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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
109/359

106、本当のこと

ケイ、仲間達に本当の事を話す。

ケイ達が港町レベノに戻って来た時には、すでに日付も変わった頃だった。


それにも関わらずその足で冒険者ギルドに向かうと、中の明かりがついたままで人の気配も多く感じる。

テジオラを先頭に中に入ると、ギルドマスターのオブスや受付嬢、ナットの家族に恐らくバナッシェの家族とおぼしき豹の獣人の女性と兄姉の姿があった。


「ナット!」

「父さん!」


ピウスがナットに駆け寄り、無事を確かめるかのように固い抱擁を交わす。

ナットは「父さん苦しいよ~」と言っていたが、ピウスは元々涙もろいのか目から滝のように涙が溢れている。トリーヤもナットの姿を見つけ、ほっとしたのかその場で腰を抜かしてしまいパースに支えられていた。


「こんのバカ!」

「痛っ!!」


バナッシェは母親とおぼしき恰幅のよい豹の女性に拳骨を喰らっていた。

兄らしき長身の青年とふんわりとした印象の姉が止めに入ったが、二人も怪我はないかと全身を確かめた後に抱擁を交わす。


「テジオラ、それとパーティ【エクラ】よく戻って来てくれた」

「親父待ってたのか?」

「当たり前だ、ピウスからおおかた話しは聞いた。詳しい事は後・・・というわけにはいかんな。さっそく何があったか説明して貰おう」


オブスの案内で二階の会議室に通されたケイ達は、ギルドマスターへの報告を行うことになった。



今回の報告では、オブスとテジオラ、ナットとその家族にバナッシェ、そしてケイ達六人である。


まずケイ達は、バニューボに乗り捜索したところ奈落の下に地下遺跡の跡を発見したと説明をした。地下遺跡は大陸中に点在しており、最近発見された文献には地下遺跡は元は全て繋がっていたと説明を加える。


オブスはその説明に目を細めていたが、ケイ達の説明を黙って聞いている。


そしてそこに現れた黒い騎士の存在に、倒したら人骨が発見され、恐らく呪いの様なもので異形の姿になったのではと話す。オブスがその呪われたモノはどうしたと聞かれ、一瞬言葉を詰まらせる。正直これは言っていいモノなのかと全員が顔を見合わせる。


「説明できないのか?」

「それが、俺たちにも説明が難しいもので・・・」


アダムは言い淀むとケイの方を見つめる。


正確には、関連性のあるケイとナットの方が説明ができるのではという思いからなのだが、ケイ自身はそのことに触れてほしくないというより説明が面倒くさいの一択で、どうしようかと倦ねいている。


「ケイ、あの黒狼はお前とどういう繋がりがあるんだ?」


ここでテジオラの空気読まない先制攻撃が飛んで来る。

それにオブスが眉をひそめ反応をするが、正直触れてほしくないところにボディブローを受けたかのような表情をしてみせる。



「黙っていてごめんなさい」



そこでナットの一言が場の空気を変える。


ナットは顔を青くさせながら俯き謝罪を述べる。

テジオラはそんな表情を浮かべるナットに、なるべく怖がらせないよう尋ねた。


「ナット、怒ってないから話してくれるかい?」

「黒い狼が夢の中に出てきたんです」

「俺たちが見た奴か?」


テジオラの問いにナットが頷く。

その後ナットは、夢で体験した話をポツポツと語り出した。

といっても、夢の中の話しなので多くはない。しかし現実に存在していたとなると次に関連性のあるケイに矛先が向けられるのは明白である。


「・・・で、ケイ。お前にもその黒狼について聞きたいんだが?」


ナットの話しが一段落した後、オブスがケイに話を向ける。


アダム達にも黒狼に会って蒼いペンダントを託された、というところまでは話はしている。しかしメルディーナと自分のことは話をしていない。ある程度想定はしていたが、果たして彼らに本当のことを話したところで理解し、信用してもらえるのだろうかと考える。


