第4話「生きる」
ヘリに乗って数十分ぐらい経ち,俺と美咲は青森の防衛省に訪れることとなった。
さすがに防衛省ってだけあって,でかいし,設備も整ってなそうな感じだった。
話によれば,自衛隊の偉い人が俺達の話に興味があるらしい。
「こちらです。」
隊員の榊さんの案内で,俺達は会議室に通された。
中には,軍服を着た男と,黒黒スーツと丸眼鏡をかけた男,そして,教授がいた。
「パパ?」
「教授,なんでここに?」
俺が教授に質問すると,軍服を着た男が答えた。
「彼は,あの怪獣について知っていると豪語したため,こちらで保護し,私達はその話を聞いていた。・・・申し遅れた。私は里中自衛隊一等陸佐だ。こちらは環境庁の中本拓真さんだ。」
里中さんに紹介され,中本って人は不機嫌そうにこっちを見ながら一礼した。
俺と美咲も中本さんに一礼した。
「それと,君達の隣にいるのが・・・・」
「自衛隊一等陸士,榊大輔と申します。」
榊さんは俺達に敬礼しながら自己紹介をした。
「えっと・・・・俺は真銅猛です。」
「あたしは大崎美咲です。そこの・・・・大崎祥悟の娘です。」
俺達が自己紹介を終えたところで,里中さんが本題に入った。
「さて,君達を呼んだのは他ではない・・・・あの巨人や怪獣のことだ。美咲君,君は戦車隊に巨人を攻撃しないでくれと訴えたそうだね。」
「はい・・・・あの巨人はあたし達を助けてくれました。あの巨人がいなかったら,あたしと猛さんは・・・」
美咲の言っていることはもっともだ。あの時,巨人が来てくれなかったら,俺と美咲は死んでいたかもしれない。
「なるほど。猛君も同じ気持ちか?」
「は,はい,まあ・・・・」
俺はいきなり里中さんに尋ねられ,少し自身なさげに答えた。
「ふむ・・・・私的にはあの巨人は味方とは思えない。実際,町への被害も出ている。奴が歩いた後,道路はめちゃくちゃになっていた。中本さん,あなたの意見は・・・・」
里中さんに問われ,中本さんは眼鏡をクイッと上げ,口を開いた。
「ふん,質問されるまでもありませんよ。あの巨人は即刻排除すべきです。あんなのが町にいたらたまったもんじゃない。教授が話した神話やら予言とやらも,どうも現実的ではありません。」
「しかし,現に巨人は2人を助けました!」
教授は中本さんに対して反論した。しかし,中本さんは冷静に答えた。
「だからなんです?たった2人を助けたところでなんだというのです。人間の味方というのなら,もっと多くの命を救って欲しいものですね。」
俺は中本さんの話を聞いて,だんだん腹が立ってきた。
そこまで言う必要もないのに,こいつは巨人を真っ向から否定している。でも気持ちはわからないでもない。あんなのが急に現れて,味方だと言われても,簡単に信じることなんてできない。
「とにかく,あの巨人は敵です。それ以外はありません。では,失礼します。」
中本さんは巨人を敵だと決めつけ,会議室から去っていった。
「里中さん,私はこれから古代の碑文や予言書から怪獣と巨人のことを調べてみます。」
「そうしてもらう助かります。私はこの防衛省の一室を使えるように手配しておきます。」
「ありがとうございます。」
「パパ,私も手伝う!」
「お,おれも・・・・」
「榊君,君も教授を手伝いたまえ。」
「はっ!」
こうして教授は怪獣と巨人のことを調べることになり,俺と美咲,それに榊さんも協力することになった。
その夜,防衛省の一室で俺達は古代文字の解読に躍起になっていた。
しかし,簡単に解読はできない。夜の11時くらいでようやく1/3くらいは片付いた。
「はあ・・・・もう夜ですか・・・・」
榊さんがボソッと呟いた。
俺は同時にスマホの時計を見た。
解読を始めたのが午後の6時くらいだから,ざっと5時間は経っている。
「ちょっと,休憩しましょうか。あたし,コンビニでなんか買ってくるね。」
「あっ,俺も・・・・女の子一人じゃ危ないし。」
俺は,美咲がコンビニに行くと聞いてとっさに名乗り出た。
「俺も行きますよ。医大に行かなきゃいけないし。」
「医大?」
「医大で怪獣の遺体の一部を解剖してもらってるんです。今,結果記録をもらいに行くんです。」
