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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
117/359

114、泣く宝箱

ガレット村の村長から指名依頼を受けたケイ達は、その足で村に向かうことになった。

その日の午後、王立図書館を出たケイ達は気晴らしに冒険者ギルドに足を運んだ。


考えや後悔をしても始まらないので、久々に討伐系の依頼を受けようかと考えたのだ。もちろん伝言があるかどうかも確認することも忘れない。


「パーティ・エクラの皆さんに指名依頼が届いていますが、いかがされますか?」


受付の女性から依頼票を受け取ると、その相手はガレット村の村長であるガシムからだった。その文面からどうやら少し困っている様子だったので、ノーリン達から預かったイチゴの植木鉢をキャロルに渡すついでに受けることにした。



ガレット村は、相も変わらずのどかな風景が広がっている。

ケイ達はガシムの家に行く前に先にノーリンの用件を済ませるため、エルとキャロルがいるマーサの家に向かうことにした。


「おーい!!」

「あら?ケイ達じゃないか」


ケイ達がマーサの家の前まで来ると、ちょうど畑で作業をしていたマーサ達に会うことが出来た。マーサ達が作業の手を止めてケイ達の方を向くと、エルとキャロルがこちらに駆けだし、ドンとケイに体当たりするようにしがみつく。


「ケイ兄ちゃんたち、久しぶり!」

「お兄ちゃん達、今日はどうしたの?」

「実はお前らにプレゼントを持ってきたんだ」

「あ!イチゴだ!」

「こっちのイチゴはピカピカだよ!!」


ケイがアイテムボックスの中から二つのイチゴの植木鉢を取り出し手渡すと、二人は目を輝かせお礼を述べた。


「実は少し前にルフ島に行ってたんだ。そこでゼム達に会った時にノーリンからキャロル達に渡してくれと言われて預かってきたんだ」


エルとキャロルが二色のイチゴに大喜びしている隣でマーサにことのいきさつを説明をすると、彼女は目を丸くしながらイチゴの鉢を見つめていた。


「それでかい?しかも金色のイチゴなんて初めてみるねぇ。じゃあ今日はそのために?」

「それもあるけど、ガシムからの指名依頼を受けたからその用事もある」

「あぁ。あのことだね」


マーサが納得したような表情をし知っているのか尋ねると、一週間ほど前から北にあるグリドの丘からなにかの鳴き声が聴こえてきていると話した。


「鳴き声?マンドラゴラじゃなくて?」

「最初は私も思ったんだけど、昼夜を問わず声が聞こえるモンだからみんな不安がってね。私たちの方はないんだけど、そのせいで北側に住んでいる住民達が寝不足気味らしくて、なんとかならないかとガシムさんに相談していたみたいだよ」


どうやら謎の鳴き声によって、北側の住民達が不調を訴えた始めたため依頼されたようだ。マーサ達と別れたケイ達は、詳しい状況を聞こうとその足でガシムの家に向かうことにした。



村の中央にあるガシムの家に到着すると、扉をノックした後にガシムの息子であるハンスが顔を出した。


「皆さん、ご無沙汰しております」

「よっ!依頼で来たんだけど、ガシムいる?」

「はい。今ちょうど戻られたので、中へどうぞ」


応接間のソファーに座った後、すぐにガシムが顔を見せた。

顔を見ると心なしか疲労の色が浮かんでおり、安堵した様子が窺えることから先ほどマーサが言っていたことと何か関係があろうのだろうかと疑問に思う。


「お忙しいところ受けて頂きありがとうございます。ぜひとも解決していただく指名致しました」

「ガ、ガシムさん!?」


ソファーに座り頭を下げるガシムに、アダムが上げてくださいと止めてからソファーに座らせる。


「実は一週間ほど前から、グリドの丘から聞こえてくる声が酷くなりまして・・・」


話を聞いてみると、以前から北にあるグリドの丘辺りから何かの鳴き声が聞こえていたようで、最近になってから昼夜を問わず村の方まで聞こえてくるようになったらしい。そのせいで、北側に住む村人からなんとかならないかと村長であるガシムに話が来ているとのこと。

