110、新たな情報とアーベンへ
金曜日投稿するはずだった回です。
待っていた人もいない人も大変お待たせしました。
今回でルフ島編は完結です。
次回からは日常&王都アルバラント編をお楽しみください。
「ケイ、夕食どうするの?」
宿屋の一室でベッドに横になりながら文献を読みふけっていたケイに、ノックをしたシンシアが顔を出す。
どうやら長い時間本を読んでいたようで、窓の外を見ると鮮やかな夕焼けが見えている。シンシアには今行くと伝えてから、一緒に一階へと向かう。
「だいぶ長い時間籠もってようだな」
「そんなつもりはなかったんだけどな」
「で、なにかわかったのか?」
一階の食事処には既にアダム達が座っており、料理はもちろんルフ島の郷土料理一択で並べられている。ケイが席に着くとアダムが文献の内容を尋ねてくる。
「まだ二冊とも半分しか読んでないが、オブスから預かった方は、塔の建築に関する内容だった」
建築にはアスル・カディーム人を中心に、アグダル人・ビェールィ人・ドワーフ族・獣族が担っていた。だけど、建設するにあたって塔の一部を変更した。しかも指示をしたのは、アグダル人とビェールィ人だと記されている。
「アスル・カディーム人じゃないのか?」
「俺も最初はその線を考えていたんだが、文献によるとビェールィ人がシャムルス人の動きに不信を抱いてアスル・カディーム人に相談した。そして本来のやり方で造られるはずだった四つの塔の内三つを変更・建築したことになる」
文献に記された変更された三つの塔は、フリージア・エストア・ルフ島。
当初のやり方で建築されたのは、バナハの試練の塔の一つだけ。
それになんの意味があるかは記されておらず、現段階では不明である。
「塔の変更はやっぱり元々の素材のことか?」
「あぁ。俺達が推測した通り、三つの塔は全体を月花石を用いて建築し、その上から細かく砕いた陽花石でカモフラージュしたそうだ」
「そこまですることに何の意味があるの?」
「さぁな。ただ言えることは、同盟の証だけではない理由があったはずだ」
「ベリルから預かった方は?」
「そっちは、それぞれの人種についての特徴が記されていた。まだ両方とも半分しか読み終えてないから、今日中に読んでまとめておこうと思う」
「え゛っ?もう半分読んだのか?」
「読むだけ、ならいつもの方がもうちょっと早いぞ」
アダムが驚きの表情を浮かべるが、元々本を読むことはそれほど苦ではなく、文庫本程度であれば一冊を二時間ぐらいで読み終える。しかもダジュールに渡った際、ダジュールの管理者を所持しているため読んだ端から整頓・保存をされるようになっているおまけつきである。
しかし今回は自分でも興味があったため、あえてじっくり読むことにしている。
今日中に二冊を読み終え、まとめる必要があるため改めて気合いを入れ直す。
ケイがそんなことを思っていると、アダムがとある疑問を投げかけた。
「そういえば、サントマから聞いた話はどう解釈をすればいいんだ?」
「解釈って?」
「三百年前まで存在していた、フリージアにあったと言われる塔のことだよ」
「魔王に破壊されたってやつか?」
「偶然じゃないの?」
「本当にそうか?俺はどうも腑に落ちないんだ」
シンシアは気のせいではと言うが、アダムはなにがどうとまではわからないが納得いかない表情をしている。
確かにアダムの言った通り、魔王は三百年前に誕生し後に討伐されている。
フリージアにあった塔は魔王の手により破壊されたと説明されたものの、実は、他の場所にあった塔も三百年前まで同じように存在していたのではと考える。
特に着目したのは、バナハにあった試練の塔。
ケイ達が成り行きで跡形もなく崩してしまったため現在はその場所にはないが、魔王と塔の関連性も気にする必要があるのではと悟る。
「じゃあアダムが疑問に思っていることは、実はなにか関係があるってこと?」
「可能性はある。それに、俺は五百年前の世界大戦も実は繋がっているんじゃないかと睨んでいる」
「繋がっているって塔のことと?」
「塔の関連資料がまるっとなくなるのはおかしいだろう?バナハにあった資料が世界大戦時に消失したのも、それ以前に何かがあったとしか思えない」
