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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
11/359

9、ガレット村(後)

ガレッド村ミステリー劇場後編です。

ケイが村長の家に戻ってきたのは、日没になる少し前だった。


「ケイ、どこに行ってたんだ?」

「ん~ちょっとね~」

アダムの問いかけにサラッと流すケイ。

「ケイさん、アダムさん、夕食を用意しましたがいかがでしょう?」

ナンシーがケイとアダムのために夕食を用意してくれた。

「やった!食べる!!」

「お気遣いありがとうございます。もちろん頂きます」

二人が席につくと、すでに村長とハンス着席しており、ナンシーが作った料理をみんなで食べることにした。


ガレット村には宿屋がないため、二人は一晩村長の家に泊まることとなった。


来客用の部屋に通された二人は思い思いの時間を過ごす。

アダムが窓の外を眺めると、日が完全に沈んでおり村の明かりが仄かに辺りを照らしていた。


「ケイ、聞いてもいいか?」

「な~に~?」

すでに片側のベッドに横になっているケイに、空いているもう片方のベッドに腰を掛けてアダムが話を切り出した。

「お前、誰がやったのかわかっているんだろう?」

「いやいや!アダムこそなんでわからねぇの?」

ベッドから勢いよく飛び起きると、ケイがアダムに詰め寄った。

さすがのアダムも一歩たじろぐ。


「しょうがない。そんなアダム君には特別に俺から説明をしよう!」

どうやらケイは真実にたどり着いているようで、その辺の説明を始めた。


「まず、ダンの畑に植えられたものは?」

「キャベツとスーカ」

「正解。ハンスの畑には?」

「キュウカムバとトマトとジャガイモ」

「正解。マーサの畑には?」

「ピーナッツとにんじん。それといちご」

「正解。ドランの果樹園は?」

「リンゴとオレンとグレープ」

「おしい!」

ケイが膝を叩き、身体を仰け反らせる。


「では解説しよう!」

仰け反った身体を元に戻す。


「まず、ダンの畑のキャベツとスーカ重さは一つで大体2~3㎏。畑から持ち出した際に割れたり、引きずったりした後があることから、犯人は持ち去ることが難しかったと考えられる」

