第10話「ガルターク・オリジン」
「どうして・・・どうして兄さんがここにいるんだ!」
「えっ!?兄さんって・・・・まさか、こいつがディルスさんなの!?」
僕の一言にウィンディは驚いた。そして、スペルトはニヤリと笑った。
「我らアルケー教団は、君を倒すために火・水・風・地の巨人を作った・・・・だが、私の計算ではそれは不可能だった。四元素の巨人は四元素を動力として動くが、ノアは大地の力・・・・『アースエナジー』を動力としている。その力は計り知れず、無限の可能性を秘めている・・・・地の巨人ヴァティ建造の際にアースエナジーとの適合実験を始めたが・・・・ヴァティとは適合しなかった。なぜだ?私は考えた。なぜノアにのみアースエナジーが適合するのか・・・・いくら考えても答えは出なかった。だが、一つ分かったのは、ノアを倒すにはノアしかいない・・・・ということだ。私はこのアンチノアを建造し、密かに回収しておいた君のお兄さんの亡骸をコアの代わりにした。」
スペルトは笑いながら自慢気にアンチノア製造の経緯を語った。対し、僕とウィンディはスペルトの話を聞いて拳を強く握りしめた。
「ひどい・・・・!」
「人の死を利用して・・・・!しかも兄さんを・・・!!」
僕は今、怒りに燃えていた。スペルトは人の死を利用した。人の思いを踏みにじった。おまけに兄さんまで利用した。許せるはずがなかった。
僕の怒りの声に、スペルトは笑い捨てる。
「フンッ、全てはこの地上があるべき死を迎えるため・・・・人の一人や二人・・・・」
「貴様ぁ!!」
僕はスペルトに向かって突進した。しかし、僕の前にアンチノア・・・兄さんが立ちはだかった。
兄さんは拳を突き出し、僕を殴り飛ばした。
「に、兄さん、やめてくれ!僕は兄さんと戦いたくない!」
「お、俺もそうしたいが・・・・体が、言うことを聞いてくれないんだ・・・・」
兄さんの体は震えていた。勝手に動く体をなんとか抑えようとしているんだ。
「そうそう制御できると、思うなよ。ノアを破壊しろ。」
スペルトはニヤリと笑い、兄さんに向かって命令した。すると、兄さんは突然僕に向かって殴りかあkってきた。僕はそれを正面から受けてしまう。
「クソ・・・・俺は、お前の玩具じゃない!俺に命令をするなぁ!!」
「いいのか?そんなことを言っても・・・・自分を殴れ。」
スペルトは兄さんに向かって再度命令した。すると、兄さんはいきなり自分で自分の顔を殴り始めた。
「くっ・・・!」
「フハハハハハハハハ!!」
兄さんは何度も何度も自分の顔を殴り続けた。スペルトはそれを見て笑い声を上げている。あたかも自分が兄さんを支配しているかのように・・・・
(どうすればいい?どうすれば兄さんを救えるんだ・・・!?)
僕は自傷を続ける兄さんを見ながら、頭の中で助ける策を考え始めた。スペルトを倒すのが一番かもしれない。しかし、スペルトは人間故に標的が小さい。それに素早さもある。それに加えて、スペルトは兄さんを命令できる。僕達の動きは止められてしまう。
長考の末、僕はあることを思いだした。スペルトの言っていた「アースエナジー」・・・・奴は「アースエナジーは無限の可能性を秘めている」と言っていた。
(アースエナジー・・・!今はこれに懸けるしかないのか!でも、やるしかない!)
「ウオオオオオオオオオッ!!」
僕は覚悟を決め、仁王立ちの状態で拳に力を溜めて叫んだ。そして、体中にアースエナジーが流れる様子をイメージし、そのイメージを全身に伝える!
すると、僕の体が突然金色に光り出した。
「な、なに!?この光・・・・!?」
「ま、まさか、これがアースエナジーの光か!?」
金色に輝く僕を見て、周りの皆は驚いている。
「オオオオオオオオオオオオオッ!!」
僕はその金色の光を右手に集中させ、兄さんの頭目掛けて突き出す。拳はそのまま兄さんの頭に命中し、兄さんは体ごと後ろに吹き飛んだ。
その時、兄さんの頭からガラスが割れるような音が密かにだが聞き取れた。
「しまった!統率中枢を・・・・!!」
「ううっ・・・・」
兄さんはうめき声を上げながら体を起こした。
「エルト・・・・」
「兄さん・・・・!気分は?」
「牢獄から抜け出したみたいだ・・・お前のおかげだ。」
「よかった・・・・」
僕と兄さんは少しの間、久しぶりの会話を楽しんだ。
「さあ、後はあいつを倒すだけね!」
ウィンディは兄さんを助けだせたことに喜びつつ、スペルトを指差した。
「スペルト、貴様はもう終わりだ!」
兄さんはスペルトに向かって指を差す。
「降参すれば命までは奪わない!降参するんだ!」
僕がそう言うと、スペルトは突然笑い出した。
「クックック・・・・その程度で勝った気でいるのか?」
「何?」
「私は、ガルタークと融合した。時間はかかったが、ようやくその力を見せる時だ!!ウオオオオオオオオオッ!!」
スペルトは突然雄叫びを上げた。すると、スペルトの体に異変が起きた。全身がとてつもない速さで肥大化し、その体に鳥のような毛が生え始める。さらに両腕は巨大な翼に変化し、足には鳥のようなかぎ爪が生え、頭は鳥と猛獣を合わせたものに変わり、歯は鋭い牙に変わる。
そいつは鳥というにはあまりにも大きすぎる。その体は僕達の全長を越え、2、3倍に巨大化している。それに比例して巨大になった翼に足、さらに、充血したかのような真っ赤な目・・・・僕達は初めて目にすることになる。ガルタークの姿を・・・・これが、ガルターク・オリジンだ・・・・
「我が力を思い知るがいい!」
巨大化したことで、建物は完全に破壊された。スペルトは全身を覆うように翼を動かし、地上に向かって跳んでいく。そして、地上に出たところで翼を解放し、空へと舞い上がる。
「待て!」
「追うぞ!」
僕達は後に続いて海を出て空へと向かった。スペルトを追いかけ、僕達は雲の上に出た。
「来たか・・・・」
「エルト、ウィンディ!これが本当に最後だ!これで全てを終わらせるぞ!」
「はい!」
「わかってる!戦いは、これで終わりだ!」
ついに、僕達とアルケー教団の、最後の戦いが始まった。長かったけど、これで全てを終わらせる・・・・!