「でもケイ様、仮にそうだとしてもそれぞれの時代同士が結びつかないわ?」
アレグロの指摘通り、確かに魔王・世界大戦・1500年前の話は一見結びつかないようにみえる。しかしそれにメルディーナが関わっているとしたらと考えた時、ケイの中で歴史に穴を開けたという黒狼の証言と一致するのではないの思ったのだ。
そこで、書籍の数の多さを誇っている王都アルバラントの王立図書館を訪ねようと思いつく。ケイは館長のバートならなにか助言をしてくれるのではと淡い期待を抱く。そしてアダムが言っていたように、三百年前の魔王がいた時代からルーツを遡れば自ずとわかることが出てくるのではと考える。
食事がすんだ後、各々お酒を片手に今後の事を話し合う。
「このあとはどうするの?」
「一度アーベンに戻ろうと思う」
「なぜ?」
「さっきアダムが言っていたように、魔王のいた時代から遡っていこうと思う」
その言葉に疑問を浮かべたシンシアに、今後アルバラントに向かい魔王に関しての情報収集を行おうと提案した。もちろん最終目標は1500年前の時代のことだが、まずは今の時代より近い時代から探っていった方がいいんじゃないかと考える。
幸い魔王に関しての資料は、以前図書館に向かった際にいくつか置いてあることを確認している。レイブンからアーベン行きの船が二日後に来ると聞き、それに合わせて戻ろうと結論づけた。
話は一段落つき、ケイが頼んだ果汁酒に口をつけようとした時にポケットの中に入っていたスマホに着信を合図するバイブが響く。仲間達に一言断り内容を確認すると、一通のメールが届いている。
相手はヴィンチェからだった。
ケイへ
夜分遅くにすまない。
至急、報告したいことがあるんだ。
実は今ミクロス村に来ているんだが、エイミーから女神像の顔がエルフの森にあった女神像と違うと指摘されたんだ。
ケイから受け取ったスマホで女神像を写したものが残っていたから、それを添付しておくよ。補足をすると、上の画像はエルフの森にあった女神像で下の画像がミクロス村にある女神像の画像だ。
僕も言われるまでわからなかったよ。これは何か意味があるのかな?
とりあえず報告まで。
ヴィンチェ
添付されているファイルを開くと、縦に二枚の画像が表示されている。
ケイは現代人らしく慣れた手つきで操作をし、何気なく画像を見た瞬間に口に含んだ果汁酒を吹き出しかけた。
「ちょっと大丈夫!?」
「どうした?」
突然のケイの行動にシンシアが心配の声をかける。むせるケイの背中をタレナが摩り、アダムがなにかあったのかと尋ねる。
「これを見てみろ」
立て直したケイがスマホの画像を五人に向けると、違いがわかるかと投げかける。
画面に顔を近づけ首を傾げた後、レイブンがその違いに気づき指摘した。
「女神像の顔が違う?」
「あぁ。さっきヴィンチェから送られてきた。俺も気づかなかったが、おそらくルフ島の女神像ももう一度確認した方がいいな」
しかし夜も遅いため明日にもう一度向かおうかと考えた時、アダムが何かを思い出した様にポケットからあるモノを取り出した。
「最近リーンと画像のやりとりも始めたんだが、練習のためにカメラ?で撮ったものが残っていたと思う・・・あ、あった!これだよ」
以前ケイがアダムと幼なじみのリーンに専用のスマホを渡した時、カメラ機能も備えつけていたことを思い出す。アダムのスマホには、練習のため撮影されたルフ島の女神像の全体と顔のアップが表示されている。
「タイミングいいな。でも・・・確かに顔が違うな」
「ルフ島の女神像は、少し凜々しい感じがするわね」
「エルフの森の女神像は、悲しそうな表情をしています」
「ミクロス村は、愉快そう?なちょっと表情が読めない感じね」
シンシア、タレナ、アレグロが口々に感想を述べる。
となると、残りの女神像も顔が違っているのではと考える。今思うと、幻のダンジョンで見かけた最初の女神像と他の女神像も顔が違っていた事を思い返す。その時疑問に思っていなかったがフリージアの像も違うのではと気づく。
以上のことから、女神像もなんらかの要因があるのではと思ったが、最初にケイが所持していた蒼いペンダントがなぜ女神の涙で変化するのかは疑問である。
