第6話「ガルターク,再臨」
俺は部屋のベッドに横たわりながらノアのことを考えていた。
このままだと,ノアは殺されてしまう。でも,俺には何も出来ない。どれだけ言っても俺の言葉が偉い人に通じるはずない。
そんなとき,
『ただいま。』
『おかえりなさい。早かったのね。』
1階から聞き覚えのある声が聞こえた。
親父の声だ。親父と話したくない。顔も見たくない。
俺は荷物をまとめて榊さんと美咲の所に戻ることにした。
1階に降りると,運が悪いことに,トイレから出てきた親父と鉢合わせになった。
親父は俺の顔をじっと見放さず,ゆっくり口を開いた。
「猛,今までどこに行ってた?」
「どこだっていいだろ。」
俺は親父を素通りし,玄関で靴を履いた。
親父はなおも話を続けた。
「またそうやって,俺から逃げるのか。」
「うるせぇな!俺のことなんてどうだっていいんだろ!?」
親父の言っていることは正論だ。
俺は逃げてるだけだった。言いたいことがあるなら,面と向かって言えばいい。でも,俺には無理だった。怖かったんだ。親父を傷つけるんじゃないか,自分を傷つけるんじゃないかって・・・・
「猛,今度2人でちゃんと話そう。」
「・・・・するわけねーだろ。」
親父が俺に話すチャンスをくれた。
なのに,俺は家を飛び出した。
俺はそのまま自衛隊本部に向かうことにした。
(またやっちまった・・・・・)
親父がああやって話すチャンスをくれたことは他にも何回かあった。
でも,俺は毎回のように適当に言い訳して逃げた。
俺は最低の人間だ。逃げてばっかで,周りに迷惑かけて・・・・自分で自分が嫌になる。
一回,本気で死のうと思った。でも,怖くてできなかった。
頭の中じゃ,ちゃんとしないといけないのはわかってる。でも,どうすればいいのかわからない。
(もっとマシな人間になりたい・・・・)
そう考えてる内に,自衛隊本部にたどり着いた。
入口の前には美咲と榊さんがいた。
2人は俺に気づき,駆け寄ってきた。
「猛さん,おかえりなさい!」
「ご家族,元気でした?」
2人は変わらず俺に接してくれた。
2人を見てると,「自分もこうなりたい」って思い,羨ましくなる。
「うん・・・・ところで,会議は?」
俺がそう聞くと,2人の表情が曇る。
「それが・・・・ノアの討伐が決定して,先ほど会議が終わりました。」
榊さんの一言に,俺の表情も曇った。
「そんな・・・・」
「悲しいけど,俺らには何もできないし・・・・」
次にノアが現れたら,確実に殺される。そうなったら,もうあいつと会えなくなる。せめて,せめてもう一回会ってお礼を言いたいけど,どこにいるかもわからないし,そもそも,兵器であるあいつに言葉が通じるかもわからないし・・・・
その時,強い風が吹いてきた。
「やけに風が強いな・・・・」
次の瞬間,
『ギャオオオオオオオオオオオッ!!!』
獣と鳥を足したような鳴き声が遠くから聞こえてきた。
その鳴き声には聞き覚えがあった。
でも,あいつは死んだはずだ。ノアが殺したはずだ。
なのに,そいつは俺達の真上を通り過ぎ,飛んでいった。
そいつはこの東京に現れた。
「ガルターク・・・・!?」
東京にガルタークが現れた。
当然,自衛隊内部も困惑していた。
「ガルターク,本部上空を通過!東京タワーに向かっています!」
「なぜだ・・・・奴はノアが殺したはずだ!」
「まさか・・・・」
その時,司令室に俺達がいきなり入ってきた。
「教授!」
「君達・・・・」
「い,今,ガルタークが・・・・!!」
俺は慌てながらなんとか状況を説明しようとした。
「わかっている。今,戦闘機と戦車が東京タワーに向かっている。」
「教授,なぜガルタークがもう一体・・・・しかも,なぜ東京タワーに・・・・」
里中さんは冷静さを保ちつつ,教授にもう一体のガルタークのことを尋ねた。
