第3話「巨人現る」
怪獣は町に向かって飛んでいった。
このままでは,住人が襲われてしまうのは明白だ。しかし,行ったところで俺には何もできない。
(どうすりゃあいいんだ・・・・このままじゃ町の人が・・・・でも,おれが何かできるわけでもないし・・・)
俺がウジウジと悩んでいると,美咲が町の方へ走っていった。
「美咲ちゃん!?」
俺は思わず後を追っていった。
一方,町の方では怪獣が既に現れ,逃げていく車の屋根を剥がし,中にいた人間を喰らう。さらには逃げ惑う住人をそのまま食らいつき,飲み込み,町の建物を破壊する。
俺と美咲が町に着いたころには,町は燦々たる状況に陥っていた。
「ひどい・・・・」
俺の隣で美咲が呟く。
その時,頭上でヘリコプターのプロペラが回る音が聞こえた。
ヘリコプターはTV局のもので,町の状況を中継しようとしている。
「こちら現場の佐藤です!!現在,怪獣は町で猛威を振るっています!!自衛隊の到着はまだなのでしょうか!?」
アナウンサーが悠長に状況を実況していると,怪獣がヘリの音に気づき,振り返った。
「こちらを向きました!!・・・こちらをじっと見ています!!」
怪獣は大きな翼を広げ,ヘリに向かって一直線に飛んでいった。
「!!」
ヘリは逃げる間もなく,怪獣の牙に潰されてしまった。
「危ない!!」
上からヘリの残骸が落ちてくる。俺と美咲はなんとかよけた。
その時,怪獣が俺達の存在に気がついた。
怪獣は口に咥えたヘリを吐き捨て,地面に降り,俺達にゆっくり近づいて来た。
俺は美咲を連れて逃げようとした。しかし,怖くて足が動かない。
美咲の足も震えている。俺と同じだ。怖いんだ。目の前にいる,映画でも,アニメでもない,本物の怪獣に。
(俺の人生・・・・これで終わっちまうのか?22年で終わるのか?まだ彼女だってできたことないのに・・・・あのゲームだってクリアしてないのに・・・・・親父・・・・母さん・・・・)
俺の頭の中に昔の記憶がフラッシュバックのように流れてきた。いわゆる走馬灯という奴だ。
俺はその時,恐怖と後悔を感じていた。俺は両親に親孝行することができなかった。「もっと頑張っていれば,仕事に就いていれば・・・・」と頭の中で後悔ばかりしていた。
怪獣がついに近くまで来る。
俺は「もう終わりだ」と思った。でも,その時だった。
遠くから「ドスン!」という重い音が聞こえてきた。
俺はハッと目が覚め,後ろを振り向いた。その音は,海の方から聞こえてきた。
それは足音のようで,こっちに近づいてきた。同時に,遠くから何かが向かってきた。
それは,全身が灰色の人間だった。しかし,"そいつ"は人間と言うにはあまりにも大きすぎる。"そいつ"の胸は分厚くて大きく,巨大な鉄のボールのような肩,ドラム缶を何十倍にも大きくしたような両脚に両腕,西洋兜を意識したモヒカンのような頭にマスク・・・・・そいつは俺達の目の前まで来た。
「まさか・・・・こいつが予言にあった・・・・」
俺は咄嗟に石を見た。石は激しく光っていた。
「やっぱり,こいつがそうなんだ・・・・!!こいつが予言にあった巨人だ!!」
『オオオオオオオオオオオオオッ!!!』
巨人は拳に力を溜め,大きな叫び声を上げた。
恐らく,怪獣に対する巨人の威嚇だと思われる行動だった。
『ギャオオオオオオオオオオオッ!!!』
しかし,怪獣も負けず劣らずな大きな叫び声を上げた。
そして怪獣は巨人に飛びかかった。
巨人は怪獣の肩をつかみ,後ろに投げ飛ばした。
「すげぇ・・・怪獣を軽々と・・・・」
「かっこいい・・・・」
俺と美咲が巨人に見惚れていると,巨人は背中を向けたまま,俺達に視線を移した。
「な,なんだ?」
「逃げろって言ってるの?」
そうこうしている内に,怪獣が起き上がり,また巨人に襲いかかった,
巨人は拳で怪獣を殴り倒し,すかさず追い打ちをかける。
しかし,怪獣は自慢の大きな翼を羽ばたかせ,突風を巻き起こし,巨人を遠ざけようとする。
巨人は突風に押され,後ろに下がってしまう。
怪獣はその隙に,空中に舞い上がり,空に飛んで行ってしまった。
