初戦は山賊でした
いやいやいや、これは無理でしょ。
俺たちはたった二人、普段着に武器は折れたハンドル。かたや山賊たちは全員フル装備の筋肉ダルマが十人。勝負にもならないだろう。
「なんだ、こんなとこに誰かと思えばただのヒョロいガキじゃねえかよ?おいお前ら、悪いことは言わねえからヒーローごっこならよそでやんな」
なんて魅力的な持ちかけなんだろうか。この瞬間、俺にはあの筋肉ダルマが幸運の女神に見えていた。よし帰ろう、今帰ろう。俺が回れ右をして逃げようとすると、シエルが俺の足を踏みながら、
「ふっふっふ、ガキとは言ってくれるねぇ。山賊さん、君たちの運の尽きは私たちに見つかったことだよ!覚悟するんだね!」
「てめえこのクソガキぃ!!」
てめえこのクソ邪神!! 俺と山賊の心の声が完全に一致した。もう俺が生きて帰る選択肢はないようだ。
「てめえら二人とも地獄のどん底に送ってやらあ!!!」
山賊たちは全員武器を取ってにじり寄ってくる。こうなりゃやけだ、どうせ一度死んだんだし、もう一回命かけるくらいやってやる!
「てめえら、このクソガキどもをのしちま__ぐはぁっ!?」
俺は足元の砂を蹴りで巻き上げ、その隙に思いっきりタックルをかましてそいつの持っていた斧を取り上げた。左手にハンドル、右手に斧を構えてニヤリと笑う。
「へっ、これで9対2だな」
「こ、このガキぃ…!テメェら、やっちまえっ!」
山賊たちが一斉に襲いかかってくる。よし、作戦通り!
「行くぞ、シエラっ!」
「えっ!?ちょ、ちょっと!」
俺はシエラの手を掴んで走る。これで山賊たちは全員俺に気を取られてるはず。あの女の人は逃げられる!
「ギャハハ、ボウズ、お前走るのおっせえなあ!」
俺はすぐに捕まって山賊に囲まれた。しまった!俺の走る遅さを考慮してなかった!
「へ…へへっ、お前ら俺の策にはまったようだな!見ろ、お前ら全員で追いかけてきたから、あの女の人はもうとっくに逃げて…」
「誰が逃げたって?」
俺の話を遮るように声がした。声のする方を見ると、先ほどの場所に女の人が変わらず立っていた。その手には美しい刀が握られ、口元にはうっすらと笑みを浮かべている。
「おいっ!なんで逃げてないんだよっ!俺たちがせっかく時間を…」
「ありがと。でも私は大丈夫。…危ないから、動かないでね?」
彼女はゆっくりと刀を持ち上げ、ひと薙ぎふるった。ふわっと風が巻き起こったかと思ったら、周りの山賊たちがバッタバッタと倒れていった。
「こ、これは…?」
驚く俺をよそに、彼女は俺たちにズイズイと近寄ってくる。その迫力に押されて俺は思わず後ずさる。
「ダメでしょ、あんな無茶したら!一歩間違えたらあなたたちが殺されてたかもしれないんだよ!?」
「いやぁ、俺も逃げるつもりだったんだけど……そのー、神に背中を押されたと言いますか」
一応真実なのだが、彼女は冗談だと受け取ったようで、
「全くもう…でも、ありがとうね。さっきの君、かっこよかったよ…ってちょっと君、大丈夫?」
「仁?ねえちょっと仁、仁ってばぁ!!」
俺は歩き通しだった疲れと、命の危険から解放された安心感がどっと押し寄せ、その場に崩れ落ちてしまった。
目を覚ますと、知らない部屋のベッドに寝かされていた。
「おっ、気づいたみたいだね。全く、私の選んだ人間ともあろう者が情けないなぁ」
聞き覚えのある声がする。振り向くと、もう見慣れ始めたにやけ笑いの神、シエルがいた。
「この邪神、よくも俺を2度も殺そうとしやがったな!?今回といい殺されたことといい、お前と付き合うとろくなことにならねぇ!」
いくら復讐はまたの機会にすると決めたとは言え、俺にも限度というものがある。二回も命の危険にさらされ、一回はそのまま殺されたのだ。
そんな俺の怒りを意に介した様子もなく、シエルは俺に笑ってみせる。
「そんなことより、外を見てみなよ!ここが私たちの始まりの街、プルミエさ!」
シエルにつられて俺は窓の外を見る。そこには美しく広大な街並みが広がっていた。
ついに街にたどり着きました。
でも話し合わないといけないことが山ほどあるので町巡りはまだ無理そうです。
次は元の世界に帰る方法について話し合います。