そしてフリージアの女神像に関しては、後でベルセにお願いしようと考えた。
その翌日、ケイ達は冒険者ギルドにやってきた。
朝も早い時間帯なのに、運良くテジオラと会うことができた。
「テジオラ!俺達、明日のアーベン行きの船に乗ろうかと思ってる」
「向こうに戻るのか?」
「あぁ。ここでの情報収集が一段落したからな。とりあえずオブスから預かった文献と翻訳してまとめたモノを渡したいんだが、本人はいるか?」
「親父なら朝から会合でここにはいないぞ。あとで俺から渡しておくよ」
ケイは、オブスから預かった文献とベリル経由で預かったもう一冊の文献もまとめた書類と一緒にテジオラに手渡した。その際にテジオラから短期間でよく読めたなと感心の声を受け取る。内容は全て翻訳した書類に書いてあったので、読んで貰えればわかると付け加える。テジオラは了承し、何かあったら遠慮なく言ってくれと述べる。
ケイ達がアーベンに戻る日、港にはテジオラとナットとその家族にバナッシェが見送りに来てくれた。オブスとベリルにも声をかけたが執務で忙しいらしく来れないと言っていたようで、世話になった代わりに今度会う時は、獣人族も魔族も歴史解明の手助けをしようと伝えてくれと語っていたそうだ。
「今回で二回目だな。ケイ達に助けられたのは」
「気にすんなよ。おかげでこっちもいろいろと知れたし」
「ケイさん達がいなかったらどうしようかと思いました。いろいろとありがとうございました」
ケイは恥ずかしいと感じたが、テジオラは今回の件はだいぶ世話になったから当然だと述べる。
ナットが頭を下げ、三人の家族もそれに続くように深々と礼をする。
ケイはそんなナットに耳打ちで、何かわかったら連絡してほしいと頼むと彼はそれに肯定するように頷く。
船があと数分で出航しようとした時、三人の子供が駆けつける姿が見えた。
「ケイお兄ちゃん!アダムお兄ちゃん!待って!!」
「よかった。間に合った・・・」
「ノーリン、お前速ぇよ・・・」
見ると、ノーリンと彼女の後ろから兄であるゼムと友人のグッツェの姿があった。
三人とも急いで来たため、息を切らせている。
今回三人とはあまり関わることがなかったが、ガレット村で会って以降少しだけ身長が伸びた印象がある。特にノーリンはゼムの後ろで泣き顔を見せることがあったが、心持ちしっかり者になった感じがする。その様子を見ていたテジオラが、あれ以降三人とも20cm近く伸びていると言った。
獣人族は、他の種族とは異なり成長が早いことでも知られている。
「これを、ガレット村にいるキャロルとみんなに渡してほしいの」
ノーリンから手渡されたのは、二つの鉢植えだった。
一つは赤い実がなったイチゴに、もう一つの鉢には金色のイチゴがなっている。
彼女は、以前ガレット村でお世話になったお礼に渡してほしいと述べ、島に戻った後から家で育てては鉢を増やしたりしているなど、とても大事にしているとはにかむような笑顔で答えた。
金色のイチゴについて聞いてみると、ナットが以前肥料にオーロの粉末を混ぜた後からこのような実をつけ出したと言った。
オーロの粉末は、牛の糞と腐葉土をあわせたものらしい。
ルフ島の農作物によく使用されている肥料の一つで、牛にブレークという特殊な餌を使用していることから、それを腐葉土と混ぜているそうだ。
ちなみにブレークは、日本ていうところの米のような物で、それを発見したのはナットであると語られる。前にトリーヤから貰ったおにぎりもブレークを精米したものだそうだ。
そして現在、二日に一度は10~20個程度の実をつけ、株分けも容易にできることから家の前には金イチゴが絶賛爆誕中なのだとか。
ケイはノーリンから二つの鉢植えを受け取り、大事にアイテムボックスにしまってから船に乗り込んだ。
「元気でな!」
「皆さんもお元気で!!」
ナット達はケイ達を乗せた船が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けていた。
用件を済ませたケイ達は、船に乗り港町アーベンに戻って行きました。
次回は、日常の出来事を中心に王都アルバラントに関する話を投稿していきたいと思います。
次回の更新は12月16日(月)です。