巨人もその後を追おうとする。しかし,その時,遅れて自衛隊の戦車隊が到着した。
「前方に怪しい物体を発見!その後方に男性と女性を発見!いかがいたしましょう!?」
戦車に乗った自衛隊員は,通信機で上官と連絡を取っていた。
『まず男性と女性の保護,その後巨人を攻撃!!』
「了解!!」
戦車の中から,拡声器を持った隊員が現れ,俺達に呼びかける。
「そこの2人!!早くこちらに!!これより巨人を攻撃します!!」
「攻撃って・・・・」
俺達を助けてくれた巨人を攻撃されたくはなかった。しかし,言ったとしても通用する見込はない。
俺がそう思ったとき,
「待ってください!あの巨人はあたし達を助けてくれたんです!!」
美咲は戦車に走り寄り,隊員に攻撃しないようせがんだ。
それを見たおれは,同じく戦車に走り寄った。
「しかし,相手が味方である保証はありません!」
当然,隊員には願いは拒否された。
「そんな・・・・お願いします!!あの子を攻撃しないでください!!」
「おれからも・・・・お願いします!!」
俺と美咲は隊員に頭を下げ,さらにせがむ。
「申しわけありませんが,認められません。攻撃は実行します。」
隊員がそう言ったその時,俺はふと巨人の方を見た。
なんと,巨人の両肩,両脚,背中からブースターのような物が飛び出し,空中へと舞い上がった。
「飛んだ・・・・!?本部!!こちら榊!今,空軍は出ていますか!?」
『空軍は今,上空にいる怪獣への攻撃を開始している!!とてもそっちには行けない!!』
「・・・・ッ!!・・・・現在,住人を2人保護しました!これより,住人をヘリで運び,そちらに向かわせます!」
『了解!』
「それと,保護した住人が,先ほどの巨人に助けられたと言っているのですが・・・・」
『何?ふむ・・・・なら,その2人はこちらにつれて来い。こっちにも,怪獣のことが分かる人物がいる。』
「了解!失礼します!」
榊という隊員は無線を切り,俺達を睨むような目付きで見た。
俺はそれを見て,少しビビッてしまう。
「今から,あなた方2人には本部に同行してもらいます。」
「えっ・・・・」
突然のことに,俺は唖然とし,アホみたいに口を開けた。
「上官があなた方が巨人に助けられたという話に興味を持ちまして・・・・話を聞きたいそうです。」
「・・・・わかりました。」
「は,はい。」
こうして,俺達は自衛隊のヘリに乗り,自衛隊本部に赴くことになった。
ヘリで本部に向かう間,俺達は,また巨人を見た。
「お,おい,見ろ!!」
ヘリの窓から怪獣を追いかける巨人の姿が見えた。対し,空軍は様子を見るように辺りを旋回している。
『オオオオオオオオオオオオオッ!!!』
巨人は怪獣の尻尾を捕まえ,そのまま下へ叩き落とした。
怪獣は下にあった小島に落ちた。
巨人はブースターを収納し,そのまま怪獣に向かって落下し,怪獣を押しつぶした。
『ギャオオオオオオ・・・・!!!』
怪獣は悲痛な叫び声を上げ,口から緑色の血を吐き出した。
すると,怪獣は口から針のような物を飛ばした。
針は巨人の右目に直撃し,巨人は痛そうに目を押さえ,怪獣の首をつかんだ。
巨人はそのまま怪獣の頭をつかみ,真後ろに回し,首をへし折ろうとする。
「美咲ちゃん,見るな!!」
その瞬間,俺は手で美咲の目を隠した。怪獣とはいえ,こんな残酷なところを女の子に見せるわけにはいかない。
巨人は,構わず怪獣の首を無理矢理真後ろに回し,首をへし折った。しかし,それだけでは終わらなかった。巨人は怪獣の首をもぎ取り,海に投げ捨てた。
『オオオオオオオオオオオオオッ!!!』
巨人は高らかに叫び声を上げ,海に向かって歩き始めた。
ヘリは本部に向かって飛んだ。
俺は一部始終を見て,ただ圧巻されるだけだった。あの巨人の強さ,戦い方・・・・それは鳥肌が立つぐらい衝撃的だった。ニートをしてて,初めてあんなものを見たら・・・・いや,俺でなくても,あれを見たら誰だって衝撃を受ける。
俺はふと石を見た。石は輝きを失っていた。
それを見た俺は,「これで終わったんだ」と思っていた。でも,まだ終わりじゃなかった。戦いはまだ終わっちゃいなかったんだ。戦いは,これからだった。