「俺たちだって一度でたくさん持てるわけないだろう?」

反論するアダムをなだめ、話を続けるケイ。

「そこで割れたスーカを調べた際に、部分的にしか割れていないことがわかった」

「ん?どういうことだ?」

アダムが首をかしげる。

「ダンの畑から取られたスーカには地面に接した部分しか割れてない。つまりだいぶ低いところから落とされたということになる」

「じゃあキャベツの引きずった後も?」

「重量の関係で持ち上げて運ぶことが難しかったと考えてもいい」

アダムの反応を確認すると説明を続けた。


「次に、ハンスの畑とマーサの畑の作物は、ダンの畑のものより小さい物が多くたくさん持つことができる」

「だとしても大量に運ぶには限度がある」

「それが複数人だったら?」

そこでアダムがハッとした表情で、

「分担して畑から作物を持ち出すことは可能・・・と言う訳か」

と、続けた。


「次にドランの果樹園は、リンゴとオレンとグレープ。そしてサラのハーブだ」

「ハーブ?」

「まずリンゴ・オレン・グレープは木の上に実がなっている」

アダムが頷く。

「犯人はドランがいつも使っている刃物を利用した」

「あの柄の長い刃物か!」

「刃物の長さは大体60cm。アレを使えば、上の果物にも手が届く。

 しかし難点が一つ。犯人の身長が極端に低いことだった」

「えっ?」

「犯人が切った場所は、全て下の方で上の方は全くの手がつけられていない。

 木の全長は2m30cm。一番上に実がなっている位置は2m。

 ドランの身長は俺と同じぐらいだから170cm位。

 それに刃物の60cmを足せば十分届く。

 対して、下の方は地面から一番低い位置でも160cm。

 その範囲内で取られていると考えると犯人は1m程度の背丈になる」

アダムは驚きすぎて声が出なかった。

「グレープはほかの果物より被害の少ない。これは植えられていた場所に関係していたんだ」

「植えられた場所?」

「グレープは家の側で植えられていた」

「そうか!ハーブか!」

「正解。グレープの木の近くにはサラが育てているハーブが置いてある。犯人は匂いに敏感でおそらく耐えきれずにそんなに取ることができなかったんだろう」


「そして最後に、なぜ北側の畑が被害に遭わなかったか?」

「それはなんだ?」

「それは犯人が潜伏している場所に関係しているんだ」

「なんだって!」

アダムが立ち上がる。

「畑の被害は東・南・西の計4ヶ所。まず北と東は街道になっていて隠れる場所が少ない。

 西は西大陸との国境が近く森があるため隠れやすいが、被害に遭うのは北になる。

 と、考えると残りは南のエバ山の森になる」

「ちょっとまて!この村はそんなに広くないから、北側の畑にも行けるはずだろう?」

「行かなかったんじゃなくて、行けなかったんだ」

アダムの表情が曇る。


「重い物が持てず、1mほどの高さで、匂いに敏感なものってなぁんだ?」

アダムの表情を見て、ケイはにやりと笑った。



「ケイさん!アダムさん!大変です!開けてください!!!!」

突如ドアを激しく叩く音と、ハンスの声が聞こえた。

アダムがドアを開けると、息を切らしたハンスの姿があった。


「犯人らしき人物が捕まってます!」


ハンスの案内でケイとアダムが表に出る。

その道中ケイは、アダムに単独行動の理由を話した。

「日没になる前に全部の畑に仕掛けをしておいたんだ」

「仕掛け?」

「人や生き物が入ると発動する魔法だよ。仕掛けた際に、犯人を捕まえるから畑に入るなと全住民に言っておいたんだ」


三人が向かった先はマーサの畑だった。

畑には大きな魔方陣と巨大なツタがゆっくりと動いていた。


「ハンス達じゃないか!これはどういうことなんだい!?」


畑の異変に気づいたマーサが、肩に羽織り物をかけて畑の外に立っていた。

その隣にはエルが木の棒を持っている。


「実験成功!では答え合わせと行こうじゃないか!」

と、ケイが魔方陣の方を見やった。



「はなせぇぇぇ!!!!」



そこには、一人の少年がツタに巻き付いた状態で発見された。

ツタから出ようともがいているがビクともしない。


「抵抗するなよ!降参するなら下ろしてやる!」

ケイが少年に声をかける。

「ケイ、この魔法は?」

「【ブロークンセキュリティ】という風属性の魔法で、指定した範囲に人なんかが入るとツタで拘束されるってワケ」


【ブロークンセキュリティ】風属性魔法。指定された範囲に生物が入ると、拘束するようにツタが巻き付いてくる。


少年が降参の意思を示したため、ケイは術を解除した。


「ケイさん!アダムさん!この騒ぎは一体!?」

ガシムがナンシーに付きそわれ現れた。

騒ぎを聞きつけ、他の村民も集まりだす。


少年を保護した一行は、一度ガシムの家に向かうことにした。


「まさか獣人族の子供だとは思いませんでした」

ガシムが少年の姿をみて、そう言った。

少年は一見普通の子に見えるが、頭には犬の耳のような物が生えている。


獣人族は、主に南大陸のルフ島に住んでおり、匂いに敏感で狩りが得意な人種と言われている。


村長の家に向かう前に、少年が南の森に妹たちがいると証言した。

アダムとハンスは村民数人を連れて向かっていた。


「で、お前何やってんの?」

ケイの問いに少年がふてくされた顔をした。

「というか、獣人族だろう?ルフ島にいるんじゃないの?」

「そ、それは・・・」

言いづらそうに少年が下を向く。


「ケイ!戻ったぞ!」

と、アダム達が戻ってきた。

アダムとハンスの側には、犬の耳をした少女と猫の耳をした少年が立っている。

二人ともおびえた表情を見せていた。


「お兄ちゃん!」

「ゼム!」

「ノーリン!グッツェ!」

名前を呼ばれた二人がゼムに駆け寄る。

「二人共怪我はないか?」

「わたしなら大丈夫!」

「ボクも!」

互いに無事を確認した。


獣人族の三人は全員10才にも満たず、身長は1mほとしかなかった。

また長い間森にいたため、全身汚れていた。


「三人とも話を聞きたいんだがいいかな?」

なるべく怖がらせないようにアダムが問うと三人は首を縦に振った。


「オレはゼム!こっちは妹のノーリンで、友達のグッツェ」

簡単に紹介したゼムが、ことのいきさつを話し始めた。

話によると、三人はルフ島の港町に住んでいる子供で、