「・・・・さっきのガルターク・・・・一瞬でしたが,下腹部に袋のようなものがありました。恐らく,あのガルタークは雌です。」
なんと,教授はあのガルタークが雌だと言った。となると,東京タワーに現れたのは・・・・・俺の中で答えが見つかった。しかし,それは最悪の未来が確定することだ。
「ま,まさか・・・・」
「そうだ。奴は,東京タワーを破壊し,そこで産卵するつもりだ!」
その言葉に,その場にいた全員が衝撃を受ける。
卵が産み付けられ,孵化したら,間違いなく俺達は人間は文字通りエサになる。そうなったら,俺達人間は・・・・滅びる。
「・・・・パパ,ノアは・・・・ノアは来るの?」
美咲が震え声で教授に尋ねた。
「恐らく・・・・来る。」
教授の言う通り,ノアは来るだろう。ノアはそのために作られたんだ。でも,今ノアが来たら・・・・
その時,
「上空にもう一つの熱源を探知!恐らく,ノアです!!」
自衛隊の通信員が報告した。
「一等陸佐,どうしますか!?」
通信員は里中さんに判断を委ねた。
その時,環境庁の中本さんが突然入ってきた。
「里中さん!!ノアが現れた今,行動はただ一つ!ノアの討伐です!」
中本さんは突然とんでもないことを言い出した。
この人は自分で何を言っているかわかっていない。
今,ノアを殺したら,最悪の未来が待っている。
「な,何を言ってるんですか!そんなことをしたら誰がガルタークを倒すんですか!?」
榊さんは思わず中本さんに反抗した。
「ダメです!そんなの間違ってます!!」
美咲も同じく反抗する。
「何をバカな・・・・ノアも怪獣と同じ,いらない存在なんですよ!」
中本さんはノアをいらないと主張した。
それを聞いた俺は,
「ふざけんじゃねぇ!!!」
俺は思いきり中本さんの胸倉を掴み,大声を張り上げた。
「あんた,自分で何を言ってんのかわかってんのか!?ガルタークは卵を産み付けて人間を食い散らかそうとしてんだぞ!?そうなったら,俺もあんたも死ぬ!!あいつは・・・・ノアはそうさせないために来たんだぞ!!人間を守るためにな!!それなのに・・・・勝手なこと抜かすんじゃねぇ!!」
俺は自分の思ったことをそのまま言葉にして発した。
美咲と榊さん,教授は唖然として見ていた。
俺はハッと気がつき,手を放した。
「す,すいません・・・・」
中本さんはムッとした表情で掴まれたことでできたスーツのヨレを直し,里中さんに言った。
「里中さん,どうするんですか?もちろん,ノアを攻撃しますよね?」
俺の言葉は中本さんに伝わらなかったようだ。
しかし,
「・・・・全員に通達!!ノアを援護しろ!!」
里中さんには,伝わった。
その一言に,俺,美咲,榊さん,教授は喜んだ。
逆に,中本さんは驚いていた。
「ななななな,何を言っているんですか!!?さっきの会議のことを忘れたんですか!?」
混乱している中本さんに,里中さんは冷静に答えた。
「私は自衛隊だ。自衛隊は人間を守るためにある。あなたが口出しをする権利などない!!」
「ヒッ!!」
里中さんのすさまじい気迫に,中本さんは思わず司令室を飛び出した。
俺はふと,自分の心臓が「バクバク」と激しく動いていることに気がついた。それほど,俺にとってはとんでもないことをしたんだ。
「真銅さん,かっこよかったですよ。」
榊さんが俺の肩を叩き,褒めてくれた。
「あたし,見直しちゃいました。」
美咲は俺の手を握り,榊さんと同じく褒めてくれた。
女の子に手を握られたことで,俺の心臓はますます激しく鼓動した。
でも,嬉しかった。人から褒められたことなんて,最近は全然なかった。だから余計に嬉しく感じた。
そのころ,ノアは街に上陸した。
巨人は東京に現れた。"災い"を倒すために,最悪の未来にしないために,巨人は進撃する。人間と共に,この地上を守るために・・・・・
"巨人"ノアと人間の協力戦線が,今,開始された・・・・・