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馬が見える駅  作者: 増田和崇
7/8

⑦健二郎 2

ショートホープとジッポライター、くしゃくしゃの千円サツを無造作にジーンズの尻ポケットにツッコミボロアパートから出た。


四谷栄養士専門学校に向かった。

学校に着くと栄子が不機嫌な顔をして教室にいた。

「ちょっと!昨日すっぽかしたでしょ?2時間待ったけど!ふざけないでよ!」

「あー、悪い。忘れてたよ」

健二郎は不機嫌なそぶりで対応する。

栄子は専門学校に入学してまもなくから付き合っている形になっている女だ。ルックスはあまりよくないが、金持ちのお嬢さんだから何かろと役に立つだろうと付き合ってやっている。

「健二郎、卒業して栄養士の免許取ったらさ、どうするのか決めているの?」

「う~ん、別に…」

「私の叔父さん茨城に給食センター持っていてね、健二郎と私のこと話したら任せてもいいって言ってるんだけど」

「へ~…そりゃおいしいね」

そんな話に興味無さそうにまち行くいい女を見ていた。


 群馬から出てきて2年が過ぎようとしていた。東京は群馬とはまるで違う景色……

それまで見たこともなかった外国の人やテレビで見ているだけだった町並みが目の前に広がっていた。

 健二郎は幼少の頃から父に「お前は次男坊だから好きに生きろ、何でもやればいい、どこにでも行けばいい」と言われ続けていた。兄の幸一は「お前は長男だからここに根をはれ」と言われ続けていたのも知っていた。

 幸一は高校でのバレーボールの活躍もあり、東京の有名私立大学やら実業団から誘いが来ていたが、父の言い付け通り群馬から出ることはなかった。当の幸一は都会への憧れはあったものの、幼少の頃から父に言われ続けて来た「家を継ぐ」という思いは当たり前に脳に刻まれており、言い付け通り都会への誘いは断ったのだった。


健二郎はその兄を見ていて、何とももどかしい思いをして東京に出たのだ。実際面白そうな所だなという思いはあったが、それほど大都会への憧れは無かったのだった。


 麹町にいる親戚にたまに顔を出していた。この家は、急激に上がった東京の地価で家中が遺産の分配でもめていた。だから行ってもいい気がしない。一応「たまには顔を出せ」と父から言われていたから行くだけだ。

 親戚の家にいくといきなり金切り声と怒号が聞こえる。また兄弟での金のはなしで言い合っていた。

「こんちはー」

「あら健ちゃんいたの」

「まぁまぁそんなに言い争いしないで穏便に行きましょうよ、兄弟でしょ?」

叔父と叔母をなだめた。

「とにかくこんなに意地汚い連中だとは思わなかったわ!」

ドアが壊れるほど強く閉めながら叔母が早足で出ていった。

叔父はタバコを深く吸い込み、灰皿に押し当てた。

「まったくどっちが意地汚いだよ、恐ろしいね金が絡むと親も兄弟も敵だな」

「ははは!!まぁまぁ落ち着いて」

「群馬も金のことはキチッとしといた方がいいぞ!うちみたいにならないようにな」

「うちはここよりお金ないですから大丈夫です!じゃまた来ます」

「おい!待て健二郎、お前新宿のゴールデン横丁辺りでたまに喧嘩してるだろ⁉あんまり目立つと東京湾に沈められるぞ!気を付けな!!」

「はいはい……了解しました」

気のない返事で麹町を後にした。



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