第9話「アンチノア」
僕はウィンディの案内の下、アルケー教団のアジトに向かっている。今度こそ、全てを終わらせる時だ。アジトは海の中にある。僕達は海の中へと潜る。
その時、僕は気になっていたことをウィンディに打ち明けた。
「ウィンディ、教団の奴らは今までどうやって生き延びてきたの?」
人間は長く生きても90か100歳ぐらいが限界・・・・今も生きているということは、何か理由があるはずだと、僕は思った。
ウィンディは少し黙り込み、質問に答えた。
「・・・・奴らの内の一人が、悪魔と契約を交わしたの。」
「契約?」
「そう。あたしをさらった後、教団は巨人の開発を進めた。エルトを倒すためにね。」
ウィンディが語った教団の巨人開発の経緯を聞き、僕は妙に納得していた。アルケー教団は全てが自然の摂理のままになることが正しいと思っている。その障害となる僕を倒すために巨人を開発したと考えれば、納得がいく。
ウィンディは話を続けた。
「巨人の開発を初めてから5年ぐらい経った時に、教祖が死んだの。それで別の人が教祖になったんだけど・・・・実はそいつ、裏で悪魔を信仰していたの。そして、ある日そいつはついに1匹の悪魔と契約を交わしたの。そいつの名前は・・・・ガルターク。」
「ガルターク・・・・」
「そいつは自分の体にガルタークを宿したの。その後そいつは、巨人が完成したと同時に、教団の仲間を皆殺しにしたの。」
僕はウィンディの言葉に思わず驚いていた。そして、僕はウィンディに質問を投げつけた。
「ど、どうしてそんなことを・・・・?」
「わからない・・・・でも、悪魔と契約を交わしてから、そいつは全然歳を取らなくなったの。そいつの目的は、これからアジトに行けばわかると思う。」
「そうだね・・・」
話を終えた僕達はアジトへと急いだ。それから数分、海の中を彷徨い、僕達はそれらしい建物を発見した。
「あっ、あれよ!あれが教団のアジト!環境の変化で建物は海の中に埋まっちゃったけどね。」
僕達はさっそく建物の中に入った。中に入ってみると、驚いたことに、室内に水が入っていない。
「すごいな・・・水の中にあるのに、室内に水がないなんて・・・・」
「水の巨人の力。水の巨人は、水を吸い取って自分の動力にするの。この中に入る水は全部、水の巨人が吸い取ったの。」
「なるほど・・・・」
僕はウィンディの説明に納得し、思わず何度も頷いていた。その時、奥から足音が聞こえた。その足音は人間のものではなかった。
「エルト、隠れて!」
ウィンディにそう言われ、僕は一度外に出て、入口横の壁に隠れた。
顔を少し出して様子を見てみると、そこにいたのは全身が青色の巨人だった。恐らく、水の巨人だ。
「ヴァ、ヴァーユ!戻ったのか!」
水の巨人は何か慌てているようだ。
「ナーガ、どうしたの?」
水の巨人は、どうやらナーガというらしい。ナーガはなんとか冷静さを保ちつつ、ウィンディの質問に答えた。
「た、大変なんだ!例の最終兵器が、突然暴れだしやがった!」
「えっ!?どうして?」
「俺が知るかよ!もう地の巨人のヴァティがやられた!もうこんな所にいられねぇ!俺は逃げるぞ!お前もさっさと・・・・」
ナーガはそう言ってその場から逃げだそうとした。その時、ナーガの背後から爆発音が聞こえた。それと同時に、ナーガの胸に大きな穴が空いた。
「あっ・・・あ・・・・」
ナーガはそのまま床に倒れ、ピクリとも動かなくなってしまった。
「ナーガ!」
通路の奥からゆっくりと"それ"が近づいてくる。そいつは全身が真っ黒で、胸は分厚くて大きく、巨大な鉄の球のような肩、鉄の筒を何十倍にも大きくしたような両腕両脚、悪魔のような角が生えた兜を被った頭にマスク・・・・
「ま、まさか・・・・」
そいつは、全身の色や頭の形は違ったが、間違いなく似ていた。今の僕に、ノアに・・・・