グリドの丘と言えばマンドラゴラの生息地として知られており、ケイはマンドラゴラじゃないのか?と尋ねたが、北側の村人曰く人の様に泣いている声に聞こえるそうだ。


イマイチ要領を得ないケイ達は、実際に行って確かめてくるとガシムに伝えた。



「人の泣く声に近い鳴き声って、そんな魔物っているのかしら?」

「さぁ。もしかしたら新種の魔物か何かなのかもしれない」


ガレット村から北に向かう道中でそんな会話を交わした。


シンシアの言葉にレイブンが首を傾げる。

長年冒険者をしているアダムやレイブンでも聞いたことがないと首を振る。

世間ではルフ島のように見たこともない魔物も存在すると噂されており、今回はその類いかもしれないと一同が気を入れ直す。


グリドの丘近辺に差し掛かると、丘の方から二人の若い男女がこちらに向かってくる姿が見えた。


「あら?ケイさん達じゃないですか!」

「お久しぶりです」


見知った二人組は、ガレット村に住んでいるリリィとケヴィンだった。


二人は丘にいるマンドラゴラの収穫をしていたらしく、ケヴィンが抱えているカゴには、たくさんのマンドラゴラが入れられている。

その際、アダムが少したじろぐ素振りをみせたのはいつものこと。


「リリィとケヴィンじゃん!もしかしてマンドラゴラか?」

「はい。おじいちゃんがまた腰を痛めたみたいで、最近では頼みに頼み込んで私も手伝うことになったんです!」

「俺は家の手伝いの合間に、リリィのところを手伝っているだけです」


確かにマンドラゴラが入っているカゴは、華奢なリリィには重すぎる。

二人の姿を見て、幼なじみならではの連携プレイなのかも知れないとちょっとほっこりする。


そんな二人にガシムから鳴き声の調査依頼をされたことを話すと、ケヴィンがそう言えばとこんなことを教えてくれた。


「もしかしたらグリドの丘の先にあるダンジョンかも知れないです」

「ダンジョン?」

「はい。俺は入り口までしか行かなかったのですが、声はダンジョンから聞こえて来ました」

「そういえば私たちが丘で作業している間、四人組の冒険者の方が入っていくところを見ました。そのあと私たちが帰る時にその方達も出て来るところをみたので、もしかしたらなにか関係があるのでしょうか?」


二人が収穫をしていたグリドの丘から北にあるダンジョンが見えるらしく、ケヴィンが作業中に叫び声の様な何かを聞いたと証言した。

その後で、その四人の冒険者達が慰めたり励ましたりしながら出てきたそうだ。


「思い出した!そこは【初級ダンジョン】だ!」


突然アダムが思い出したかのように手を打った。


この先にあるダンジョンは、冒険者達が初めて挑むいわば入門編のダンジョンと言われている。内部は全部で五階。階数が短いわりには内部がしっかりしているそうで、冒険者ギルドの間では練習の一環としてしばしば研修場として使われているダンジョンなのだそうだ。


ケイ達はリリィとケヴィンに礼を言ってから別れた後、そのまま丘の先にあるダンジョンへと足を運ぶことにした。



「あそこが【初級ダンジョン】だよ」


アダムが示した先には、岩山にぽっかりと開いた穴のような物が見える。

近づいて見てみると、高さ4m、幅4.5m程とそこそこ大きなダンジョンの入り口で、その横に看板で【初級ダンジョン 推奨レベル1~5・ボスレベル10】と書かれている。


このダンジョンは他のダンジョンと違い、ボスの出現場所が異なる。

初級にしては少し面倒くさいのだが、研修の教官として入ったことのあるアダムによると、索敵スキル保有者の練習の場にもなっているとのこと。そうなるとボスの固定よりランダム性にとんだ方がしがいがあるらしい。



