108、取り交わされた契約
やっとルフ島の用事事にたどり着きました。
今回はダジュールの歴史の回になります。
その日の夕方、オブスに雷を落とされたケイ達とテジオラは、そのまま冒険者ギルドに半ば連行されていった。
新しい武器や防具を新調したが、まさか創造とエンチャントを施した武器があのような性能だとは誰も予想だにしなかっただろう。
「はぁ・・・」
そのまま二階の応接室に通され、座るように即されると向かいに座ったオブスが一連の行動にため息を漏らす。今までに聞いたことのないような音が街中に響き渡ればそれは誰だって焦る。獣人族の長と冒険者ギルドのマスターを兼任している彼にしたら、さぞ肝が冷えたことだろう。
「・・・で、前に用意しておくって文献は持ってきたのか?」
「あぁ・・・というか、お前は少し反省をしろ」
向かいに座っている元凶に脱力感を覚えたオブスは、持参した古い鞄から丸められ紐で縛ってある書類や文献が数冊取り出される。
「その書類は、エルフ族と獣人族が取り交わした契約内容の詳細だ。それと文献の方は、当時文書管理の契約を交わした時に保管されていたものだ。だが、当時の言葉で書かれているようで内容を読み解くことは難しい」
ケイが紐で縛ってある書類を手に取り紐をほどき中身を確認する。
「『塔作製の技法・資料の一切を口外することを禁じる』」
その言葉に、一同が一斉に振り向く。
オブスの言葉通りであれば本来、そこには古い言語で綴られているようなのだが、なぜかケイにはそれが読めるようになっている。また、以前ベリルに翻訳を頼んだが正確に解読することが出来ずに挫折したことを思い出した。
「ケイ、読めるのか?」
「あぁ。なんか読めた」
「これは驚いたな。まさか古い言語にも精通していたなんて知らなかったぞ!?」
テジオラは多才なケイに尊敬の念を送る。
しかし当の本人はまったくその兆候がなかったため、何故読めたのか首を傾げる。
ケイが契約内容の書類を読み解くと、以下の内容が記されていることがわかった。
・塔の作製・建設を担ったドワーフ族および獣族の絶対的な保護
・アスル・カディーム人の技術継承
・アグダル人,ビェールィ人の同盟継続
・シャムルス人,アフトクラトリア人の歴史隠蔽
一つ目の塔の作製・建設を担ったドワーフ族および獣族の絶対的な保護は、当時ペカド・トレ(試練の塔=罪の塔)の建築に携わっていたであろうドワーフ族と獣族について、いかなる理由があろうとも手出しをしてはいけないと言う内容だった。
二つ目のアスル・カディーム人の技術継承は、当時の技術はアスル・カディーム人の方がどの一族より優れていたと考えていい。アスル・カディーム人は、五大陸の先駆けとなっていたのだろうとケイは推測する。
そして残りの下二つが、ケイ達に疑問を持たせる。
三つ目のアグダル人,ビェールィ人の同盟継続というのは、恐らく始めに同盟を築いたシャムルス人とアフトクラトリア人を除いた二つの人種の同盟継続のことだろう。
そこに四つ目が続く。
同盟解消したことにより、残りの二種族が同盟を継続させるところまではいい。
しかしその後の、シャムルス人,アフトクラトリア人の歴史隠蔽と言う意味が理解出来ない。仲が悪くなり争いの後、滅びて隠蔽するなどといった話はザラにある。
それを差し引いても極端すぎる印象を持つ。ケイは、以前フリージアの地下遺跡で拾った手記の内容を思い出した。
ビェールィ人がアスル・カディーム人を裏切ったと記されていたが、それを指示したのはシャムルス人かアフトクラトリア人が関係していたのではと考える。
現にその二人種の概要はほとんどわからない。特にアフトクラトリア人はどんな外見と特徴だったのかという初歩的なところもわかっていない。
ケイが契約内容をみんなに伝えたところ、アダムが初歩的な疑問を口にする。
「ところで、その獣族ってなんだ?」
「獣族というのは、我々の祖先にあたる人種と考えられている」
「獣人族と何が違うんだ?」
「獣族は、動物と同じ容姿をしており知能を持って人と同じ社会生活を営んでいたと言われている」
「じゃあ、獣人族は?」
「我々は長い年月の過程で、人に近い容姿に変化していったのではと推測できる」
