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異世界満喫冒険譚  作者: GDKK
大陸編
102/359

99、コボルト族

今回はコボルト族が住んでいる場所に向かう話です。

翌日ケイ達は朝食を終えた後、ギルドで教えて貰ったコボルト族が居る北東の島に向かうことにした。


町の東側にある島と島を繋ぐ桟橋には、白い砂浜とコバルトブルーの海が拡がっていた。朝方ということもあり、釣った魚を捌いて開き干している島民の姿もあり島特有の生活が垣間見られる。


「わぁ!初めて見るけど、ここは他の海の色と違うわ!」

「島と島の間は浅瀬になっているから、その関係で鮮やかな色に見えるんだろう」

「なるほど!海と言ってもいろいろとあるのね!」


港町にあるダナンとはまた違った情景に、シンシアは目をキラキラとさせ、レイブンが落ちるなよと声をかける。ケイの目からも鮮やかな空と海の色に、過去に旅行で訪れた宮古島を思い起こさせた。


東側には獣人族が住まう島があり、桟橋は北東、東、南東とそれぞれに繋がっている。そして互いの島を行き来出来るように、他の島同士を繋ぐ別の橋も繋がるように続いている。北東の島までは、大体300mほどある。



ケイ達が北東の島に続く桟橋を渡り終えると、町の華やかさからのどかな田園風景へと情景が一変する。

子供達が舗装されていない田舎道を走り回り、軒先では大人達が工芸品を作製している姿が見られる、田舎ならではの光景である。


その光景を横目にケイ達が歩いて行くと、少し広い広場の様な場所に出た。

そこには十代にも満たない子供達が、アンバロを蹴って遊んでいる姿が見える。


「そっち行くよ!」

「わかった!・・・あっ!」


高く蹴り上げられたアンバロが、受け取ろうとした少年の頭上を越えてケイ達の前にポンと落ちる。


ケイはアンバロを足の裏で軽く跳ね上がらせると、器用に足の甲でリフティングをしてみせた。こう見えても小学生時代はサッカーをやっていたのだが、リフティングしか興味がなかったのか二年ほどしか続かなかった苦い思い出がある。


まさかここで役に立つとは思わなかったので、人生とは不思議なものである。


そんなケイの行動に遊んでいた獣人族の子供達が集まり出し、尊敬の眼差しを向けている。ケイはアンバロを取り損ねた少年に向けて軽く蹴り返し、少年はそれを両手でキャッチした。


「お兄さんスゲェー!!」

「ボクにも教えて!!」

「教えてやりたいのはやまやまだが、俺たちは用事があってここに来たんだ」


ケイは見事に少年達の心を鷲掴み、一躍ヒーロー扱いされる。

もちろん教えてほしいという少年達の眼差しは悪い気分ではないのだが、目的はコボルト族のナットに会うことである。


ケイ達が困っている様子に気づいたのか、後ろから他の子より少し年上の桜色の髪色をした兎の獣人族の少女が現れた。


「みんなどうしたの?」

「あ!プリムラ姉ちゃんだ!」


子供達は口々に、ケイのリフティングが凄いと目を輝かせながら説明している。


それを聞いた彼女はそうねと肯定してから、ケイ達が困っているからと他の子供たちを他所で遊ばせるように提案した。もちろん子供達は、残念!と言わんばかりの表情でアンバロを持って立ち去る。去り際に今度会ったら教えてよ!と言われそのうちなと返しておく。


