表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
112/359

109、呪術と魔族

今回はレントゥスの心臓に関する話。

何が聞けるかな?

レントゥスの心臓は呪いである。


人を異形に変える恐ろしい呪術であり、そのなれの果てを目撃している。

全てを恨み、滅ぼすその行動は、理性をなくした獣のように見えなくもない。


しかしケイは、あの時の黒狼の発言に疑問を覚える。


呪術を行うにあたり“実験”という不適格な発言などするのだろうか、と。

仮に初めて行う儀式だとしても、その表現には疑問を感じずにはいられない。

いくら考えても何もわからないのだが、つい考えてしまうのがケイの悪いクセだ。



翌日の朝、朝食をとったケイ達はベリルの元を訪ねに魔族がいる西側の島に向かった。


ベリルが拠点としている商人ギルドは、レベノの西側にある桟橋から西に歩いた場所にある。桟橋から見える景色は東側と同じ鮮やかな青色の浅瀬が拡がっている。

桟橋は北西に二つ、西に一つ、南西に一つと続いている。


「獣人族とはだいぶ建物の印象が違うのね」


シンシアの言葉に遠くを見つめると、魔族が住んでいる建物は獣人族とは異なり、紫を基調とした二階建ての建物が多く建ち並んでいる。


「紫色の建物って珍しいな」

「あれはズゼの木を使ってるんだ」

「ズゼの木?」

「ルフ島にしかない紫色の木のことだよ。その木は魔力を帯びているといわれているから、その関係で紫といっても全部微妙に色が違うらしい」


以前知り合いから聞いたレイブンが説明をすると、世の中広いんだなと改めて感心する。


商人ギルドがある西側の島への桟橋を渡り終えると、レベノとは違った華やかさを感じる。辺りを見回すと、ベリルと同じ魔族の象徴と言われる角を生やした人々が行き交っている。

魔族といえば唯一交流がある、ドワーフ族とのハーフであるアマンダとクルースを思い浮かべる。人口的な話をすると、三十万人が暮らすこの島には獣人族の方が圧倒的に数が多い。とにかくそれぐらい魔族が少なくお目にかかる機会がない。


ケイは魔族と聞いて迫害された種族と思っていた。しかしダジュールの魔族達は、偏見もしがらみもない。過去の戦争や争いではあったのかもしれないけど、今ではそれを破ると天罰が下る。だから互いに仲良くしなさいということで浸透しているらしい。何とも平和的な話である。


ベリルのいる商人ギルドは、西の島の中央部に位置している。


主張の激しい紫色をした三階建ての建物の前では、多くの人や馬車が行きかっている。道を聞いた際に教えてもらった男性から「凄い色をした建物だからすぐにわかるよ」と言われたが、実際に見てみるとたしかに他と同じ紫色なのに妙に目に厳しい色をしている。あえて言うなら、直射日光に当たった紫のスパンコールみたいな感じだ。


