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異世界で二人(一人と一柱?)

 暖かい日差しで俺は目覚める。なんだかすごく長い間眠っていたような気分だ。

 ゆっくりと体を起こし、あたりを見回す。俺は広大な野原の真ん中で寝ていたらしい。

「ここ…どこだ?昨日はそんなに飲んでないはずなんだが…」

 独り言をつぶやいて、妙な違和感を感じる。俺の声なんだが俺の声じゃないような、スピーカー越しに俺の声を聞いたような違和感だ。


「やあ、やっと目覚めたかい?どうだい、死んでみた気分は?」

 パッと振り向くと、広大な自然とあまりに不釣り合いなパステルカラーの衣装が目に飛び込んでくる。俺はその声の主に見覚えがあった。そうだ、こいつは神と名乗って、俺をトラックで追い回して、そして…


「そうだ、思い出したぞ!お前、なんてことしやがるんだ!!」

 俺は飛び起きてシエルの胸ぐらを掴む。

「俺の相棒を…バイクを今すぐ修理して返しやがれぇっ!」

「そ…そっち??てっきり君を殺したことを怒られるのかと…」

 シエルは鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。

「そうだった!俺も殺されたんだった!!じゃあこれは俺と相棒の仇だっ!」

 俺はシエルの頭にゲンコツを叩き込む。ごつんと小気味良い音を立て、シエルがうずくまる。神でも痛いものは痛いらしい。


「痛ったぁー…なにすんのさぁっ!私、神なんだよ!怒らせると天罰があるんだからね!」

 シエルが右手を前に突き出す。俺はその仕草に見覚えがあった。俺を吹き飛ばしたあの力だ。

「ま…待てっ!ギブ!ギブアップ!俺が悪かったからさあ!」

 俺は必死で頼み込むが、シエルはニヤリと笑い、

「ふっふっふ…神を怒らせたのが運の尽きだよ!観念してくらえっ!」

 パチンと指を鳴らす。俺は顔をかばうように腕を交差させて目をつむり、…何も起こらないことに気づいて恐る恐る目を開けた。


「あれ?おっかしいなぁ…。はっ!せやっ!」

 シエルは何度も指をパチンと鳴らすが、一向に何も起こる気配はない。

「もしかして私…こっちの世界では神力を使えなかったり…するのかなぁ?」


 へー、あの妙な力は使えないのかぁ。なるほどなるほど、かわいそうに。

「つまりは、だ。お前に恨みを持つ誰かがいたとして、仕返しに殴ろうとしたって、お前はなんにもできないわけだ。それはかわいそうだよなあ?」

「や、やだなぁ仁くん。神である私を恨む人間なんてこの世にいるわけが…。仁くん?その手に持ってるものはなんだい?」


 シエルは俺の右手に視線を向ける。俺は死ぬ寸前に拾っていたバイクのハンドルを、この世界まで持ってきていたらしい。死んでもバイクを離さないという自分の執念には我ながら呆れる。

「俺の相棒をこんなにしやがって…。これは相棒の分だっ!くらえっ…っておい待て!逃げるなっ!」


 その後数分間シエルと俺は不毛な追いかけっこをしながら草原を走り回る。

「ちょっと!武器を使うのは反則だって!」

「うるせえ!こちとらお前に殺されてんだから正当防衛だ!」

「んな無茶苦茶なぁ!」

「無茶苦茶なのはどっちだよ!」

 ギャーギャーと騒ぎながら逃げるシエルと追いかける俺はどこまでも走っていった。


 数時間後。

 ぐったりとしながら俺たちはふらふらと歩いていた。

 というのも、先ほどの追いかけっこの後、

「ぜぇ…ぜぇ…やっと追い詰めたぞ邪神め。さっさと俺を元の世界に戻しやがれ」

「あー無理無理、今の私は神の力を失っちゃってるんだって。異世界転生どころか、小石ひとつ持ち上げられないよ」

「ええっ!?じゃ、じゃあ俺は一生このまま暮らせっていうのか!?」

「うーん、方法がないこともない…かもしれない。でも長い話になるし、どのみちここでは無理だからまず泊まれるところを探そう」

というやり取りがあって、俺たちは町か村を探して歩き回っていたのだった。


「なあ、シエル…町はまだ見えてこないのかぁ?俺、もう限界だわ…」

「さっき無駄に走り回って体力使ったからでしょ…。町がどこなのかなんか、私知らないよ」

「なんっで…転生する世界の下調べとかしとかないんだよぉ…。」

「ほら…ライブ感ってやつ?があった方が…楽しいかなーってさ」

 やっぱりこいつとは話が通じない。だが今はこんなのでも運命共同体だ。俺はシエルへの復讐はもうちょっと余裕があるときに持ち越すことにした。


 そのとき、シエルがピタッと足を止める。

「どうした、シエル?もう限界か?ならどっかその辺で休憩を…」

「しっ、静かに。あれを見て」

 シエルは人差し指を立てて俺を黙らせてから、近くの森を指差す。よく見てみると、いかにも山賊という格好をした数名の男と、それに囲まれた女性が見えた。


「どうする?助けるにしたって、あの数じゃ勝てないだろうし…あの人には悪いが見捨てて逃げるか?」

 助けたいのはやまやまだが、しょうがない。別に俺にあの人を助ける義理はないし、俺たちだってあの人に負けず劣らずやばい状況だ。神様だって許してくれるって。

 だが、俺の隣にいる神様は、それでは許してくれなかった。

「なーに言ってんの?ヒーローってのは正面から、パーっと登場するもんだよ。それっ!」


 シエルは俺を突き飛ばし、俺は前にすっ転びそうになったがギリギリのところで踏ん張る。なんとか転ぶのを回避したと一息ついたところで、山賊たちがみんな俺の方を向いているのに気づいた。

「なんだぁ、こいつ?ヒーロー気取りかよ」

 あ、俺終わったわ。


異世界に到着しましたが、なにもありません。

シエルちゃんなんにも下調べしてないからね。

次の話ではちゃんと街でいろんな人が出てくる予定です。

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