第1話 ももっちさんは情緒不安定
新作スタートです。
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吹雪が吹き荒れる中、俺は氷山マップのボスである「ヴァーナムレヴィア」を見上げた。
その巨体は凛々しく、氷の鱗は俺の課金アイテムですらを凌駕する程の強度を誇っているだろう。
圧倒的に不利な状況。
しかし、その方が楽しいと思わないか?
ステータス的有利な相手を技術によっての逆転。
その快感は、ゲームでしか味わえない。
これは、俺の偏見ではあるが、現実でのステータスが圧倒的に低い場合、絶対に逆転する事は、不可能であると言える。
俺は、これを身を持って証明した。
どんなに、コミュニケーション能力をつけたと言っても、容姿が悪けりゃ意味がない。
明るく振舞っても、容姿が悪けりゃ意味がない。
そりゃそうだ。
どんだけコミュ障でも、暗くても、容姿が良ければそれだけでチヤホヤして貰えるんだから。
だから、現実での一発逆転は、俺には不可能なのだ。
だから、俺は不登校になった。
◆
現在プレイ中の、「クリーチャーハンター」略してクリハンは、俺のお気に入りのVRMMOである。
このゲームは、文字通り、「クリーチャー」と呼ばれる怪物を、プレイヤーが、武器などを装備して討伐していくという、単純なゲームなのだが、中には1人で討伐する事が難しい怪物が存在する。
その怪物を討伐する為には、「ギルド」に登録し、「協力プレイ」に参加する事で、複数人によっての討伐が可能になる。
ギルドには、ランク制度が存在しており、上から【S➡︎A➡︎B➡︎C➡︎D➡︎E➡︎F】と言う風になっており、これは、プレイヤーランクも同じ制度となっている。
ちなみに、俺のプレイヤーランクは【S】で、ギルドは、ランク【B】の「ナイアシン」と言う名前のギルドに所属している。
俺は、先程討伐に成功した「ヴァーナムレヴィア」の素材を持ってギルドに戻って来た。
ギルド内に入ると、丁度、団長のももっちさんが居たので、討伐報告をする事にした。
「ももっちさん、ヴァーナムレヴィアの討伐完了しました」
すると、ももっちさんは、桃色のロングヘアーを揺らし、綺麗に整った顔を驚きの表情に染めた。
「えっ!ビタ君、今、あのヴァーナムレヴィアを討伐したと言ったのか??」
ビタ君とは、俺の事で、本名の七奈瀨 加寿準とは全く関係ないユーザーネームとなっている。
俺は、頷きながら返答する。
「はい、この前の限定ガチャで、氷属性に有利な双剣が手に入ったもんで……」
ももっちさんは、手を横にブンブン振ると、
「いやいや、それでも無理でしょ、ヴァーナムレヴィアって討伐ランク【S】でしょ?普通は、3人は必要なんだよ?しかも、この前のガチャの氷属性に有利な双剣って、「シュールスフィア」のことでしょ?一体、ビタ君はいくら使ったんだい?」
俺は、苦笑いを浮かべながら答える。
「いや〜、五万円ぐらいですかね。今月は結構バイト代入ったんで、ちょっと多めに使っちゃいましいた」
ももっちさんは、五万円に反応して、口をあんぐりと開けている。
「ごっ五万円って……君は高校生なんだよね?本当はおじさんとかっていうオチじゃないんだよね」
「いやいや、それは無いですよ……俺、不登校なんで時間だけは一杯あるんですよ。それよりも、俺はももっちさんが、JKって事に違和感を感じますね。ネカマですか?」
俺がおじさんみたいな顔をしているって事は事実かもしれないが、おじさんでは無いので、そこは即答しておく。
「いやいや、それこそ無いよ。私は結構ピチピチなJKだよ!美少女だよ!」
ももっちさんが何か戯論を言って居るが、今はそんな事より大切な事がある。
「はいはい、分かりましたよ。美少女なんですね?そりゃ凄い。一度お目にかかりたいものですね。じゃあ僕は今日からの新ガチャに行って来ますので、どうかお元気で」
そう言って、ガチャをしようと歩きだすと、ももっちさんに腕を掴まれた。
「………まだ何か?」
「信じてないでしょ」
「いや、だから何がですか?」
ももっちさんは、俯いたまま動かない。
これではただの時間の無駄なので、俺は腕を振り切って再び歩きだす。
「待って!!!」
しかし、ももっちさんの叫び声で俺の足は再び止まってしまう。
俺は、溜息をつくと後ろを振り返る。
すると、真っ赤な顔をしたももっちさんが大声をあげた。
「だ・か・ら、私がピチピチな美少女JKだって事信じてないでしょ!」
「えっ………」
突然のナルシ発言にとまどう俺だったが、その均衡を崩す発言がももっちさんの口から飛び出す。
「じゃあ、会おうよ!会って、私が美少女だって証明してあげる。まあ、君がおじさんだって証明にもなってしまうかもだけどね」
その言葉だけを残して、ももっちさんはログアウトしてしまった。
いつも空のメールボックスには、一通のメール。
恐らくももっちさんからのメールだろう。
「……本当に困った………」
無意識に口から溢れ落ちたそんな言葉。
それには、色々な不安が込められていた。
見ず知らずの人と会う不安。
自分の容姿を見られる事によって、ゲーム内でも特に仲の良いももっちさんに自分を蔑むかの様な目を向けられてしまうのでは無いかという不安。
そんな不安を抱えたまま、俺は、約束の日を迎えてしまった。