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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
104/359

101、意外な事実とそれぞれの想い

気がついたケイの散歩と次の日の朝の仲間達の話。

次にケイが気がついた時には、どこかのベットの上だった。


まだ頭が働かないが、どうやら現実らしい。

ベットから起き上がると左側には薄緑色のカーテンが引かれている。反対側に目を向けると、窓から日の光が差し込んでいる。時間的には朝方のようで、一晩気絶状態だったことが理解出来た。


「あら、気がつかれました?」


声のする方に目を向けると、以前出会ったギルド職員の兎の少女が顔を見せる。


「ここは?」

「ここは冒険者ギルドが併設している医務室です。昨日の夕方にナット君とお仲間の方々が慌てた様子で戻って来られたようで・・・」


彼女の話によると、ケイはあの後倒れたようで、ナットと仲間達が慌ててバニューボに乗ってレベノまで飛んで帰ってきたそうだ。医師の話では特に外傷も病気もなく、ただの気絶だろうとここに運ばれたとのこと。


「みんなは?」

「ナット君は一度家に戻られました。また明日の朝に来ますと言ってましたので、そろそろ来る頃じゃないかと思います。お連れの方々は宿泊施設に泊まるので、本人が気がついたら教えてくださいと言ってました」


彼女は木のコップに入った水をケイに渡すと、アダム達に知らせるため席を外しますと言い去って行く。


受け取った水入りのコップに口をつけながら、ケイが見た夢か現実化もわからない情景を思い出す。赤い海と空に沿岸に並んだ巨大な黒い船。それと言葉のわからない人々。あれは過去の出来事なのだろうか?と思案するがよくわからない。

そういえば蒼いペンダントのことを思い出し、ポケットの中に入っていたそれを取り出す。


「あれ?これってこんな形だっけ?」


ケイが首をかしげるのも無理はない。

元は金細工の縁にはめ込まれた青い石がついたペンダントだったが、それがいつの間にか太陽のような形に変化している。



太陽のカギ 結界を開ける鍵。

元は蒼いペンダントだったが、太陽の神・シェメラの加護を受け変化した。


「結界…?」


鑑定してみると、以上の説明が表示される。


どうやら女神の涙を集めたことにより変化したらしい。

金細工は色を少し変え、重厚な深みのある色に変わり、青い宝石部分はオパールのような青色の中に様々な色を含んだ気品を醸し出している。


それにより結界を開けることができるようになったのだが、そもそもそんな場所はあるのだろうか?と考える。ひとつ思いつくと言えば、以前ダットが体験した海上の出来事だろう。もしあれが何らかの原因で結界を形成しているのだとしたら、それを解くヒントになろう。しかし現時点でそれがなにを示すのかはわからない。


ケイはそろそろ退屈だなと判断しベッドから起き上がると、少し身体を動かしてからその場から出ることにした。


「あら?もう大丈夫ですか?」

「あぁ。迷惑かけたな」

「まだ病み上がりですので無理しては駄目ですよ」

「わかった。それより少し散歩に出かけてくる。俺のことを聞いてきたら、市場経由で港にいるって伝えてくれ」


心配している受付嬢を他所に、ケイは散歩してくると言い残してそのままギルドを後にした。



ケイがその足で市場の方に向かうと、朝の早い時間だったため人の入りはまばらだった。しかしいくつかの出店はすでにやっていたようなので、たまたま立ち寄った鳥の串焼きを一本購入し食べながら市場を歩く。

昨日の夜から何も食べていないため、ほどよい鳥の串焼きが身に染みる。

串焼き屋の亭主に聞いたところ、グーシーのキモだという。食感は焼き鳥でいうところのハツに近い。


串焼きを一本食べ終えた頃、ケイは港までやって来る。


丁度漁を終えた漁船が戻って来たようで、猟師が網を手に魚の選別を行っている様子が見える。この世界の漁は基本投網漁で、船は人力で漕ぐのが当たり前となっている。希に魔石を用いた船もあるようだが費用やコストが以外にも高くなるため、一般的に昔ながらの漁が今でも残っている。


港に続く石階段に腰をかけその様子を眺めていると、後方の方から聞き覚えのある声がした。


「ケイさん!」

「あ?あぁ、ナットか・・・ってなんだそれ?」

「この子は従魔のミリオンです」


ケイが振り返ると、ナットがこちらに向かってやって来るところが見えた。


ナットの後をついて回るように真っ赤な羽根を生やした鳥の姿があったので聞いてみると、これが噂になっている霊鳥・フォティアの子供だという。恥ずかしがり屋の性格で、初めに会った時は鞄の中に隠れていたらしい。


