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NO TITLE  作者: ふー/りん
3/3

○絶望の中の希望

「もう、やだよ…」

3度目の『あの日の朝』だった。


時計を見ると9時50分を指していた。

(この後、お母さんが一階から「起きてる?」って声をかけてきて、それでそのあとディナーの話が出て…)

これは決まっている一日の流れだ。あの事故を回避するためにはどうすればいいのか。

そうだ、ディナーの行き先を変えるとか、行く日程をずらすとか色々やりようはあるんだ。

そう思うと、途端に心が晴れやかになった気がした。今まで暗く見えていた部屋がいつもよりも明るく見えた。

「エリ、起きてる? もう、朝よ」

「うん。起きてるよお母さん」

私は速足で母の許へと向かう。

階段を降りると、母がいつものように家事に専念していた。

「今日は少しお寝坊さんねエリ」

「えへへ、何だかとてもいい気分になっちゃって」

「あら、何かいいことでもあったの?」

「うん、難しい問題が解けたかもしれないの」

「へー、よかったわねエリ」

今日の母の笑顔はいつも以上に眩しく映る。

「そうだ、お父さんが明日ディナーに行こうって言ってたわよ。エリの14歳の誕生日だから素敵なお店に行こうかって! どんなお店に行くのかしら、楽しみねエリ」

「そうだね。ねぇ、お母さん。明日行くお店、私リクエストがあるの」

「あら、そうなの? それじゃあ、お父さんに行っておかないとね。なんてお店がいいの?」

「前に、駅前を歩いてた時に通ったお店なんだけど、ちょっと散歩がてら名前みてくる」

「じゃあ、お父さんにはリクエストがあるってことだけ伝えておくわね」

なんだ、行き先を変えるなんて簡単なことじゃないか。

私は、駅前に向かった。もちろん、行きたいお店があるなんて嘘で、今からその行きたいお店を探すわけなのだが、駅前にはなにがあっただろうか。


結論から言って、駅前には大手チェーン店が立ち並んでいるばかりで、これといって素敵なお店は何一つなかった。しかし、あの惨劇を繰り返したくない一心でその中でもあまり言ったことのないお店に決めた。

帰り際に立ち寄った書店でグルメ雑誌を見たが、この近辺では大手チェーン店かラーメン屋さん、件のレストラン、高級すし店、高級料亭くらいしかないことが分かった。

書店を後にしようとしたが、一冊の小説が一際目を惹き、私はそれを買った。

今の時間は16時、家についてから晩御飯までが2時間ほどあるため、いい時間つぶしにもなりそうだ。

家に帰ると母が玄関まで出迎えてくれた。

「おかえり! あら、本買ってきたの?」

「うん、面白そうな本があったから買っちゃった」

「へー、どんな本買ったの?」

「《一日をやりなおす男》って本」

「あ、それ知ってる。読み終わったら、お母さんにも貸してね」

「うん、わかった!」


私は、自室で読書に没頭していた。

母が晩御飯を私に知らせる声で、初めて私は本から目を離した。

部屋が暗くなっていることに気づかなかった。本の内容があまり頭に入っていない。

私は、本当に読んでいたのだろうか。寝てしまっていたのかもしれない。

頭がズキズキと痛む。

私は頭を振って気持ちを整えた。

リビングに行くと『あの日』と同じ温かい家族が私を待っていた。

前回は味わえなかった母の手料理を心ゆくまで堪能する。

もう二度と今日はやってこない。ディナーの店を変えたことで私は死の運命から逃れられたんだ。

「そうだエリ、明日のことなんだけど」

「そうだった、駅前にね。行ってみたいお店があるの! バニーズってお店なんだけど」

待ってましたと言わんばかりに私はリクエストをぶつける。

「それがな、もう昨日の時点でワタルの店に予約入れちゃってな。エリのために特別メニュー作ってくれるって言っててさ」

全身から血が抜けていくような錯覚に囚われた。

体が急に重くなり、眩暈がしてきた。うまく言葉も発せず、

「え、あ……」

「エリ? 大丈夫? エリ!」

目の前が真っ暗になり、次に目覚めたのは14歳の誕生日だった。


朝、エルと短い電話をした。

誕生日おめでとう、お姉ちゃん帰ったらプレゼントあげるね、などと会話をしたことを覚えている。

私は『あの日』と同じようにディナーに行った。

昨日買った本を片手に店内に入る。

軽く挨拶を済ませ、食事をして、店内から出ようとしたとき、一人の女性が私たちのテーブルに歩み寄ってきた。

「今日は、お嬢さんのお誕生日なんですよね。前回はその本、持ってませんでしたよね」

私の心臓が飛び跳ねる。

「ぜ、前回っていつのことですか!」

「前回は前回ですよぅ、もし、私の言ってることの意味が通じてるなら、次回はここの喫茶店これと違う本をもっていらっしゃい」

希望が見えた気がした。

また、地獄のような1年が幕を開けるわけだが、暗い袋小路の壁の先にきっと明るい道が続いている。

だったら、この世界のすべてを我慢して見せよう。

私はそう決意し、15歳の誕生日、再びこの世界に別れを告げた。


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