「奴とはエストアで会った」

「エストア?」


ケイは大分前にはぐれたジュエルハニービーを送り届けるためエストアに向かったところ、そこで黒狼と会ったと話した。

この際なので黒狼との会話を話すことにした。もちろん反応は様々で、おとぎ話を聞いているような、みんながなんとも言えない表情をしている。


アダム達にはケイから事前に話をしていた。

話の内容にはついていけているものの、なぜか五人共心ここにあらずの様な態度に見えなくもない。ケイはそれに疑問を浮かべ首を傾げた。


「俺から話せることは以上だ。他になにかあるか?」

「あ、いや・・・俺から今のところはない。今日は遅いから詳しい話はその都度聞くことにしよう」


まだ信じられないと言った表情でオブスが話を締めると、ケイ達は冒険者ギルドを後にした。



ケイ達が宿泊施設に戻って来た頃には、深夜もだいぶ更けていた。

それぞれが部屋に戻り、ケイが明日のこともあり就寝の準備をしていると控えめに扉を叩く音がした。


「誰だ?」

「俺だよ」


扉を開けるとアダムが立っていた。

宿に戻ってすぐに部屋に入ったところを見ていたので、てっきりすぐに寝てしまったと思ったがこんな夜更けに何のようだろうと思い尋ねると、アダムは話がしたいから部屋に来てくれと口にする。俺の部屋じゃ駄目なのかと聞き返すと、わずかだが動揺するような目の動きをする。ケイはなるほどと納得し、わかったと返事をすると部屋を出てアダムの部屋に向かうことにした。


アダムの部屋に到着すると、想定していた通りシンシア達がいた。

四人共黙り込んで、ケイが来るのを待っていたようだった。


「・・・で、話って何?」


部屋の壁際にもたれかかり、アダムの言葉を待つ。

アダムはなんとか話を切り出そうとしているが、どうも緊張の色が見られるためなかなか言葉が出てこない。


しびれを切らしたのか、アダムの代わりにシンシアがケイの方を向きこう言い放った。



「ケイ、あなた何者なの?」



これもケイが想定した通りの言葉である。


いずれは彼らもケイの素性について聞いてくるのだろうと思っていた。

正直、最初の段階で聞いてくるものばかりと考えていたのだが、なんだかんだでタイミングを逃しているのだろう。ケイも自分からは言わないが聞かれたら答えるというスタンスをとっているため、今の今まで聞かれることはなかったのだ。


「え?人間だけど?」

「そういうことを言ってるんじゃないの!」


ちょっとしたジョークにシンシアが声を上げる。

夜も遅いためあまり声を上げては他の客に迷惑になるのだが、シンシアはそれを忘れているのか続けてケイに問い続けた。


「前からおかしいと思っていたのよ」

「おかしいって?」

「前に【ニホン】の出身って言っていたようだけど、地図を遡っても【ニホン】の表記がないのよ。これってどういう意味?」

「世界には描かれていない場所だってあるだろう?」


ダジュールには、毎年ある一定の期間に限り地図の更新の作業がされている。

その作業は今までに表記されなかった部分や変化してしまった部分、はたまたなくなった箇所を修正するなどの作業が主となる。


シンシアはダナンの領主の娘であり、世界中にある年代別の地図を取り寄せることができるようで、だいぶ長い期間ケイの言っていたニホンを探していたようだ。

しかしいくら遡ってもニホンにたどり着かないと思い始めていたようで、実はケイの嘘なのではと思っていた様子だった。

ケイが日本の出身なのは間違いないのだが、本当のことを言わない限りこの世界には存在しないため彼らがたどり着くことは一生ないだろう。


「それにケイは、いくら待っても話してくれないじゃない」


シンシアがそう言うと顔を俯いた。


正直ケイに対して違和感はあった。しかし本人が口にしない限りこちらから聞くべきではないと静観していたが、今回の黒い騎士との遭遇でケイの異常さを改めて確認できた五人は、やはり直接本人に尋ねてみようとケイを部屋に招いたというわけである。


「ケイ、別に俺達は怒っているわけじゃないんだ。なにか事情があるのかもしれないと思ってみんな黙っていたんだ。ただ、今までの事を考えるとそろそろ本当のことを話してくれてもいいんじゃないかって思っただけなんだ」


レイブンがみんなの意向を汲んでケイに尋ねる。

こういう場合、彼からはどことなく日本人寄りの感覚を覚える。

レイブンも聞きたいことはあるのだろうが、年長者として静観するべきだろうと思っていたのだろう。だけど今回ばかりは、みんなに押し切られたのかなんとも言えない表情を浮かべている。


「ケイ、そんなに俺達のこと信用できないのか?」


アダムがポツリと口にする。

そして堰を切ったかのようにケイに詰め寄ると、胸ぐらを掴んで少し荒い口調で言葉を続ける。


「聞いてるのかよ!みんなお前の事を心配してるんだぞ!?」

「アダム!止めるんだ!」

「ちょっと止めなさいよ!」


レイブンとアレグロが二人の間に割って入り行動を制止すると、アダムは行き場のない感情を抑えようと目を伏せる。


仲間の中では割と付き合いが長いアダムだが、ケイにとって彼はどちらに転ぶかわからない人物なのである。一見しっかりしているようで、苦手なモノが多く、一時期幼なじみのリーンのこともあり精神的にも不安定になりやすい。そのため本当の事を告げた場合、受け入れるか拒否をするかの行動が読めなかったのだ。

