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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
107/359

104、奈落

ナット達を探して夜の大森林を巡るケイ達の話。

「実際、月明かりでもあんまり見えないもんだな」


ナット達を探しに、バニューボに乗ったケイがスル大森林の上空を飛んでいる途中でボソッと呟いた。


それはさながら、昔映画で見た宇宙人を自転車のカゴに乗せて飛んでいく子供達の気分である。よもやそれを自分が異世界で体験するとは思わなかったのだが、ある意味ノスタルジーに浸かれる部分もある。


眼下には月明かりに照らされた大森林が一望できた。

とはいえ森全体がほぼ闇に近く、目を凝らしてもよくは見えない。


「テジオラって夜とか周りは見えるのか?」

「俺か?確かに種族的にはある程度見えるが、どちらかと言えば猫の奴らの方が優れているな」

「種族間でも違いがあるのか?」

「獣人族は他の種族と違って、系統と個体によって大きく異なるんだ。例えば俺なんかは夜間はある程度見えてるし力もある方だが、猫の奴らのように昼間のようには見えないし、イノシシの奴らのように大木をへし折ることは無理だ」

「え゛!?イノシシって大木へし折るのか?」

「大体は道具を使うけど、あいつらは素手で折れるぐらい力が強いんだ」


ケイは驚きのあまりテジオラの方を向いたが、仲間の五人はお前が言うかという目線を送ってみせるがそれに気づかない。むしろレッドボアを体術で倒せる時点でどうかしているのだが、なぜかその辺でズレが生じているようだ。


どうやら獣人族はそれぞれの系統によって特徴が異なるようで、テジオラを含む狼系統は統制や連携を得意とするところがあるので、らしいと言えばらしい。

_

ちなみに町では見かけなかったのだが、馬や鹿といった四つ足の獣人も存在しており、ケンタウロスという系統の獣人と呼ばれているそうだ。

町に戻った時に見てみようとケイは密かに思った。


ヴノ山を東に迂回するようにバニューボ達が南下する。


相変わらず月に照らされた闇にしか見えない大森林に段々目が慣れてきたのか、少しずつだが辺りの様子が見えるようになってくる。ケイはバニューボ達に目的の場所はまだかと尋ねると、もう少し先だと答えが返ってくる。


「しかし見たとこなんもないけど、落ちる要素なんてあるのか?」

「バニューボ達は下から黒い霧が出てきたって言ってましたけど、何か関係があるのでしょうか?」

「そこなんだよな。それがなんなのかがわからない」


タレナの言う通り、黒い霧が大森林から現れたと考えるとナット達はそれに巻き込まれた可能性がある。それにテジオラが一番心配していることは、ナット達が落ちた場所が大森林にある奈落だったらと考えると顔を強張らせた。



『あそこで消えたよ!』


ケイ達が短い会話をしている間に目的の場所が近づいたようで、バニューボ達はその場所を旋回しながら示した。


「・・・これは!?」


その場所を見遣るとケイ達は目を細め、思わず声を漏らした。


大森林の一角にぽっかりと大きな大穴が空いている。

下を覗くと漆黒の闇が何処までも続いており、まるでなんでも飲み込みそうなそんな気分にさせる。バニューボ達はここで黒い霧の襲われたと証言した。

テジオラは自分の推測が当たったのか、反応できないほど絶句している。

恐らく彼の中でいろいろな思いが巡っているのだろう。


ケイはサーチとマップを使って奈落に注目する。


ケイ達が居る地点は地上から約30mで、そこから奈落に落ちたと考えると普通では死は免れないのだが、遥か下に三つの反応がみられた。一つは怪我をしているのか弱っている様子が見られ、他の二つは一つ目の反応の側で交互に移動している様子をとっているようだ。


「テジオラ、ぼけっとしてる場合じゃねぇぞ!」

「はっ・・・えっ!?」

「あいつら生きてる!」


サーチとマップの併用で奈落の高さは大体50mと推測され、地上込みだと80mほどで落ちたら即死なのは目に見えている。しかしケイは、バニューボの上で立ち上がると飛び降りる動作をし始めた。


「え!?生きてるってこの下にか!?・・・って、ケイ!何してるんだ!?」

「なに?って助けに行くんだよ」

「飛び降りる気か!?」

「問題ない!それに飛び降りた方早い!・・・というわけだから、お前らは後から来いよ!」


さすがの発言にバニューボ達も驚きの声を上げるが、テジオラと同様制止をかけるまもなくケイは奈落に向かって飛び降りた。


「ケーーーイ!!!ってか、なんでお前ら止めないんだよ!!!」


「なんでって、止めても無駄だもの」

「ケイは、エバ山で俺を背負って崖から飛び降りて無事だったことがあるから問題はないだろう」

「ケイ様だからできて当然よ!」

「テジオラさんは驚くと思いますが、すぐに慣れますよ」

「まぁ・・・そういうことかな?」


「はぁ?え゛っ!?」


飛び降りたケイにバニューボは驚きの鳴き声を上げ、テジオラは止めなかった五人に怒りの言葉をぶつける。しかし見慣れている五人には、いつものことだと何処吹く風状態だった。シンシアとアダムの証言で三人が同調し、テジオラは自分が可笑しいのかと錯覚さえ覚えるようになった。人間、慣れとは恐ろしいものである。