俺と美咲,榊さんは一緒に外に出て,コンビニに向かった。
途中,榊さんは大学に続く道で別れ,俺と美咲はコンビニで買い物をした。
おにぎりやパン,カップ麺,それに飲み物を買った。金は俺と美咲が割り勘で出した。
その帰り道,俺と美咲は2人きりになった。
そんなとき,美咲は俺に尋ねた。
「すいません・・・・手伝ってもらっちゃって。それにお金まで・・・・」
「い,いや,別に・・・・成り行きでこうなったんだし・・・・」
「でも,こんなに遅くなったら,ご家族も心配するだろうし・・・・」
美咲にそう言われ,俺は家族のことが少し気がかりになった。
母親は多分心配してるんだろうけど・・・・親父はわからない。よくよく考えれば,俺の親父は息子には興味のない奴だった。小学校の運動会の時も,俺が事故で怪我をしたときも,親父は来なかった。息子の俺が頑張ってるも,痛い思いをしても,親父は心配したり,褒めたりしてくれない。ただガミガミ怒るだけだ。だから,俺もやる気がなくなって,定職に就いてない。俺が仕事してないのは,親父のせいなんだ。
「猛さん?」
俺は美咲に呼ばれ,ハッと気がついた。
「大丈夫ですか?」
「あ,ああ・・・・それより,美咲ちゃんこそ,お母さんに連絡しなくていいの?」
俺は話題を変えようと,美咲に家族のことを聞いた。
すると,いつも明るそうな表情だった美咲の顔が,曇り,足を止めた。
「あたしのママ・・・・事故で死んじゃったんです。中学の時・・・・」
「えっ・・・」
俺も思わず足を止めた。
「それから,パパは必死になって働いて・・・・あたしを大学に行かせてくれたんです。だから,あたし,早く仕事に就いて,パパに恩返しがしたいんです。」
地雷を踏んでしまった。過程がどうであれ,俺は美咲に失礼なことをしてしまった。
俺はすぐに美咲に頭を下げた。
「ごめん!!俺,美咲ちゃんのお母さんが亡くなってるなんて知らなくて・・・・でも・・・・!!」
「いいんです。いつまでも悲しんでたら,ママに笑われちゃいますから。だから,猛さんが頭を下げる必要なんてないですよ。」
「でも・・・・」
俺は少し頭を上げ,美咲の顔を見た。すると,美咲は俺の鼻の頭を指で押した。
鼻の頭を押され,俺の鼻は豚みたいになった。
「もう!気にしなくていいいですって!これ以上謝ったら,足踏んじゃいますよ?」
「はい・・・・」
「よし!じゃあ,帰りましょう!」
美咲は元の元気で明るい表情に戻り,足を進めた。
美咲はいい子だ。母親が死んでも,頑張って,前向きに,目標に向かって生きてる。
それに比べて俺はどうだ。特に努力もせず,父親に刃向かってるだけで,なんの目標もない。俺は人間の中で底辺だ。
美咲に比べて,自分が情けなくなる。
「・・・・美咲ちゃん・・・・偉いな。」
俺は思わず口に出してしまった。
「何がですか?」
「美咲ちゃんは,お母さんが亡くなっても,教授と頑張って生きてるじゃん。それに比べて・・・・俺はこの歳になって仕事に就いてないし,なんの目標もないし・・・・それに・・・・」
「ママが言ってました。」
俺が話していると,美咲が割って入ってきた。
「『人間は生きてればどんなことだって出来る』って・・・・だから,猛さんも頑張って生きてればなんだって出来ますよ。」
他のニートや引きこもりにそんな言葉をかけても,「綺麗事だ」とか言われるかもしれない。でも,俺の心には強く響いた。多分,俺が今まで聞いた言葉の中で,これほど強く響いたものはなかったかもしれない。
「・・・・そうだね。」
俺はニカッと笑った。
「はい!」
美咲も笑った。その笑顔が愛おしく感じた。
その時,
「あれ?2人とも・・・・」
偶然,大学から帰ってきた榊さんと出くわした。
「もしかして・・・・お邪魔でした?」
「えっ!?い,いや,そういうのじゃないですから!!」
俺は顔を赤くさせながら否定した。美咲と榊さんはそれを見て笑っていた。
その後,俺達は教授の所に戻り,休憩を挟みつつ解読を進めた。
結果,解読は朝までかかったものの,無事に全て解読することができた。
その翌日,俺達は東京の自衛隊本部で行われる自衛隊や日本の偉い人と緊急会議で,解読した碑文に予言書を発表することになった・・・・・