最終話「またいつか」
ノアはガルタークに反撃させまいと,ガルタークに突進し,襲いかかる。
ガルタークはノアを近づいてきたところで,口から唾液弾を発射した。
ノアはよけずに手のひらでそれを受け止めた。凝結した唾液弾は手のひらに刺さったものの,装甲の表面で止まり,奥には刺さらなかった。
ノアは馬乗りになり,唾液弾を引き抜きガルタークの右目に突き刺した。
『ギャオオオオオオオオオオオッ!!』
ガルタークはあまりの激痛に叫び声を上げた。ノアの右目に突き刺したものを,今度は自分で受けるのだ。
ノアは,ガルタークが右目の痛みに悶えている隙に,下腹部の袋を握り,そのまま思い切り引っ張って袋をガルタークの下腹部から引きちぎった。
『オオオオオオオオオオオオオッ!!』
ノアは右手に力を込め,自身の手の上で脈打つその袋を握りつぶした。
袋の中から血が飛び出す。恐らく,袋の中に入っていたガルタークの子どもだ。
「・・・・・・」
俺はその光景を見て,胸が痛くなった。自分が殺したわけではなく,自分の子でもなく,さらに,相手は人類の敵だが,なぜだか胸が痛くなった。外敵相手にこんな気持ちになってしまうのは,俺自身が甘い証拠なのかもしれない。
『・・・・・ッ!!!』
ガルタークは自分の子が殺され,右目の痛みも忘れ,ノアに突進した。
ノアはそれを真正面から受けた。すると,体重が重いはずのノアが後ろに下がった。
母は強しというべきか,それとも,怒りで力が上がったというべきか・・・・どちらにしても,そのパワーは前と比べて上がっていた。
ガルタークはぐいぐいとノアを押していく。ノアもそれに押され,どんどん後ろに下がってしまう。
その時,ノアは両肩,両脚,背中内部に搭載されたブースターを起動させ,ガルタークとともに空への舞い上がった。
『ウオオオオオオオオオオオオオッ!!』
ノアは低空飛行でガルタークをコンクリートの地面に引きずり回る。
ガルタークはノアの攻撃受けながらも,ノアの片足を尻尾で巻き付け,渾身の力を込め,体の重いノアを投げ飛ばした。
ノアは投げ飛ばされるも,空中で体勢を立て直し,上空へと上がる。
ガルタークもノアを追い,上空へ。
「ノア!!」
俺はノアとガルタークがすぐ確認できるように,広くて見晴らしのいい場所に向かって走った。
「ノア・・・・死ぬなよ!お前は俺にとっても,みんなにとっても最後の希望なんだ!」
それからどれほど走ったか分からないが,俺は見晴らしのいい場所にたどり着いた。そこは,東京湾だった。
「こんなところまで走ったのか・・・・」
ふと気がつくと,自分の足に痛みが走り,気がついた途端,その場に膝をついてしまった。
走りすぎて立ち上がることができなくなってしまった。無理もない話だ。東京タワー近くから東京湾まで走りっぱなしなら,誰だってこうなる。
「よく頑張ったなぁ・・・・俺・・・・そうだ!ノアは!?」
俺は地面に膝をついたまま,辺りを見回した。
その時,遠くで巨大な何かが落ちる音が聞こえた。
それは,ノアとガルタークだった。
俺が走ってる間に,かなりの激戦が繰り広げていたのが見て取れる。その証拠に,ガルタークの左足がもげ,翼はボロボロになっていた。一方,ノアは目立った傷はないが,ガルタークに噛まれた跡に,体のあちこちに,装甲の表面に唾液弾が突き刺さっていた。
ノアは,手に持っていたガルタークの左足を投げ捨て,ガルタークを睨みつけた。
ガルタークも同様に,ノアを睨みつけた。
そして,両者とも動かなくなった。
俺はそれを見て,あることに気がついた。それは,両者ともこの一瞬で勝負を決めるつもりなのだ。お互いの持てる力で,一撃で決めるつもりだ。
俺は生唾を飲み,額の汗を拭い,遠巻きに見守った。
ガルタークは大きく息を吸い始めた。対し,ノアは仁王立ちをしたままだった。しかし突然,ノアの足元から波状のエネルギー波が全身に流れる。そして,全身に流れたエネルギーが,今度は両手に集中する。
「まさか・・・・あれが教授の言ってた『アースエナジー』・・・・!?」
ノアに流れたエネルギーは恐らく「アースエナジー」・・・・ノアは「アースエナジー」を使って何かをするつもりだ。
そして,ガルタークは口から唾液弾を吐き出した。しかし,今度はただの唾液弾ではなかった。大きさが違った。今までのはつららのような形だったが,今度はそれが何倍にも大きくなったかのようなものだった。恐らく,ガルタークは自身の体液のほとんどを攻撃に回したのだろう。でなければここまで巨大な唾液弾はできない。
対し,ノアは何を血迷ったか,攻撃しなかった。巨大な唾液弾は徐々に近づき,一緒に見えていたガルタークの姿も見えなくなるほど近づいてきた。
このままでは,ノアは直撃を受ける・・・・その時,ノアは両手から,溜めたアースエナジーを巨大な火球に変えて発射した。
その火球は唾液弾をも飲み込みほど巨大で,さらに速度もあり,咄嗟に気づいたガルタークもよけようとするも,火球の速さによけることができず,そのまま火球に飲み込まれ,ガルタークは爆散した。
その火球は,火球でありながら,稲妻のようなものを纏っていた。その後,俺はその技を,大好きなゲームの技名を真似てこう呼んだ。あの技は,『プラズマブラスト』。
「やった・・・・ノアが勝った・・・・!!よっしゃああああああああ!!」