「ノアと・・・同じ・・・・?」
僕はその姿を見て、隠れるのを忘れ、アジトの中に足を踏み入れていた。
すると、もう一人のノアは僕をじっと睨みつけてきた。
「な、なんだ?僕のことを知っているのか?」
僕がそう言うと、どこからともなく聞いたことのない男の声が聞こえてきた。
「それはそうさ。」
そしてその声の主は僕の目の前にいきなり現れた。
「うわっ!」
僕は思わず驚いてしまった。いきなり目の前に出てきたことだけじゃなく、そいつは人間なのに宙に浮いていた。
「このアンチノアは、ノアを倒すために作られた兵器だ。君を見つけたら倒すように命令しているのだよ。」
その男は、銀色の長髪に固めに傷のある男だった。
「エルト、こいつよ!こいつが新しく教祖になった奴よ!」
ウィンディがそう言うと、男はニヤリと笑い余裕そうに自己紹介を始めた。
「初めまして・・・・かな?私はアルケー教団教祖、スペルトだ。さっそくだが、君達には消えてもらう。」
スペルトはそう言って指を鳴らした。指が鳴ったと同時にアンチノアが動き出し、僕達に襲いかかってきた。僕とウィンディはかわそうとしたが、アンチノアは思いの外素早い動きをしていた。アンチノアは僕達の首を掴み、持ち上げた。
「くっ・・・・離しなさいよ!」
僕達は一斉にアンチノアを蹴り飛ばした。アンチノアは怯み、首から手を離した。その隙に僕はアンチノアを殴る。さらに間髪入れずに何度も殴り続ける。
だがその時、アンチノアは僕の腕を掴んだ。なんと驚いたことに、アンチノアに攻撃を受けてもケロリとしていた。僕の攻撃は通じていなかったんだ。アンチノアは僕の腕を掴むと、思い切り頭突きを繰り出した。頭突きを喰らった僕は視界が歪み、足がおぼつかなくなってしまった。アンチノアはそんな僕を追い打ちを掛けようと近づいてくる。
「させない!」
その時、ウィンディが刃を向け、アンチノアに突進した。すると、アンチノアの右腕から紫色の半透明な刃が現れ、突進してきたウィンディの右腕をすれ違い様に切り落とした。
「くっ・・・!!」
ウィンディは二の腕を押さえ、その場に膝をついた。それと同時に、アンチノアがウィンディに刃を向けた。
「やめろ!!」
僕はアンチノアに向かって突進した。すると、アンチノアは僕の方を振り返り、正面からぶつかってきた。僕とアンチノアは両手を合わせ、取っ組み合いになり、互いの目と目をにらみ合った。
「ウィンディ!教祖の方を頼む!」
「わかった!」
僕がアンチノアを抑えている間に、ウィンディはスペルトに攻撃を仕掛ける。しかし、的が小さいからか、ウィンディの攻撃は当たらない。しかもスペルトは素早い動きでウィンディを周りを動き回っているのも合わせて、攻撃が当たらない。
僕の方は、アンチノアと取っ組み合いをし、抑え込む一方で力比べをしている。力は互角・・・いや、アンチノアの方が少し上だった。
僕とアンチノアはお互いの目をにらみ合った。互いの目を見て、自分の気迫を見せることで相手を怯ませる・・・原始的だが、こういった戦法の方がやりやすい。だが、僕はアンチノアの目を見て、何か妙な感じを覚えた。アンチノアの目は、どこかで見たことがあるような気がしていた。ずっと昔、子どものころ・・・いや、それよりも前、赤ん坊の頃からその目を見たことがあるような・・・・
(きっと気のせいだ・・・・こいつなんて知らない!会ったことなんて・・・・)
気のせい、そう思った次の瞬間、アンチノアの言った一言に、僕は衝撃を受けた。
「エルト・・・・俺、だ・・・・」
その声、一言が、僕の心を揺さぶった。なぜなら、その声は聞き覚えがあるからだ。
「まさか、そんな・・・・兄・・・・さん・・・・?」
僕の一言に、アンチノアは何も言わず、ただコクリと頷いた。その行為に、僕はまた衝撃を受け、手を離し、その場に項垂れた・・・・・