「俺を探してたのか?」

「ギルドの方に聞いたら、こちらに居ると言われたので追いかけてきました!」


ナットはケイの隣に腰をかけると、体調を気にかけていたようなので大丈夫だと答えると安堵の表情を浮かべた。


「あの後、夢を見た」

「夢・・・ですか?」

「赤い空と海、沿岸に何隻も浮かぶ黒い船。それと船から飛んでくる大砲の弾らしきもの」


これは、過去に起こった事ではないかとケイが独りごちる。

今まで体験してきた地下遺跡やペカド・トレ(罪の塔)の事を考えると、ケイが見た光景も過去の歴史のひとつなのかもしれない。


ナットはケイの言葉に遮ることもせず黙って聞いていたが、おもむろにポケットからとあるものを出して見せた。それはケイが持っているものと同じ、様々な色が混じった青い宝石がついた星の形をしたペンダントだった。


「これは?」

「以前エルフの里に行った時、岬にあった女神像の近くに落ちていました」


ナットは以前エルフ族のセディルと上位精霊ダビアと出会い、とある事情で彼が住んでいた森に向かった際に見つけたのだという。ナットも鑑定のスキルを所持しているようで、それが何を意味するのかわからなかったがずっと大事に持っていたそうだ。


星のカギ 結界を開ける鍵。

星の女神・フェガリの加護を受けている。


鑑定の説明に、ケイがまさか一つではないのかと驚きの表情を浮かべる。

ナットもケイが似たような物を所持していたので、何かわかるかもしれないと聞いてみたらしい。


「こりゃ驚いた。まさかナットが似たようなものを持っていたなんてな」

「僕も驚きました。ケイさんなら知っているかと聞いてみたのですが・・・」

「知っていると言えば知っているが確定ではないな」

「と、いうと?」


ケイはナットに今まで各地を回り、遺跡やペカド・トレについて見てきたことを話した。そして大陸はここ以外にも存在するのではないかと考え、なんらかの事情で他の大陸に行けないように結界を施し、それを解除するための物じゃないかと推測した。もちろん魔導航海士のダットの体験もつけ加えておく。


「じゃあケイさん達は、ダジュールの歴史について調べるために各地を回っているってことなんですね?」

「まぁな」

「なら、夢でみたあのことは本当だったんだ・・・」

「夢?」

「はい。ずっと前に大きな黒い狼が夢に出てきたんです」

「黒い狼?それって黒狼のことか!?」


驚くケイにナットは、星のカギを手に入れたその日の晩に夢で見た黒狼の話をぽつりぽつりと話し始めた。


夢に出てきた黒狼は、自分が世界を維持していると話し、それをまとめるためにある男に蒼いペンダントを託し、各地にある女神像を回り女神の涙を集めてほしいと頼んだそうだ。もしその男が来たら、彼を手助けをしてほしいということも話していた。


ナットはケイが手にした蒼いペンダントを見た時、その話を思い出したそうだ。


「大きな黒い狼が言っていたことはケイさんだったんですね。それならこのカギもケイさんの物ってことになりますよね?」

「いや。それはお前が持っていろ」

「えっ?」

「結界を解除するカギが二つも存在するということは、他にも存在している可能性がある。それに、お前が見つけたということはなにか意味があるかもしれない」


ケイはナットにそう言うと鞄からスマホを取り出し、ヴィンチェとベルセにこれまであったことを簡潔にまとめて二人に送った。


「それってスマホですか?」

「ん?スマホを知っているのか?」

「知っているも何も、僕は元々日本人です」

「はぁ!?」


ケイの驚愕する声が辺りに響き、行き交う人々が一瞬こちらを向いた。


「ちょっと待て!今、サラッと言ったが、お前って日本人だったのか!?」

「はい。そうです」


今、重要なことを聞いた気がしたが聞き違いだと思って聞き返すと、ナットは表情を変えずに同じ事を言った。

さすがに人通りのある場所での告白は、なにもときめかない。


ケイは詳しい話しを聞くため、ナットを連れて早くからやっている近くの飲食店に足を運んだ。



「ごゆっくりどうぞ」


店の奥にある席に腰を下ろし、軽食と二人分の飲み物が来たタイミングでケイが話しかけた。


「俺の日本名は瑞科 圭一だ。お前は?」

「僕は井口 彰理(あきまさ)といいます。日本では16才の高校生でした」


井口 彰理

彼の前世は横浜の下町で生まれ育ち、姉が一人いる四人家族とごく一般的な青年だった。幼い頃から物作りとサッカー好きで、高校ではサッカー部に所属していたことから普通の学生であることが窺える。