俺は両拳を上に上げ,ガッツポーズを決めながら歓喜の叫び声を上げた。
それと同時に,ノアも俺と同じように歓喜の声を上げた。
『オオオオオオオオオオオオオッ!!』
俺は自分のことのように喜んだ。それも当然だ。ガルタークが死んだことで,人類も,地上も守られたんだ。誰だって喜ばずにはいられない。
俺はノアに向かって叫んだ。
「ノアーーーー!!ありがとーーーーー!!」
ノアは,俺の存在に気づいたのか,俺の方を向いた。
すると,ノアは手から粒子のようなものを放った。粒子はたちまち俺の体を包んだ。
「な,なんだ?」
俺は突然のことに戸惑うなか,あることに気づいた。
足の痛みがなくなっていたのだ。
「い,痛みがない!どうなってんだ!?」
俺は思わずその場でジャンプしたり,足踏みをしたりした。しっかり立てるし,しっかり動く。
「もしかして・・・・・」
俺はノアが「アースエナジー」を使って俺を治してくれたと考えた。
それと同時に,俺は自分の首元に,何かが下がっていることに気づいた。
「これ・・・・」
首に下がっていたのはペンダントだった。オレンジ色で,雫の形をした石のペンダントだった。俺は,その石があの石だと直感した。
「くれるのか・・・・?」
ノアの顔を見ると,ノアは何も言わずにコクリと頷いた。
その時のノアの顔は,目付きは今まで通りで,口にマスクはつけてたけど,俺は不思議と,その時のノアの顔は微笑んでいるように感じた。それを見て,俺も思わず微笑み,礼を言った。
「ありがとな・・・・ノア。」
その時,
「猛さーーーーん!!」
「真銅さん!!」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。
そこには美咲と榊さんがいた。
「2人とも・・・・」
俺は2人に会ってホッとした。しかし突然,美咲が俺に抱きついてきた。
俺は突然のことに動揺し,胸の鼓動が早くなった。
「み,美咲ちゃん!?どどど,どうしたの!?」
俺はドキドキしながら美咲に尋ねた。
すると,美咲は小さな声で呟いた。
「よかった・・・・本当に・・・無事でよかった・・・・」
美咲は俺のことを心配してくれていた。
俺はそれがすごく嬉しかった。こんな俺でも,親以外で心配してくれる人がいることが,心から嬉しく感じた。
俺はお返しに,美咲の頭を撫でた。
すると,ノアは海の向こうへと歩き出し,その場から立ち去ろうとした。
美咲はハッと気づき,俺を抱きしめるのをやめ,ノアの方を見た。
俺と榊さんも同様に,ノアの方を見た。
その時,美咲は呟いた。
「ノアが・・・・ノアが行っちゃう・・・・」
美咲は去っていくノアを見て寂しくなったのか,俺の手を静かに握った。
俺はそれに答えるように,美咲の手を握った。
すると,榊さんも続いて呟いた。
「もし,また怪獣が現れたら・・・・ノアは来てくれるんでしょうか・・・・」
榊さんの疑問に,俺は答えた。
「ノアは来ますよ。必ず・・・・」
それから,俺は親父と2人で話した。親父は,俺と同じ気持ちだった。親父も俺を傷つけたくなくて,わざと俺を遠ざけようとしたんだ。俺はそれを聞いて,少し安心した。親父の本当の気持ちがしれたこと,俺自身がちゃんと親父と話せたこと・・・・昔の俺だったら,こんなこと出来なかったと思う。それもこれも,ノアは美咲,榊さんのおかげかもしれない。
その後,俺は両親に無理言って,短大に入って考古学の勉強を始めた。あの怪獣騒動から,俺は古代文明に興味を持ち,ノアのことをもっと知りたいと思ったんだ。
騒動から3年後,俺は短大を卒業し,大崎教授の助手になり,一緒に古代文明の調査をしている。そして・・・・俺は美咲と交際を始めた。美咲は大学を卒業後,フラワーショップで働き,暇な時間を利用して調査を手伝ってくれた。
そして,榊さんは出世し,陸士長になった。その時の榊さんは,「いつか里中一等陸佐よりも上になる!」と張り切っていた。俺は自分のことのように嬉しくなり,同時に榊さんをエールを送った。
そして今,俺は美咲と2人,ノアが去った東京湾に来ていた。
「なぁ,美咲。」
「ん?」
「もし,あの時ノアがやられてたら,今頃どうなってたかな。」
俺の質問に,美咲は苦笑いを浮かべた。
「うーん・・・・考えたくないなぁ・・・・でも,あの時,猛が行かなかったら,私達,死んでたと思う。だから,私達人間が助かったのは,猛のおかげでもあるんだよ。」
「ありがとな。なんか,あいつが頑張って戦ってると,俺も頑張りたくなったんだ。だから,そういった意味でも,ノアのおかげだ。あいつには感謝してもしきれない。あいつ,今頃どうしてんのかな・・・・」
俺は海を見ながら思いふけっていた。
その時,美咲が俺の腕を引っ張った。
「ホラ,早く行かないと遅れちゃうよ。今日は榊さんの結婚祝いなんだから。」
「そうだな・・・・行くか。」
俺は美咲の後ろに続き,東京湾を去ろうとした。
その時,
『オオオオオオ・・・・・!!』
俺の耳にノアの声が届いた。
しかし,後ろを振り向いてもノアの姿はなかった。
「気のせいか・・・・」
俺はノアからもらったペンダントを握りしめた。
「ああ・・・・またな,ノア。」
この世に絶望の影が来るとき,地上に巨人が現れ,影を討つ。
その巨人は古代人に作られた,地上を守る守護神。
その守護神の名は・・・・ノア。
第1部 完