神の力を取り戻せ
外から聞かれないように窓を閉め、ドアに鍵をかけた部屋で俺たちは向き合う。
「それで、ジンは一体何を聞きたいのかな?」
「おいおい、とぼけるなよ。街に着いたら帰る方法を教えるって約束だろ?」
「ああ、オーケー、帰る方法だね。今わかっている限りだと、大きく分けて2つ方法がある。…でも、そんなに帰りたいものかねぇ、せっかくの異世界転生なのに」
「2つもか!?どうすればいいんだ?」
やっと光明が見えてきた、って感じがする。俺はシエルに迫るが、シエルはしれっと笑っている。
「まあ、落ち着きなよ。1つずつ話していこう。まず1つ目は、この世界にいる神を探すことさ。向こうの世界で私が君を転生させたように、こっちの世界で私並みの力を持つ神なら向こうに送り返せるはずさ」
途端に俺は勢いを失う。
「この世界の、神…?そんなの見つけるのは無理に決まってるじゃねえか!」
「だから、落ち着きなってば。これはほぼ実現不可能な方法。本命はもう1つの方さ」
「そ、そうだよな!まだもう1つあるんだもんな!それで、その方法ってなんだ?」
シエルはニヤッと笑いながら両手を広げ、高らかに宣言する。
「私がこの世界の神になればいいのさ!」
俺はスッと立ち上がる。
「よし、この世界の神を探すか!」
「いやいやいや、ちょっと待ってよ!まだ話は終わってないんだって!とりあえず最後まで聞いてよ!」
シエルの必死の抵抗に、俺は渋々座り直す。
「わかったわかった、聞くだけ聞いてやる。でも、この世界の神になるっつっても、どうするつもりなんだよ?お前、この世界じゃなんの力も持ってないんだろ?」
俺が疑問を投げると、シエルはずいっと身を乗り出す。
「そう、そこなんだよ!神の力っていうのはつまるところ、信仰の力なんだ。だから、前の世界では使えた神力も、誰も私を信仰していないこの世界じゃ使えない。ここまではわかるかい?」
なんだか俺を小馬鹿にしたような言い方だが、まあこの際気にしない。
「ああ、なんとなくわかる、気がする。…それで?まさか、この世界の神になるってことは…」
「そう!この世界の人間たちがみんな私を崇めるようになれば、私は神として力を取り戻すって寸法さ!」
「そうか!それはすごいな!よし、この世界の神を探すとするか!」
俺は再度立ち上がろうとする。そんな俺を、シエルは慌てて引き止める。
「だからなんで私の話を聞いてくれないのさ!ジンは元の世界に戻りたくないの?」
シエルは目を潤ませて俺を見るが、そんな風に見ても無駄だ。
「理由は3つ。1つめ、特に理由もなく人を殺して転生させるような殺人者が人から敬われるのは不可能だ。2つめ、お前みたいな邪神に力を与えたら何をするかわからない。3つめ、力が戻ったとしてお前が俺を帰してくれるとは思えない。絶対に却下だ」
俺の言葉に、シエルはニヤッと笑う。
「ふうん、まあ私は別にいいんだけどね?100年くらいかけてゆっくりこの世界を観光したら、改めて帰る方法を考えるからさ。君はせいぜい頑張ってこの世界の神さまを探すといいよ。そうだ!その辺の道端で『あなたは神ですか?』って聞いて回るといいよ。こんなに大きな街だ、一人くらい神がいたりするかも知れないよ?」
くっ…。つくづく嫌なやつだが、実際シエルがいなくなって困るのは俺なんだよな。完全にシエルのペースに乗せられてるな、俺…。
「はあ…。わかったよ。その話に乗ってやる。…でも、正直どうしたもんかねえ。昨日今日始めた宗教で信者を集められるような能は俺にはないし、これが神ですってお前を出すわけにもいかないからなあ…」
「いや、別に神・シエルとして崇められる必要はないんだ。ただ『私』という存在が広く人に知られて、敬われる。そのことが重要なんだよ」
シエルによると、どんな人間からでも、どんな存在としてでも、広く人に知られて尊敬を集める存在となればそれでいいという。「シエル」という名前を広める必要もないそうで、「こんな人がいるらしい」くらいの噂話でも良いそうだ。でも、実際知名度を上げるとなるとなにをしてもいいわけじゃなさそうだな。手っ取り早く知名度を上げるとなると…。
「…冒険者」
「え?」
「冒険者になろう。俺とお前の二人で。アンナさんが言ってたろ?実力のある冒険者には、名声が与えられるって。これが俺たちの目的を果たす一番確実な方法だ」
シエルは驚いたように目を見開く。そして、
「そっか…。実はね、私も同じことを考えてたんだよ。でも、ジンがそんな危険な方法を言い出すとは思わなかったな。さっきから、どうやって説得するかってずっと考えてたんだよね」
「俺は一刻も早く元の世界に帰りたいんだ。そのためなら手段を選ぶつもりはないさ」
これは本当だ。元の世界でも特別幸せだったというわけでもないけれど、だからってわけもわからずに殺されて全てを奪われていいわけがない。俺は戻るんだ、あの平和な日常に。
「わかったよ、じゃあ約束だ。ジンは私の力を取り戻す手伝いをする。私は力が戻ったらジンを元の世界に戻して上げる。それでいいかい?」
「ああ、取引成立だな。…それで、その、協力するにあたって言っておかないといけないと思うんだが…」
「どうしたのさ?」
俺は口ごもる。正直言いたくはないが、これから長い付き合いになるだろうし、関係改善のためにも言わなきゃならないだろうから、仕方ない。仕方ないんだ。俺は自分にそう言い聞かせる。
「あれだ、俺が倒れてる間、心配してくれてたんだろ?……ありがとな」
俺がなんとかそこまで言うと、シエルは虚を突かれたように、
「へっ?…あぁ、うん、私もジンがいなくなったら困るし、それで…えへへ。」
シエルの最後の言葉は照れ隠しの中に消えていった。こうして俺たちは、お互いすごく不器用ながらもとりあえずの関係改善に成功したのだった。
その後は二人とも疲れていたのもあって、俺もシエルもほとんど会話をすることなく、宿で食事をとった後はすぐに寝てしまった。
そして翌日。ちょうど朝食を済ませて身支度を済ませた俺たちのところに、昨日と同じようににこやかな笑顔でアンナさんがやってきた。
「おはよう!君達、調子は…って、どうしたの?」
俺たちの真剣な表情に気づいたようで、アンナさんはきょとんとする。俺はシエルと目を合わせて頷きあった後、
「お願いしたいことがあります。図々しいのは承知です。俺たち、冒険者になりたいんです!アンナさんのギルドに入れてください!」
それを聞いたアンナさんは顔を強張らせて一言、
「絶対にダメ。」
言い放たれてしまった。
この二人、ずっとアンナさんに頼りっきりですね…。
でも、文無しで他に頼れる人もいないのでしょうがないのです。
次は、なんとかギルドに入れてもらえるように交渉していきます。