オブスがアダムの疑問に説明するように回答する。
獣人族はたまたま大きな変化が起っただけで、進化の過程は大なり小なりどの種族もある。ケイはそれも疑問だけど、もっと他にも向けろよとアダムに目で訴える。
「いろいろとつっこみたいことはあるけど、まず四つの人種の同盟が解消されたと考えて、なんでシャムルス人とアフトクラトリア人は隠蔽されなきゃいけないのかしら?」
そこでシンシアからの疑問が投げかけられる。
確かに同盟を築いてきた四人種が解消されたまでは誰だって理解ができる。
その後に存在を隠蔽することが何を意味しているのかは、この契約の内容には書かれていない。
これは推測になるのだが、アスル・カディーム人を何らかの事情で亡き者にした後に罪悪感を募らせ、アグダル人と共謀して他の二人種の存在を抹消した。あるいは、同盟関係を結んでいたがそれ自体に不満を募らせ、強行におよび存在自体を歴史から隠蔽した。
仮説は立てたが、ケイはイマイチ腑に落ちない表情をする。
一番は、ケイ達が遭遇した黒い騎士のなれの果てである。
黒狼の言っていたレントゥスの心臓は、呪術と仮定してアスル・カディーム人がそれを施したと考えると、主であるアフトクラトリア人は同盟に否定的だったと考える。呪術によってシャムルス人が異形に変わって行く姿をみて、アグダル人とビェールィ人は恐怖を覚えアフトクラトリア人とアスル・カディーム人の存在を抹消。
しかしそうなると、シャムルス人を隠蔽する理由にはならないし、一つ目と二つ目の項目が不自然になる。それに塔の建築に関わったと思しきドワーフ族と獣族の関係性も不明だ。
現状、誰が不満を抱き、誰が好意的になっているところもわからない。
「この文章なら、どんな解釈でも受け取れそうだな」
「えっと今までのことを整理すると、アフトクラトリア人とアスル・カディーム人が主従関係で、シャムルス人,アグダル人,ビェールィ人,アフトクラトリア人が同盟関係にあった。そしてなにかしらの事情で、アフトクラトリア人とアスル・カディーム人それとシャムルス人が歴史から隠蔽されたということかしら?」
「今のところその考えが有力だが、そうなると契約内容が一致しないし塔の偽装も謎。そこまでの経緯も不明」
「なんか難しいわね」
「おそらく塔とレントゥスの心臓がカギなんだろうな。あとはそれぞれの関係性」
ただの同盟破棄だけではないのは何となく察しがついている。
シンシアは整理するように発言すると、ケイはとりあえず一旦考えを中断しようと返し、それとと前置きをしてからアレグロとタレナにある事を告げた。
「アレグロとタレナに聞いてほしいことがある。お前達には辛いことかもしれないけど、俺はエストアで遭遇した黒い騎士はお前達の父親の可能性を考えている」
「えっ!?ちょっとまって!どういうことなの!?」
もちろんその発言に二人は驚愕の声を上げる。その隣でシンシアもそのことを知らないためケイに詰め寄る。
「以前アレグロが言った『パテラス』という言葉だが、あれはアスル語で『父上』という意味らしい。そうなると、あの黒い騎士はアスル・カディーム人、つまりアレグロとタレナの父親の可能性があるかもしれない」
ケイはアルペテリアを保護し三人が彼女の面倒をみている間に、エケンデリコスからその意味を聞き、自身の見解を述べた。
そうなると、二人の父親は自ら何らかの事情で異形になったと考えられる。
そこにダジュールの管理者だったメルディーナが関わっているのではとふと思い返す。黒狼の証言からメルディーナは歴史に穴を開けた。そしてそれは四人種の同盟に関わるなにかではないかと仮説を立てる。メルディーナ本人に聞くことができないが、今までの経緯を含めると可能性は高いだろう。
「ちょっと待ってくれ!悪いが、俺達にもわかるように説明してくれないか!?」
ケイに伝えられたアレグロとタレナは動揺のあまり閉口した。その横で途中から話についていけてないテジオラが声を上げる。二人の存在を忘れていたケイは、アレグロとタレナの事を含んだ今までの経緯をオブスとテジオラに説明した。
案の定、二人はおとぎ話を聞いているようなほうけた表情をしている。
