第5話「ノア」
翌日,東京の自衛隊本部で緊急会議が開かれた。
会議室にはTVとかで見たことある政治家がわんさかいた。その中には自衛隊の里中さんや環境庁の中本さんもいた。政治家達は皆,部屋の真ん中にある机の前に座った。部屋の奥にはスクリーンにPCがある。その前には教授がいる。
そして,俺は・・・・部屋の隅っこの椅子に座っていた。隣には美咲と榊さんがいる。まあ,それも仕方ないことだ。たかが一般人の俺が政治家の隣に座れるわけないし。
そう思った瞬間,一番手前に座っていた里中さんが口を開いた。
「では,これより怪獣と巨人の生体及び,対策法に関する緊急会議を行います。まず,怪獣と巨人について・・・・大崎教授。」
「はい。」
教授は返事をし,PCを操作。スクリーンに怪獣の写真が映し出された。
写真が映ると同時に教授は怪獣の説明を始めた。
「この怪獣の名は,『ガルターク』。全長70m,翼長170m,体重60t,唾液を硬質化し,針のようにして吐き出すことが可能です。それから・・・・」
教授は再度PCを操作。今度は巨人の写真に変わった。
「この巨人の名は,『ノア』。体高75m,全長150m,体重100t,体の内部にはブースターのようなものがあり,これを利用して飛行します。また,他にも内部に兵器を隠しています。そして・・・・」
教授はPCを操作し,今度は碑文と予言書の写真が映る。
「碑文,及び予言書によれば,古代の時代,古代人は異形の化け物に苦しめられていました。そこで,古代人は地上の力を動力に動く巨人を作り出しました。それが・・・・ノアです。」
その時,政治家の1人が口を開き,教授に質問を投げかけた。
「ちょっと待ってくれ。地上の力とはなんだ?」
政治家の質問に,教授は坦々と答える。
「地上のエネルギー・・・・すなわち,この地球のエネルギーです。古代人は地上のエネルギーを粒子に変換し,そのシステムをノアに搭載したのです。仮にですが,この地上のエネルギーを『アースエネジー』と仮称します。」
教授の言葉に,政治家達はざわめく。
「そんなことが可能なのか?」
「古代人の技術力は現代の技術力を大きく上回っています。水晶ドクロやピラミッドがいい例です。」
俺はその時,頭にあの石のことが思い浮かんだ。あの石はデコボコ一つもないキレイな円形だった。あの石も古代人が作ったと考えると,確かに納得できる。
教授は説明を続けた。
「ノアは古代人達の望み通り,化け物を次々と倒していきました。しかし,ある時,ノアでも倒せない化け物が現れたのです。それが・・・・ガルタークです。ガルタークは当時のノアは相次ぐ戦いが原因で激しく消耗していました。さらに,ガルタークはノアの力を遙かに上回っていました。そこで古代人はガルタークをノアとともに封印することにしたのです。そして,ガルタークがいつ目覚めてもいいように,古代人はノアの強化装置を作ったのです。」
「強化装置?一体なんだ?」
細身の政治家が,教授に質問を投げかけた。
しかし,教授は先ほどと違い,口ごもっていた。
「それが・・・・碑文が途中で途切れてしまっていて,解読できなかったのです。」
教授の言うとおり,碑文は途中で途切れてて,その続きがまだ発掘されてなかったんだ。
政治家達は教授の一言にまたもざわめいている。
その時,強面の政治家が教授に質問をした。
「昔話などどうでもいい!なぜ怪獣は現代に蘇ったんだ!?」
質問を投げつけられ,教授は改めて説明を開始した。
「予言によると,『災いの獄鳥ガルターク,変わり果てた大地に,再び姿を現さん』と書かれていました。調べたところによると,ガルタークは元々,気候が激しいところに生息する生物でした。この予言から察すると,今の地球は環境破壊や災害などの影響で,ガルタークが住みやすい環境に変化してしまったのでしょう。予言には,さらにこう書かれています。『災いの獄鳥,現れし時,最後の希望,ノアも再び蘇る』と書かれています。この予言にも分かるとおり,ノアは我々とこの地球を守ってくれる守護神なのでは・・・・」
教授の説明に,政治家達は考え込んでしまった。
それもそのはず,いきなり巨人が味方だと言っても,簡単に信じてもらえるわけがない。
その時,里中さんが口を開いた。
「今はもう怪獣はいない。今はノアの対応について検討するべきです。教授の言ったように,ノアが我々の味方ならば,手出しはしない方がいい。」
すると,政治家の1人が里中さんに反論した。
「何を言っているんですか!?あのノアとやらがいると,我が国の経済は乱れてしまう!現に,ノアが現れてから港町では魚が捕れなくなってるんですよ!このままいけば,日本の経済は大きく傾いてしまう!」
すると,政治家がもう1人名乗りを上げた。
「それに,あの巨人が本当に味方なのかの証明がない!予言など当てにならん!」
「そうだ!巨人は即刻討伐するべきだ!!」
「そうだ!!」