「あんたこの島の人か?俺たちはコボルト族のナットに会いに来たんだが、ギルドからこの島に住んでいるって聞いてやって来たんだ」

「ナットの家ならここから歩いてすぐのところよ。案内するわ」


少女はケイ達の願いを快く引き受け、家まで案内してくれると話した。



案内の道中、彼女は自分のことについて話してくれた。


彼女は兎の獣人族のプリムラと名乗った。

ナットとは幼なじみで、家も隣同士だから家族ぐるみで付き合いがあるそうだ。

しかし最近、仲間と他の島や大陸に行ったりしているため、なかなか顔を合わせることがなくてと愚痴をこぼした。

ナットについて行ったりしないのかと尋ねると、戦闘技能がないから足手まといになってしまうと寂しそうな表情をする。


「ここがナットの家です。いるかどうかはわかりませんが」

「案内してくれてありがとう。その礼と言ってはなんだがコレやるよ」


ケイは案内してくれた礼に、鞄から透明な黄緑色の液体が入ったビンを差し出す。


《これは【器用促進力】で、今よりも器用さが上がる薬だ》

《えっ?なんで・・・》

《弓術特有のまめができてるからやってるんだろうなって、頑張れよ!》

《・・・! いいんですか!? あ、ありがとうございます!》


ケイが彼女に手渡したのは、以前エンチャントで施した薬のひとつである。

小声でエールを送り肩を叩くとプリムラが驚いた表情をした後、はい!と頷き礼をする。


プリムラが来た道を戻って行く姿を見送った後、シンシアが不思議そうな顔で先ほどの物について尋ねてきた。


「ケイ、さっき彼女に何を渡したの?」

「ん?あぁ、前に作った【器用促進力】だ。彼女の両手を見た時、弓術でできたまめや跡が見えたから、もしかしてって思ったんだ」

「彼女なりに、練習していたといったところでしょうか?」

「たぶんな。足でまといになりたくないからと言いつつも裏で準備をしているってところかな?」


ケイは、プリムラの目的が達成されるようにと密かに願った。



ナットの家は、赤い屋根の平屋だった。

獣人族の一般的な住居のようで、周りを見渡すと同じような建物がいくつも並んでいる。軒先には色づけされている工芸品が目につく。どうやら乾燥させているようだ。


「すいませーん! 誰かいますか!?」


ケイが声をかけると中から人の気配があったようで、ガタンと何かが落ちる音がしたかと思うと走る音が響き、そして扉が開かれる。


「いてて・・・はい、どちら様ですか?」


現れたのは、小さな耳がついた青い髪と瞳の色をした三十代ぐらいの男性だった。

どこかに頭をぶつけたらしく、後頭部を摩っていた。


「あー・・・大丈夫か?」

「・・・あはは。ついうたた寝をしてしまって、起きた途端にソファーから落ちただけです。お恥ずかしいところをお見せしました」


部屋の中から聞こえた物音は、男性がソファーから落ちた音のようだった。


「この家にナットって奴がいるって聞いたんだが、あんたか?」

「息子ですか?今、出かけてまして・・・ここではなんですから中へどうぞ」


中に案内されたケイ達は自分たちは冒険者で、航海魔導士のダットからナットのことを聞いてやって来たと説明した。


「それは遠くからすまないね。僕はナットの父でピウスと言います」


男性はナットの父親で、工芸品を制作している職人である。

主に土産物の他に日常雑貨を作っているとのこと。

部屋の窓から裏手の庭が見え、作業途中のザルや色づけされた皿を乾燥させている様子が見える。


ピウスは自分以外の家族は外出してしまっていると語り、息子のナットは昨夜帰ってきたが、今朝方またどこかに出かけて行ったと話す。



「あなた? 誰か来ているの?」



その時、家族が帰ってきたのか外から声が聞こえた。

入ってきたのは、ピウスと同じ小さい耳がついた髪と瞳の色をした女性と少年の姿があった。


「妻のトリーヤと息子のパースです」


女性はナットの母親で、少年は成人したばかりのナットの兄だった。

ピウスがケイ達の事を説明すると、トリーヤはあらあらお茶も出さないでと慌てた様子で台所にお茶の用意をしに行ってしまった。


「パース、ナットはどこに出かけたか知ってるかい?」

「ナットなら今朝、ベリルさんに用があるとかで出かけて行ったよ」

「じゃあ今日も帰ってくるんだね」

「父さんは心配しすぎだよ」


パースは父親のピウスに言ったが、息子だから心配するんだよと困った顔で返す。


「そういや、コボルト族ってそんなに数がいないって聞いたけど?」

「私たちの種族は、もともと魔物のコボルト族なんです。そこからどういう経緯で獣人族になったかはわかりません。過去にはたくさんのコボルト族がいましたが、人間達の研究のために狩り出され、今では私たち家族と兄夫婦の家族と親戚の夫婦しかいません」


最近ピウスの兄が子供を二人産んだので、南大陸には12人ほどになったというがそれでもかなり少ない。それを知っているのか、被害に遭ったことがない兄家族や親戚は、その原因となった人間を警戒しているらしい。気持ちはわからなくもない。


ちなみにコボルト族は手先が器用で、もともと身体が小さいこともあり成人しても他の種族よりは小柄であるのが特徴らしい。


そこで、トリーヤがお茶を運びに来る。


それに礼を言い、口をつけてみると緑茶の様な風味が漂った。

聞けば、南大陸で栽培されているヤンハという植物から作られた緑茶だそうだ。

現物はススキに近く、元は鳥などが好んで食べる植物で、この飲み物を発案したのがナットで改良に改良を重ねたのがパースだという。


特にナットは幼い頃から父の仕事を間近で観察し、自身も物を作ることが得意だったことから周りからの評価も高く、最近では自分で作った作品をアシエル商会と提携し販売しているそうだ。


「僕としてはもっと頼ってほしいんだけどね。あっさりと息子達に超えられてしまいそうだよ」

「あなたもうかうかしてられないわね?」

「・・・善処するよ」


トリーヤの言葉に父親の威厳を打ち砕かれた悲壮顔のピウス。ケイ達はただ黙って二人に乾いた笑みを向けるしかなかった。



「ただいま!!」



その時、外から誰かが帰ってきたようで、少年の少し高い声が聞こえた。

恐らく声の主からして探していた人物なのだろう。

ケイ達がいる居間からは玄関が見えず、パースが居間から顔を出し、玄関に向かって声をかける。


「お帰り!ナットにお客さんが来ているよ!」

「えっ? 僕に?」

「冒険者の人達みたいで、聞きたいことがあるって言っている!」


パースの声に荷物を下ろした音が聞こえた後に、パタパタとこちらに向かってくる足音が近づいてくる。


「お待たせしました!」


その人物が居間に顔を出すと、コボルト族特有の小さい耳に青色の髪と瞳をした、小柄な種族と言われるわりには背が少し高い少年の姿があった。

次回、コボルト族のナット登場!

彼からどんな話しを聞けるか?


次回の更新は11月20日(水)です。

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