話して嫌われたらそれは仕方ないと思っているのだが、ケイにはどうしても割り切れない部分もあり、聞けば話すというスタンスは一部例外を伴う。


ケイはそろそろ潮時かなと頭を掻き、ため息をついた後にこう告げる。



「俺は“転生者”だ」



その言葉に全員が止まる。

ケイはだろうなと思い、この際なので今までの経緯を懇切丁寧に説明した。

シンシアやアダムは、途中で「えっ!?」とか「へぇ!?」とかよくわからない声を上げているがケイはお構いなしに説明を続ける。人間言ったもの勝ちである。


五人の中では、レイブンが始めから最後まで冷静に話を聞いている印象があった。

正直動揺していたのだろうが、当人としては現実味を感じない話に耳を傾ける。

アレグロとタレナは最初こそ驚いたのだが、二人自体記憶がないからこそケイの話を聞けているのだろう。納得をした表情を浮かべている。

アダムとシンシアは、ケイが想定した通り驚愕の表情を浮かべたままだった。

否定されないだけマシなのだが、口をパクパクと動かしている様はなんだかこちらが申し訳ない気もしてくる。


「・・・で、俺は地球で死んで異世界ダジュールに転生してきたワケ。だからシンシアの言ったニホンは俺の世界には存在するけど、この世界には存在していない」


ケイとしては、自身の事や女神・アレサと部下であるメルディーナとのやりとり、貰った能力、メルディーナと黒狼との関係などなど、洗いざらい話したつもりだが五人はただ黙って互いの顔を見合わせるばかりだった。


「え、っと・・・今の話は嘘じゃないのよね?」

「俺は真面目に答えたつもりだが?」


信じられないと言った表情のシンシアが確認のためにケイに尋ねる。

ケイが肯定を示すと、レイブンが時渡りかと呟く。


「時渡り?」

「昔、本で読んだことがあるんだが、別の世界で死んだ人が時空を渡り新たに生を受けて他の世界で生きていく話があるんだ。もしかしたら、ケイはそれに類似しているのかもしれない」


どうやら伝承などでそういう類いの話がいくつかあるようだ。

あとは、過去にアルバラントでそう言った人物が存在していたような話を聞いたことがあるとも言っていた。

そう考えると、ケイ以外のヴィンチェやベルセ、ナットもその伝承に近い人物なのだろうかと一瞬頭をよぎる。ケイは、自分以外にも同じ境遇である三人のことも話した。それにも五人とも驚いたようだったが、アレグロとタレナは自分たちも似たようなものねと答える。


「さすがにケイ様や他の人のことは驚いたけど、冷静に考えると私たちも古代に存在していたアスル・カディーム人だから状況的には近いものがあるわ。それにその事実なら言いづらいのも無理はないわね」

「ケイさんは、どんな時でも私たちの事を気にかけてくださっています。どんなことであれ、私はケイさんを信じていこうと思います」


女性は強いということを聞くが、異世界でも女性は強いのだろう。

アレグロとタレナには既に覚悟を持っているようなそんな表情が窺える。


「はぁ・・・レッドボアは素手で倒すし空を飛べば崖を下りても無傷なのには驚いたけど、まさかその上に驚きの事実があったとは思わなかったわ。でも、ケイはケイでしょ?私も無関係ではないから嫌でもついていくわよ?アダムもそうでしょ?」


シンシアがお手上げと言わんばかりに両手を上げながら発言すると、隣に座っている人物に目を向ける。目を向けられたアダムはバツの悪そうな顔を浮かべ、ケイの前に立った。


「ケイ、その・・・怒鳴って悪かった。確かにそんな事情を抱えていたのなら言いづらいのも仕方がないと思う。俺は昔から肝心な所で感情をうまく処理ができない。レイブンにも言われたよ」


苦笑いを浮かべながらそう述べると、ケイは気にするなと声をかける。



ケイに対しては聞きたいことは残っていたのかもしれないが、アダムからこれからはなんでも話してほしいと言われ、ケイは恥ずかしいような困ったような複雑な笑みを浮かべ返した。

ちょっと距離が縮まったかなというケイ達に、これからなにが起こるのか?

次回の更新は12/6(金)です。

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