しかし二年になろうとしていた春に、車の追突事故に巻き込まれ死亡したそうだ。


詳しく聞いてみると、異世界の管理者であるメルディーナが、間違えて彼を亡き者にしてしまったそうだ。それを聞いたケイは何も学ばない女だなと悪態をつく。

ちなみに彰理は前世も体格が大きかったようで16才で既に身長が180cm近くあり、この辺は今生にも引き継がれているようだ。


まさか四人目がすぐ側にいるとは、とケイは考える。

星のカギを所持しているナットも今後の情報を共有するべきだと判断し、彼に提案をした。


「俺はこの世界の歴史を知りたい。そのためにはお前にも協力してほしい」

「僕もケイさんと黒狼の話しを聞いて疑問や興味が沸きました。僕でよければこちらこそよろしくお願いします」


ケイが片手を差し出し握手を求めると、深々と一礼をしたナットもそれに応じるように片手を差し出し握手をする。そしてケイが創造したスマホを彼に渡し、協力者として元・日本人のヴィンチェとベルセの話しを交えつつ彼らにも報告のメールを送った。



「あら?ケイは?一緒じゃないの?」

「ケイなら散歩に出て行ったみたいで、入れ違いになった」


その頃仲間の五人は、宿泊施設で朝食を取っていた。


アダムがケイの様子を見ようとギルドの医務室に訪ねたところ既に外出したと言われ、教えられた港に行ってみたが入れ違いになったようで見つけることができずに戻って来た。


「本当に自由ね」

「それがケイ様よ」


朝食のパンを千切り頬張るシンシアと紅茶をすするアレグロ。


アダムが席に着き用意された朝食に手をつけると、シンシアが思いついたように話しかける。


「そういえばアダムって、ケイとは付き合い長いの?」

「いや。ケイとはシンシア達と出会う少し前だ」

「え?そうなの?てっきり付き合いが長いのかと思っていたわ」

「アダムさんはケイさんとどこで会ったんですか?」

「あいつとはエバ山であったんだ」


中級冒険者の研修の一環で監督として同行していたアダムは、エバ山でコカトリスに追われていたところをケイに助けられたと話した。


しかし、研修者を逃すためにコカトリスの攻撃を食らい危うく死ぬ思いをしたため、当時の研修者達から話しを聞いたことをまとめだけなのだが、後から聞いてもケイの行動を逸脱していたことは誰が聞いてもわかる。


「コカトリスを数発で仕留めるなんて、なかなかできることじゃないな」

「改めて考えると、行動が異常なのよね」


経験者のレイブンも冷静に話しを聞いていたシンシアも目を丸くする。

素早い攻撃のコカトリスを足蹴りで黙らせ、剣で急所をつくなどとそんな戦い方をする人なんて今までに見たことも聞いたこともないからだ。

しかもコカトリスの攻撃で崖に落ちかけたアダムを救出したケイは、先に逃げた研修者の元にアダムを渡し颯爽と崖を飛び降り去って行ったと、全く意味がわからない行動にも出たそうだ。


もちろん、それを聞いたアダムが頭を抱えたのは言うまでもない。


「だけど、本当に不思議だよね?」

「不思議って?」

「あれだけ力や魔力がありながらも、知り合うまで誰も知らなかったことだよ」


レイブンの指摘に四人があっ!と気づく。

この世界では、大なり小なり力のある者は少なからず知っている人も存在するからだ。それが、ケイの存在は突如現れたかのように一気に有名人になる。

正直そういう人物もいないことはないのだが、ケイに関しては明らかに度合いが違うのだ。


「そういえばケイは【ニホン】の島国の出身って聞いたことがあるわ」

「それってどこなんだ?」

「さぁ?ケイは海に浮かぶ小国だって言ってたけど、地図を確認しても載ってないのよ」

「地図は必ずしも正しい訳じゃないから、もしかしたら俺たちの知らない場所にあるのかもしれないな」


アダムの問いにシンシアが首を振ると、レイブンが地図は毎年更新されているはずだけど、希に記入されていない場所も存在するという話をする。


「あいつはああ見えてあまり自分のことを話さないから、もしかしたら何か事情があるのかもしれない」

「事情って?」

「国を追い出されたとか?」

「もしくはどこかの国の要人だった・・・とか」


アレグロとアダムの例えにシンシアがまさかと呆れた顔をする。


確かにケイは肝心な所は省いている節はあるのだが、それはアダム達を混乱させないためにわざとそのようにしている彼なりの気遣いだった。



しかしそんなことは知るよしもない彼らは、いつか本人から語ってくれることを願い静観することで話がまとまった。



四人目の元・日本人の登場です。

井口 彰理=ナットのお話をちょっと入れました。

今後は彼との情報交換も行いますので、暖かく見守ってください。


次回の更新は11月25日(月)です。

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