会議室内は,ノア討伐派一色になった。
俺はその場の空気にいたたまれなくなっていた。
(なんだよ・・・・みんなしてあいつのこと悪く言いやがって・・・・)
俺はノアのことをバカにされて,何故か無性に苛立ちを覚えた。
自分でも不思議に思った。相手は他人で,しかも人間でもないのに,なぜこんな気持ちになったのか,不思議だった。
その時,美咲は立ち上がり,こっそりと部屋を抜け出した。多分,俺と同じ気持ちになったんだろう。
俺と榊さんもこっそりと部屋を抜け出した。
「何よ!!ノアはあたし達のこと守ってくれたのに・・・・あんな言い方ないじゃない!!」
美咲はノアをバカにされて怒っている。俺も気持ちは同じだった。
でも,俺は昔からヘタレだったから,気持ちを正直に言えずにいた。今も。
「でも,世間から見たらあいつ悪役ですよ。」
美咲は榊さんの言葉に反応し,ムッとした表情で榊さんを睨みつけた。
しかし,榊さんは落ち着いた様子で話を続けた。さすがに自衛隊ってだけあって落ち着いてる。
「もちろん,俺だってあいつが味方だって信じたいですよ。でも,お偉いさんが言った通り,このままじゃ経済が傾くのも事実だし,みんながみんな,味方だって受け入れるわけでもないし・・・・」
「それは・・・・そうですけど・・・・」
榊さんが言っていることは正しい。このままノアを放置するわけにもいかない。でも・・・・あいつが悪者になるのは納得がいかない。俺はそう思った。
「・・・・俺,ちょっと,家に戻ります。」
俺はその場の空気に耐えられなくなり,適当に言い訳して逃げようと思った。
「そうした方がいいですよ。ご家族が心配してると思うし・・・・」
「真銅さん,何かあったら自衛隊から俺に連絡ください。出来る限りはしますから。」
「あ・・・・あ,ありがとう・・・・」
俺はいきなり言われたことないことを言われ,恥ずかしくなりながらも2人にお礼を言った。
そして,俺は本部を出て,家へと戻った。
「2人とも優しいなぁ・・・・・」
俺は美咲と榊さんのことを思い出した。2人とも俺と会って少ししか経ってないのに,親切にしてくれる。個人的にその辺が少し悔しい。
「それに比べて俺は・・・・優しくねぇなぁ・・・・」
俺は電車に乗り,生まれ育った町に戻ってきた。東京は田舎と違って人が多いし,車も多い。建物とか看板も多くてごちゃごちゃしてるけど,今は懐かしく感じてる。二日ぐらいしか経ってないけど。
俺は足を進め,見覚えのある住宅街にたどり着いた。そこは学生時代,いつも通ってきた場所だ。その道をずっとまっすぐ進み,曲がり角が見える。その手前に一軒家がある。そこが俺の家だ。
「・・・・帰って来ちゃったなぁ・・・・・」
俺はため息をつきながら家のインターホンを鳴らした。
『はい?』
インターホンから中年の女の声が聞こえてくる。俺の母さんの声だ。
「た,ただいま。」
『猛ちゃん!?ちょっと待っててね!今開けるから!』
母さんはばたばたと走り,玄関のドアを開け,俺を出迎えた。
「猛ちゃん・・・・!よかったわ・・・・青森に怪獣が出たって聞いたから心配したのよ!あっ,お昼まだでしょ?今作ってあげるから。』
俺は家に入り,居間へと足を進めた。居間の時計を見てみると,11時40分になっていた。
「もう昼か・・・・」
俺は居間の椅子に座り,テーブルに肘を乗せた。
すると,母さんが台所から料理を運んできた。
「はい,どうぞ。残り物だけど・・・・」
出てきたのは焼きそばだった。俺は器を被ってたラップを剥がし,焼きそばを食べた。
思ってみれば,家の居間で飯を食うのも久々だった。いつもは自分の部屋で食ってたから,なんだか新鮮な気分だ。
「猛ちゃん,怪我してない?お金は足りた?」
「大丈夫だよ。」
母さんは俺を心配して質問を連呼してくる。心配してくれてるのはわかるけど,あまりにもしつこい。
「けど,本当に猛ちゃんが無事でよかったわ・・・・父さんも心配してたのよ。」
母さんの言葉を聞いて,俺は箸を止めた。
「・・・・親父が?」
「もちろんよ。あの人,無愛想だけど本当は猛ちゃんのこといつも心配して・・・・」
「嘘はやめてよ。」
俺は母さんの言葉を遮り,席を立った。
「ごちそうさま。」
「猛ちゃん・・・・」
俺はそのまま2階に続く階段を上り,自分の部屋に入った。
俺はベッドに寝転がり,外を見た。外はいつもと同じだった。住宅街に,遠くには広告の看板。ずっと昔から見てきた景色だ。
俺はふと石のことが気になり,リュックサックから石を取り出した。
石は淡い光を発していた。その石を両手で優しく握ってみると,石から暖かみが感じた。
「暖かい・・・・・それにしても,あいつ,どうなっちまうんだろう・・・・・」
俺はノアに対する最終的な対策が気になり,思わず石を強く握りしめた。
でも,ここからだった。あいつの,ノアの戦いはまだ始まったばかりだった・・・・・