港で遊んでいたところに木の箱があったため、入って遊んでいるうちに寝てしまい、気がついた時には見知らぬ場所に着いていたということだった。


「島に戻ろうと考えている時に、ノーリンとグッツェが腹を空かせていたから、夜に畑に行って食べ物を取っていだんだ」

ことの重大さを痛感した三人は俯いた。


「じじぃ、どうすんだ?」

ケイがガシムに尋ねた。


「どうすると申されますと?」

「こいつらをしょっ引いて豚箱に入れるか?奴隷にして強制的に働かせるか?」

ケイの言葉に三人が強張る。

「ケイ、なにもそこまで…」

「そこまでって…何?」

アダムの言葉にケイは反論した。

「責任に大人も子供もねぇ。自分のケツが拭けないような奴にその後起こったことに文句は言えねぇよな?」

顔をゼム達に向ける。

「第一こうなることが起こった時、どうするつもりだったんだ?」

「そ、それは…」

ゼムが言い淀む。

「悪い奴に騙され、妹や友達を売られ離れ離れになったらどうする?」

下を向いた三人の表情は見えないが、身体が震えていた。


「ケイさんそこまでにしてください」

ハンスが制した。


「わたしは、彼らを処罰することを望んでいません」

まっすぐな瞳がケイを捉える。

「まぁ、野菜はまた育てればいいしなぁ」

ダンが鼻の頭を掻きながら続ける。

「さすがに私もこんな小さい子にそこまでするのは気が引けるよ」

マーサもばつが悪そうに答えた。

「うちの果物はおいしかったかい?今度は言ってくれたらとってあげるからね?」

と、優しく語り掛けるドラン。


そんな村民をみて、ガシムがケイとアダムにあるお願い事をした。



翌日の朝、村の入り口にケイとアダムが立っていた。

傍らにはゼムとノーリンとグッツェの姿もあった。

三人は、村民によって洗われ、おさがりではあるが村の子供の服を着せてもらっていた。


「待ってー!」

エルとキャロルが駆け寄ってくる。

キャロルの手にはイチゴがなった小鉢が抱えている。

「はい!これあげる!」」

と、ノーリンに小鉢を手渡す。

「えっ?」

「わたしとお兄ちゃんで育てたの!大事に食べてね!」

「キャロルがこれをあげるって聞かなかったんだ。黙って食わずに今度は声を掛けてくれよな」

屈託のない笑顔のキャロルと、あきれたような表情で言葉を続けるエル。

「ごめん・・・ありがとう」

エルの言葉にゼムが謝罪と感謝の意を述べた。

「今度来たときは、それ以上の量を食わせてやるからな!待ってるぞ!」

しかしあれだけ怒っていたエルだが今はその影もない。

子供とは実に不思議である。


「それではケイさん、アダムさん。彼らの事よろしくお願いします」

「わかりました。彼らは責任をもって、親御さんの元にお送りします」

お辞儀をするガシムにアダムが丁寧に返した。

「おいお前らいくぞ!」

「はーい!」

ケイとアダムは三人を連れ、アーベンに戻ることにした。



アーベンに着いた時には半日を過ぎた頃だった。

門番の男に軽く説明をしてから通してもらい、その足で冒険者ギルドに向かった。


「ケイさん、アダムさんお帰りなさい」

「ミーア悪いが、頼まれてほしいことがある」

笑顔で迎えてくれたミーアにアダムがあるお願い事をした。


ギルドの応接間に通された五人はミーアが戻るのを待っていた。

「おなかすいた~」

「わたしも~」

「ボクも~」

あとでちゃんと食べさせてやるとなだめ、ケイは鞄から非常食を取り出し三人に渡した。

「その非常食硬そうだが」

「歯があるから食えるだろう」

非常食の硬さに悪戦苦闘している三人を横目に苦笑するアダム。


扉をを叩いたのち、ミーアが資料を手に戻ってきた。

「お待たせしました。確かにルフ島の冒険者ギルドから捜索依頼が出ています」

「やっぱり」

「名前も特徴も一致してますし、彼らで間違いはないと思います」

ミーアがソファーに腰を下ろす。

「それと、依頼を受けた冒険者がこちらに向かうそうです」

「冒険者?」

「はい。テジオラという冒険者だそうです」

「えっ!テジオラ兄ちゃん来るの!?」

非常食を食べ終えたゼムが言った。

「知ってんのか?」

「テジオラ兄ちゃんは狩りもうまくて強いんだ!俺も大きくなったらテジオラ兄ちゃんみたいになりたい!」

「自分の言動に責任を持てたらな」

ケイはゼムに身も蓋もない言葉を掛けた。

「こちらで保護をしているとお伝えしましたので、三日後に到着する往復便に乗りますとの回答でした」

「じゃあそれまでの間、俺の家で面倒を見よう」

「ギルドの簡易施設もありますが?」

「村長と約束をしたので、最後まで責任は持つつもりだ」

アダムはミーアの提案を辞退した。



三日後、ケイとアダムが三人を連れて港で待っていると、ルフ島との往復便の船内からに一人の男が降りてくる姿がみえた。

日に焼けた肌と逆立った赤い髪、狼の耳を持ったテジオラである。


「こんのぉばか!!!!」

三人の姿を見ると、ゼムの頭にテジオラの拳骨が落とされた。

うずくまるゼムを余所に、テジオラが二人に声をかける。

「あんたたちがゼム達を見つけてくれたのか、俺はテジオラ。普段はルフ島の冒険者ギルドを中心に活動をしている」

「俺はアダム。こっちがケイだ」

「よぉ!」

アダムがテジオラに今までの経緯を説明した。

「はぁ~どおりで島中探しても見つからないと思ったぜ」

テジオラは、ゼム達の両親から依頼を受けて今まで探し回っていたようだった。

「まさか他の大陸に行っていたとはね…」

「ガレット村はここから半日ほど歩いたところにあるから、運がよかったほうだと思う」

脱力しているテジオラにアダムは慰めの言葉を掛けた。


「じゃあ皆行くぞ!」

「はーい!」

テジオラの言葉にゼム達が返事をする。

ルフ島の往復便出航が近いため、テジオラは三人を連れてそのまま船に乗り込む。

「ケイ!アダム!ゼム達が世話になったな!本当にありがとう!」

「兄ちゃんたちまたな~!」

「またね~!」

「ありがと~!」

船はイカリを上げ、港からゆっくりと出航した。


ケイとアダムは船が見えなくなるまで手を振り続けていた。

この回は割と初期に思いついた話ですが、なにぶん繋げるのが難しかった。

ミステリー作家ってすごいなとあらためて思った。

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