たいまつの灯りを頼りにダンジョンを進んでいく。


初級ダンジョンというだけあり、魔物はスライムやゴブリン、洞窟にしか生息していないコウモリの姿をしたバットという魔物しかいない。


「初級ダンジョンってこんな感じなのか」

「初めて挑む方には最適だと思います」


ケイが飛んでくるスライムをはたき落としてから足で踏みつけ、タレナが向かってくるゴブリンを槍でなぎ払う。レベルの高いケイ達には練習にもならないが、今までダンジョンに潜った経験が少ないためある意味新鮮である。


階段を降りること三階に差し掛かったあたりで、何かの声が聞こえてきた。

まるで人間のように、押し殺したようなむせび泣くような声が響き渡るっている。


「え゛、な、何の声?誰か居るの?」

「俺達以外にすれ違ったヤツなんていたか?・・・いてっ!」

「ち、ちょっと変なことを言わないでよ!?」


シンシアは顔を引きつらせながらケイにしがみつき、人気のないことを発言するケイの背中を盛大に叩く。ヒリヒリする背中を感じつつもサーチとマップを使って確認すると、奥の方から何かがいる気配がした。



『シクシクシクシクシクシク・・・』


ケイ達が奥に向かうと、鳴き声の正体を見て唖然とした。

なぜなら、その声の主は古びた宝箱から聞こえてきたのだから。


「もしかしたら、これは【ミミック】かもしれない」

「ミミック?」

「人を喰らい、その血と肉が宝箱を成長させると言われている魔物だよ」


元は普通の宝箱だったが、ダンジョンで命を落とした冒険者の魂の一部が宝箱に憑依し、誕生したちょっと特殊な魔物である。主にダンジョンに生息し、近づいた冒険者を喰らおうと襲ってくる習性があるとレイブンが説明をする。


『ううっ・・・なんで毎回毎回こんな目に遭うんだよぉ~こうなったら・・・次はお前達の番だ!「うるせぇ!!」ギャン!!!』


鳴いて(泣いて?)ばかりいたミミックが突如ケイ達に襲いかかろうとした。

しかしケイが宝箱をはたき落とし、その衝撃で地面にバウンドしゴロゴロと床を転げ回った。


『う・・・うわぁぁぁぁああああん!!!もうミミックやめるぅぅぅううう!!!』


ケイに軽くあしらわれたミミックは、とうとう心が折れたのか盛大に泣き喚いてしまった。



「わ、悪かった・・・」


あの後盛大に泣いたミミックを宥めるため、ケイ達があの手この手でようやく収まった。ケイはその状況に納得いかないが謝罪を述べた。


『ううぅ・・・ごめんなさい』

「自暴自棄になっている魔物なんて初めて見るぞ?」

『だって、もういやなんだもん』


ケイ達が話しかけた魔物はやはりミミックだった。


どうやら初級ダンジョンのボスで、ケイ達が来る前にも他の冒険者にやられたらしい。先ほどリリィとケヴィンが見たであろう冒険者の事だろう。

ケイはここから南にある村から、声が聞こえてくる話を聞いてやって来たと説明した。ミミックは、自分を倒しに来た冒険者じゃないのと声を上げるが、既にケイに心を折られているため若干の距離を感じる。