上空から飛び降り、下に落ちること約80m。

着地の衝撃で轟音と土煙で埃まみれになりながらも、ケイは奈落の下に到達した。


「うへぇ~口ん中に埃が入った~・・・へっぐしゅん!」


着地の衝撃で口と鼻の中に大量の埃が入ったケイは、二~三回のくしゃみの後、鞄から水を取り出しうがいをしてから辺りを見回した。


やはりここも推測した通り、地下遺跡に直結していた。


見覚えのある青銅の建造物跡が所々に残っており、バートが解読した文献に載っていた地下遺跡の図と位置がちょうど一致している。ここも当時は使用されていたのだろう。生活の跡がいくつかみられる。


「ナット!いるか!返事しろ!!」


ケイは声を上げ、サーチをかけると前方20mのところに反応が見られ、ランタンの明かりをつけると同時に足音が近づいてくる。


「ナットか!?」

「えっ?ケイさん!?」


ナットはケイの声を聞きつけやってきたのか、まさか助けが来るとは思わず驚愕の声を上げる。ケイはナットにこれまでの事を説明すると、安堵の表情を浮かべる。


「ご迷惑をおかけしました」

「気にすんなって。テジオラ達もすぐに来ると思うし」

「まさか、バニューボ達が助けを呼んできてくれるとは思いませんでした」

「みんなお前達のことを心配していたからな」


しょんぼりとするナットの肩をポンと叩くと、そういえばと顔を上げる。


「ケイさん!回復薬はお持ちですか?」

「やっぱり怪我人か?」

「え?あ、はい!僕たちの乗っていたバニューボが落下の際に怪我をしてしまったようなんです。今、友人のバナッシェが見てくれています」


ナットに案内され彼らの元に駆けつけると、ぐったりと横たわっているバニューボの姿があった。その傍らには、金色の髪に豹の耳がついた青年が必死に励ましている。


バニューボを鑑定をしたところ、ナット達を庇おうとしたのかどこかに打ち付けた様子で、体中に内出血と骨のヒビが複数箇所見つかる。ケイが声をかけるが反応せず、苦しそうな唸り声を上げている。


「おい、あんた!回復薬もってねぇか?こいつほっといたら死んじまう!」


豹の獣人の青年がケイに話しかける。バニューボの容態を気遣ってか、だいぶ焦りの表情を浮かべている。ナットは彼に落ち着くようにケイとの間に割って入ったところ、ハッとしたのちバツの悪そうな表情をした。


「【エクスヒール】」


ケイがバニューボの傍らに立ち回復魔法をかけると、先ほどの様子とは打って変わりむっくりと起き上がった後、体調を見るように羽根をばたつかせた。


「これでいいか?」

「え?・・・ケイさんって魔法専門なんですか?」

「あんたなに者なんだ?」


あっさりとバニューボの怪我を治したケイは、またもやナット達に革装備の見た目で前衛だと勘違いされることになる。



「取り乱してすいません。俺はバナッシェです」


バナッシェ

ナットの友人でテジオラの後輩。

ルフ島の冒険者ギルドに所属している獣人族(豹)の青年で、前衛でありながらも軽装に身のこなしとの良さと二刀流使いとして注目されている。


ナットはバナッシェにケイが来た経緯を伝えると、テジオラも一緒というワードに顔を青くさせた。彼曰く、テジオラが怒ると恐いどころではないらしい。

烈火の如く怒らせた日には訓練量を十倍に増やされ、ギルドの依頼を根こそぎ受注させては不眠不休で完了させようとすると鬼呼ばわりしていた。



「誰が鬼だって?」



ケイ達が振り返るとようやくテジオラと仲間達が到着した様子で、たいまつ片手に近づいてくる。テジオラの声にバナッシェが、ヒィ!と密かに漏らしていた事は黙っておいてあげることにした。


「こっんの・・・」


怒気を含んだテジオラが、ナットとバナッシェにずかずかと音を立てんばかりに近寄ろうとする。二人はその様子に変な汗と覚悟をしながらも一歩たじろぐと、テジオラは両手でそんな二人を抱擁した。


「心配させやがって・・・」

「テ、テジオラ・・・悪かったよ」

「テジオラさんごめんなさい」


テジオラは二人が無事なことがわかり安堵の表情を浮かべ、両手で二人の頭をガシガシとなで回した。それを二人は口では言いながらも咎めることも止めることもせず、なすがままにされることにした。


「で、バニューボ達は?」

「ケイが落ちた地点に下りて貰って、そこで待ってもらってるよ」

「彼らも無事みたいだから、もう町に戻りましょう?」

「そうだな。テジオラ!もう戻ろうぜ!」


アダムとアレグロに言われ、ケイが後ろにいる三人に声をかけると、それに答えた後バナッシェが乗ってきたバニューボを引いて来た道に戻ろうとした。



「ミリオン?どうしたの?」


突然、ナットの肩に止まっていた従魔のミリオンが唸り声を上げて奥の方を見つめていた。その異変に皆が振り返り奥に注目する。


「・・・なにかいる」


暗闇の奥の方から、何かを引きずりながらこちらに近づいてくる音が聞こえる。

目を凝らしてもよく見えないため、ケイが持っていたランタンをそちらに向けようとした。



「ケイ!下がれ!!」



テジオラの声と同時に黒い霧のようなものがランタンを持っていたケイの左腕にまとわりつこうとした。とっさの判断でランタンを放り投げるように腕を振り払うと黒い霧が消え、ランタンは地面に音を立てて落ちた。



アダムが持っていたたいまつを奥に向けると、そこには大剣を片手にこちらを見つめる黒い騎士の姿があった。


ナット達と無事に合流できたが、まさかの黒い騎士の登場にどうなってしまうのか!?

次回の更新は12/2(月)です。

細々とマイペースに活動しています。

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