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NO TITLE  作者: ふー/りん
2/3

●再びの刻



思わず声を出し、しばらく固まってしまった私を見て母が首を傾げる。

「どうかしたの?」

「…ううん、何でもない」

咄嗟に誤魔化し笑顔を作った私だが、驚きや動揺、そして悪夢とも前世とも分からない記憶で正常な思考が出来なくなっていた。

「ちょっと気分が悪いから、少しだけ寝てるね」

そう母に告げ、私は自室へと戻った。



…どれだけ時間がたったのだろう。寝ようにも悪夢に脅え、ただベッドで無心になっていた私に、晩御飯に呼ぶ母の声で覚醒した。

「どう?ご飯は食べられそう?」

「うん、大丈夫」

正直不安だ。でも、夢で心配させるわけにもいかないと思った私は、気持ちを切り替えようと笑顔を作る。



父と母の笑顔に囲まれた食卓に、私は夢の中で飛び降りた時に見た走馬灯のようなもの思いだした。

__夢なんだよね?

とても懐かしく感じてしまう食卓なのに、私は不安を覚えてしまい母の手料理の味がよく分からなかった。

「明日のディナーには行けそうなの?」

心配した声で語り掛ける母に、父が眉を顰める。

「何かあったのか?」

二人の心配する声に、私は笑顔を作りながら何とか明るく返す。

「少し調子が悪かったけど、もう大丈夫。少し寝たら良くなったから」

本当は行きたくない。あの夢のようになってしまうのでは?という思いがどうしても拭えなかったからだ。それでも、楽しみにしている父と母に私は、どうしても断ることができなかった。

__夢だから大丈夫、あんなことにはならない。

そう自分に言い聞かせていた。




翌日、父の運転する車に乗った私は、見覚えのある景色に向かうにつれて大きくなる、押し込めていた不安を紛らわせようと母に声をかけた。

「今日行くレストランって素敵なお店って言ってたけど、毎年行ってるワタルさんのレストラン?」

「そういえば私も思ってたんだけど、向かっているのはワタルさんのレストランの方向ね?」

母の疑問に、父は得意げに答える。

「実はあいつのレストランが新しくリニューアルしたんだ。今年も行くところは変わらないが、いつもとは違った誕生日になると思うよ」

父の言葉に母は楽しみにしているようだが、私の不安は募るばかり。それは、夢で食事をした場所も、件のレストランだったからだ。

「それにしても、エルは残念だったわね。こんな大事な日に部活の合宿と重なるなんて」

母の発した言葉で、話題が今日合宿で来られなかった妹のことになり、私も頭を切り替える。

「またその話か。昨日も言っていたが、もういいじゃないか。エルも残念がっていたが、今朝エリに電話でおめでとうと伝えていたことだし、レストランにはまた皆で行けばいい」

父の言葉に母も納得したのか、他の話題でまた盛り上がっていた。



高層ビルの最上階、父と母の友人であるワタルさんが経営しているレストランについた私は、毎年誕生日に来て楽しかったはずのレストランに恐怖を感じてしまった。それはいつも見ていた内装ではなく、まるで外国に来たかのような気分になるレストランになった店内に、とても見覚えがあった。あの、悪夢の記憶に。

__なんで!?あれは夢のはずなのに!!なんであの夢と…

「久しぶり!ジン」

窓際のテーブルに案内された時、突然父に話しかけてきた声に私の思考は遮られた。

この人が父と母の高校時代からの友人でこのレストランの経営者、綾瀬ワタルさんだ。

「久しぶりだな、ワタル。前の店の雰囲気も好きだったが、こっちの雰囲気はさらに良いな」

「ありがと。エミちゃんも久しぶり。それにエリちゃんはお誕生日おめでとう!」

「う、うん。ありがとうワタルさん」

「今日の料理は僕が作るから、楽しみにしてて!」

そう言い残したワタルさんは、厨房に戻っていった。

次々と運ばれてくるコース料理に父も母も喜んでいたが、度重なる既視感に動揺していた私は月並みな感想しか言えなかった。




__とうとうこの時がきた。

__大丈夫、私がよく注意していれば大丈夫。

帰りの車の中、何も声を発することなくただ前を見ていた私は、突然フラッシュバックする夢で見た事故の光景を思い出た。

鳴り響くブレーキ音、朦朧とする視界の中に広がる鮮血。

想像してしまった私は思わずうつむき、襲い掛かる吐き気に口を押える。

「今日も楽しかったわね。エリ!…どうしたの!?」

慌てる母の声に、驚いた父が振り返り声をかけた。

「どうした?」

何でもないと言おうとした私は、その瞬間視界の端に映った対向車のトラックに見覚えがあった。

フラッシュバックした事故の光景でそっくりなトラックが、今にも白線を越えこの車にぶつかろうとしている。

「危ない!!」

私の声の意味に気づいた父はブレーキをかけたが、夢の中と同じ状況にそれから起こる事を悟った私は、ただ何も出来ずにいた。



__また同じだ。

__夢じゃなかった。

あの悪夢が現実であったと言うことは、私は所謂死に戻り、ということをしたのだった。でなければ、

「お姉ちゃんのせいでお父さんもお母さんも死んだんだ!」

悪夢だと思っていた前世で、エルに言われたこの言葉をもう一度聞くことはなかっただろう。



__私はどうすればよかったの?

あの事故からちょうど一年。施設に預けられ、前世と同じく周りの人から悪魔と言われた私は、今日で15歳になった。

__私が注意していれば未来は変えられたかもしれない。

__もっと早くに気づいていれば

一年間自分を責め続けていた私は、毎年この日になると来ていたあのレストランがあるビルに来ていた。前世と同じように。

前世の最期、一番幸せを感じていたこの思い出の場所で、私は命を絶った。

せめて今回も、同じように。



地面に身体を打ち付ける音と痛みに、私は意識を手放した。




3

目が覚めるとそこは、見慣れた部屋だった。

「また…戻ってきた?」

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