そんな洗礼を受けたケイ達は、足早に建物の中に入っていった。



中ではまだ時間直後だったのか数人の職員と客の姿しかおらず、右側のカウンターで作業をしている藍色の髪をした青年に話しかけた。


「なぁ、ベリルと話がしたいんだけど」

「はい?ギルドマスターのことですか?」

「そう」

「申し訳ありません。ただいま執務中でして…」


困った表情でケイ達に告げる青年に、本人とも面識があるし冒険者ギルドのオブスから聞いたと述べた。


「ベリルさんしか頼めない用件なんですが、なんとかなりませんか?」

「そうですね・・・まぁ書類の件はギルドマスターが悪いんですし、彼女に頑張って頂ければ・・・」


タレナが頼むと、青年はブツブツと独り言を言ってからケイ達の頼みを了承した。



ベリルがいる執務室は二階の一室にあり、ケイ達を案内した青年が扉の前で声をかける。


「ギルドマスター、お客様がお見えです」


執務室内には、山積みになった書類と一心不乱に向き合うベリルの姿があった。

青年が来客を告げると助かったと言わんばかりの表情でペンを置き、隣の応接室に通すように言った。


「ヤン、ちょうど一区切りついたからお茶を用意して」

「ベリルさん、昨日の書類がまだ残っていますよね?」

「それは後でやるわ。客を待たせちゃ駄目でしょ?」

「駄目です。それで昨日は、ナット君のことでサボったじゃないですか?しっかりやって貰います!ギルドマスターなら可能、ですよね?」

「ホント、最近オブスに似てきたわね」

「褒め言葉として受け取ります」


ベリルの願いを一蹴し、昨日の分はしっかり処理をしてくださいとクギを刺した青年は、そのままケイ達を隣の応接室に案内した。案内される際、ベリルから助けを求める表情をされたが自業自得である。


「ギルドマスターはすぐ終わると思いますので、こちらでお待ちください」


来客用のティーセットを運んできた先ほどの青年が説明をする。

彼はヤンと言って、商人ギルドの職員でありベリルの秘書を担当している。


ヤン

商人ギルドの職員兼ベリルの秘書。

職員の中では若手であるが、仕事は丁寧で正確と言われており評判も上々。

最近の悩みは、ギルドマスターがすぐに仕事をサボることらしい。



ヤンとたわいもない話をして三十分経った頃、少しやつれた表情でベリルが応接室に姿を現した。


「そんな短時間でやつれることか?」

「ギルドマスターは忙しいのよ・・・」

「サボってた方が悪いんじゃん、自業自得」


向かいのソファーに腰を下ろしたベリルに、ケイがヤンに入れて貰った紅茶に口をつけながら一言。口の中に甘酸っぱい紅茶の香りと味が広がる。


「・・・で、話って?」

「テジオラから、アンタが呪術に精通してるんじゃないかって聞いて来た」

「精通とまではいかないけど、他の人より少し詳しい位よ。それに呪術と言ってもたくさんあるわ」

「『レントゥスの心臓』について知りたい」


ケイが述べると、用意された紅茶に口をつけたベリルが一瞬止まり目線をこちらに向ける。そして表情を一瞬曇らせ、考えるようにゆっくりとカップをソーサーに置く。


「あなた達からその言葉を聞くとは思わなかったわ」

「何か知ってるのか?」

「知ってるといっても少しだけ。レントゥスの心臓は一般的に異形に変える呪術と伝えられているわ」


ケイの鑑定結果と黒狼の話と一致する。

呪術を行ったものがアスル・カディーム人であるならば、彼らはその系統にも精通しているのだろうと考える。しかしベリルから意外な一言が飛び出す。



「それに、もともとエルフ族が発祥と言われているの」



「エルフ族!?」


六人が声をそろえて聞き返す。

ケイは紅茶に口をつけようとしたカップを戻し、詳細に耳を傾ける。


「エルフ族が呪術を使うのか?」

「少し違うわ。エルフ族は精霊魔法を得意とする一族ということは知っているかしら?」

「あぁ。以前エルフの森にいるハインから教えてもらった」

「実はレントゥスという言葉は、古いエルフ語で『不屈』という意味なの。闇の精霊が持っている不屈の魂儀(こんぎ)という魔法があってそこから来ているんじゃないかって」

「不屈の魂儀って?」

「対象者を一度だけ死から守ってくれる魔法よ。今は使える者がいないけど、エルフに関する古い文献に載っていたわ」


ということは、アスル・カディーム人ではなくアグダル人がその呪術のもとになった魔法を使っていたということである。アグダル人が使っている魔法をアスル・カディーム人が呪術として改良したのかと考えたがそれも違う気がする。


