼女の顔を見たドルマンと執事は、一瞬本人に言うべきかを考えた。


笑顔で振り返った彼女の口の端に、料理の食べカスがついている。

ドルマンは彼女に恥をかかされたと怒られることを覚悟で指摘した。


「あ、あの~・・・ここ、ついてますよ?」


控えめに指を自分の口の端を示すと、彼女は顔を真っ赤にさせ慌ててそれを拭う。

それから「あ、ありがとう」と礼を述べられる。一旦落ち着くために、彼女はウエイターから水を受け取り飲み干す。そして、先ほどまで食べていた料理をドルマンに向けた。


「この料理はあなたが作ったの?」

「はい。私が作りました」

「この料理とても美味しいわ!」

「こちらはベジルキッシュと言われるフリージアの伝統的な料理の一つです」


ドルマンは彼女にベジルキッシュの調理方法を説明し、このほかにもベジルキッシュを中心に他の料理のことも簡単に触れる。


「あなた凄いわね!この腕ならお店でも開けるんじゃないかしら?」

「褒めて頂きありがとうございます。自分の腕がどれほどかはわかりませんが、これからも精進していきます」

「じゃあ、お店を開いたら私が第一のお客さんね!」

「ふふっ。それは頑張らないといけませんね」


この出来事がきっかけで、二人は正式に付き合い結婚をした。


一部の人から恨みや妬みも覚悟したが、男爵家の人々を中心に周りが後押しをしてくれ、ドルマンは店を出すために専属料理人を辞め、同時にマリーも踊り子を辞め彼についていった。二人は今までの蓄えを店を開店するための資金に使い、アーベンの一角で小さいながらも食事も提供できる宿屋としてスタートさせた。


結婚をする際、リングの代わりに赤いバラを模した髪飾りを送られた時にドルマンの緊張した顔を今でもはっきり覚えているとマリーが懐かしそうに笑った。



話が一段落した頃、厨房からエプロンを外しながらドルマンが姿を現した。


「マリー、ちょっと出かけてくるよ」

「どうかしたのかい?」

「食材が足りなくてね」

「そういえば、今日はいつにもまして人が多かったからね」


どうやら食材がいくつか足りないようで買いに行ってくると述べる。

丁度朝食の時間帯もピークを過ぎたのでマリーが代わりに行って来ようと言うと、朝から動きっぱなしなので少しは休んだ方がいいと制される。


ドルマンが出かけた後、ケイはマリーに疑問に思ったことを尋ねてみた。


「マリー、あんたは食事とか作らないのか?」

「あたしかい?あたしは元々そんなに器用じゃないからね。第一、旦那が料理を家でも作ってくれるんだよ」


自分は、一緒になってから数回しかしたことがないらしい。

家でも店でもドルマンが作るため、休めないんじゃないかと思ったが本人が好きで作っているのでよっぽどのことがない限りは彼に任せているそうだ。


「それならドルマンになんか作ってやったらどうだ?」

「旦那にかい?」

「ケイさんの言う通り、ドルマンさんも喜びますよ」


戸惑っているマリーにケイに続くようにタレナも後押しをする。

好きな人が作った物なら嬉しくないはずがないと力説するタレナに押されながら調理場にやって来る。


「で、何を作るの?」

「オーソドックスにオムレツでも作るか」

「オムレツかい?」

「料理できないってわけじゃないだろう?」


マリーがそれぐらいならなんとかと返す。

ケイは彼女にいつもの様に作って見せてというと、渋々だがオムレツに取りかかる。


マリーがボウルに卵を割りといでいるところにケイがトマトはあるか?と尋ねてくる。彼女は訝りながらも余っている物ならいくつかあるよと返すと、調理場の隅にある箱の中にいくつか入っているのがみえた。


「タレナ、このトマトを直火むきしてくれ」

「直火むき、ですか?」

「あー、軽く水洗いをしてへたの部分にフォークを刺して火で炙ってくれ」


タレナがケイの言う通りに水洗いをしてからフォークをへたの部分に突き刺し、調理場に設置している魔導コンロと呼ばれる一般的な調理器具に火をつけ軽く炙る。

数秒経った後にパチパチとトマトから音が出始めたので火を止めて水につけると簡単に向けると教えると、その通りにしたタレナがこんな調理法は初めてと目を丸くする。


「それが終わったらトマトを八等分にしてボウルにニンニク・タマネギを入れてすりおろすんだ」


本当はフードプロセッサーの方がいいのだが、そんな物はこの世界にはないので力仕事が割と得意なアダムがそれをすりおろす。そのあとほどよくすり下ろせたら鍋に移し、塩、ビネガー、砂糖などを入れて二時間ほど煮込む。

本来であれば煮込みに二時間はかかるのだが、ドルマンの帰宅に合わせたいので、ケイのチートのパワープレイという名の細工を施すと、二時間が五分に短縮され、鍋の中の具がドロッとした物に変わる。


「ケイ、これってなに?」

「これはケチャップだよ」

「ケチャップ?」

「調味料の一種だ。これを卵焼きの上にかけて食べるんだ」


シンシアに試食用の小さなスプーンを渡すと、すくって舐めた彼女が「これは卵と合いそうね」と絶賛した。その時アレグロがいいなというまなざしを送ったのは内緒である。


「ケイ、こっちも出来たよ!」

「じゃあ、これを上にかけてくれ」


ケチャップが出来たタイミングでマリーのオムレツも完成をした。


マリーの作るオムレツに最後の仕上げとしてケチャップをかけるように彼女に説明すると、珍しい調味料だねという表情でケチャップをのせる。



「マリー、帰ったよ!」



料理が完成したと同時にドルマンが帰宅した。


ケイ達はドルマンに空いている席に着くようにいうと、なんのことかわからない彼は疑問に思いながらもカウンターの一席に着席すると調理場から完成したオムレツをマリーが運んでくる。それにドルマンが驚いたが、ケイ達からマリーが作ったと話すと驚いた後に笑顔でそうかと頷いた。


ドルマンの目の前にケチャップのかかったオムレツが出される。

案の定赤いソースは何たと利いてきたので、ケチャップの存在を説明すると女性陣から冷める前に食べてと促される。


ドルマンがスプーンケチャップがついたオムレツをすくい口の中に入れる。

味を確かめるためゆっくり咀嚼する彼にマリーもケイ達も少し緊張した面持ちでそれを見守る。


「・・・どうだい?」

「うん・・・とてもおいしいよ!」


皿に盛られたオムレツを食べきったタイミングでマリーが聞くと、ドルマンが作ってくれてありがとうと礼を述べる。自分が作るよりもやっぱり彼女の作った食べ物は格別だと大絶賛している。


「実は、ケチャップはケイ達が作ったんだ」

「話の流れでドルマンになにか作ってやれば?って話して一緒に参加しただけ。残りはマリーが作った」

「そっか。マリーそれにケイ達も、いい記念日をありがとう!」


ケイ達が記念日?と疑問を浮かべると、マリーが恥ずかしそうに今日のことを教えてくれた。


「実は、今日があたしとドルマンの結婚記念日なんだよ」

「だから赤い髪飾りをつけてくれてるんだね。マリーいろいろしてくれて本当に嬉しいよ!!」



満面の笑みでマリーに語りかけるドルマンに、なんだか心が温かくなるような不思議な感じがしたケイ達なのである。

結婚記念日話をちょっとお送りしました。

今年もあとわずかですね。


次回の更新は12/30(月)です。

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