まさか自分たちの目の前にいる二人が過去に存在していたアスル・カディーム人だとは思うまい。しかし、現実に存在している。いつまで経っても意識が戻ってこない二人にいい加減に戻ってこいと言うと、ハッとしたように動き出す。
「え゛っ!?ケ、ケイ嘘じゃないよな?」
「証人もいるし本当の事だ」
「まさか、過去に存在していた人種がいたとは・・・」
「ただ、さっき説明した通りに本人達には記憶がない。生存していたとなると、何かしらがあったことは間違いないんだ」
未だにテジオラとオブスが唖然とした表情をしている。
確かに1500年前の人物が時を得て存在しているとなると、本当はアレグロとタレナも何かしらの原因で今の時代を生きていることになる。
「二人は今も、何も思い出せていない状態なのか?」
テジオラの疑問に、アレグロとタレナは一瞬戸惑った表情をした。
二人の表情を見るに大なり小なり思い出したことがあるように感じる。
「・・・ひとつだけ、『何か』に閉じ込められていたわ」
「閉じ込められた?」
「えぇ・・・出られなかった。窓の外からタレナと誰かが覗いているところを思い出したの」
「誰かって?」
「思い出せないの・・・ただ、雰囲気は男性だった、と思う」
アレグロはその時の事を思い出したのか、俯き考えるように言葉を紡ぐ。
話を聞いてその時二人は一緒ではなかったということなのだろうか?と考える。
一方のタレナはなにも思い出せないのか首を横に振っていたため、ケイは急ぐことはないから思い出したら言ってくれとタレナを慰めた。
「そういえば文献の方は読めるの?」
シンシアに言われそうだ!とケイが、もうひとつの文献を手に取る。
中を開き確認すると、契約書と同じ文字が読めている。
その内の一ページをめくり内容を読んでみると、一部独白の形で書かれている。
内容は、技術を継承してくれたアスル・カディーム人を裏切った。
我々ビェールィ人とアグダル人は互いに手を取り合い、永遠にアスル・カディーム人に敬意と懺悔を送る。そしてアフトクラトリア人とシャムルス人に永遠の罰をという一節を読み取ることができた。
少なくともビェールィ人とアグダル人はアスル・カディーム人を尊敬していたことが窺える。しかしなぜ裏切ったのかという疑問は解決していない。そして、アフトクラトリア人とシャムルス人には罰をという文面から恨みを感じる。
「ますますわからないわ」
「現段階では、ビュールィ人とアグダル人はアスル・カディーム人を尊敬して、シャムルス人とアフトクラトリア人は恨んでいると捉えていいのかな?」
「たぶんそうだろうな。そうなると、レントゥスの心臓はシャムルス人に向けられ施されたということか」
「それが私たちが見た黒い騎士のことね。じゃあ主であるアフトクラトリア人も同じ事をされたということかしら?」
シンシアとレイブンが語った事を考えるとその説が一番近いのだろう。
しかしあくまでも全てが仮説のため裏付ける証拠がない。
それと、ケイはレントゥスの心臓の呪いについて詳しく知りたいと思い、テジオラが言っていた言葉を思い出す。
「テジオラ、そういや呪いについて知っているかもしれない人っていたよな?」
「ベリルさんのことか?彼女は魔法にも精通しているようだから、そういった類いの話も知っているかもしれないと思っただけなんだ」
「でも、魔族なら可能性はあるだろうな」
「ベリルなら書類の整理に追われていると言っていたぞ。明日は一日中商人ギルドの方にいるんじゃないか?それとその文献はお前が持っていてくれ」
「はぁ?重要なモンじゃないのか?」
「どちらにしろ我々には読めん。文字を読めるお前なら読み解くことは出来るだろう」
「人任せかよ!?」
「その代わりにこちらも全面的に協力する」
「じゃあそれでいい」
ケイ達はオブスから全面協力の取り付けとベリルの事を聞き、明日にでもレントゥスの心臓について聞いてみようと思いに至った。
五つの人種が登場しますけどわかりますかね?
理解しづらかったらごめんなさい。
ご存じだとは思いますが、実際に存在しない歴史になります。
次回の更新は12月11日(水)です。