「ミミックさんはなぜ泣いていたのですか?」

『だって人間達がいつも来るんだもん』


タレナが聞くとミミックは、今までの事をぽつぽつと語り出した。


『ボクはだんじょんますたー?ってやつになったんだけど、ボクより強い人間達がやって来て、ボクを弱らせて自分より弱い人間にトドメを刺したりするんだ』


普通のダンジョンはダンジョンマスターが倒されると消失するが、初級ダンジョンのみボスが倒されてもリスポーンできる利点がある。

そのため、研修の場として最適と他方から来ることもあるそうだ。


しかしミミックから自分にはデメリットであると述べる。


どうやら倒されない変わりに、ボスの能力が通常の三分一に減ってしまうらしい。

能力の減りは時間によって解決するが、そこに研修等でひっきりなしに来る冒険者が加われば結果は大体想像がつく。

レベル10の能力を発揮できず、ずっと嫌々ボスをやって来たミミックがそろそろ引退したいと口にする。魔物がそこまで言うとはよっぽどのことなのだろう。


話を聞いたケイは、ポンと手を叩きミミックに助言する。


「強くなりたいか?」

『なれるものならなりたいよぉ・・・』

「わかった!お前を世界一のミミックにしてやる!【エンチャント・ミミック】」


ケイがそれだけを言うと、なんとミミックにエンチャントを施したのだ。


通常エンチャントは生き物には適応されないのだが、ミミックは元は宝箱ということもあり、エンチャントで強く出来るのではないかとケイは考えたのだ。



【ハイカラミミック】


レベル:10~(魔力を変動させることによって調節できる)

スキル:ハイカラマジック(多才な攻撃魔法やスキルが飛び出す・ランダム性)

特徴 :ミミックのレベルが高ければ高いほど、倒した時の宝箱の中身が豪華になり、経験値も増幅する)


※ ミミックの能力値は魔力変動により変化するため記載しない。



その結果、なんともダンジョンのボスらしく・・・とはいかなかったがそれなりに宝箱らしく生まれ変わった。全体が金色に変化し、宝箱の縁は赤い色であしらわれている。見た目は派手でいかにもだが能力に関しては申し分ない。


「見た目が変わっているようにしか見えないが?」

「それなら試してみるしかないか」


アダムの指摘にケイは同意し、ハイカラミミックに魔力を変動させレベルを上げてくれと頼んだ。その指示を受け、むむむ!と唸りながらハイカラミミックが魔力を使って上げた後、とりあえずこれでいいかと尋ねる。


確認するとレベル86と通常ではあり得ない数値に変わっている。


試しにハイカラミミックが近くの岩場に体当たりをしてみると、木っ端微塵に岩が吹き飛んだ。これならそうそう倒されることはないだろう。


『宝箱の中身を取ってください』

「戦ってないぞ?」

『せめてものお礼です』


蓋を開けた状態でケイ達に向ける。

通常なら戦闘後に戦利品として獲得することが出来るようになるが、ケイ達は恩人と言うことで無償で受け取ることになった。


ケイ達が受け取ったのは、槍と杖だった。



破壊の杖

魔力 1200

スキル 破壊不可 自己修復 魔力増強(10倍)


混天截(こんてんせつ)

攻撃力 1500

スキル 破壊不可 自己修復

業火の舞 火と風の力を武器に宿し、相手を焼き尽くす。

慈愛の浄化 アンデット系の魔物を浄化する。



「これはアレグロとタレナ用だな」

「えっ?ケイ様くれるの!?嬉しいわ!!」

「あ、ありがとうございます。大事に使わせていただきます」


アレグロとタレナに渡すと、二人は笑みを浮かべてケイとハイカラミミックに礼を述べた。以前から二人の能力と使用武器が比例していないことに気づいたケイは、いつか新調するべきかと考えていた。

なお、それをハイカラミミックが察して出したかどうかは不明である。



ミミックが強化されたことによりダンジョンは神殿風の内装に変更され、それに伴い防音設備も完備された。


入り口は二枚扉の金色の扉に変わっており、夜でも冒険者が迷わないよう扉の横にはマーライオンのような口を開けた金像が頭から火を出し辺りを照らしている。


アダムの話では、表の看板は誰でも書き足しや変更が可能らしい。


その辺のルールは設定するべきなんじゃないかと思うが、ケイが新たに『挑戦者の試練』と大々的に書き直す。補足に『ハイカラミミックを倒して豪華戦利品を手にしよう!』とうさんくさい文面を書き足したが、それが後に冒険者達を熱くさせ絶望させ、はたまたギルドを悩ませるのは別の話である。


人助け(魔物助け)をしたケイ達は、今後のハイカラミミックの成功を願った。

次回の更新は12月25日(水)です。

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