「思ったんだが、エルフ族は四大精霊しか契約できないと聞いたが違うのか?」


ケイの言葉にベリルが困惑の表情を浮かべる。

何か聞いてはいけないことでもあったのだろうかと考えたが、しばらくして彼女から驚きの事実を聞かされることとなる。


「実はこれもあまり一般的に知られていないことだけど、魔族というのは元はエルフ族のことなの」

「え?とういうことなの?」


驚きの声を上げるシンシアにベリルが詳細を話してくれた。


「魔族はもともと闇の精霊しか契約できない者たちを示す言葉で『はみ出し者』と言われていたわ」


ベリルを含めた一部のエルフたちは、闇の精霊しか契約できずに迫害されていたようだった。一族では、闇は(よこしま)な者たちという意味合いを持っており、いつの間にか差別・迫害され森から追放されたそうだ。そして年月を得てシティエルフというはみ出し者=ひねくれ者からくる造語などと、いろんな意味合いが含まれ今にいたる。


ケイが認識していた魔族は『魔』の中から生まれた別の種族とばかりおもっていたが、だいぶ違うことに思わず驚きの声を上げる。


「でも、エルフとだいぶ見た目が違うよな?角生えてるし」

「魔族のこの角は、闇の精霊と契約した証になるの」

「え?そうなのか?」

「エルフ族も精霊と契約をすると、体のどこかに契約の印が刻まれるの。だけど闇の精霊と契約をするとその証が角として形成され刻まれる。それに闇の精霊は夜しか活動ができないし、他の精霊以上に魔力を必要とすることがあるから魔力を保存・維持するために、契約者にはその証である角が形として現れるということなの」

「なんだか大変そうだな」


人間にはわからないが、頭に生えている角には常時魔力を溜めている感じで触ると温かいらしい。ベリルから触ってみる?と言われたがちょっと怖いので辞退した。


ベリルの証言からレントゥスの心臓は、エルフ族の不屈の魂儀という魔法が元になっているようだ。素直に考えるとエルフの祖先と言われるアグダル人の魔法を、アスル・カディーム人が湾曲させ呪術としてレントゥスの心臓という魔法を表現したことになる。


そうなると、アグダル人を裏切っているような意味合いになってしまい辻褄が合わない。ケイは、さすがにこれじゃないなと考えこんでしまう。

そんなケイを見たベリルはそういえばといい、ソファーから立ち上がると一旦執務室の方に下がった。そしてすぐに一冊の本を手に戻ってくる。


「これは?」

「これは前にオブスから預かった、エルフ族から獣人族に渡った秘密契約の文献の一冊よ。これも解読をお願いされていたんだけど時間がなかなかとれなくて…」

「別の文献は挫折したんじゃないのか?」

「オブスから聞いたのね?確かに前の文献は私では読めなかったわ。だけど、これは時間をかければ私でも読めそうだったから、合間を見て挑戦しているの」


ベリルは文献は二冊あると言って一冊をオブスに返し、もう一冊を手元に置いておいたそうだ。秘密契約の大事な文献という割には扱いが雑である。

ケイはその文献を手に取り中身を確認してみる。


すると、オブスから受け取った文献と同じように文章が読めるようになっている。


ザっとみた感じ、四つの人種の話が載っていた。字の雰囲気から最初に預かった文献とは違ったため、おそらく別の人物によって書かれたものだろうと考える。


「ベリル、これ借りてもいいか?」

「あなた読めるの!?」

「まぁな。明日翻訳したものと一緒に返すからいいだろう?」


隣で聞いていた五人も、オブスにも借りているのに!?という表情でケイを見つめる。ケイに言われたベリルも、目をパチパチとさせながらもし読めるならとケイに同意した。



ベリルは午後から別の来客があるということで、ケイ達は商人ギルドを出てレベノの宿泊施設へと戻って行った。


魔族=エルフ族:闇の精霊と契約した者

わかったようでわからない情報にケイ達は振り回されている!?

果たして真相は!?


次回の更新は12月13日(金)です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